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 オーストリア首都、ウィーン。
 ハプスブルク家が七百年の長きに渡り基盤として育んできたこの都市は、欧州の歴史をそこかしこに息づかせていた。
 代々の皇帝が居を構え、その時代の粋を凝らした増築を繰り返しているハプスブルク王宮。王宮そのものが巨大な集合芸術ともいえるこの場所を基点に、歴史を携えた建物が無数に立ち並ぶ旧市街地。人工の明かりに照らし上げられ、それらの建物が夜闇の中に、幻想のごとく浮かび上がっている。
 車窓越しにアルトルージュはそれを眺める。視界に映る街は、さながら巨人の宝石箱の様相を呈していた。
 ハプスブルクの力の象徴。彼らの栄華と権勢の結晶である。
 自らの名を、そうやって歴史に残す。建てた者は死しても、建てられた物は街と共に生き続ける。
 アルトルージュは嘆息する。窓硝子が呼気に丸く曇った。
 前回訪れた時は、確か十九世紀末。フランツ・ヨーゼフ帝はまだ存命であったか。これが何度目の訪問になるのか、アルトルージュは数えかけ、詮無き事と思い直した。あれから二度の大戦を経てもなお、この街を包む空気はいささかも変わる事が無いのだから。
 何人かの王とも、彼らを取り巻く貴族たちとも、アルトルージュは顔を合わせていた。ある者は彼女の力を求めて手を差し出し、そしてある者は自らの信義と恐怖に縛られ剣を向けてきた。
 好ましい人物も居たし、二度と記憶の端に思い浮かべるのも不快な人間もいた。一人一人は儚い雪の粉であっても、積もり重ねた彼らの記憶は、彼女の中で確かに一部をなしている。それこそが人間の強さであり、彼らのみに与えられた『永遠』なのだろう。
 自分には出来ない事だ。世の闇に在り続ける自分には。
 定命の者の想像の届かぬ先まで世界に在り続ける事が出来ても、決して表に上がる事は出来ない。人間は死徒が無くても生きていく事が出来るが、彼女は人の存在無しには在る事が出来ないのだから。
 だから彼女は歌劇を見るように、人間たちの姿を見続ける在り方を選んだ。請われて手を差し伸べる事はあるが、これまでも、そしてこれからも人間の生活に積極的に関わる意思は無い。在る事を否定はされず、しかし常識ともされない。不明なる物を恐れる人間たちの心の闇にそっと巣食う。それが『魔』として正しい在り方だと、彼女は信じている。
 しかしアルクェイドは人と共に生きる道を選ぼうとしている。自分と半分は同じ存在でありながら、選んだ選択はひどく異なっている。
 それが上手くいくかは分からない。ただ遠野志貴という名の、あの少年に託す価値はあるだろう。彼と妹が織り成す人生を見届けたいと、心の底から思っている。
 その為には、醜悪なタクトを振るって劇を貶めようとしている男を、引き摺り下ろさねばならない。
「……アルトルージュ様」
 アルトルージュの思索を止めるように、ハンドルを握るリィゾが声を掛ける。不必要に揺れる事なく、銀のメルセデスは静かに目的地の前へと止められた。
「ごめんなさいね、シュトラウト。貴方にハンドルを握ってもらう事になっちゃって」
「お気になさらぬよう。これも私にとって大事な務めなれば」
 ゆっくりとドアを空けて、リィゾは一礼する。いつもと変わらぬ騎士の物言いに口元を綻ばせたアルトルージュは、ゆっくりと目の前に聳える建物を見上げた。
 国立歌劇場(シュターツオパー)。荘大かつ華麗な外観を備えたこの建物は、シュテファン大聖堂、王宮、そして郊外に広がるシェーンブルン宮殿と並ぶ、ウィーンの顔である。
 七、八月の二ヶ月を除いて、一年間常に歌劇を上演し続ける不夜城であり、作られてより今まで、変わる事なく欧州歌劇の中心地であり続けている。あるいはこの場所こそが、音楽の都(ウィーン)でもっとも光り輝く宝石なのかもしれない。
 この中に今、白翼公――トラフィム・オーテンロッゼがいる。
 彼女の到着を、今か今かと待ち構えている事だろう。
 自然沸き起こる嫌悪を抑えんと、アルトルージュは薄く唇を噛み締めた。
「中の様子はどうかしら。何か変わった感じはある?」
 彼女は傍らに控える騎士に向き直った。彼女自身、気配の察知は不得手という訳ではなかったが、生粋の戦士のそれには流石に及ばない。
 主の言葉にリィゾは、口元を固く結んで首を振った。流石に表の人間たちのあふれる世界にいつもの鎧姿というわけにもいかぬと、頑健な巨体を漆黒のスリーピースで包んでいる。傍目には富裕な家の令嬢と、屈強かつ実直な護衛役の組み合わせに見える事だろう。
「死徒らしき者の気配は二つのみです。恐らくは向こうもこちらに気付いているかと」
「そう……」
 アルトルージュは眉を顰めた。
 二人の死徒。一人は言うまでも無くトラフィム・オーテンロッゼである。しかしもう一人は果たして誰であろうか。いくつか可能性のある名前が彼女の頭の中を過ぎる。
「……これでもしリタがあの男の傍らに控えているのであれば、ある意味大した者だけど」
「であるならば、この場所が女狐の墓標に変わるのみかと」
 嫌悪を隠さぬ口調で呟いたアルトルージュに、リィゾが重く冷たい声で応える。例えトラフィム本人の前であっても、それを止める気は彼女にも無かった。体裁は取り繕う必要があるだろうが。
 それよりも、トラフィムの側の死徒が一人しかいないという事の方が気に掛かる。
 トラフィムの動員できる兵数は、アルトルージュを凌駕する。質で見ても彼の近衛騎士団は、アルトルージュのそれに勝るとも劣らない。
 しかしそれは『団』としてみた場合だ。一対一の状況であればアルトルージュを、そしてリィゾとフィナを上回る戦闘能力の持ち主が、彼の元に今いるとは思えなかった。
 こうして招かれるまま顔を見せた自分の行動も、常識を外れているのかもしれない。しかし絶対の護衛を配置せずに、自分を待ち構えているトラフィムの行動も首を傾げる。
 アルトルージュにとっては、肩透かしを食らったに等しい。今日ここに来ている客全てが、トラフィム子飼いの死徒という状況も想像していたのだから。
 自分の首を取れるものなら取ってみろ。そう挑発されているようで、ひどく気に入らなかった。
「ここで考えていてもしょうがないわね。謹んでお招きに預かる事にしましょう。あまり人の目に晒されているのも愉快な気分はしないもの」
 彼女は頭を振った。いつの間にか二人の周りには、歌劇場の客たちの視線が集中していたのだ。
 巨岩から削りだしたような頑健な顔付きの巨漢の男と、それをつき従える十五に満たぬほどの少女。しかも少女の衣装は、夜闇より深い黒を基調に白のレース地のフリルを贅沢にあしらった、古風ながらも丁寧な意匠のドレス。まるで詩歌の世界からそのまま抜け出してきたかのように、儚く美しい。
