ピュプノスの宴


作 Jinro






 1.アキレア
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 体中が熱病に掛かったように鈍い熱を帯びて、額に浮いた汗がつぅと汗ばんだ素肌の上を転がり落ちる。
 ちかちかと視界には白いフラッシュが瞬き、まるで悪い麻薬でもキめたみたいに思考がくらくらと揺れている。
 気が触れるほどに眼が冴えているのに、今にも眠ってしまいそうなほどひどく眠い。
 神経がおかしくなっていて、体中の感覚がどうしようもないくらいに矛盾している。
 食いしばった歯の間から、快楽と共に正気がカタカタとだだ漏れに漏れていく。
 何もかも胡乱になっていて、何もかもが分からない。
 停止した思考回路に、訳の分からない断片が錯綜する。
 わからない何かに急かされて、ただ馬鹿みたいに腰を振る。 
 血液に乗って回る欲情と言う名の毒、駆け巡るように全身へ全身へ行き渡る。
 下半身から脳髄まで串刺しにされるような抗いがたい衝動、自分でも訳の分からないものが、今の俺を稼動させている。
「ぎっ――――」
 口の端からだらだらと零れる涎、俺自身は何をしているのかわからないのに、俺の体は俺以上に何をすべきを熟知している。
 なんて醜くも生き汚いオルガズム、この体は生き物ではなく快楽と言う電池で動く機械仕掛けの玩具に過ぎないらしい。
 耳を澄ませば様々な音が聞こえてくる、ぴちゃぴちゃといやらしく響く水音、パンパンと言う小気良い音、肉同士の擦れる音。
 ふと気づくと生殖器は充血してパンパンに膨らんでいる、射精しようとする今になって、俺は性欲を思い出した。
「はぁ…はぁ……は!!」
 不規則な呼吸のせいで足りない酸素。
 酸欠を訴える体を無視すれば、当然しっぺ返しが来るに決まっている。
 視界がくらくらと眩む、今にも倒れそうなほど目の前がぐにゃぐにゃに歪んでいく。
 まるで酔っ払ったみたいに重い身体と、息をするだけでも苦労する粘性を帯びた空気。
 一舐めしてみると甘かった、どうやらいつの間にかここらの空気は全部水飴に入れ替えられていたらしい。 
「ひゃひゃ……」
 笑う、此処は夢の中だと理解した。
 だってそうだ。
 本当に麻薬でもやった後みたいに、頭が訳の分からない妄想を垂れ流し続ける。
 空虚な忘却は、幻覚か夢かは分からないが、いつの間にか俺は芥子の花に惑わされたらしい。
 眠りの中でだけ開放される狂気、眠りに落ちてこそ発散される狂喜。
 ぐるぐると思考が廻る、そんな訳の分からないフレーズを思いつくなんて、本当に俺はどうかしてる。
「は……あぁ、ん、んむ」
 熱を帯びた喘ぎ声が耳朶を打つ、女の声、牝の喘ぎ、雌の唸り……或いは悶えるような、或いは吼えるようなやらしい嬌声。
 そのいやらしい音が俺を少しだけ覚醒させてくれた。
「あ――――?」
 歪む視界に女を捕らえる。
 上気した肌と潤んだ褐色の瞳、気の強そうな釣り上がり気味の睫毛、墨を引いたように整った眉と、白い肌に流れる艶のある黒髪。
 いつもは不敵に笑っているその血色のいい桃色の唇は、グロテスクに鎌首をもたげている俺のモノを水音を響かせながら啄ばんでいた。
「あ、おこ…………っく!?」
 口から突き出た赤い舌が糸を引きながら裏筋を舐めあげていく、時に緩慢に時に鋭く俺のそそり立つペニスを刺激する。
 熱い吐息が先走りの液に濡れそぼった先端を撫でる、その度に気を失いそうになるほどの電流が背筋を駆け抜けて頭へと抜けていく。
 その快感をどう例えればいいだろう?
 背骨の中に小さな虫がみっしり詰まっていて、舐められるたびそいつらが一斉に動き出すようなグロテスクな想像をして、すぐに打ち消す、それすらこの快感には届かないだろうから。
「ほら、いつまでそっちに見蕩れているつもりだ?」
「――――いぎ!?」
 顔を掴まれ、強い力で無理やりに振り向かせられた。
 頸が折れるようなゴキリと言う音と、鈍痛。次の瞬間には、柔らかな感触と腔内にぬるりとした異物が滑り込む違和感。
「ふむっ……ふ、ふぁ」
 レイプじみた強引さと力で持って、口の中を無茶苦茶に犯される。
 歯茎をねぶられ、舌を絡められて、唾液を啜られ、最早何をされているのか自分でも分からなくされてしまう。
 ぐじゅぐじゅと唾液が泡立つ音を聞きながら、息が続かなくなるほどに長い間、俺はただ為すがままに口腔を蹂躙されていた。
「ぷはぁ、はぁ、はぁ――――今のは声よかったぞ草十郎、まるで女の子みたいで」
 唾液の糸を引いて、唇と唇が離れる。
 訳の分からない喪失感が心に凝って、俺はその理由に戸惑った。
 ぐだぐだになった頭で考えてふと気づく――――ああ、そっか。
「俺の、ファーストキス……」
 酷く簡単なその答えは、思わず口を付いて出た。
「ぷっ!?……はは、あっはははははは!」
 目の前の女は、余程その事が面白かったのか盛大に腹を抱えて笑う。
 羽織っただけのブラウスが脱げ落ちてしまうほどの激しさで、俺の滑稽さを爆笑する。
 そこでやっと俺は、目前の半裸の女の正体を悟った。
「笑う……な…………よ、橙子」
 俺は切れ切れの声でそう言った。本当に、まったくどうかしてる。
 けれども橙子はなお笑い続ける、狂ったように、大声を張り上げて笑い続ける。
「あっはは、ははは、はひ、ひぃひぃ腹が痛い、あまり笑わせるな」
 見れば瞳には涙が潤んでいる、さんざん人のことを笑い倒してから、やっと橙子は俺と話す気になったらしい。
