3.アイスランドポピー
 ――――――――――――
 


 青子が腕の中でもがく、俺はそれは笑いながら押さえつける。
 そんなやり取りの繰り返しにいい加減疲れた頃、素敵なことを思いついて俺は声をあげた。
「橙子も来いよ、きっと楽しいよ」
 青子を抱きすくめながら、そんな言葉を放る。
 二人でこんなに楽しいのなら、三人ならどんなに楽しいだろう。
「えっ、ちょ!?」
 慌てて青子が俺の腕のなかで暴れるが、しかし男の力に勝てるはずも無い。
 酷く女の子らしい羞恥心、普段のがさつな青子からは望むべきも無い。
 だからなおのこと、腕の中の女の子が可愛くなる。
 もっともっと可愛らしい声を聞きたくなる。
 衝動はとっくの昔にエスカレートしていて、理性と言うブレーキはハジケ飛んでいる。
 身体の奥で燻った炎は内側からだんだんと俺を焦がし、訳の分からない幸福感はなんとかもう暫くだけなら保ちそうだった。
「ふむ、そう言うことか」
 橙子は微笑みながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
 艶然とした美笑、細められた瞼がきゅっと吊り上がる。
 真っ赤な舌を唇に這わせるその姿は、獲物を一呑みにしようとする艶やかな鱗の毒蛇を思わせた。
「やめてよっ草十郎、姉貴も本気!?」
 珍しく焦った様子の青子、それがおかしくて橙子と一緒に笑う。
 けたけたとけたけたと、さもおかしそうに笑い声をあげる。
「ああ、勿論だとも――ただ、草十郎は多分正気じゃないだろうがな」
「だな、こんな塩らしい青子を前して正気でいられるほうがどうかしてる」
 その通り、橙子の言葉はどうしようもなく正しい。多分今の俺は狂ってる。
 けれどそれでいい、青子とエッチなことができるなら他に何もいらないって言う今の気持ちは間違ってない思う。
 今の俺は青子さえいてくれれば満たされている。
 有珠の薬か、あの失敗作か、それとも根っこから狂ってしまったのか、こんな幸福な気持ちは生まれてはじめてだった。
 そんな俺を見て、言うものだな、と橙子は感慨深げに呟いた。
「草十郎……」
 隙アリ! 油断している青子の可愛らしい耳に向かってふっと息を吹きかける。
「きゃん」
 あまりの反応の良さと声の可愛らしさに驚いた、粗雑の青子の意外な一面――――ひょっとしたらMの素質があるんじゃないのか? こいつ。
「ちょっと、いい加減にしないと酷いわ、ひょ!?」
 見れば橙子が青子の左腕の腋にむしゃぶりついている、またマニアックな選択だ。
 血のように朱い舌がちろちろと豊満な乳房のあたりを迷いながら、淡く毛の生えた腋をねぶる。
 何と言うか、その光景はえらく倒錯的だ。俺によって両腕を捻り上げられている体勢も、確実に俺の現実感をそぎ落とすのに一役買っている。
「ん、っふふ……ちゃんと腋毛の処理はしているようだな。感心感心、いざとなって腋毛ボーボーの女なんて殿方は興ざめだろうからな」
「ちょっ、やめてよっ……姉貴!!」
 青子は半ば泣きそうな声で、そして半ば以上殺意を含んだ声で、橙子に向かって懇願する。
 そんな青子の声を、俺はいままで一度も聞いたことがなかった。
「おおっと、失言か。どうやらとんと色気のない我が愚妹も、好きな男の前では女の子していたいらしいぞ? なぁ草十郎」
「ななな、なんで俺に振るんですか!?」
 びっくりした、あまりにびっくりしたんで訳の分からない幸福感まで一気に吹き飛んでしまった。

 ――――はて、今なんでこんな状況になっているのだっけ?