 この組み合わせでは、静かに人の中に溶け込むというのは無理な相談であろう。
 ざわめく群集を掻き分けるかのように、リィゾが道を開いていく。その後ろを静かに進んでいくアルトルージュ。彼女の美しさに魅かれるまま声を掛けようとした不心得な男たちもいたが、二人が身に纏っている冷たく固い雰囲気の所為なのか、決して側まで近寄る事は出来なかった。
 客たちが傅く臣下のように道を開けていく中、歌劇場の入り口に差し掛かった時、リィゾの眉が顰められた。そのまま主を守るように背に隠し、彼は一歩前へ進み出る。
 人々の中にいても隠せぬ、また隠そうともしない存在感を放った男が、二人の前に立っていた。
 シンプルな中にも非常に手の込んだ仕立てのタキシードに身を包んだ、初老の男であった。半ば禿げ上がった頭髪は潔く短めに刈りそろえられており、鼻元に乗せた丸眼鏡が向かい合う者の視線を引きつける。硝子越しの瞳の色は濁りない真紅。
 彼の姿を確認して、アルトルージュはリィゾの影から進み出た。
 彼女の思い浮かべた名前の中の一人ではあった。ただ、白翼公の元に集う祖の中では間違いなく一番多忙な男であり、今宵この場所に現われる事などないだろうと思っていたのだが。
 内心の驚きを尾首にも出さず、アルトルージュはドレスの裾を優美につまみ上げ、静かに礼をする。
「お久しぶりですね、ヴァン=フェム殿」
「こちらこそ、ですな。長らくの御無沙汰御容赦めされよ、姫君。ただこの場においては、ヴァンデルシュタームとお呼び頂きたいですぞ」
 朗々と自らの名を告げると、男は口元を吊り上げて、目を細めた。
 入り口にたむろう歌劇場の客の幾人かが、響き渡る『ヴァンデルシュターム』の名に驚きの声を上げる。
 ヴァン=フェム。
 死徒二十七祖の内でも今や片手で収まるほどに数を減らした『最初の死徒』の一人であり、祖の中で唯一表の世界に確固たる地位を築いている怪物である。『財界の魔王』の名の元に、精力的に事業を推し進める姿は、怠惰と退廃を常とする死徒の中でも異端とも言えた。
 こうして面と向かい合うのは何百年ぶりであったか。変わらぬ彼の慇懃な態度に、アルトルージュの背中が粟立った。
 彼は明確にアルトルージュと敵対している一人である。それも対立に留まらず、実際に刃を交えた関係だ。その時は『城』とも呼称される彼自慢のゴーレムが一体をフィナが攻め落とし、辛くも撤退に追い込んでいる。
 かつて痛い目に合わされた相手が目の前にいる。ヴァン=フェムからすれば面白かろう筈もない。しかしそれでも慇懃な態度を決して崩さない辺り、アルトルージュにとってはやりにくい相手であった。
 なるほど、彼ならば確かに千人の騎士に勝る守り手になる事でしょうね。
 アルトルージュは感嘆混じりに小さく呟いた。
 世界に冠たる大財閥、ヴァンデルシュタームの当主。しかし彼自身が表に姿を現す事は殆どない。
 謎に包まれた重要人物が姿を現せば、自然他の客の目を引く。
 現に彼女たちを取り巻く観客たちの間には、ざわめきが広がっていった。その視線はヴァン=フェムと、そして彼と向かい合うアルトルージュに集まっていく。
 "あの少女は何者だ?"
 "ヴァンデルシュターム殿の知己であるようだぞ"
 "姫と呼ばれていたが、どこかの王女なのか?”
 少なくない観客たちのそんな呟きが、アルトルージュの耳に飛び込んでくる。
「お目にかかるのはどれほど振りでしたかな、アルトルージュ・ブリュンスタッド殿。いや、昔も今も貴方は変わらずお美しい」
 自らの名を告げるのと同様に、朗々たる声であった。
 アルトルージュの名前もまた、客たちの喧騒の中に染み渡っていく。ヴァン=フェムに比べれば遥かに少ないとはいえ、自らの名を聞き、息を呑んだ客がいるのが伝わってきた。
 トラフィムの策か、ヴァン=フェム自身が申し出た事なのか。うまい手だと、アルトルージュは思う。
 彼のトラフィムに対する忠誠心とアルトルージュに対する憎しみは、彼女の予想より少しばかり高い物であったらしい。先制攻撃の軍配はトラフィムとヴァン=フェムに上がったようだった。
 しかし周りの喧騒を気になど掛けず、アルトルージュは微笑んだ。
 元々罠の中に覚悟して飛び込んだ身だ。この程度のちょっかいは織り込んであるのだから。後でアルトルージュの顔を知ったものたちのご機嫌伺いが煩わしい事だろうが。
「お世辞だとしても有りがたく受け取っておきますわ。ヴァンデルシュターム殿。オーテンロッゼ殿もお変わりはないかしら?」
「無論、貴方の到着を今や遅しとお待ちになられておりますぞ」
 自分の行動の成果に十分な満足を得たのか。ざわめく他の客たちの姿を満足げに見やって、ヴァン=フェムは底意地の悪い笑顔を浮かべた。
「それではこちらに。貴 賓 席(ミッテルロージェ)をお取りしておきましたゆえ、邪魔など入る事なく、今日の演目をお楽しみいただける事でしょう」
 彼の指し示した指の先には、本日の演目のポスターが掲げられている。
『Lohengrin』(ローエングリン)
 伝承をモチーフに、十九世紀の偉大なる音楽家リヒャルト・ワーグナーが作り上げた、幻想的な歌劇である。
 無実の罪を着せられたヒロインを救うべく現われた、謎の白鳥の騎士。彼との恋とそして悲劇を描いたこの作品は、勿論アルトルージュも幾度か観覧した物であった。
 観覧したものであったが故に、彼女は内心首をかしげる。
 知る限りトラフィムは、このような単純な筋立ての物語はあまり好む男ではなかった筈なのだが、いつの間にか趣味が広くなったようだった。
「それでは、こちらへ」
 踵を返して歩き始めたヴァン=フェムの背中に、アルトルージュは皮肉げな呟きを投げかける。
「それにしても、人目が気になるというのであるなら、貸切になさればよろしかったのに。それが出来ない貴方ではないでしょう?」
「確かにそうですな。ですがそのような事をすれば、逆にどうしてもマスコミを始めとした人々の目を引く。私はともかく、我らが王は極力目に付く行動は避けよとの仰せでしてな」
 ぬけぬけと答えるその背中を、アルトルージュは冷たい視線で射抜いた。
「それに我らが王は慈悲深くあらせられる。ここを貸切にして、今日の演目を楽しめない愛好家が出るのは忍びないと事でした。そのように言われれば、私としてもせいぜいミッテルロージェを抑えて置く位が関の山ですな」
 愉快そうに笑うヴァン=フェムの言葉に、アルトルージュは嘆息を隠さなかった。
 体の良い事を言ってはいるが、つまりはここにいる観客全員もまた、アルトルージュに対する盾であるという事だろう。