「いやすまんすまん、許せ。まさかそこまで初心だとは思ってなかったからな」
 目前の性悪女は悪びれた様子もなく、そうのたまう。
 毛ほども反省したとは思えないこの女は――――現代に生きる魔女である。
 それは比喩でもなんでもなく、額面通りの意味だ。原子力の光が煌々と夜を照らし、大会社の社長ですら月まで行けるこの科学全盛の世の中に、魔女とはまるで冗談にしたか聞こえないが真実なのだからしょうがない。
 まぁもっとも、田舎も田舎な電気すら通っていない山の奥で爺さんと二人暮らしをしていた俺は、初めて都会に出た頃は街に満ち溢れた文明の利器も魔法みたいにしか見えなかったのだが。
 兎に角、二人はそう言う箒で空を飛んだりとか撫でるだけで傷を癒したりする、そう言う物語のなかの存在なのだ。
 不用意にそれに近づけば、痛い目に会うのが道理らしい。
 実際、俺は昔橙子と青子の血で血を洗う姉妹喧嘩に巻き込まれて死ぬような目に合わされるわ、首輪を付けられて青子の所有物にされるわ、で色々と悲惨な目に会っているので身に染みていた。
「で、こんどは一体なんだんだよっ!?」
 橙子は俺の叫びなど軽く無視して肌蹴たブラウスを脱いだ、そのままくしゃくしゃに丸めてベッドの外に放り投げる。
 なんのつもりか分からないが、そんな事をされてはたまらない。
 盛りの入った中学生ではないが俺だって男だ、つい変な気を起こしたって変じゃない。
「うっ……」
 思わず呻いてしまう、ブラウスの下から現れた橙子の裸は、まるで人形のような白くて美しい。
 確かに俺だって拾ってきたエロ本で女の裸なら何度も見ている、だが目の前の橙子にはそんなもの軽く吹き飛ばしてしまうほどの。生身の艶かしさがあった。
 むっちりとした太ももやすらりとした二の腕が酷く柔らかそうで、齧り付きたくなってしまうくらい。
「なっ、なんのつもりだよ、橙子!」
 そう問い詰める俺の言葉も軽くあしらわれてしまう。
 橙子は哂っていた、男を玩ぶ情婦のような妖艶な表情で俺の狼狽ぶりを嘲笑っていた。
 ――――本当に、一体全体どうなってるのか。
「ふふ……」
 橙子は俺に見せ付けるように、自分の体に指を這わせる。
 華奢な指が静脈の浮いた白い乳房を押し上げ、その先端の硬く隆起した桃色の蕾を抓む。
「――――あんっ」
 そのまま押しつぶす様に捏ねあげた、艶やかな喘ぎ。
 悶える声さえ、媚びるような甘ったるさを含んでいた。
 目の毒だと思って目を瞑ろうとしても、片時も目を離す事が出来ない。
 橙子と言う毒が、血流に乗って体中に回っていく。まるである種の蛇の毒のように体中の筋肉をとろかして、俺を身動きできなくさせてしまう。
「その様子だと――――女を抱いたこともないんでしょう?」
 急に口調を変えて橙子は言った。 
 それは蜜蜂を誘う毒花のような、或いは獣となった男を手玉にとる娼婦のような、普段の橙子からは考えられないほど”女”と言うものを否応なく感じされる、この上なく蟲惑的な口調だった。
「抱いてみたくは、ない?」
 橙子の指が俺の胸板を撫でる、オレンジ色のマニキュアを塗った爪が僅かに皮膚に掠って、そのまま未練ががましく空を切る。
 ほんの少しだけ触れられた痛いようなこそばゆいようなその感覚に、俺は思わず身震いする。
 いつの間にか橙子は眼鏡を掛けていた、そのせいか顔つきまでしらず柔らかいものになっている。
「だっ、だだ、だって、だってそんなっ!?」
 必死で拒絶しないとこのまま落ちていってしまいそうで、俺は精一杯の自制心でそう言った。
 それが気に入らなかったのかもしれない、橙子は挑発的な微笑をより深めると、俺にじりじりと擦り寄ってくる。
「ほら? この体を好きにしていいのよ?」
 橙子の胸が、二の腕に当たってる。
 俺の腕を抱えるようにして抱きついてきた橙子の胸の二つの控えめな柔らかい膨らみに、俺の腕が完璧なまでに直撃している。
 天啓の如く、脳裏にその事実がスパークした。
 ――――胸、乳房、おっぱい。
 知覚した途端、一気に思考が茹で上がる。
「qあwせdrftgyふじこlp!!!!?」
 まるで瞬間湯沸かし器――――ああ、駄目だ。自分でも訳わからなくなってる。
 しかし俺の混乱する頭は、唐突に割り込んだ怒声によってあっという間に沈静化した。
「そんなペチャパイ女に鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ!!」
 耳元で響く強烈な怒鳴り声。
 二日酔いさえ綺麗さっぱり消し飛ばしてしまえそうなほどその声に、俺は痛む耳を押さえて振り返る。
「青――――子……」
 そこには見紛うことなき俺の所有者、厚顔無恥にして暴虐無人、天真爛漫な魔法使い、好きなご飯は焼肉定食――――蒼崎青子がそこにいた。
「ちょっと聞いてるの!? このむっつりスケベ!!」
「あ、ああ……」
 未だ頭痛は治まらない、この喜劇は止めようも無い。
 ――――どうやらこのまま全編シリアスで行ける思った俺が大甘だったらしい。
 落胆と期待、まあいいそう言うつもりなら俺もそう言うつもりでやるだけだ。

 改めて、青子を見る。
 当の青子の格好はと言えば、橙子と変わらずほとんど全裸に近い格好だった。
 と言うかすっぽんぽんといっても差し支えない、だって青子が身に付けているのはただ純白の一組のソックスだけなんだから。
 何故にソックスだけ? そんな疑問が浮かぶがそれ以上のインパクツに一瞬で掻き消される。
 青子は両手をその括れたウエストに当てて、その豊満な胸を惜し気もなく俺の前に晒していた。
