■ c85魔三マ本 サンプル ■




■暁美ほむら(31)の優雅な休日

暁美ほむら(31)、仕事にかまけて貯まってきた洗濯物を横目にまったりと一人飲みを続ける土曜日の夜。酔いつぶれたほむらが目が覚ますと、テレビでは歌丸と円楽が相変わらずのやり取りを繰り広げていた。
どういうことだ……日曜日は一体誰に盗まれたのだ……? 
それにしても、歌丸は変わらない。自分がまだ少女の頃からジジイである。どういうことだ。昔と姿かたちが一切変わらぬ歌丸は、実は魔女かインキュベーターなのではないのか。
「円楽さんのソウルジェム全部持ってって」などという声がテレビから聞こえた気がしてきて、ほむらは無言でこたつに潜り込み直した。これは夢だ。悪い夢だ。目を覚ませば清々しい日曜日が始まるはずなのだ。



翌日。嬉々としてオリーブオイルを振り撒くイケメンの声で目を覚ましたほむらは、壮絶な遅刻の危機に立ち向かう事となったのだった。



■上司にしたい人五年連続一位(社内調べ)

暁美ほむら(31)、半強制参加の社員旅行が辛い。酔いにかこつけて何かと女子社員に絡んでくる上司たちの姿に、会社の行く末を憂うはめに。

「……課長、飲めない子相手では楽しくないでしょう? 私がお付きあいしますから」
「え、暁美か……俺せっかくなら新人ちゃん新しい一年に向けてと親睦をだな……」
「…………まあまあ。そう仰らずに」

暁美ほむら、二十分でセクハラ課長を撃墜(本日三勝目)。救われた新人女子社員から向けられる感謝の視線がこそばゆい。
さて、これで少しは落ち着いて部下(27)とも飲めるだろうか。そう思ったほむらの視線の先では、部下が係長に潰されていた。
暁美ほむら(31)、本日の戦績――四勝。勝利の味は空しく、ほろ苦かった。

後日、行きつけの居酒屋にて。

「聞いて、杏子。助けた新人に裏切られたわ。もう死にたい」
「あー……社員旅行でまたやらかしたんだっけか?」
「私は何もしてないわよ! ただ雀だと思った相手がトンビで、あぶらげ持ってかれただけよ……」
「っても、つぶれたの介抱してただけだろ?」
「私がしようと思ってたのに……」
「もちろんそのあと、こっそり一部屋借りて連れ込んで決める覚悟だったんだよな?」
「えっ」
「えっ」
「いや、だって。無理でしょ。そんなの無理無理無理無理」
「……いやそりゃお前、あぶらげ攫われる以前の問題じゃねぇ? このヘタレ」
「理不尽な罵倒を受けているわ」
「いいか、この際だから言うぞほむら。子供の頃の宝物なんぞ守って価値あるのは子供の内だけだぞ? 無くして思い出に変えるのが大人の正しい生き方だぞ?」
「ちょ、ま、守ってるとか決めつけないでよ!! なくしてるかもしれないじゃない!」
「無くしたのか?」
「……無くしたいわよ」
「そもそも真っ先にその部下介抱しろよ。何やってるんだよ」
「上司四人ばかりに捕まって介抱させられたのよ」
「誰かに投げろようまいこと」
「潰したのが私なのよ」
「何やってるんだよ……」
「仕方ないじゃない! 新人にセクハラする男は許せないから、アルハラで潰したのよ」
「……あー、それはしゃーないな」
「そうやって助けた相手に出し抜かれて、ダメな酒の飲み方しかできないオヤジの相手を押し付けられる負け犬よ。笑えばいいわ」
「指差して笑ってやりてーけどまあ、ちょっとだけ同情するわ」
「染みるわね。今なら私、杏子に抱かれてもいいわ」
「やめろ。お前の変な噂にあたしを巻き込むな」
「……最近なぜかこういう話が無駄に下にひろがるわね」
「誰も見てない筈なのになあ?」
「……………………全くだわ」
「その間はなんだ、おい」
「説明してもどうにもならない事が世の中にはあるのよ」