 その判断が正しい物である事を、彼女自身認めざるを得ない。
 ヴァンデルシュタームの名と、無辜の人間への被害。それらを秤の片側に乗せれば、いかにアルクェイドにした事に対する恨みが深くても、トラフィムへの直接行動を仕掛ける事は躊躇われる。
「オーテンロッゼ殿と貴方のお心遣い、感謝いたしますわ」
 棘を笑顔で包んで、アルトルージュは呟いた。
「今日の歓談が、歌劇共々有意義なものになれば良いのだけれど」
「それが我々にも、そしてアルトルージュ様にとっても一番望ましい事ですな」
 ヴァン=フェムの柔らかい口調の中に、一瞬刃が煌いたようだった。しかしそれもすぐに廊下の空気に溶け消えてしまう。
 やがてアルトルージュたちの前に荘重な意匠を施された扉が現われる。
 歌劇場の主たるべき者のための部屋、ミッテルロージェの入り口である。
「王よ、アルトルージュ・ブリュンスタッド殿をお連れいたしましたぞ」
「お通しせよ」
 扉越しであるというのに、その声は聞く者の耳に直に打ち付けられるような迫力。
 そこに込められた力に、アルトルージュは間違いなく本人が来ている事を確信した。
 ヴァン=フェムの手によって開け放たれた扉の先、ミッテルロージェは劇場の二階中央に張り出すように作られている。舞台の全ての場所が見渡せ、そして音の反響が最もよく集まるように計算された、正に貴賓席だ。中ほどに特別に用意されたのか、玉座を模したかのような豪勢な椅子が二脚並べられている。その間におかれたテーブルの上には、銀のワインクーラー。そして磨き上げられたグラスが二つ並べられていた。
 その片側の席に、純白のスーツに身を包んだ壮年の男が身を沈めている。頬杖をつき、良く整えられた顎鬚を弄びながら、気だるげに未だ開演していない舞台の上を眺めている。
 アルトルージュの記憶と寸分も違わない姿だった。自分がここに来る事になった原因であり、そしてアルクェイドを、ブリュンスタッドをこの世の誰よりも憎んでいる男。
 彼は首を回して、入り口に立つアルトルージュを睨めつけた。
「懐かしい、というべきかな。最後に会ったのは果たして何時であったか」
「さぁ、どうだったかしら。私が千年城を離れて以来だと思うけれど」
「ふむ……周りの顔ぶれは随分と変わったが。姫君においては、その姿美しさにいささかも変わりはないようだ」
「お上手ね。オーテンロッゼ殿もお変わりないみたいで、喜ばしいわ」
 そのまま静かに歩み寄ったアルトルージュは、もう一つの玉座に体を沈める。
「リィゾ、貴方は外にいてちょうだい」
「……御意」
「ヴァン=フェムよ、貴公とリィゾが顔を合わせるのもまた久しぶりであろう。旧交を温めるのも悪くはあるまいよ」
「王がお望みであるのなら、そのお言葉に従うといたしましょう。ああ、それならば給仕が必要ですな」
 ヴァン=フェムが指を鳴らすと、ミッテルロージェの中に二十歳前後の女性が入ってきた。黒地にのワンピースドレスに、フリルの付いたエプロンを身に着けている。
 反射的にリィゾが身構えようとするのを、ヴァン=フェムが手で制した。
「リィゾ殿。ここでは鈴を鳴らす事は出来ませぬし、まさか我が王や麗しの姫君手ずからワインを注がせるという無作法をさせるわけにもいきますまい」
「む……」
「御心配なさらずとも、ただの人間。その身に寸鉄の一つすら帯びてはおりませぬ。暗示により自由意志は奪ってある上、この部屋から出れば見た物聞いた事は全て忘れるようになっておりますぞ。何なら今この場で隅々までお調べ下さっても構いませぬが」
「結構よ。お気遣い感謝いたしますわ、ヴァン=フェム殿」
 椅子に腰掛けたまま、アルトルージュはヴァン=フェムの申し出を了承した。妙な気配は感じない。彼の人形ではこのような精緻な物は作れないであろうし、トラフィムが側にいるこの状態で攻勢の罠は仕掛けられないだろう。
「もしお望みであれば、彼女で喉を潤されるのもよろしいかと。掛け値なしの処女ゆえ、味は折り紙つきですぞ」
「ヴァン=フェム……」
「そちらも魅力的な提案ではありますけど、今は遠慮させていただきますわ。ではシュトラウト、後はお願いね」
 次いで言われた、多分にからかいの色を含んだ彼の言葉に、リィゾが半眼で睨みつける。
 それを遮るように響いたアルトルージュの涼やかな声が、二人に退出を促した。
「それではリィゾ君、我々年寄は下のロビーにでも行ってるとしようかね。このまま観劇を望むならば、一階ボックス席(エアステン・ラングロージェ)も用意させるがね」
「結構だ。私は扉の外でアルトルージュ様をお待ち申し上げ……」
「いかん、いかんなリィゾ君。君の生き方には些か潤いが足りていない。今日は良い機会だから……」
 扉の閉じる音と共に二人の喧騒も消え、ミッテルロージェに沈黙が満ちる。
 アルトルージュもトラフィムも互いに黙したまま、視線を絡めることもない。喧騒に満ちる歌劇場の中で、ここだけが凍りついたように静寂に支配されていた。
 言いたい事も、言うべき事も山のようにある。しかしアルトルージュは沈黙を守り続ける。
 今はまだその時ではない。舞台の幕は上がっていないのだから。
 彼女の思いに答えるように、周囲の喧騒の質が変化を遂げた。他の観客たちの拍手の音が、歌劇場に響き渡る。オーケストラが入場し、開幕の準備を整え始めたのだ。
 それに合わせるかのごとく、トラフィムもまた、ゆっくりと手を叩く。その行動に、アルトルージュは初めて彼に視線を向けた。
「意外だったわ」
「ほう、何がかね」
「貴方がこういった娯楽に目を向ける人だったというのは、新鮮な驚きよ。マキャベリとキケロを片時も離さず、執務に埋もれている方だと思っていたわ」
「木石ではないゆえな、娯楽は嫌いではないよ。忌むべき物は退屈だ。執務に耽るも悪くはないが、それを紛らわせる物ならば、私は須らく歓迎する」
「そうね、一つの事ばかりだと息が詰まるというのは同感だわ。時間が無限に合っても、仕事が一向に片付かないのが不思議に思う時もあるもの」
「違いない。仕事が仕事を呼ぶ。あの連鎖は不思議なものだな」
 トラフィムの口元に、かすかな笑みが浮かんでいた。
「せめて今日この時は、浮世の憂さを忘れるがよろしかろう、姫君よ。今日タクトを振るう男は私の知己だ。それなりの出来は保障するゆえな」
「期待させていただくわ」
 言葉とは裏腹に、ひどく温かみに欠けたトラフィムの呟き。それに応えるように、アルトルージュの口元が緩く弧を描いた。







 婚礼の合唱が歌劇場に響き渡った。荘厳かつ絢爛な旋律が、第三幕の幕開けを飾る。
 悪漢たるテルラムント伯爵を決闘にて打ち破った謎の騎士ローエングリンと、ヒロインであるエルザの結婚式。このオペラの中でもっとも華々しく、そして有名な場面である。