 ――――俺は思わず。先端に気高く実った桃色の蕾を頂くその二つの膨らみに、どうしようもなくむしゃぶりつき顔を埋めたくなる衝動を覚えた。
 確かに色素の薄い陰毛が僅かに隠してる青子の最も恥ずかしい部分や、揉みごたえのありそうな安産型のヒップもしっかりとこの目に捉えている。
 だがなによりも俺の魂を揺さぶったのは、俺の目前でたゆんたゆんと揺れる、健康的な張りを持ってその存在を主張する、大きな二つのおっぱいだったのだ。
 俺の目の前の重量級の貫禄をまざまざと見せ付けるその二つのおっぱいは、青子が肩を怒らせるたびに大きく揺れる。
 しかもただ大きいだけ無く、無駄に鍛え上げられた筋肉によって支えられたそのおっぱいは、輝かしいまでに端正な造型を備えていた。
 俺は顔だけはしっかり青子に向けつつも、しかし目線だけはしっかりとおっぱいを見据える。
 それはまるで神と言う絶対存在がこの世にただふたつだけ許した珠玉、まさしく人類の宝そのものだ。
 ――――前言撤回、橙子のおっぱいなど青子のおっぱいと比べては月とすっぽんどころの話ではない。
 目の前にある二つの膨らみは、すべての男の永遠の憧れにしてけして辿り付けぬ理想郷。
 それは世のほとんどの男にとってなによりも尊いもの。
 醜くても情けなくても構わない、一切の躊躇いなくおっぱいに殉じよう――――たとえ届かなくてもソレを追い続ける事にこそ意味があるのだと。
 覚悟完了。おっぱい星人などと指を刺されようと、我が人生に一片の悔いなし!!
 そして最後に謝ろう、俺を産んでくれた両親にもう普通の道を歩けなくなったことを。
 ――――天国の母さん、ごめん。もう俺、バカエロに生きるしかないみたいだ…………
「なによ……」
 青子の問いただしげな声で、現実に引き戻された。
 さすがにまじまじと見詰められると恥ずかしいのか、青子は頬を染めて片手で胸を抑えている。
 けれど片手くらいじゃ全然隠しきれてない、片腕程度でどうにかなるほど俺の目の前のボンバイエは生優しい代物じゃない。
「なぁ……」
「ん?」
「お前って、着やせするほうだったんだな……」
 そう、以前の見立てではせいぜい青子はDだった筈だ。だがしかしいざ目の前に晒された青子のおっぱいは、俺の以前の見立てより1〜2カップは大きい。
 揉んで確かめよう――――そう思って手を伸ばしたとところ、洒落にならない右ストレートが飛んできた。
「――――っひ」
「っの、変態っ!!」
 頬を裂く痛みに、思わず横っ飛びに離れる。
 うわ、紙一重で避けたのに盛大に頬から血が吹いてる。
 どうやら青子の黄金の右は、空気すら切り裂く程の威力を秘めているらしい。
 まともに食らえば、痛いと思うまもなく天国へ逝けるだろう。
 死ぬのは嫌だなぁー、でも揉みたいよなー、と言う俺のくっだらない思考を遮るように、甲高い笑い声が場を満たした。
「きゃはははははは、はは、はっははは!」
 果たしてまるで童女のような笑い声を高らかに、高らかに響かせながら、何もない宙空に腰をかけて久遠時有珠はそこにいた。
「やっぱりおもしろいわ、君」
 酷く軽薄な口調と、普段から着ている紺色のカソック、まだ多分に幼さを残したその容貌を一言で表すのなら”可憐”だろう。
 艶やかな黒い髪は肩のところで切り揃えられ、肌はまるで絹のようにきめ細かい、目鼻立ちは勿論首や耳の形まで同じ人間とは思えないほどに整っている。
「ふんっ、お前におもしろいと言われても嬉しくもなんともないよ、有珠」
 そして俺が知っているのは、有珠が青子や橙子側にいる人間(まじゅつし)だと言う事だ。
 魔法や魔術などと言われても俺にはその差なんて分からない、要は常人には奇跡にしか見えないような事が出来る人種だと言う事だけ。
 そして、有珠が最も厄介な点は……
「あら、随分と囀るじゃない」
「当然だろ、俺はまだいったいどうなってるのか全くわかってないんだからな
 ――――唯一の親友である青子のこと以外は、一切どうなろうと気にしないと言う所だ。
 有珠にとって青子に関係ないそのへんを歩く一般人は、ほんとに塵芥と変わらない。
 普段は騒動を起こさない主義故に手を出さないが、しかし一旦青子に何かあれば、手段として人の命を使い捨てるのを一顧だにしない。
 青子曰く、本当の意味での魔術師に一番近い人間、と言うことらしい。
 そう言う訳もあって、俺はどうも有珠が苦手だった。
「そう、じゃあ説明すればいいのね?」
「ああ、とりあえずは話を聞かないと何も言えない」
 言い終わるが先か突然、有珠がごつんとおでこをぶつけてきた。
 かすかな痛みと、大きな羞恥。いくら性格最悪と言ってもコイツに顔だけなら深窓の令嬢も真っ青の容色を備えている、
 そんな有珠とおでことおでこをごっつんこなんて俺にとっては、聊か刺激が強すぎる。
「なっ、なにすんだよ。いてぇじゃ……」
「ん……」
 唇が俺の鼻先に触れる。
 いや、こんな体勢ならばしかたないと言えばしかたなにのだが、だがしかし女の子顔がこんな間近にあると言うのは実に心臓によろしくない。
 だって意識しないようにしても、分かってしまう。
 蜜のように甘い有珠のシャンプーの匂いとか、穏やかな吐息とか、まるで奈落の底のような射干玉の瞳とか。
 心臓が高鳴る、心が躍る。
 ああくそ、何を考えているんだ俺は。
「おい、離れろよ」
「…………」
 その俺の言葉とは逆に、有珠は唇と唇がくっつきそうになるまで俺に顔を寄せてきた。
 なんて激しいアプローチ、ひょっとして俺に惚れたのか?