 頭痛がする、まるで酒を飲みすぎた次の日みたいに、毒が体中に回っている。
「あれ、俺なんで……」
 苦痛に顔を歪めながら呆然と呟いた俺の声を嘲るかのように、橙子は秘めやかな笑みを浮かべる。
「さぁてね、ふふふ……」
 ――――とにかくよくわからないが、ひとつだけ分かったことがある。
 やはり橙子は意地悪だ、どうしようもなくいじめっ子だ。
 しかもその攻めはねちねちと陰湿に、虐めるのならば徹底的に相手が折れるまでやるのだからタチが悪い。
 当の青子は夢現で聞こえていないのかは、それとももう抵抗する気力すらないのか、俺の腕のなかでぐったりと体を任せている。
「ああ、そう言えば昔お人形さん遊びとかしたな」
 きゅっと、橙子の指が青子の首にかかる。
 僅かに絞まる、その繊手。
「オマエが人形首をもいでしまって、殴り合いの喧嘩になったっけ」
 そのまま青子の首に食らい付くかと思った蛇は、しかし首から這いあがるように青子の体をのたくった。
 本当にその動きは蛇そのものだ、舐めるような執拗さで優しく愛撫し、獲物を捕らえるように青子の弱い部分を攻め立てる。
「ふふぁ……」
 白い蛇が青子の口腔を犯す、白痴のような喘ぎと共に白い歯を爪弾くオレンジ色の牙(ツメ)が覗く。
 ぬちゃぬちゃと水音を立てて、橙子の指が青子の口のなかを滅茶苦茶にかき回す。
 口の端からは涎がてらてらと光りながら糸を引いて、酷く淫靡。思わずそれを啜り上げたくなってしまう。
 醒めた頭脳が、再び胡乱な夢へと堕する。目の前の光景は、俺を害する酷い毒。
 どうしようもなく可愛くなって、今の自分が唯一自由になる口を懸命に動かした。
「ひっ!?」
 やわらかい耳たぶを甘噛みする、コリコリとした軟骨の感触が心地よく、それよりも青子が大げさに反応してくれて嬉しくなってしまう。
 だからもっと続ける、首筋にちゅっちゅと口付ける。いやいやをするように首を振る青子、構わないもっともっと乱れて欲しい。
「やめてよ草十郎……」
 この可愛らしい声はもう幾度目になるか、けれどやめてあげる訳にはいかない。こんな女の子女の子した青子一生に一度見れるかどうかだろう。
 だから最初で最後のこの機会に、見れるだけ見ておいてやろうと思ったし、殊に珍しい青子の懇願は何度聞いても俺を芯から振るわせてくれる。
「あ、はぁ……」
 口付けを再開する、俺は後ろから、橙子は前からだ。俺が背中を舐めれば橙子は右の乳首を啄ばみ、耳たぶを噛めば臍に舌を這わせてくれる。
 一攻めごとにあがる水音と、青子の押し殺した喘ぎ声。回を追うごとに、青子は暴れる力を失っていく。
「駄目だ、こんな可愛い青子を前にして我慢なんてできない」
「――――っ」
 俺からすればどうしようもない本音だったのだのだが、青子からすればどうしようもなく不意打ちだったらしい。
 普段からは考えられないほどに初心な態度、だがそれがいい。もっともっと、もっとそれが欲しい。
「草十郎、それじゃあやりにくいだろう。これで縛ってしまえ」
 視界の外から橙子の声、片手を伸ばして受け取るとそのロープは奇妙な感触で俺は当惑した。