 近習たちの、そしてドイツ王の祝福を受け、幸福を噛み締めるエルザ。オーケストラの調べに乗せて、彼女の心情を歌い上げるプリマ・ドンナ。
 アルトルージュの視界の中で、舞台の上の興奮も、歌劇場の中の興奮も最高潮に達しようとしていた。
 目の前で繰り広げられる絢爛たる誓いの儀式。陰謀と疑心に翻弄されるエルザが、この時だけは許されたつかの間の幸せ。
 見つめるアルトルージュの口から、短く、しかし重い溜息が突いてでた。
「気に入らぬかね」
 それを聞き咎めたか、トラフィムが冷めた口調で呟く。
 歌劇の開始より今までの間、互いの間に初めて交わされた言葉であった。
「そうね。ワーグナー本人のタクトと比べるつもりは無いけれど。少しばかり奏者に指揮者が振り回されているように思えるわ」
「同感だな。期待してはいたのだが、これでは合格点は付けられぬ」
「厳しい採点ね。タクトを振るっている男は、貴方の知己だったのではなくて?」
「それゆえに、な。技術は申し分ないと思ってはいたのだが。冷血症の女とも称されるこのオーケストラを振り向かせるには、いささか本人の魅力が不足していたようだな」
 飽きた玩具を投げ捨てる少年のように、トラフィムはにべも無く言い切った。あの指揮者の運命に、アルトルージュはほんの少しの同情を浮かべる。庇護と仕事を失う程度で、済めばよいのだけれど。
「女性の扱いは繊細さと大胆さの調和が必要だ。気を使うだけでは上手くいかぬと、以前も言ったのだがな」
 トラフィムの言葉に振り向いた彼女は、面白げに口元を弛ませる。
「女性の扱いにひどく自信をお持ちのようね、オーテンロッゼ殿。かつても今も情熱に溢れておられるようで、結構な事」
「さてはて。情熱を持っている事を否定はせぬが、貴婦人に愛を囁く時も得られぬよ。時の頚木から逃れた筈なのだが、時間に追われるとはさていかなる皮肉なのか」
「御謙遜なさらずとも結構よ。冷血症の貴婦人のみならず、享楽的な道化女もお好きなようですし」
「これはこれは。姫君は私の事を良く見ておられるようだ」
「ええ、良い面も悪い面も。貴方が考えておられるよりも遥かに、女性の扱いと言う物は奥が深いのよ。殊に道化者は宝石やドレスをいくら与えても、自分の楽しみを優先させるものね」
「それもまた一興ではないか。全てこちらの予想通りの行動をとる相手は、女であっても友人であってもひどくつまらないものだ」
「ふふ、オーテンロッゼ殿は心が広くていらっしゃるのね」
 忍んだ笑い声が、ミッテルロージェの中に響き渡る。口元に手を当てたアルトルージュは、目を細めてトラフィムの顔を見つめた。
「私は行儀の良い娘の方が好みよ。一から躾けるのも嫌いでは無いけれど、一度逃げ出した娘をもう一度躾けなおす情熱は持てないわね」
「ふむ。だが姫君よ、躾けられた道化などに何の意味があろうか。観客の予測のつかない行動をとる事こそ、道化の本分だとは思わぬか?」
「それはそうね。だけど台本はよく読ませた方が良いと思うのだけど。皆が涙に泣き濡れる愁嘆場に強引に割り込んできて、即席の茶番劇に変えてしまわれても観客は困惑する。出の場面を間違えた道化ほど、見苦しいものは無いのではないかしら?」
「なるほど、一理あるな」
 呟いたトラフィムの口元には笑みが浮かんでいた。彼はそのままグラスに手を伸ばす。進み出た給仕が恭しくワインボトルを捧げ持ち、中身を注いでいく。続いてアルトルージュのグラスに。
 深い真紅の液体がグラスの中ほどまで注がれ、緩く波打っている。それを手にしたトラフィムは、アルトルージュに向けて軽く傾げた。
「見苦しい道化芝居の詫びは、この杯でさせて頂こう。俗世の雑念はしばし脇へ。良くぞこの場へと参られた。いと高き黒の姫君よ」
「あら、物で釣ろうだなんて、オーテンロッゼ殿にしてはいささか陳腐な誘い文句ね」
 頬に掌を当てて小首を傾げてみせる、アルトルージュの口元にも微笑が浮かんでいた。
「だけど乾杯くらいはお受けするわ。その白き翼に、永久の輝きがあらん事を」
 二人はそっとグラスを重ね合わせた。澄んだ音がミッテルロージェの中に響き渡る。
 鼻をくすぐる香りは、丁寧に時を重ねたワインにしか出せない芳醇さ。微笑を浮かべて、アルトルージュはそれを口に運ぶ。なるほど、王の名に相応しい逸品であった。自分の蔵にも、今これに匹敵する品物の在庫は思い浮かばない。
「なるほど、これならば釣られても良いと思ってしまうわね。趣味がよろしいこと」
「お望みならば産地をお教えしよう。秘蔵ではあるが、姫君にお教えするのであれば惜しくはない」
「そのお心遣いは嬉しく思うわ。ただ、あまりにも急なお誘いだったから、慌てて飛んでくる羽目になってしまったのが残念ね。これだけのワインを味わうと分かっていれば、もっと準備をしてきたのだけれど」
「それでも誘いを受けていただけた事に、感謝すべきかな」
「歌劇は嫌いではないですもの。心の底から楽しめる物は久しく出会ってないけれど」
「姫君を心から楽しませるのは、なかなかに骨なようだな」
 トラフィムはグラスを捧げ持ち、手の内で回してみせた。照明に煌いたそれが、一瞬彼の顔を紅く染め上げる。
「もっとも、それは私も同じか。これだけの味のワインを口にしても、あの味には到底及ばぬ」
「あら、これよりも美味しいお酒を口にされた事があるのかしら」
「姫君も幾度となく味わった事があろう。勝利がもたらす酔いの法悦には、いかな酒とて足元にも及ばん。難敵を打倒し、屈服させる。あの瞬間を味わうためならば、いかな苦労も厭わぬよ」
「その酔いが甘美なのは認めるけれど、悪酔いもし易いわよ。私は嗜む程度で遠慮しておきたいわね。剣を持ちて自ら求めに行くのは頂けないわ」
「姫君は穏健であられる事だ。罪を持たず夢想に生きる哀れなエルザを救い上げたのは、公平な裁判ではなくローエングリンの剣であろう? 時に血と鉄は何にも勝る答えとなろうに」
 朗々と語るトラフィムの目は、ワインよりも紅く鮮やかに光り輝いていた。
 舞台の上ではエルザとローエングリンが熱い抱擁を交わしている。
 アルトルージュの視線の先で、己が愛と幸せを一心に歌い上げるエルザ。
 ローエングリンの剣が彼女を勝ち取ったのか。エルザの夢想が形を成してローエングリンを作り上げたのか。この時の彼女にとっては、どちらでも良かったのだろう。
 その愛の深さゆえに、泡沫の夢は覚める事となる。
 この時の彼女はその結末を夢想だにしていなかったに違いない。
「猛々しいお言葉ね、オーテンロッゼ殿。貴方の口から、そのような事を聞く事になるとは思わなかったわ」
「これもまた意外かな?」
「ええ。血なまぐさい場所に踏み込む事を、好まぬ人だと思っていたから。少しばかり裏切られた気分ね」