「何を考えているのかしら?」
 考えていることを読まれたらしい、笑っていても目だけは殺る気モードでマジ怖い。私がわるぅございました有珠様。
「べっべべっ、別に!!」
 裏返った声、それさえ邪魔だと有珠は切り捨てて。
「黙って――――よし、繋がった。記憶を送るから歯を食いしばりなさい」
 虫でも潰すように酷く抑揚のない声で、言った。
「ちょっ、とまっ――――」
 遅かった、意識がぶっ飛んで大量の情報が流れ込んでくる。
 洒落にならないくらいの頭痛、処理しきれない情報の多さにシナプス細胞が悲鳴をあげる。
 焼き尽くされる脳髄、まるで頭が爆発しそうなほど地獄はあまりにも痛すぎて気絶してもすぐに目が醒めてしまう。
「ぎぎぎぎぃぃぎぃぃが、ぎぎぎぎぃ」
「っとと、失敗しちゃったかな?」
 舌を出して、てへっと可愛い子ぶる有珠にマジ殺意。
 バカエロギャグSSじゃなければ間違いなく死んでいる。
 ――――このアマ、絶対いつかコマす。
 どうやら苦痛は致死量じみていたが、けれど一瞬だった。
 白濁し、ノイズだらけの頭はゆっくりとクリアになっていく。
 送ってきた記憶の一部、えっとこれは?……
 脳裏に映し出された画像は、クロスカウンターを互いに決めてぶったおれている青子と橙子。
 あとそれに至るまで顛末。
「なんだ、いつもの姉妹喧嘩じゃないか」
「ええ、そうね」
 しれっと有珠はのたまう。
 別にあんな不快な思いをしてまで、受け取るべき内容ではなかった。
 まったく俺の苦労に、なんの意味が……
「けど今回は、あなたを実験台にしてどっちが相手より床上手かで勝負するらしいわ」
「――――はぁ?」
 心底うんざりした様子で言う有珠、なんですかそれは?
「ななな、なんだよそれ……」
 俺の言葉に、有珠は底意地の悪い顔でくすりと微笑む。
「大丈夫、ちゃんと相手出来るようにはしてあげるから」
 ――――ちょっと待てよ、本気で言ってるのか!?
「おっ、おいっ!?」
 有珠は笑う、その柔らかな笑みからして俺は有珠が間違いなく本気だと悟る。
「きいてなっ……」
 反論する間もなく額に有珠の指がめり込む、痛い痛いって頭蓋骨が歪むぅ。
「がっ!?」
「これは特別だからね」
 それと同時に唇に当たる、柔らかな暖かさ。
 それが有珠の唇だと気づいたときには、俺はもう完全に絡め取られていた。
「――――ん、ふぁ……はぁ」
 粘っこい水音、有珠は俺の顔にアイアンクローをかましたまま、ディープなキスで俺の口内を蹂躙する。
 口を閉じることさえできず陵辱される、吐く息は荒く視界には平然した様子でキスを続ける有珠の顔しか見えない。
「むぅ、ふぐぅ……」
 犯される、ぐちゃぐちゃになるまで体中を弄くられる。
 酷く苦い罪の味、喉の奥に異様な感触の物体を押し込んでくる有珠の舌。
 ぬるぬるして、硬くて、そのくせ弾力があって、やっぱり吐き出そうなくらい苦い何か。
「ごっ、ごぶっ――――んっ!?」
 噎せた、けれど有珠はそれすら許してくれない。
 俺を押さえつけるのは鉄の腕と嗜虐的な光を宿す銀色の瞳、魔力を食んで色を変えるその魔性は舐めるように目線で俺の姿を睨みつけてくる。
 イメージは杭、突き刺さると言うより縫いとめられる。気分はピンで留められた昆虫か、奢るならばゴルゴダで磔刑の偉い人。
「ぐげっ、ぎぃあああ、がっあっ!? ああっ!?」
 自分の口からわけのわからない悲鳴が漏れて出る、幸いにして苦痛は無い。
 だがどうしようもなく怖かっただけ、俺の意思に反して勝手にビクンビクン跳ね上がる足とか、白くなる視界とか、訳の分からない叫びをあげる自分の体が、なまじ意識が鮮明だけに細かく観察できたから。
 まるでさっきの焼き直し、表現のなさが露呈するぞ?