■おまわりさんこちらです

美樹さやか(31)、好きになった男に性癖の不一致で振られる。

「わかるわ、美樹さん。いいかなと思う男って、大体妻子持ちかゲイなのよね……」
「ゲイならまだ良かったんだけどね……面と向かって「申し訳な い、美樹さん。僕が愛するには君は年をとり過ぎているんだ」って……」
「三十路でダメならもうみんな死ぬしかないじゃない!」
「しかも続きがあってさ。前にあたしと一緒に歩いていた子を紹介してくれって……」
「まさか、それで愛想笑いで紹介してきたの!?」
「それがさ。その子ってのが先日魔法少女始めた小学六年生なんだ……」
「おお、もう……」
「ゲイだって理由で振られる方がマシだったわ、本当…」

なお、一ヶ月後に違う男から別の性癖の不一致で振られて主張を180度ひっくり返した模様。
「ホモだっただなんて、生まれる前からダメじゃないまだロリコンの方が……!」
「お前先月真逆の事言ってたろ……もう泣くなよ……」



■ 魔法少女三十路★マジか番外編 アクマで姉な彼女 ■

 姉という存在は、いない人間にとっては随分と憧れを引き起こすものであるらしい。
 コンパの誘いを断った理由を説明した時の友人の反応を思い出し、鹿目タツヤは苦笑いを浮かべた。
「美人のお姉ちゃんいるとか、お前すげえ勝ち組じゃねぇか!」などと、顔も見た事がないのに熱く詰め寄ってくる友人の頭の中では、「姉」というものはさぞかし煌びやかな装飾を施されているのだろう。
 掃除機のスイッチを切り、タツヤは部屋の中を見回す。1Kの大学生御用達のアパートだ。手が回らないほど広いわけではなくても、男の一人暮らしと言うものは何かと無精になってしまう。ここに姉が来るのは初めてだったが、あまり余計な突っ込み所を残しておきたくはない。夜のオカズは押入の最奥に丁寧に梱包して仕舞いこんだ。さすがにそこまでは漁っていったりはしないで欲しい。久しぶりに会う姉の良識と情けに期待する事にして、タツヤは掃除を切り上げる事に決めた。
 冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ベッドの端に腰掛けて封を切り、呷る。心地好い苦みと刺激が喉を滑り落ちていく様に目を細めて、タツヤはため息をついた。
 タツヤが姉と会うのは、成人式で帰省した時以来半年ぶりであった。十一歳離れている彼女は、着慣れないスーツ姿の彼を指を指して笑い、そして曲がったネクタイを直しながら感心したように呟いた。
「いつの間にかタツヤもこんなに大きくなったんだねぇ。わたしも歳とるわけだよ」
 母親のようなその口ぶりに、当の両親が盛大に噴き出していたのが忘れられない。
 そして――
 タツヤは小さく頭を振った。
 彼女は、いまだにそこに居るのだろうか。
 誰に話しても信じてはもらえない、彼女は。
 拭い去れない記憶に顔をしかめつつタツヤがもう一口ビールを喉に流し込んだ時、ドアの呼び鈴のなる音が響いた。