 すべすべした滑らかな手触りに、ほのかに香る石鹸の香り、僅かに湿っぽさを含んだそのロープは、オレンジ色の細かな糸を織って作られている。
「おい、橙子これ……」
 まさかとは思ったが、そのまさからしい。
「ああ、私の髪だ。何分準備してなくてね、なんとか編みこんで纏めてみたそれで我慢してくれ」
 平然とそう言う橙子――――だがいいのだろうか? 髪は女の命とも言うし、うろ覚えでは魔術師にとっても切り札の一つだと有珠が言っていた気がする。
 そんなものを貰ってしまっていいのかと悩んだが、しかしわざわざ切り落としてくれたのに使わないのももったいない。
 結局は、ありがたく使わせていただくことにした。
「サンキュ、けど本当にいいのか?」
 ショートカットになった橙子に向かって心からの礼を口にした。
 それに対して橙子は、本当になんでもないことのように笑い飛ばした。
「別に構わないさ、こんな青子が見れたんだ。これくらい安いくらいだよ」
「――――のっ!!」
 くっくと笑う橙子と、それに怒り心頭の青子。
 本気で怒らせると怖いので、さっさと押さえ込んでしまうことにする。
「はいはい、ごめんよ。暫くじっとしててくれ」
「ちょっと草十郎、これ以上は冗談じゃすまな――――ひっ!?」
 橙色のロープを結び終わった途端に、青子は驚いたような声をあげてのけぞった。
 慌てる俺の後ろから、橙子の笑い声が響き渡る。
「ふむ、ちょっとやりすぎたか?」
「おいっ!? 橙子」
「なに、心配いらないよ。見てみろ……」
 促されて振り向く、痙攣する青子の吐息は次第に荒くなり、赤みがかった皮膚はさらにその赤さを増していく、充血した秘部は明らかに潤いを増していた。
 よくは分からないが、俺が結びつけた橙子の髪のせいらしかった。
「くぅ……」
「はは、お前のようなガサツ者でもさすがに恥ずかしいか、男の前で欲情しているのを見られると」
 そう言って、橙子は青子に凭れ掛かる。
「此処に、欲しいんだろ?」
 橙子の指が充血し蜜をこぼす割れ目へと伸びる。
 ぐちゅぐちゅともどかしげに、焦らすように擦りあげる。
「――――誰がっ」
「今、お前の背中に当たっている硬く滾った男根を受け入れてしまいたんだろう? 壊れてしまいそうなほど激しく突いてもらいたいんだろう?」
「そんな事を……!」
 青子は火照った体を体を抱えながら、しかしその瞳だけは屈していなかった。
 ともすれば肯定しまいたくなるだろうに、青子は頑なに橙子の言葉に拒む。
「強情だな、ほらっ?」
「あくっ!?」
 橙子の指が青子の花芯を爪弾く、ぷっくりと痛ましいほどに膨らんだそれを、捏ね潰すように橙子は玩んでいる。
「ほら? ほら? どうだ?」
「ひっ、あっ――姉貴やめっ……」
 橙子はまるで演奏家のようだ、青子と言う楽器を指先一つでああも自由に響かせている。
 目の前の光景には現実感がなくて、見ているだけで恍惚としてしまう。
 本当に、悪い薬でもやったみたいだ――――いや、悪い薬なら有珠に飲まされたんだっけ?