「ちょっとありす!?」
 問い詰める青子の声、それを平然と有珠はかわす。
「大丈夫、そう何度も失敗したりしないわ、まったく青子ったらなんでこんなのにご執心なんだか」
 そう言って有珠は溜息、執心される方としちゃたまったもんじゃない。
 俺が訳の分からない物を飲み下すと同時に、有珠の指は俺から離れた。
 胃の腑に落ちた不審物は、さらさらと溶け出しているらしい。
 まるで酒でも飲んだように胸の辺りが一気に熱くなる。
 燃える燃える、胃から五臓を侵し六腑を汚し血液にまぎれて全身を焼き尽くす。
 まるで小さな太陽だ、肉をとろかしぽこぽこと沸騰し毛穴から蒸気となって吹き出ていく。
「はぁ、あっく……はぁ、あぁ…………」
 訳の分からない熱は脳髄まで、麻痺した頭は異常こそを正常に稼動する。
 吠え出したいくらい、凶暴な衝動。
 俺の姿を見て満足したのか、有珠は目を細めて声をあげた。
「さて、準備完了よお二人さん。あとはどうぞご自由に召し上がれ」
 人をこんな状態にしておいて、有珠はけたけたと笑う。
 桃色の形の良い唇には、ディープキスの痕跡であるてらてらと光る唾液。
 紅でも引くような優雅さで指で拭って、まるで幻のようにその体を再び宙に浮かび上がらせた。
 紺色のカソックの裾が揺れる、どうやらお得意の空間制御で特等席から俺が嬲られるさまをじっくりと眺めるつもりらしい。
 まったく悪趣味だと渇々と笑う。
「どうかな? ちょっとした肉体改造と精神汚染の魔術を放り込んでみたんだけど」
 言われるまでも無く文句なし、こっちはいつでも準備OKだ。
 有珠はなおも試作品だからどうとか言っていたが、それに文句を言おうと言う考えさえ浮かんでこない。
 体が別の生き物になっていくような嫌悪感でさえも、俺は快感として受け取っている。
 馬鹿らしい、バカエロのはずだったのに俺はどうしようもないほどその気になっている。
「まぁ、確かに効果は強いと思うけどそんな長くは効かないし、一時的に色情狂になってもらうだけだから問題はないかな」
 有珠は俺をまるで実験動物でも見るような目で見ながら、納得するようにそう言った。
「確かにこれならば公平だな」
 視線を移せば、いつの間にか橙子が俺の股間に向けてねっとりとした視線を向けていた。
「えぇ、青子なんかじゃ勃たないとか言っていたのはどこのどなたでしたかしらね?」
 白い腕が伸びる、蛇のようにそそり立つ俺のモノを捕らえる。
 触れられる歓びに、ビクンとそそり立ったモノが震える。
「あふっ」
 青子は信じられないほどの技巧で、俺を扱きたてる。
 先走りの汁を絡めて、時に優しく時に意地悪なグラインド。
 青子の手が往復するたびに脊髄が震え、体中が欲望に加速していく。
 にちゃにちゃと水音がやけに高く無音の部屋に響いていく。
「やめっ、こんなの……」
「あら、やめていいのかしら?」
 艶然と青子は笑う、此方を舐めあげる様な挑発的な視線。
「ふふっ、いくら弄くってもやっぱり草十郎は所詮草十郎か……」
 有珠はそんな勝手な言葉を吐き捨てるが、俺はそんなもの聞いちゃいない。
 意図的に止められた指に、腰の奥に痺れるような甘い疼きが走る。
「――――あっ」
「ふふっ……」
 そうだ忘れていた、首輪がなくなったとしても俺は青子のモノであることには些かの変わりも無い。
 生殺与奪どころかこの体の血の一滴肉の一片まで――――「さて、そろそろ交代だな青子」
 ぐちゃぐちゃの蛞蝓のようになった俺の意識に割り込むように、意地悪な声が毅然として響く。
 無論橙子だ、二人はそのまま殺し合いでもしそうな雰囲気で互いに睨みあう。
 相打つこの二人の前にすれば、殺し合い中の竜と虎もそのまま仲良くあるはずのない肩を組んで逃げ出すだろう、はっきり言ってどうしようもなく怖い。
「冗談、これ以上囀るのならその口ごと吹き飛ばすわよ」
「言うようになったじゃないか、あの泣き虫あおあおが」
「――――っ!」
 二人の喧嘩はますますヒートアップ、俺の命はますますデッドヒート。先立つ不幸をお許しください――――って、俺は天涯孤独の身の上だった。
 柄にも無くそんな事を祈っていたら、思いのほか早く喧嘩は終わってくれた。
「青子」
 二人の争う声から比べれば、本当に小さな鈴のような有珠の声。
 今にもコロシアイをはじめそうな様子だった剣呑な二人は、示し合わせたかのように仲良くそっぽを向いた。
 やはりどうしようもなく、似たもの同士だ。
 前々から思っていたけど、こう云うところで以心伝心だとこの姉妹は本当はどうしようもなく仲が良いんじゃないかと疑ってしまいたくなる。
 或いは、同族嫌悪と言う奴なのかもしれない。
 酷く似ているが故に相手を憎む。
 それは別に奇妙なことでもなんでもなく……
「ほら、橙子の番よ。続けましょう」
 ――――この陳腐な艶劇を。
 有珠は言葉にはしなかったが、動かした唇の形からそう言っていたように思う。

 今頃になって毒が回ってきたのか、ちかちかと視界が眩む。
 喉が渇く、ヒリヒリとした舌、女の身体に今すぐ食らいつきたくなるほどに餓えた欲望。
「えぇ、そうしましょう」
 まるで無理やり品の悪い阿片を吸わされたみたい、思考は単純なくせに嗜好だけ酔って歪んでいく。