「うへ、早いな姉ちゃん」
 慌てて立ち上がったタツヤはビール缶をテーブルの上に置いて、玄関へと向かった。
 鍵を開け、ドアを開く。そこには品の良いベージュのスーツに身を包んだ、ショートカットの女性が笑顔を浮かべて立っていた。
 タツヤの実の姉、鹿目まどかである。三十一という年齢よりかなり若く見えるのは、仕事を含めた人生に充実しているためだろうか。母親が若い時、今の姉のような雰囲気だったなとタツヤは思う。
 両手には中身がぎっしり詰まった手提げの紙袋と、パンパンに膨れたボストンバッグを一つづつ抱えている。バッグはお泊りセットとして、紙袋は両親から仰せつかった荷物なのだろうか。
「よーっす。タツヤ、元気だった?」
「そりゃね。ボチボチやってますよ」
「んー、結構結構。んじゃこれ、お父さんから」
「を?」
 紙袋を渡されたタツヤは中を覗きこみ、小さく呻いた。色づきの良い、丸々と育ったトマトときゅうりが、袋を突き破らんばかりに詰め込まれている。
「何でそんな顔するかなー? せっかくのお父さんからの差し入れなのに」
「いやそりゃ……確かにウチの野菜美味いけどさ。でも俺一人暮らしなんだけど」
 こんなにどうしろというのか。
「腐らせたら勿体無いからねー? 沢山食べてね」
 タツヤの内心を知ってか知らずか、笑顔のまままどかは玄関の中へと入ってくる。
「あー、疲れた疲れた! ちょっと座りたいから入るよ?」
「もう入ってるじゃんか」
「まあまあ固い事言いっこ無しで。少しは片付けてあるんでしょ?」
 そう言いながら台所を抜けて部屋の中へと入っていく姉の姿を、苦笑いと共にタツヤは見送る。
「それじゃあ、私も上がらせてもらっていいかしら?」
 続けて背中から掛けられた声に、タツヤはびくりと体を奮わせた。
 努めて、認識しないようにしていたのだ。
 確認するまで猫の生死が分からない箱がどうたらこうたらと友人に聞かされた話に習えば、観測しなければその存在がなかった事に出来るのではないかと、淡い期待を抱いていた。
 軋んだ音がしそうなほど固い動きで、タツヤは振り返る。
 玄関のドアは締められている。ソレが、外界とタツヤの家とを隔離してしまった。
 黒い女性だった。腰まで伸びた艶やかな髪も、身に纏うドレスとしか形容しようがない、レースとフリルに彩られたその衣装も、目が吸い込まれそうなほどに黒い。だからこそ、そこからのぞく肌の艶かしい白さが眩しく際立っている。
 年齢は姉と同じ位に思えた。姉と同じように彼女も成長を続け、そして今もタツヤの目の前に立っている。
「久しぶり、です……暁美、さん」
「半年振りね。ほむらでいいわよ? 昔はそう呼んでくれていたものね」
 口元に手を当て、小さく笑う。ぞっとするほど艶かしく、恐ろしいその仕草も昔から変わる事は無かった。
 そう。常に彼女は――暁美ほむらは姉の隣にいたのだ。
 鹿目タツヤにしか見えない、その黒い女性は。




