■ 我が家のおデビルさま あげいん! サンプル ■






 男には年上の彼女に憧れるという時期が確実に存在している。
 御年二十歳の鹿目タツヤにとってもそれは例外ではなかったが、いざ実現した現在、しみじみと思う事がある。
 やはり夢は夢のままにしておくべきだったのではないか。
「ん……ちゅ……ずいぶん深刻な顔してるじゃない……」
「誰の、せいだ、と……!」
 湿った、艶の篭った声にタツヤはうめく。目の前のテーブルの上で腕を組み、寄りかかるように体を傾けたままの彼の頬が真っ赤に染まっている。
 タツヤが今いるのは見滝原にも何店か出店しているありふれたファミリーレストランだ。店内の一番奥の角の席であり、ランチタイムも過ぎた今は客の姿もまばらである。ベルを押さない限り店員が来る事もなく、ありがたくも彼の存在に気を留めるものはいなさそうだった。
「ほむら、さ……」
 震え声で彼女の名前を呟き、彼は視線を下に向ける。
 正確には、ソファに腰を下ろしている己の股間に向けて。
「まあ。タツヤくんもこんなに変態だったなんて幻滅だわ」
 そこには、むき出しにされたタツヤの肉竿に唇を寄せて、舌を這いずり回している黒髪の女性の姿があった。
 年の頃は三十を跨ぐか跨がないか。長いストレートの黒髪に、耳元を飾る蜥蜴の形のイヤリングが見るものの目を引きつける。常であれば玲瓏な美貌を湛えているだろうその顔は、しかし今はタツヤに負けずに頬を赤く染め、その目の光も劣情に蕩けている。
 暁美ほむら。
 つい一月ほど前に出来たタツヤの恋人は、彼しか知らないとんでもない秘密を抱えている。
 しかし今のタツヤにとっての問題は、彼女の秘密ではなく深刻な危機に晒されている己の社会的立場であろう。
「ねえ? こんな昼日中の、しかもファミレスでおちんちんこんなに固く大きくして。恥ずかしくはないのかしら?」
「そ、んなの、ほむらさんが……」
「あら。私のせいにするつもり?」
 肉竿から顔を上げたほむらは、悪戯っぽく唇を吊り上げる。
「なら、やめてしまいましょうか? このまま、ズボンの中にも戻せないくらいそそり立たせたまま、今すぐに止めてしまいましょうか?」
「それ、は……!」
 両手で顔を覆って、タツヤはうめく。理性はそうしろとがなり立てている。この状況がバレてどちらが不味いかと言われればまず間違いなく男の自分がアウトに決まっている。何よりタチが悪い事に、そもそも彼女はバレても何一つ問題がないときているのだ。
「こんなの、ふ、不公平すぎる……!」
「何を考えているのか手に取るようにわかるけれど」
 ほむらは口を大きく空けて、一息に彼の肉竿を半ばほどまで飲み込んでしまう。
「んーっ!?」
「ひぐひぐふるへてるわ……ふなおにはりははひ……」
 素直になりなさい。そんな事を言われているのか。ほむらの舌が敏感な男性器の表面を這い回り、思わずタツヤはひっくり返った声を上げそうになる。
 茫洋とした頭で、タツヤは店の入り口に掲げられた時計に目をやる。午後三時を少し回っていた。大きな窓からは初冬の柔らかい日差しが降り注いでいる。そして股間からは腰が砕けそうになりそうなほど強い快感が押し寄せてきている。
 なんだこれ。
 一体何なんだこれ。
 己の置かれた状況が、タツヤにはさっぱり理解できなかった。
 再び視線を下に向けるも、もちろん光景が変わる事はない。
「ふご……ふぁだ、おおひふ……!」
 本当に嬉しそうに、美味しそうに、ほむらは頭を上下させ、彼の肉竿をむさぼり続けている。あふれた唾液で己の口元を汚し、卑猥な水音を立ててフェラチオを続けているその姿はまさに男を堕落させる淫魔そのものだ。
 本当にそうなのだと、知っている人間はタツヤ以外存在しない。
 鹿目タツヤの恋人は、文字通りの悪魔なのだと言う事を。
「く、ぅ……!」
 限界は唐突に訪れた。尿道を熱いものが駆け上る感覚にタツヤは震え、そしてすぐにとめどない開放感に包まれる。
「んん……っ!」
 一度大きく目を見開いたほむらだったが、すぐに目を細めて彼のモノから放たれる精液を、喉を鳴らして飲み込んでいく。その光景が、再びタツヤの心臓を高鳴らせる。
 ゆっくりと、ほむらは肉竿を唇から引き抜いていく。半ばほどまで昂りを失ったソレの先端から、滴った精液の残滓が彼女の口と糸を引き、たわんで床へと落ちた。
 顔を上げたほむらが、微笑んで見上げてくる。その顔に射すくめられて、タツヤはズボンを引き上げる事すら忘れてしまう。
「朝ヌかなかったせいかしら。すごく濃くて、匂いが鼻をつくわね。タツヤくんの精液」
「それは、ほむらさんがそう言ったんでしょうが」
「あら、また私のせいなのかしら? タツヤくんったら、さっきから何でも私のせいにばかりして。困ったものね」
 口をすぼめたほむらが、タツヤのモノに向けて息を吹きかける。むず痒さが背中を駆け抜け、彼は小さな声を漏らした。
「も、もういいでしょうほむらさん。いい加減、席に戻って……」