 はっはっと犬みたいに息が荒い、眼球は風車のようにぐるぐるとぐるぐると。
 凶器じみた柔らかさが肌に触れる、男に媚びる娼婦の笑みを浮かべながら、橙子は俺にしなだれかかって来た。
 気づかなかった、いつの間にかその目には金のフレームの眼鏡が掛かっている――――それは、彼女が別の自分になる為へのスイッチだ。
「どうされたいですか? どんな要求にも応えましょう」
 橙子は本当に娼婦のようだ、媚びに媚びた口調でマゾヒストのように被虐を請う。
 普段のずぼらさからは想像も付かない、沸き立つような女の甘い匂い。
 一息ごとに背筋に震えが走り、ピリピリとした嗜虐心が心を妬き尽くす。
 壊してしまいたい衝動が、海馬へと突き刺さる。
「喉奥まで突っ込んで噎せるのも構わず注ぎ込む? それとも遮二無二獣のようにこの体を犯します? それともまだほぐしてもいない青く後ろの果実を引き裂きながら味わって頂くのも良いですね?」
 貴方の好きにして良いのよ、と橙子は囁く。
 何処にでもおち○ちんを突きこんでいいのよ、と橙子は惑わす。
 耳元を撫でる吐息、それは間違いなく抗いようの無い悪魔の誘惑であり淫乱な魔女の眩惑だ。
 ずぶずぶと沼に沈んでいくような感覚、一度望めば帰り道などない。
 だが構うものか、普段の倍にも膨らんだ破裂しそうな一物と、綺麗さっぱり掃除された理性、あとは狂いたくなるほど淫猥な牝の躯。
 これだけ揃っていればやることは決まっている。
「んふふ……」
 橙子の尻を力任せに鷲掴む、青子と比べれば肉付きが良いとはけして言えないスレンダーな体つき。
 けれどその肌の手触りだけは、常軌を逸している。
 触るだけすら震えがくるような柔肌は、もはや人間とは思えない。
「――――あんっ」
 蜂蜜みたいに甘い声、目の前の牝はあの橙子とは思えないほどの媚びに媚びきった嬌声で、俺をどろどろに蕩かしていく。
 尻の側から濡れに濡れた蜜壺に指を突きこむ、熱く脈動する橙子の胎内は指の一本すらきつくきつく締め付け――――ん?
「橙子、お前ひょっとして?」
「えぇ、殿方は初物が好きでしょう? だからこの為に調整した『新品』で」
 橙子の言葉に呆れた。
 こんな戯言にそこまで手間隙をかけて、あげく自殺までしてくるなんてどうかしてる。
「へぇ、そこまでやっちゃうわけだ」
 キャラクターが違うが気にしない、そもそもこの獰猛さを抑えようとか考えることすら出来ない。
 俺に与えられた役目は、ただ与えられたものを欲望のままに貪ることだけ。
 青子の下僕を自称する俺だが、今は只管従順にその役割に殉じよう。
「えぇ、こんな美人の処女膜を破れるんだもの、きっと気に入って貰えるかと」
 なんなら記憶まで弄って本当の生娘にでもなりましょうか? と空恐ろしいことを橙子は平然と言い放つ。
 やめてやめてと噎び泣きながら暴れる私を無理やり犯すのは、さぞや楽しいと思います、と。
 そう言われて想像してみた。

 ――――誰あなた? いやっ、なんでわたしっ!?
 ――――うるせぇ、黙ってろ。
 ――――がっ……
 ――――へへ、殴られて感じるなんて最低のマゾだなてめぇ。
 ――――やめて、やめてください、おねがいし……
 ――――ほら、今挿れてやっからよ
 ――――ひぎぃ……!

 ……駄目だ、はっきり言って趣味じゃない。 
「いや、強姦は趣味じゃないんでね。あとはどっちかって言うと、いつも通りの橙子さんの方がいいよ」
 思い切ってそう言いきった、どうやら嗜好までは変化していないようだ。
 橙子は一瞬だけきょとんとした顔を見せると、ふっと笑って眼鏡をはずした。
「そうか、気に入って貰えると思ったんだがね……」
 皮肉げな口調に戻って、橙子は改めて俺に身を委ねる。
 腰に手を回す、折れてしまいそうほど細く柔らかい華奢な体を、力を一杯に抱きしめる。
 掻き抱くように右手を細い腰に回し、左手はしっかりと橙子の指を握る。
 隙間も無いほどに密着する。じっとりと汗ばんだ肌が触れ合う感覚が、欲望と言う竈に次々薪をくべていく。
「さてそれではどうする? 希望の体位があるのなら聞くが」
 それともこのまま私優位の騎乗位でいくかね? と尋ねる橙子に、俺は恥ずかしさを噛み締めながらも答えた。
「――――いや、やっぱ初めては正常位がいい…………」
 言ってやった、ああくそ、たぶんまだ顔が耳まで真っ赤だ。
 我ながら子供じみているが、俺としてはそれがいいのだからどうしようもない。
 ああ、馬鹿にすればいいさ笑うがいい。セックスに夢を見すぎの童貞餓鬼の戯言だって。
 気恥ずかしくて、ぷいと横を向いた。
「そうか……」
 予想していた嘲笑はこなかった。
 替わりに橙子は、クスリと笑うと俺の顔を軽く掌で撫で上げる。
「それじゃあ、そうしよう……」
 呆気に取られる俺に向かって、そんな声で優しく語り掛けてきた。
 その言葉に思わず引き込まれる。
 女性的と言えばこの上なく女性的な、まるで母親が幼子に言い聞かすような、そんなこの上なく優しい声だった。
「橙、子………?」
 ――――不覚な事に、俺はこのとき橙子がまるで聖女のように見えたのだ。
「ほら? 私を抱くんだろう?」
「あ、ああ……」
 多分気のせいだ、あくまで橙子は娼婦のように淫蕩で、艶麗な仕草で俺を誘っていた。