 小学校に入る頃には、タツヤは姉の隣に立っている少女が他の人には見えていないのだという事に気がついた。友達も、学校の先生も、そして聡明な両親ですらも彼女の存在を認めようとはせず、「そういう遊びは卒業しないとね」とタツヤを諭してきた。
 自分がおかしいのかもしれない――自分自身を責め始めたタツヤが心の均衡を崩さずに済んだのは、他ならぬその少女からの言葉のお陰だった。
「悪魔の事を人に吹いてまわるのは感心しないわよ。私の存在は秘密にしておきなさい?」
 友達を作る事が出来ずに、一人川原で暗くなるまで過ごしている。そんな日常を送っているタツヤに向かい、ある時その少女は皮肉めいた微笑と共に伝えてきたのだった。
「あ、くま?」
 それはテレビの中で世界を守る五人のヒーローたちに倒される、悪い奴らと同じモノなのだろうか。
「そうね。彼らよりずっとずっとずる賢くて、ワガママで、そして悪い悪いモノなのよ、私は」
 微笑を崩さずに、膝をついて自分と向かい合う。目の前の黒ずくめの女性が言っている言葉の意味は、タツヤには良く分からなかった。しかし、嘘を付いているようにも思えなかった。
「どうして、その、悪いアクマさんはお姉ちゃんの傍にいるの?」
 だからタツヤは、ずっと分からなかった事を尋ねてみた。
 答えは、なかった。
 黒いアクマはほんの一瞬、とても、とても悲しそうな顔に変わっていた。そして小さな溜息と共に、タツヤの頭に向かって手を伸ばしてくる。
「タツヤ君は、まどかの事が大好きなのでしょう?」
「うん!」
「まどかもね、タツヤ君の事が大好きなのよ。タツヤ君も、ご両親の事も、まわりの友達の事も、まどかはとても、とても大切に思っているの」
 だから私は、まどかの傍にいるのよ。
 そう言って、黒いアクマはタツヤの唇に己の人差し指を押し当ててきた。
「だから、私の事は秘密にしておきなさい。まどかがあなたの幸せを望んでいるのだから、私もあなたが不幸になる事は望まないわ」
 唇の先に伝わるアクマの指の温もりは、何故かとても心地好かった。タツヤは、だから心の中から湧き上がってきた思いを言葉にする。
「アクマさん、僕の友達になってよ!」
「……え?」
 アクマが戸惑ったような表情を見せた。
「アクマのお姉ちゃんの事は、もう誰にも言わないから。だからお姉ちゃん、僕の友達になって欲しいんだ!」
「そんな事言われても……」
「だめ、なの?」
 やっぱり、友達なんか出来ないのか。
 心が締め付けられるような痛みに、タツヤの目に涙が浮かぶ。それが、ゆっくりと拭われる。
「暁美ほむらよ」
「え……?」
「友達は、名前で呼び合うものでしょう? 鹿目タツヤ君」
「あ……!」
 また、目の端が熱くなってくる。それがさっきまでの涙と違う事は、タツヤにも良く分かっていた。
「ありがとう! ありがとうほむらお姉ちゃん!」
 姉と同じ位の背格好の彼女は、タツヤにとってはとても大きい存在だ。その腕の中に勢いよく飛び込みしがみつく。背中ごしに伝わってくる柔らかい抱擁が心の中に染み渡り、一際強く彼はほむらにしがみついたのだった。