 わからない、わからないままふらふらと心が揺れる。
 それは今すぐにでも醒めてしまいそうで、けれど永遠に醒めないかも知れない、まるで幻のように不確かな間際の夢。
 どうしようもなく恐ろしく、どうしようもなく甘美な、そんな夢の中にただただ胡乱のまま溺れていく。

 こんなことを考えてしまうのは、きっと手持ち無沙汰からだろう。
 俺はいつもそうだ、身じろぎすら出来なくなると、大事なことよりもどうでもいいことばかりが脳を侵す。
 いっそ全部どろどろのぐちゃぐちゃになって、混ざり合ってしまえたらどんなに幸せだろうと考えて。
「――――んぁ、あお、こぉ……」
 ――――水でも掛けられたように、夢から醒めた。
 押し殺したラブコールは背後から、くらくらと誘われるように視線を向ける。
「っく、ぁああ!」
 交じり合う水音と、重なる衣擦れの音。見上げれば白いショーツの中心には酷い染みが浮き、今もじくじくと濡れた範囲を増やしている。
 空中に放り出されたその足は今にも攣ってしまいそうほど細かく震え、もっとも秘すべき場所は惜しげもなく俺に向かって晒されていた。
 たくし上げられたカソック、本来神に捧げるその純潔は濡れに濡れ蜜を垂らしながら満開に花開いている。
 水音が耳に付く訳だ、目の前の少女の痴態は常軌を逸している。慰める手の動きは切なげに、薄い布越しの未熟な花弁は蜜で潤み、その可憐な蕾の形さえ俺からははっきりと見て取れた。
 甘い匂い、少女の蜜は宙に混じり淫らな香りとなって俺の鼻をひくつかせる、息が詰まりそうなほど濃厚な空気に酔ってしまいそうなほど気が触れる。
「ぁあ、好き。可愛いわ、あお、こぉ……」
 潤んだ瞳と朱が差した珠の肌、吐き出す吐息は熱に浮かされた熱く激しい、有珠は狂ったように青子の痴態で自らを慰める。
 酷いギャップ、なんたって有珠は見た目だけならまだ毛も生え揃っていない可憐な少女なのだから。
 そんな少女が口から熱烈な愛の言葉を紡ぎながら、一心不乱に見せ付けるように自慰に耽っているなんて――――どうにかならないほうがどうかしてる。
 有珠はぐじゅぐじゅと音を立てて布越しに腫れ上がった肉芽を扱きたてる、もはやショーツの用を成していないその布きれの上から少女は執拗に自らの生殖器を苛めていた。
 ぐにぐにと押しつぶして、爪を使って擦り上げ、強引に膣(なか)へと指を数本まとめて突き入れる、その暴虐に少女の未熟な生殖器は傷つきながら、さらに涙のように滴を零す。
 一突きごとに秘陰は潤いを増し、青子にシてもらう事を想像しているのか、喘ぎと共に青子の名がその桃色の唇から漏れ聞こえてくる。
 その目には青子しか映っていない、まるで獣のように青子を求めている。
「おい、有珠」
 その声で夢心地で青子だけを見詰めていた有珠の瞳に僅かに理性の光が戻る、まるで親の仇でも見るように、その行為を中断した俺を睨みつける。
「何よ……!」
 吐き捨てるような声には殺気が篭っていた、おお怖い、とっとと済ませてしまうことにしよう。
「お前も、混ざりたいんだろ?」
 自分が一体何をしているのか分からない、この空気に当てられすぎて自分で自分が制御できない。
 だからこそこんな台詞だって、臆面もなく言えたのだろう。
「えっ!?」
 青子の首を無理やり有珠のほうに向かせて、その言葉を放る。
 絡み合う艶めいた視線、やっと友の痴態に気づいたらしい青子と、青子に気づかれて可愛そうなくらいに狼狽する有珠。
「だって、そんな……」
 明らかな狼狽、その姿は本当にコウノトリを信じているような無垢な少女にしか見えない。
 なんて初心なのだろう、あれだけの痴態を見せておきながら、青子の前では有珠は本当に一人の可愛らしい女の子にしか過ぎないらしい。