 だからそう、多分束の間の夢が見せてくれた束の間の幻なのだろう。
 その左手を握る、絆のように固く固く握り締める。
 右手はいきり立ったきかん坊に、導いてやらなくちゃどこに齧り付くかわかったもんじゃない。
「あっ!?」
 無言で添えられる橙子の指、参ったな導いて貰うのは俺の方だったらしい。
 くすくすと笑いながら、薄く足を開き、橙子は俺の来るのを待っている。
 橙子にされるがまま、淡く茂った草むらに隠されている命を生み出す橙子の女に、そっとグロテスクな牙を押し当てた。
「んっ……」
「はい、る……」
 腰を進めると、ゆっくりと先端がぬるりとした感触に包まれる。
 初めて知る女の躯は、火傷しそうなほど熱く俺を迎え入れた。
 ガチガチの生殖器と、それ以上にガチガチな体。こんなになってもまだ緊張でまともに動けない俺、思わず舌を噛んで死にたくなる。
 ああ、そうか、此処で死んだらこんないい女の上で腹上死、案外悪くないかもしれない。
「ふふ……」
 笑われてしまった。俺はよっぽど変な顔をしていたのか、橙子だけじゃなく後ろからもくすくすとしのび笑いが聞こえる。
 まぁいいか、おかげで余計な力が抜けてさっぱりしたし。
 決意すればあとは早い、引き裂くように一息に、突き当たったひっかかりを突破した。
「あっ、くぅ……」
 橙子は文字通り身を引き裂く苦痛に耐えている、痛み震える声はただでさえ艶めいていておかしくなりそうだった。
 さてただ腰を振るだけなら猿でも出来る訳で、俺は愛撫を開始した。
 もっとも俺の少ない知識を総動員してもたかがしている――――舐めて、揉んで、入れるだけ、下手をしたらそこらの中学生にも負けるかもしんない。
 それでも必死で愛撫するたびに徐々に昂ぶってくる橙子の体、ささやかな胸を捏ね、丸いヒップを撫で回し、可愛い臍にキスをする。
 こんな稚拙な技巧だと言うのに、橙子のエッチな体は可愛がった分だけちゃんと反応してくれてそれが酷く嬉しかった。
 かなり大きく動いても、橙子の指を握った左手だけは離さない。
 唇からは切なげな喘ぎ声、裏返って甲高い。
 改めて思う――――本当に、橙子はどうしようもないくらいに綺麗だった。
 ぞくぞくする、薬のせいなのかどうかもう分からない。まるで体全体がむき出しの神経になってしまったみたいだと、ふと思う。
「と…うこ。き、つい……よ」
 硬く異物を拒む重なり合った襞のぬかるみは、きゅうきゅうと切なく痛いくらいに締め付ける。
 突き入れるたびに拒むように押し包んで震え、抜けていくときは寂しそうに付いて来る。
 何度目かの抽送、がっつきすぎて膣から引き抜けてしまった竿には愛液に混じって赤い滴が纏わり付いていた。
 朦朧とした頭にその濁った赤色が焼きつく、自らの罪に慄くように俺は体を小刻みに震わせた。
 淫蕩な魔女の、穢れ無き純潔の証。
 何と言うギャップだろう、考えるだけでイってしまいそう。
 俺の前で揺れるオレンジ色の髪、俺の顔を擽っては離れ、時折思い出したように俺の顔を撫でていく。
「ふっ、くぅ……」
 亀頭が最奥を叩く、その度に引きちぎれそうなほど締め付ける柔肉。
 確かに魅力的な快感だが、もうこれだけじゃ俺は我慢できそうにない。
「思い切り、動いても良いかな?」
 いつもより大分嗜好が歪んでいる、ふいにいつかれそんな外道になったのか考えて、あっという間に快楽と言う靄に撒かれてしまった。
 俺はなんて酷い男だろう、確かに有珠の言うようにけだものの称号が相応しい。
「ああ、大分慣れた。好きなように動けばいい」
 橙子の瞳は僅かながら潤んでいて、かすかに涙がその眦を濡らしている。
 背後からそんな柄じゃねーだろこのビッチ!! とか聞こえてくるが聞こえない、うん、これっぽっちも。
「ぐるぁぁぁ!」
 腹の底から声をあげて叫ぶ、この身を縛る柵とか不便な人の体とか、全てがもどかしくなって雄たけびをあげる。
 それが合図、あらん限りの暴力で以って壊してしまいそうな激しさで橙子の最奥を穿つ。
 湾曲した腰、こんな抱き方じゃそのうち折れてしまいそうだ。
 けれども止まらない、止められない。
 だってずりずりと柔らかいひだひだとこすれあって、気持ちよくてしょうがない。
「ふぁっ、ふぁぁぁ」
「んっぐぅぅぅ!!」
 突き上げ、押し広げ、抉り倒す。
 先走りの汁と愛液が泡だって、互いの恥毛をべしょべしょに汚している。
 極上の肉、全身全霊を賭けてそのすべてを味わい尽くす。
 混ざり混じってもうどちらのものかわからない吐息、俺を誘う牝の身体に歯を立てる。女は抗うことも無く、眉を顰めて俺の暴虐に耐えている。
 最高にぶっ飛んでいる、さかり勃った肉の棒を、痛いほどに熟れに熟れた肉の壺に押し込んでは戻す。
 腰を突き上げるたびごずっごずっと響く、子宮の形さえ変えてしまいそうなほど激しさだ、抜けていくときの感覚がまたたまらない。
「ぁ、ぁああ、イイ、擦れて――――きゃう」
 ざりざりと砂のように耳に障る悲鳴、それが余計に俺を狂わせるのが分からないらしい。
 視界がぶれる、今の俺の動きは普段とは比較にならないほどに獣じみているはずだ。
 気分は狗、発情期でさかりのついた、腰を振るだけしか能のない最低のオス犬だ!