 自身の成長と共に、タツヤの周りには様々な友人が出来て、そして去っていく。環境の変化であったり、考え方の違いであったり、その理由は様々である。しかし付き合いが続く者の数に比べて、姿を消していく数の方が遥かに多かったし、それが自然なのだろうという事が理解出来る程度には、タツヤも年を重ねていた。生まれてから死ぬまでに友達百人出来る人間は、そう少ないものでもないだろう。しかし最初から最後までその百人が変わらず、関係も続いている人間など存在する筈がないのだ。
 そういう意味では、暁美ほむらの存在はタツヤにとって極めて特別な存在であった。
 まさか。
 まさか小学校低学年のあの約束から、今までずっと、ずっと存在し続けていようとは。
 悪魔じゃなくて実は浮遊霊とか地縛霊とかそういうモノなんじゃないか。お畏れながらとタツヤがほむらに尋ねてみたのは中学生の頃だった。返答はにっこり笑ってデコピン一発。ただし部屋の壁から反対側の壁まで吹っ飛ばされる代物であったが。
 初めて彼女が出来た時、おっかなびっくり自室に招き入れた時に随分と楽しそうな顔をして先客然と椅子に腰掛けていた時には思わず隣の彼女の存在を忘れて怒鳴り上げてしまった。結局それが原因で別れる事になった時には、一月ほどほむらと口を聞かなかった。その彼女が実は二股を掛けていたと友人伝に聞いて、ようやく停戦交渉のテーブルにつく事を決めたのだが、その出来事は未だに根深い傷としてタツヤの心に刻まれている。
 とはいえ、自分に向けて掛けてくるちょっかいがほんの気まぐれのようなものだという事はタツヤには良く分かっていた。
 暁美ほむらにとって、何よりも大切なのは鹿目まどかなのだ。
 あの時ほむらが友人になってくれたのは、自分がまどかの弟であり、大して邪魔にならなかったからなのだと言う想像もつく。
 しかし、暁美ほむらが姉に執着している理由が、今もってタツヤには分からないままだった。
 親のように、と言うには随分と近い距離からであったが、ほむらがしている事と言えば姉のしている事を見守っているだけである。
 それは今この時も変わらない。タツヤとテーブルを挟んで向かい合うまどかの隣で、それはそれは楽しそうにぴったりと寄り添い姉の顔を眺めている。
 六畳間1Kの学生向けアパートの中に、漆黒の煽情的なドレスを身に纏った妙齢の女性がいる光景と言うのは、中々に現実離れしているものだとタツヤは思う。
「ちょっと、タツヤ聞いてるの?」
 まどかの声に、タツヤは我に返る。話を聞いていないと思っていたのか、少し不機嫌そうな表情の姉に向かって、彼は愛想笑いを浮べた。
「……あー、聞いてる聞いてる。姉ちゃんの友達が結婚したんだって?」
 確か、そんな感じの話をしていた気がする。
「そうだよ、さやかちゃん。タツヤだって覚えてるでしょ?」
「あー……何となく、覚えてるような?」
 就職して家を出るまで、時々遊びに来ていた姉の女友達の名前だっただろうか。眉を寄せるタツヤに向かって、まどかがスマホのディスプレイを突き付ける。そこには、シンプルなウェディングドレスに身を包んだ背の高い女性が、新郎と思しき男と並んでいる写真が映し出されていた。ボーイッシュと言う表現が正しいのかは分からなかったが、女性の凛々しくも人当たりの良さそうな人柄が伝わってくる。
「杏子ちゃんに続いてさやかちゃんまで先に行かれちゃったからねー。もう私とマミさん、どっちが先なのか、仁義なき戦いだよ本当」
 悔しそうに言うまどかの表情は、しかし友人の幸せを心の底から祝っているのがありありと伝わってきた。出てきた名前はタツヤの良く知らない相手だったが、その女性たちも姉にとって掛け替えのない友人なのだろう。
「そういうなら姉ちゃんもう少し頑張れよ。「出会いがない」とか何とか言ってないでさ」
「うぐ、タツヤに言われるときっついなぁ。姉を思う気持ちが少しでもあるんなら、お姉ちゃんにタツヤの友達紹介するつもり、ない?」
「友達をお義兄さん呼ばわりする羽目になるのは勘弁してくれよ……」
 それなりに真剣な目でおねだりしてくるまどかに、タツヤは本気で顔をしかめた。年上趣味の友人は確かに何人かいるが、十一歳上の自分の実の姉を紹介するのは流石に躊躇いが先に立つというものだった。
 それに、何よりも姉の隣の悪魔様がいたくご立腹であられた。
「分かっていると思うけど。余計な事をしないでちょうだい」
 刺し殺されそうなほど鋭い視線で睨み付けられ、タツヤは背中を震わせた。
「タツヤ、どうしたの?」
「いや、何でもない」
 姉はほむらの存在を知らない。自分の日々の行動が悪い悪魔に見張られているなどと、想像もしていないだろう。
 タツヤの口からそれを告げる事など、出来るわけがない。ほむらの怒りを買いたくないというのももちろんだったが、そもそも告げてどうにかなる問題ではないではないか。
「お前には見る事も触る事も出来ない相手に、行動見張られてるから気を付けてな!」などと言われた所で、良くて疑心暗鬼の負の螺旋に陥るだけである。知るべきでない事は世の中に確かに存在しているのだ。
「そうだ、姉ちゃん。重い物持ってきてくたびれてるだろ? 風呂立ててやるから先入りなよ」
「え、どうしたの急に」
「いやさ、俺も部屋の掃除で汗掻いたけど客より先に入るわけいかないだろ?」
「そんなの別に気にする必要ないのに」
「いいからいいから。ちょっと待っててな!」
 立ち上がり、タツヤはバスルームへと向かう。狭い湯船だし追い焚きは出来ない風呂だが、トイレとは独立して作られているので、ゆっくり入っていてもらえる。
 まどかへの気遣いと言うのは嘘ではない。しかしそれよりも、タツヤはほむらとしばらく話がしたかったのだった。