 頬をさらに赤に染めて恥らう有珠、その様子を見ていてふと気づいた――――なんだ、結局有珠は勝負に託けて青子の淫らな姿を見たかっただけなんじゃないかと言うことに。
 だからそんな有珠にとって、今から俺が囁く言葉は悪魔の誘惑だ。
「来いよ、青子が欲しいんだろ?」
 有珠の瞳はぐるぐると揺れる、欲情と羞恥、恥辱と狂った恋心。性欲と友情の二つの間で揺れ動く。
 だから俺は、その背中を勢いよく突き飛ばしてやった。
「ひあっ!?」
「ほら、青子も欲しがってる」
 まったく素晴らしいタイミング、橙子は俺の言葉に合わせて青子の弱い部分を攻めあげる。
 次から次へと口を突いて出る魔女を誑かす魔性の囁き、いつから自分がこんな悪党になったのかと苦笑する。
 彼女達が魔女だとするのなら、今の俺は間違いなく悪魔だろう。
「あ…お……こ…………」
 朦朧した容貌(かお)、ソラを舞う聖女は悪魔の囁きで地に墜ちる。あともう枷などなく、ただひたすら堕ちるに任せるだけだろう。
「青子!!」
 うおっ!? いきなり背骨を折ろうと構わないばかりに力任せに抱きしめてディープキス。
 有珠はくず折れるように宙から落ちて、青子を体全体で絡め取る。
 さすがに俺も橙子も呆気に取られて、青子を攻める手を休めて二人の痴態を眺めている。
「んぁ、ふ…んちゅ、ぁ…あっ!」
「ふはぁ、ふぁぁ……!」
 狂おしいほどに激しく情熱的なキス、有珠はまるで陵辱するかのように遮二無二青子にむしゃぶりつく、青子の全てを貪るかのように舌を絡ませ、粘つく唾液をまるで甘露であるかのように酸欠で喘ぐ吐息と共に啜り上げる。
 それにしたって、有珠の様子は常軌を逸している。それこそ放っておいたら一日中――――いや、青子が息絶えるまでその狂態を止めそうになかった。
 有珠の瞳にはただ青子しか映っていない、青子だけを見て、青子だけを愛で、青子だけを苛め抜く。
 或いは、有珠には『自分』と言う存在すらどうでもいいのかもしれないと、ふと思った。
 ただ誰かに依存することによってのみ肯定される生、それはつまり依存する対象がなくなったと共にその人生を否定されると言う事だ。
 曰く、有珠は自分の命さえ軽々と踏み台にすべき犠牲として計算できるらしい。それはどんなに悲しいことなのだろうと考えて、そして忘れた。そう言うスタンスはらしくない。
 目の前で呆然と二人の痴態を眺めながら、酷く気だるい感覚に身を任す――――とりあえず有珠に任せて休憩とばかりに、俺と橙子は目の前の痴態を眺めながらそのすぐ隣に腰を下ろしている。
「ああ、ごめん見惚れていた」
 隣で煙草を蒸かしていた橙子に声を掛けた、もはや青子を抑える必要どころか、俺たちが割って入る隙間さえない。
 俺の誘いで乱入した有珠は、ただ延々とキスだけで青子を嬲る。そこには一種異様な近寄りがたい雰囲気の世界が形成されていて、此処まで漂う百合の花の香りに辟易とするより他は無い。
「で、これからどうす――――って、橙子なにし……うひゃ!?」
「ふん? ふぁんだふぉりみふぁして」
 驚いた、何が驚いたのかっていきなり橙子が俺のチンポにむしゃぶりついてきたからだ。
 橙子の舌はまるで俺の弱いところを知っているかのように、縦横無尽に這い回り絶妙の技術で刺激してくる。
 シャフトを喉奥まで深く飲み込みながら、吐き出すときに尿道の出口をチロチロと攻め立てる、歯に擦れたカリ首の痛みさえ、今の俺には吐きそうなくらい気持ちいい。
「橙子、やめっ……」
「ふぁめ? ふぁめるひふひょうがふぁる?」
 もごもごと俺のモノを口に含んだままなので発音がおかしい、何故、やめる必要がある? と言ったらしかった。
「っく、あっ……」
 橙子の舌はおかしすぎる、突き刺さる快感は、むしろ針の筵のようだ。
 延々と続く快感は、痛覚すら伴ってほとんど休む暇を与えずに俺を責めてくる。
「だめっ、だめ……だ。橙子っ!!」