「何を言っているのよ」
「あぅっ!?」
 細くしなやかなほむらの指が、タツヤの肉竿に絡みつく。そのまま二度、三度としごき上げる内に、先ほどの射精が嘘のように彼のモノは固さと力強さを取り戻していく。
「オードブルは頂いたのだから、次はメインディッシュではないかしら?」
「いや、その! もう拙いから!」
 声を殺して必死にテーブルの下に呼びかけるタツヤだったが、ほむらは聞き入れるそぶりを全く見せなかった。親指と人差し指で作った輪で、己の唾液にまみれた彼のモノを締め付け、こすり上げる。その手捌きは鮮やかで、タツヤは思わず腰を揺らしてしまう。
「我慢出来なくなってきたのね? かわいいわよ、タツヤくん」
 顔を寄せたほむらは舌を伸ばして、赤黒く充血したその先端をぺろりと舐めあげる。柔皮に指を引っ掛け、雁首に舌を這いまわらせてたっぷりと唾液を塗していく。
「く、ぅ……」
「でも、あんまり怪しい素振りしていると。店員さんが来ちゃうかもしれないわよ?」
「そ、そんな事になったら……ほむらさんだって、少しは困る、だろ!?」
 やられっぱなしはあまりにも拙い。タツヤは歯を食いしばって、挑発するように口元を吊り上げてみせる。
「あら。どうしてそう思うのかしら? 私は悪魔なのだから、人の世の理になんか縛られないわよ?」
「俺、は、縛られますから! そして、逮捕なり何なりされたら、外に出れなくなるんですよ? もうこんな事出来なくなりますよ!」
 交渉材料が己の未来とか、情けないにも程がある。しかしタツヤとしては、この意地の悪い悪魔様に何とか翻意してもらわなければ、人並みの将来すら間違いなく失われてしまうのだから仕方が無い。
 タツヤの言葉に、肉竿を弄ぶ手を止めて、ほむらはしばらく考え込む。
 やがて、満面の笑みを浮かべて彼女は言う。
「そうね。だからもう対処は済ませたわ」
「え?」
「私の存在は、もう店員さんからも他の客からも認識されない。あなたの姿も、普段どおりに見えることでしょうね?」
「……本当、に?」
 拍子抜けするほどあっさりと言われて、いぶかしげな顔でタツヤは問い掛ける。
「さあ? どうかしらね」
 ほむらは笑顔のまま、再び手の動きを再開させる。
 やられた。
 下半身が蕩けそうな快感に頭の中を掻き混ぜられながら、タツヤは己の敗北を思い知らされる。勝負にすらならないのだと切って捨てられた。
「気になるなら試して見なさい。そこのベルで、店員を呼んでみるといいわよ?」
 追い討ちを叩きつけて、ほむらはタツヤの陰茎の先端を唇で挟み込む。根元を手でしごきあげながら、鈴口や裏筋にねっとりと、舌を絡み付けていく。異なる快楽の渦に翻弄されて、ついに堪え切れなくなったタツヤはテーブルの上に突っ伏した。
「はや、く……」
「ん?」
「はや、く……イかせて……」
 つい先ほど一度吐き出したとは思えないくらい、体中が火照ってしまって堪えられなくなっていた。ほむら自身の口技と、それが行われている場所が引き起こす羞恥が、タツヤの理性と自制心をことごとく突き崩し、洗い流していく。
「ふなおで、よろひい……ん、ん……」
「ふ、ぁっ!?」
 竿に添えられていた彼女の手が滑り、陰嚢を揉みしだく。張り詰めていた緊張が切れるには、十分過ぎる快感だった。
「出、ぇ……!」
「あぅん!?」
 思わず腰を突き上げてしまい、タツヤの陰茎はほむらの口から飛び出す。その瞬間、吐き出された精液が盛大に彼女の顔に降り注いだ。
「う、あ……ぁぅ……」
「……あら、まあ」
 ほむらは己の顔を汚す白濁を、指で掬い取り、口元に運ぶ。その光景から、タツヤは目を離す事が出来ない。
 何度も、何度も汚れた指先を口元に運び、満足そうに喉を鳴らす。それでも足りないのか、萎び始めた彼のペニスの先端に吸い付き、強く吸い上げた。
「ちょ、ほむらさん……」
「人に散々言った割に、自分が忘れているんじゃないかしら?」
 ようやくテーブルの下から這い出たほむらは、タツヤの向かいに腰掛け、意地の悪い笑みを浮かべる。その顔を見て我に返ったタツヤは、慌ててズボンを引き上げた。
「……何を考えてるんですか!」
 先ほどよりは大きい声でタツヤは言う。しかしほむらはまるで意に介した様子も無く、オーダーを手にとり目を走らせている。
「デザートが何か欲しいところよね。タツヤくんは?」
 まあ、そういう事なのだ。
 物事は大体彼女のペースで運ばれてしまうのだ。
「……食欲そのものがどこかへ吹っ飛びましたよ」
 ため息一つつき、タツヤは水の入ったグラスを口元へ運ぶ。
「ずいぶんたくさん精液も飛ばしたものねぇ? 私の顔に」
「ぶっ!?」
 盛大に咽たタツヤの姿を見て、ほむらはからからと声を上げて笑う。
 諦めてはいる。
 咳き込みながら、タツヤは慨嘆する。
 諦めてはいるけれど、それでも自分は何故、この悪魔に毎日のように振り回されているのだろうか。






この続きは会場にて! よろしくお願いいたします!