「裏切りこそ、人に許された開放の刃。そう私は考えているからな」
「あら、随分と独創的な持論をお持ちなのね」
「血の契約を司る姫君の前で言うのは、些か心苦しいが。強き意思を持って裏切りの刃を閃かせたからこそ、人も死徒も、自らを縛る主より解き放たれた。これは変える事の出来ぬ事実であろう?」
「死徒を束ねる王が、そのような事をおっしゃってよろしいのかしら? どこに余計な耳がついている事か、知れた物ではないわよ」
「裏切りを夢想するのは自由だな。ただ、実行させないだけの畏怖を与えれば良い。それだけの話であろう」
 トラフィムは掲げた掌の中のグラスをそっと傾けた。残っていたワインがゆっくりと溢れ出し、テーブルに向かって零れ落ちる。
「王権とは爪と牙により植え付ける楔に拠って立つものだ。植えつけられた者は自らの全霊を持って足掻くのも良い。だがそれを押さえつけ、自らの才と権を示してこそ、王は王として君臨できる。違うかね? 姫君」
 純白のテーブルクロスに広がっていく、紅い、紅いワインの染み。
 汚された白は、もはや二度と元の輝きを取り戻す事はありえない。その様を満足げに見やったトラフィムは、グラスをテーブルの上に戻した。歩み寄った給仕の少女が、静かに二杯目を注ぎ込む。
「故に王が君臨するには、自らの力を正しく証明し続けなければならない。それが出来ぬ者、もはや付き従う者が居ない王がどうなるかなど、人の世を見続けてきた姫君には良くお分かりの事だと思うが」
 紅く染まったテーブルクロスに目を落として、アルトルージュは嘆息交じりに呟いた。
「綺麗な物こそ汚したくなる。分からない気持ちではないわ。でも王たる者のなさりようとしては、些か稚気めいているのではなくて?」
「確かに興が乗りすぎたか。少しばかりの報いを受けてしまったようだ」
 大仰に肩をすくめる。トラフィムの袖に一滴、ワインの雫が跡を残していた。
「貴方のその衣装も、汚したがる不心得者がいるかも知れないわね」
「ふむ、遊び相手が増えるのならば望むところではあるが。そもそも自らの服が汚れる事を気にしていて、遊びなど出来ようものか」
「……どのような形であれ、信念をお持ちなのは素晴らしい事ね」
「それほど大層な物ではないな。二千年生きてなお抜けぬ、悪戯心の赴くままだ」
「鋼の意思を持ち、断固たる行動を起こす。信念を抱えた王は、数限りないほど見てきたわ」
 手にしたグラスを口に寄せて、アルトルージュはそっと息を吹きかける。一瞬さざめいた紅い水面が、虚空に溶けるように薄らいでいく。空になったグラスの端に映る彼女の瞳は、注がれていたワインより紅く深い色を湛えていた。
「そしてその意思を持ったまま滅び去った者たちも、同じ数だけ。貴方はこちらの側ではないと、私は信じてよいのかしら」
「これは、なかなかに手厳しいお言葉だな」
「意思の鎖と血の支配で繋ぎとめた、民の鱗を身に纏う。貴方がリヴァイアサンを気取るのは結構。死徒の王ですもの、気宇壮大は当然でしょう。だけど鱗の繋ぎ目は案外隙間が多いもの。遊びのつもりでも、招いた結果は些か深刻になる事も、往々にして起こり得るのではなくて?」
 響く声は凛として、しかし触れれば切れるような鋭さを秘めていた。
 アルトルージュの言葉に答える事なく、トラフィムは舞台の上を眺めやった。
 二人の結婚を称える交響曲が、終わりを告げていた。
 結婚式が終わり、誰阻むものなく、ローエングリンと結ばれるエルザ。
 結婚の誓いは自分たちを結びつけた筈だと、舞台の上のエルザは信じている。
 男を愛している。愛しているが故の禁忌の思いが心の中で膨らんでいく。
 男の愛も手に入れた。王の信頼も、民の祝福も手に入れた。領主としてこの地を取り纏めていくのに、もはや何の不安も無い筈だった。
 只一つの約束を、夫の名を決して尋ねない事を除いて。
 "名も知らぬ男を、民は領主として崇める事が出来るのか。"
 結婚式の前に、衆生の前で夫となるべき男を悪し様に罵る、テルラムント伯爵。
 "名も知らぬ男を、果たして貴方はこれより先愛していく事が出来るのかしら。"
 結婚式の前に、エルザの耳に囁きかけるテルラムントの妻、オルトルート。
 エルザは歌う、悲しみの叙 唱(レチタティーヴォ)を。
 愛する者の名を知る事が出来ない悲しみを、歌劇場に響き渡らせていく。
 奥火のような疑念が、風を送られ激しく燃え上がっていく。一度激しさを増した炎は、もはや理性では消し止める事は叶わない。
 ――愛の深さゆえの疑念に突き動かされて。
 "高潔なる白鳥の騎士よ。そして我が愛する夫よ。貴方が私を愛してくださるのであればその証を、貴方の妻にお見せください……"
 ――ついにエルザはその言葉を口にした。
 "恋に身を焦がす愚かな私に、貴方の名前を教えて下さいませ……"
 エルザの独白に重なるように、乾いた音がミッテルロージェの中に響き渡る。トラフィムの打ち鳴らした手の音に、アルトルージュは眉を顰めた。
「……寓意を思い起こさせる程度の掘り下げはある舞台ね。このシーンは悪くないわ。貴方が拍手をなさるのも、分からないではないけれど」
「失敬。しかしあまりにも愉快だったもので、つい、な」
「道化者の事と言い、やはり私と貴方とは感覚が違うのかしら」
「そうかね? 才無き者が過分な望みを抱けば、その手に抱え込めず全てを失う。愛を与えられた女が、より深い愛を求めたが故に愛を失う様は、傍から見れば滑稽だと思うのだがな」
「その感覚を否定はしないわ。だけど私までそのような感性の持ち主と考えるのは、些か乱暴に過ぎるのではないかしら」
「無論、そのまま姫君に当てはまるなどとは思わぬがね。だがお互い、愛の愚かさについて思い当たる事があろう?」
 トラフィムはグラスを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。
 小さく喉を鳴らして、紅い雫を飲み干していく。法悦の溜息と共に、静かに言葉をつなげていく。
「人を愛すれば愛するほど、歯車が狂っていく哀れな白い自動人形。どんなに外見が人に近しくても、決して人になどなれはしないのに、愚かなる彼女はそれに気付かず狂っていく。さて、愚かなのはこの自動人形なのか、自動人形を狂わせる愛なのか。果たしてどちらなのかな」
「お互い、ね。私には思い当たらないけれど」
「それは意外だな。姫君も良く御存知の話だと思っていたのだが」
 舞台から隣へと、トラフィムが視線を向けた。
 しかし揶揄するような彼の視線に応える事なく、アルトルージュは舞台を眺めている。