「はっ、はっ、はっ!!」
 内臓さえ吐き出してしまいそうな激しい呼吸。
 膨れ上がり痙攣する自分自身のモノ、精液はとっくにすぐそこまで登ってきている。
 噴き出そうとする欲望をなんとか抑えきる、まだ全然足りてない。これで終わりなんて糞食らえだ。
 ――――そんな思考を断ち切ったのは、優しい口付け。
 淫らでも、激しくも無い、子供同士がするような唇が触れ合うだけの可愛らしいキッス。
「なっ!?」
 驚いている間に抱き竦められる、途方も無く優しい絹糸の抱擁。
 橙子の空いた手を俺の首に回される、この体勢だと俺の体重が重くないだろうかと余計な心配までしてしまう。
「ふふっ、ほらもういいよ……おいで」
 腕を回しながら橙子はそんな事を言ってくる。
 橙子はずるい、そんな事を言われてはもう我慢なんてしていられない。
「いく……ぜ!」
 果てはもうすぐそこに、導きに応えるように一層強く腰を振りぬいた。
「あんっ、素敵だよ草十郎、膣(なか)に……!」
「あ……ぐぁ!!――――」
 頭が白く染まる、最後に渾身の力で最奥を叩いて、俺は達した。
 びゅるびゅると盛大に、熱く滾る肉棒から精を解放する。
「あ――――すごく、一杯……」
 俺の体に倒れこんだまま、胡乱な顔で橙子は呟く。
 だがこっちはそれどころじゃない。残念だが今の俺に橙子を気遣う余裕なんて微塵もないのだ。
 異常事態発生、異常事態発生、子供の頃見た醜い怪物を思い出す。
「ああっ、くぁぁ……」
 どぽどぽと流れ落ちる精液のせいで脳髄が熔けてしまいそう、波のように一気に駆け上り去って行く射精の快感が、止まることなく連続して続いていく。
 狂った生殖器は震えながら、ゼリーみたいに濃厚な白濁をなおも吐き出し続けていた。
 まるでビデオの連続再生、此処までとまらないのを見ると、いっそ気持ち悪くなる。
 止まらない、壊れた水道管と言う表現を思いついて内心で哂う。
 ぽこりと膨らんだ腹、異常な量の白濁は橙子の胎を満たしただけでは収まらず、引き抜いた後も盛大にボタボタとザーメンを垂れ流し続けている。
 白く染まる、髪を、顔を、肩を、腕を胸を腹を尻を太ももを足を、荒い息をついてベットに倒れた橙子の全身に白い粘液が降り注ぐ。
「あはぁ……」
 しかし橙子は白濁で体を汚れるのを気にするでもなく、むしろ積極的に舌を出してソレを受け入れた。
 瞬く間に赤い舌の上には白い液体で埋め尽くされ、橙子はそれをこくりこくりと難儀そうに嚥下する。
「あ……」
 橙子はもう体中異常な濃さのザーメン塗れで、その姿にチクリと心が痛む。
 美しいものをこの手で汚せたのだと言う背徳感と、美しいものが穢れてしまったと言う喪失感。
 ぱくぱくとまるで水から打ち上げられた魚のように、開いた口がふさがらない。
「なんだよ、これ……!?」
 ――――ていうか明らかに異常だ、腎虚で死ぬぞ? 俺。
 辛うじて脳裏に浮かんだのは、そんな益体もない思考だった。
 背後からは軽い笑い声、なんとか話せるぐらいには落ち着いたので嫌な予感がしつつも振り返る。
「あら、男の人ってこうやってぶっ掛けるのって夢なんでしょ?」
 自らの悪戯を笑う少女には欠片も悪びれたところはない。
「そんなマニアックな趣味を一般的にするなっ! 大体、この量はおかしいだろうっ?!」
 どこぞのエロ漫画に出てくるようなザーメンタンク男に改造されてしまうなど、冗談じゃない。
「ん? せっかくのサービスだったのに……」
 残念そうに有珠は言って――――そしてにやりと笑った。
「えいっ」
「くあっ!?」
 まだ稼動し続けているペニスに走る衝撃、有珠の足に蹴り飛ばされたのだと理解する間もない。
 その柔足を包むツルツルとしたナイロンの感触は、やっと落ち着いたばかりの今の俺には強すぎる。
「っく、ぁぁぁあああ……」
 股間を抱えてしゃがみ込む、止まらない射精に腰が砕けちまったらしい。
 生ぬるい精液の水溜りが気持ち悪く、それ以上に止まらないオルガズムに気が狂いそう。
「ふっ、ぐぅ……」
 まるで精液と共に内臓まではみだしてしまいそう、理性なんてとうに飛んでいる。
 情けない格好で蹲ったまま、俺はただこの湧き上がる衝動に耐えていた。
「あっはは、よかったわね姉貴。そんなに濃いの生で出されたら確実に孕んじゃうわ」
 そんな状況を、けたけたと愉快げに青子は嘲笑う。
 悪気はないと分かっているのだが、橙子が絡むと青子はこれ以上もなく残酷になる。
「さぁ、次はわたしの番ね、ありす」
 そう言って、すべてを吹き飛ばすような豪快さで青子は笑った。




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