 "美しきエルザよ。愛する妻よ。そなたに請われたのならば、私は答えぬわけにはいかぬ。たとえこの身が引き裂かれようとも。たとえそなたの顔を二度と目にする事叶わなくとも。そなたを愛するが故に、私の名を隠すわけには参らぬのだ。"
 男の身を引き裂かれるような悲しみが、歌劇場に響き渡っていく。
 "我が名はローエングリン。聖杯の騎士パルシファルの息子にして、白鳥の騎士なり。"
 エルザを愛するが故に、彼は己が名を答える。
 それが永遠の別離の幕開けだと分かっていても、彼女を愛するが故、誓いを破るわけにはいかないのだから。
「ローエングリンとエルザですら、愛などに重きを置くが故に引き裂かれる。ヒトのなり損ないが愛を求めたとて、上手くいく筈など無いとは思わぬか?」
 "エルザよ、そなたへの愛は永劫変わらぬ。されど誓いに従い、私はこの地を去らねばならぬ。"
 トラフィムの言葉に重なるように、ローエングリンが悲しみを歌い上げる。
 オーケストラが別れを奏で、歌劇場を悲嘆に染め上げていく。
 アルトルージュは彼に応える事なく、無言でグラスに手を伸ばした。歩み寄った給仕が、口の空いた赤ワインに手を伸ばすのをそっと手で制する。
「新しいワインを所望してもよろしいかしら、オーテンロッゼ殿」
 グラスを掲げたアルトルージュが、そっとトラフィムに微笑みかける。
 溶け消えそうなほど、淡く儚い笑顔。
 それは夜空から大地を冷たく照らし出す、月の光を思わせた。ミッテルロージェの中を見る者がいれば、舞台からこちらに視線を奪われていた事だろう。
「たとえその後に待ち受ける結果が、こうして悲しい物であったとしても。愛する二人が結ばれる、神聖なる結婚式は祝福されるべきよ。その場に赤ワインはそぐわないわ。祝福の白を頂けないかしら」
「なるほど、お強請りされてはまさか否やは言えぬ、と言いたいところだが」
 苦笑を浮かべたトラフィムは、しかしアルトルージュに向き直る事は無く、ただゆっくりと首を横に振る。
「しかしこの場は姫君のために用意させていただいた席ゆえな。貴女を称える赤が、やはり相応しかろう」
「そう、それは残念ね。ならせめて雰囲気だけでも戻しておくべきかしら」
 呟いた彼女は、そっとテーブルの上にグラスを戻す。そのまま手を翳し、なぞるように空を滑らせる。
 それだけで、斑に染め上げられていたテーブルクロスが、元の純白を取り戻していた。
「自分の名前ですもの、赤は嫌いではないけれど。やはり白く生まれた物は余計な手など加えずに、白のままである事こそ美しいのではないかしら? 中途に犯された姿ほど、見苦しい物はないわ」
「ふむ、テーブルクロスはこうして元に戻せる。戻せなければ新しい物に替えればよい。だが軋んだ歯車を抱えたまま、直す者ももう一度作る者も無く動き回る自動人形など、もはやこの世に在る意味が無いのではないかね、姫君?」
「誰よりも人らしくあろうと試行錯誤している彼女の行動は、果たして「歯車が軋んでいる」と言い表すべきなのかしら」
「違うとお考えかな?」
「ええ。彼女はもはや人形ではないのだから、歯車など軋みはしないわ。血管に流れるのは冷たいオイルではなく、動かす命令も、真祖たちのプログラムではない。全て彼女自身の意思ですもの」
 凛としてそう口にするアルトルージュに、トラフィムは肩をすくめた。
「あれの事をよく御存知な事も驚きだが、随分と買っておられる事により驚かされるな。姫君のあまねく情の深さに、敬意を表すべきかな」
「情ではなく興味よ。曲りなりにも同じ名前を関する存在ですものね。彼女をそこまで突き動かす衝動を、貴方は知りたいとは思わない?」
「生憎と、私は臆病者でな」
「王としては正しい態度と言うべきかしら。でも真理を目指す魔術師らしからぬ発言ね」
「残念ながらそちらの方は、随分前に手を止めてしまったからな。もっとも、行過ぎた衝動の招く先の未来は、概ね決まっておろう。わざわざ危険を冒して探索する気にはならんよ」
「ならばどうするおつもりかしら、オーテンロッゼ殿」
「知れた事。壊れた玩具は捨てる物。壊した輩は処罰されるべき物。何か問題があるかね、姫君?」
「それがあなたの物ならば、何をどうなさろうと御自由に」
 微笑を留めたまま、アルトルージュは答える。その声はオーケストラの調べに乗り、歌っているかのようだった。
「だけど私は今、彼女を見る事を楽しんでいるわ。そしてあれは貴方の物ではないの。その事を忘れないで頂戴」
「さりとて姫君の所有物でもあるまい」
「ええ、だからお互いに何もせずにいる事は、当然の選択肢ではないかしら」
「火の美しさをただ眺めていて火事を起こされては、周りの者はたまらぬな。自分の館が燃えるに留まらず、炎は回りに燃え広がる。火がつく前に消し止めておこうと考えるのも、自然ではないかね?」
「風が無ければ火は燃え広がらないものよ。煽り立てる悪戯な風がどこから吹き付けるのか、それを調べればおのずと火事も防げるでしょうに」
「そのような言が一番当てにならない事は、姫君自身が一番良く知っておられよう。ましてこの炎は、ひとたび点されれば世界が燃やし尽くされる。本日の演目とは異なるが、神も人の世も黄昏時を迎える羽目に陥ろうな」
「それを恐れるが故に、ライターの炎にすら必死に水を掛けておられるのかしら」
「まさか。つまらん一般論に過ぎぬよ」
 呟いたトラフィムも、手にしたグラスをテーブルの上に戻した。そのまま自らに微笑みかけるアルトルージュに顔を向ける。
 二人の視線が、初めて交錯した。
「そしてつまらぬ言葉を重ねるならば。火遊びをするのに、火事を起こさぬ注意と消し止める道具を用意するのも常識であろう。燭台の炎は吐息で消せるが、あれは特別な道具を用意しなければ消せぬ。美を愛でるのは結構だが、事前の準備に手落ちがあるのではないか」
 紅い瞳の奥底が、ぬめった輝きを帯びたようだった。
 トラフィムの口元に浮かんでいた笑みがいつの間にか消え、アルトルージュの顔を食い入るように見つめている。
「黒き森の奥深く、偏屈な番人に守られた泉の水。火を燃え広がらせないためには、手元に置いておく事が必要ではないかね」
 それは決して大きな声ではなかったが、ゆっくりと、そして確実に部屋の中に染み渡っていった。
「オーテンロッゼ殿は伝承にお詳しいようね」
 その言葉を耳にしてもなお、アルトルージュの笑顔は変わる事はなかった。
 しかしテーブルに置かれた手が僅かに振るえている。
「だけどあるかどうかもわからない物を、観劇する前に用意しようとするなんて、備えの域を超えているわね」
 押し当てられた彼女の指先が、クロスに僅かな皺を作り出していた。
「黒き森の秘宝、もし本当にあるのならば随分と心惹かれる物語ではあるけれど。まだローエングリンの父の所業を見習う方が、目があるように思えるわ」
「聖杯と並び称されるのならば、かの番人にとってもさぞ光栄な事だろうな」
「求めた者に例外なく破滅をもたらす事も、良く似ているわね。それを手に入れろとおっしゃるのだから、オーテンロッゼ殿も随分と意地の悪い事」
 アルトルージュの顔から笑顔が消える。彼女の右手は、固くアームを握り締め、微妙な震えをみせていた。
 「それを用意できない事で「手落ち」と言われてしまうのならば、随分と辛い評点ね。その採点をご自身に向けられる勇気もお持ちなら、私も粛々と受け入れる事にするわ」
「せいぜい首を洗って待つ事としよう。しかしこちらも、中途で仕事を投げ出す無責任を行うわけにもいかぬだろうな。姫君の開かれた宴の、後始末をさせていただくより他あるまいな」
「熱心な事。一体何をなさるおつもりかしら」
「炎が消せぬ。消すための道具も用意できぬと姫君はおっしゃる。ならば仕方あるまい、こちらとしてはせいぜい燃え広がらぬように、周りの建物を壊すより他無いな」
 素っ気のない口調で呟いて、トラフィムはアルトルージュから視線を外した。グラスを手に取り、給仕の少女に三杯目を注がせていた。
 一礼し、後ろに下がろうとする少女に向かって彼は手を伸ばす。どこか陶然とした表情を浮かべる少女の喉に、彼はそっと指を這わせた。
 紅い筋が浮かび上がり、やがて鮮やかな赤が膨れ上がる。
 少女の鮮血が雫となり、トラフィムの指を伝ってグラスの中へと染み渡っていった。
 少女の身を駆け巡っているのは、苦痛ではなく快楽なのだろう。恍惚とした顔で、喉元を赤く染めたまま、少女は部屋の隅へと戻っていった。
「……オーテンロッゼ殿らしくない所業ね。洗練されたやり方とは言いがたいわ」
「古き死徒は死徒らしく、伝統に則っているに過ぎぬよ」
「古き因習に拘り続ける事が、良い事だとは思わないけれど」
「新しいやり方が須らく効率的とは限るまい。今まで活き続けているのは、その方法が効果的な部分もあるのだからな」
 トラフィムは、先ほどとは変化を遂げた赤ワインの立てる香りに目を細める。
 アルトルージュは深い溜息を漏らして、舞台へと向き直った。
 それは数秒だったか、あるいは数分だったか。ミッテルロージェの中を支配した沈黙の中、アルトルージュの意識は再び舞台の上へと向かっていた。
 ローエングリンは白鳥に囲まれた小船に乗り、エルザに別れを告げる。
 禁忌を犯した代償は、永久の別れ。
 あまりにも愛が深かった故に、男の愛を確かめずに入られなかった哀れな女を、彼は悲しげな瞳で見つめている。
 "そなたと最後まで添い遂げたかった。"
 歌い上げる言葉は紛れもないローエングリンの本心であった。しかし身を縛る誓いの鎖を、彼は断ち切ることが出来ない。心引き裂かれんばかりの痛みを抱えたまま、騎士を乗せた小船は、エルザの元から旅立っていく。
 引き止める言葉は無かった。
 愛の深さゆえに心惑わされたエルザは、心押しつぶされ地に倒れ伏している。失った物の大きさに気付いた彼女が、それに耐え切る事など出来よう筈がなかった。
 崩れ落ち、その命すらも涙に散らしたエルザ。
 二人の永遠の別れをオーケストラの調べが締めくくり、舞台の幕が下りていく。それを追うように、歌劇場の中を割れんばかりの拍手の音が満たしていく。立ち上がって手を叩いている客の姿も無数に存在していた。
 その中でも無言のまま、アルトルージュは幕の下りた舞台を見つめていた。
「やはり姫君にとって、拍手には値しない出来だったかな」
 顎鬚を玩びながら、トラフィムが肩を揺らした。
「後半は持ち直していたように思えたな。私としては十分に楽しめる物だったが」
「いえ、楽しませていただいたわ」
 玲瓏なその声は、喧騒にすら思える拍手の音の中でもはっきりと響き渡った。
 ゆっくりと舞台から視線を外すと、優雅な所作でアルトルージュは立ち上がった。後を追うように、黒髪がたなびき彼女の体を包み込む。
 その顔には、澄み切った美しい微笑みが浮かんでいる。しかしその瞳に篭る力が、隠される事なくトラフィムの体を射抜いた。
「だけど、招かれていてばかりは私も心苦しいもの。今度は私が貴方を招待させていただくわ。私の知り合いの結婚式ですけれど」
「……ふむ、それが姫君の答えか」
 顎に置いた手を止めて、トラフィムがアルトルージュの視線を受け止めた。
「彼らの道を辿らぬよう、祈らせていただこう――アルトルージュ・ブリュンスタッドよ」
 トラフィムはグラスを掲げて、向かい合う者の名を呼ぶ。
 この長い夜で初めて、彼の口から紡がれた彼女の名前。込められた感情はどれだけのものであったのか。二人の間の空気が音を立てて凍り付いていくかのようだった。
 しかし身を切り裂かんばかりの雰囲気の中で、アルトルージュはその微笑みを崩す事は決してなかった。ドレスの裾を摘まみ上げ、優美に礼を返してみせる。
「ええ、そのお心遣いに永久の感謝を」
 そのまま身を翻し、アルトルージュはドアを押し開いた。
「貴方と貴方の可愛い道化の身が、安らかなる事をお祈りさせていただくわ」
 開け放ったドアに手を掛け、アルトルージュは呟く。差し込む光が、彼女の顔を照らし出す。浮かび上がる顔に色はなく、只その瞳だけが紅く、朱く光り輝いていた。
「それではさようなら、トラフィム・オーテンロッゼ」
 アルトルージュの呟きに応えるかのように、彼女の使っていたグラスに罅が走る。
 形を保ったのは刹那の時。甲高い音を響かせて、グラスが粉々に砕け散った。
 煌きを纏い床に、テーブルに降り積もる硝子の欠片。
 それに目を向ける事なく、トラフィムは手にしたワインを口に運び。
 それを振り返る事もなく、アルトルージュはミッテルロージェを後にした。





「……あの古狸」
 銀のメルセデスが、ウィーンの夜闇を切り裂いていく。後部座席のソファに身を沈めながら、アルトルージュは呻いた。
 右手で顔を覆い、俯く。彼女の口から漏れ出した吐息が、車中を重苦しい物に変えていた。
「いかがされましたか、アルトルージュ様」
 ハンドルを握るリィゾの気遣わしげな言葉に、アルトルージュは苛立たしげに吐き捨てた。
「あの男、ぬけぬけと宣言してみせたわ。「アルクェイド・ブリュンスタッドをこのまま結婚させるつもりなら、相手の家を皆殺しにする」って。自分が私にした事を棚に上げてね。よくも言ったものだわ」
 それを聞き、リィゾの眉が顰められた。何事かを言おうと唇が開きかけるが、やがて思い直したように再び固く結ばれる。
「いいわ、シュトラウト。今はどんな意見も欲しい所だから、遠慮なく言って頂戴」
「……僭越ながら」
 主の言葉に頷いたリィゾは、固い声で呟いた。
「アルクェイド殿の人となりをもし知らない状態であるならば、私もその策には賛成する事でしょう」
「シュトラウトっ!」
 アルトルージュの張り上げた声が、窓を震わせた。漏れ溢れた怒りが車中を塗りつぶしていく。
 しかしそれも一瞬、頭を振ったアルトルージュが顔を伏せた。
「……ごめんなさい。続けて頂戴」
「アルクェイド殿が外の世界に居続ける。その恐怖と危険を思えば、彼女が千年城の外にいる理由を無くすために、その周りを潰していく事は遥かに楽で効果的でありますゆえに」
「ええ、その通りよ」
 結婚を取りやめさせるために、遠野家を地上から消す。アルトルージュは唇を噛み締めた。
 リスクの少ない作戦であると、認めざるを得ない。それが故にアルトルージュも、一度それに似た策を取ったのだから。
 アルクェイドに悲しみを背負わせないために、遠野志貴を死徒にする。それが敵わなければ、せめてこれ以上二人の愛が深まる前に彼を殺す。
 トラフィムとは出発点も目的地も違うが、小数の犠牲の元に成果を勝ち取ろうとする道行きは、彼と変わらない発想だった。そしてそれが効果的である事も否定出来ない。
 ――否定は出来なかったが、アルトルージュは二度とその手段を取るつもりはなかった。
 アルクェイドのために。彼女の新しい家族のために。何よりも自身の誇りのために。
 そのような安易な手段に逃げる訳にはいかないのだ。
「シュトラウト。私は古狸を喜ばせるためにそんな手段など取る気はないし、させる気もないわ」
「御意」
 顔を上げたアルトルージュの視線が、バックミラー越しにリィゾの顔を射抜く。主の答えが分かっていたのか、リィゾも小さく頷いた。
「アルトルージュ様ならばそう答えられるに相違ない、そう思っておりました。おそらくはトラフィムも、実際にそのような手段をとるつもりは無いかと」
「ええ、多分に恫喝のつもりなのでしょうね。だけど彼の立場がそれを可能とする以上、私は備えざるを得ない」
 アルトルージュは皮肉げな微笑を浮かべた。
 遠野志貴が、そして彼の妹である秋葉が。あの双子の使用人が。皆欧州の人間であれば良かったのに。
 他の者より遥かに長い彼女の腕を持ってしても、日本の地は遠い。
 この旅を終え、自分が客人として遠野家に留まっている間ならば良い。しかしいずれは欧州に戻らねばならないのだ。
 そうなった時に腕を伸ばして彼らを守り続ける事が出来るのか。アルトルージュといえど十全の自信は持ち得なかった。
 勿論、トラフィムにとっても日本の地は遠い。実際に事を起こすとしても、綿密な準備と時間が必要になるのは確かである。その上作戦には完全なる機密性が要求される。実際に事を起こすならば、今回のように彼女に対して計画を匂わせたりする事など以ての外であろう。事の成功率は下がる上に、アルクェイドの耳に犯人の黒幕の存在が入れば、復讐の炎が彼の身をも焼き焦がすのだから。
 しかしそれでも、万に一つの悲劇は存在する。
 そして一度起こった悲劇はもはや取り返しがつかないのだ。一度の過ちで、永遠に夫と自らの命をを失ってしまったエルザのように。
 それならば、アルトルージュにとれる手段は一つだった。
 トラフィムに手出しをさせる理由を与えない。それより他ない。
「シュトラウト。黒 き 森(シュヴァルツヴァルト)に派遣したエルウィンからの連絡は?」
「リタの件があったゆえ、実際の派遣は昨日になりました。おそらく今頃はフィナの元に、定時連絡が届いている事かと」
 突然矛先の変わった質問に、しかし淀みなくリィゾは答える。彼の返答に、アルトルージュは沈思した。
 トラフィムから提示された、もう一つの手段が、彼女の頭に形を成した。
 黒き森の秘宝――アインナッシュの実。
 最古参の祖の一人である死徒アインナッシュ。森を支配し、中に入った物も者も全てを喰らい尽くす兇悪な固有結界を展開する彼が、中心に位置する玉座で守護していると言われる秘宝だ。幾十万もの生物の血を凝縮させたその『実』は、口にした者にかりそめの不老不死を与えると、伝説は広く世界に伝えていた。打倒する手段など無いに等しく、また生きて還った者すらいないアインナッシュの支配する森に、数多の人々を呼び寄せる理由。それこそがこの『アインナッシュの実』なのである。
 ――そう、人々には信じられている。
 トラフィムがアインナッシュの真実を知っているのか否か、その事も気に掛かる。しかしアルトルージュにとってより気に掛かるのは、このような絵空事が、現実主義の権化であるトラフィムから提案された事だった。
 トラフィムの事だ、アインナッシュが活動を開始した事は、知っていてもおかしくはない。
 しかしアルクェイドの結婚に合わせる様にアインナッシュが活動を開始して、そしてリタが城を訪れた。
 本来繋がる筈など無い糸を繋げようと、トラフィムはタクトを振るっているのだろうか。仮に振るっているとしてもどうやってなのか。
 かつてのアインナッシュと今のアインナッシュは全く異なる。交渉など成立しよう筈もなく、ただ己の食欲のままに立ちはだかる物全てを喰らいつくす。これは彼の嫌う『燃え広がり全てを焼き尽くす炎』その物だと言うのに。
 考える時間が欲しかった。考える材料も欲しかった。
 事を成すか否かではなく、事を成功させるための。
 シートに身を沈めたアルトルージュは、深い溜息をついた。
 自分はひどい主であるのだろう。一度ならず二度までも、同じ理由で彼らを死地に晒す事になるのかもしれない。
「シュトラウト。今一度私は貴方を振るう事になるかもしれない。貴方を携え、ヴラドを構えて、プライミッツマーダーに跨って私は再び死地へと赴く事になるかもしれないわ」
 アルトルージュの眼は、ミラー越しのリィゾの瞳をそらす事なく見つめていた。
「だから我侭な主を持った事を恨んでくれて良いわ。貴方たちの命を、預けて頂戴」
「御意。アルトルージュ様の側元へお持ちいただけるのであれば、何処へとも何故とも聞きはいたしませぬ。御存分に我らをお使いくださりますよう」
 彼女の瞳に映るリィゾの顔には、些かの躊躇いもなく、そして媚もなかった。
 固い忠誠と、自らへの自信を以って、アルトルージュの視線を受け止めていた。
 騎士の存在に感謝する。彼の向ける過分なる忠誠をありがたいと同時にすまなくも思う。
 アルトルージュは窓の外に視線を向けた。夜闇の中、ウィーンの街の光が幻のように浮かび上がっている。
 必ずもう一度この街に戻ってきたかった。アルクェイドを連れて、戻って来なければならなかった。
 膝に置いた手を固く握り締める。
「思うとおりになど、させはしないわ」
 硬い声でアルトルージュは呟く。吐息が窓に白い曇りをつけていた。




<続く>