 叫ぶように言って、なんとか執拗に追い縋る橙子の口から性器を引き抜く。
 橙子の唇との間に一本伸びる唾液の線が、この上なく卑猥。
 無理やり押し止めた俺は、橙子はこの上なく不快そうな表情で見詰めている。
「何故だ草十郎? 私じゃ役不足だとでも?」
「そうじゃない、ここで出しちゃうと立て直すのに時間が掛かるからな」
「ふむ?」
 橙子の体に溺れると言うのは途方も無く魅力的だ、だがここはぐっと我慢する。考えなしに溺れるだけでは意味が無い。
「そろそろ頃合いみたいだ、見てみろよ」 
 そう言ってあごをしゃくる、其処には勿論、有珠に嬲られて完全に出来上がってしまっている青子がいる。
 肌をまるで熟れた桃のように赤く上気させて体中に珠の汗を浮かべ、時々白痴のような声で艶めいた喘ぎを漏らしながら汗を吸った髪を振り乱している。
「橙子だってそうだろ? あんなごちそう放っておける訳無い」
「そうだな、まぁそれも悪くない、か……」
 じゅるりと、魔女はその美しい唇を涎で湿らせた。俺も同じ気分なので舌なめずりする気持ちはよくわかる。
 あの甲高い嬌声を聞くたびに、脳髄の奥にノイズが走る。
 普段全然ないと言っていい、嗜虐の興奮が脳髄を支配する。
 目の前で繰り広げられている狂宴に、どうやら俺も混ざらずにはいられないらしい。
 体ばかり焦っている、目の前のごちそうを早く食べたいと、焦らされたペニスが悲鳴をあげる。
「さんざ焦らされて丁度食べ頃だ、そろそろキスだけってのも……な?」
 意地の悪い笑顔で、橙子に声を掛ける。
 それに対して、橙子はまたそれ以上に凶悪な笑顔で返してくれた。
 どうやらいつの間にか、悪巧みに関してのみ俺と橙子は阿吽の呼吸が出来るようになっているらしい。
 絡み合う視線と視線、やることはもう決まっている。
 押し殺した声で橙子は笑い、そして吸っていた煙草を床に押し付けて消した。
 僅かに焦げ後に未練の熱を残し、いままでひどくきつい煙を燻らせていた灯は呆気なく消える。
 それで部屋にあった僅かな光源は消えうせた。
 夕日が沈む、まるでこれから来る夜に席を譲るかのように、この殺風景な部屋を照らす黄昏はいつの間にか無くなってしまっていた。
 太陽の時間は終わり、月がゆっくりと東から頭を擡げる。
 あとに残ったのは暗がりのなか縺れ合う淫らな2匹の雌と、ソレを虎視眈々と狙う獣が2匹。
 今の思考が酷くくだらない感傷だと気が付いて、ただの一度だけ苦笑した。
「きゃっ!?」
「ひゃっ!?」
 二人は揃って可愛らしい悲鳴をあげた、触れ合う肌と肌、お互いの心音さえ聞こえそうな距離で互いの体がくっつきあう。
 滑らかな手触りの有珠の肌、するすると掌から逃げていくその感触は最上の絹布じみている。
 けれど穢れひとつなかった有珠のカソックは、二人分の汗と唾液と愛液でべとべとに汚れている。
「ちょ、ちょっと……」
 動揺した様子の有珠の声、よっぽど青子に夢中だったのか、有珠は今になってやっと俺と橙子の存在を思い出したらしい。
「俺たちも混ざるけど、いいよな?」
「えっ、あの……待ってよ、だって…………」
「ほら、青子がキスを欲しがってる――――続けて」
 抗議する有珠の舌を青子の口に押し込んで封じる、ただそれだけの事で、有珠はもうどうすることも出来ない。
 俺を意識しつつも、有珠は青子への口付けをやめる事なんて出来やしない。
 まるで甘露でもあるかのように、音を立てて青子の唾液を啜り上げている。
「ほらほら、もっと頑張らないと青子がいけないぞ?」
 橙子がゆっくりと有珠のカソックへと指を差し込んでいく、それを頭上に見ながら、俺は青子のもっとも敏感な部分に顔を埋めていた。
「ふむぅ!? ふぁぁ!!」
「ひゃ、ふぁ、むふぁ!?」
 ほぼ同時に上がる悲鳴、どこか喜劇じみていておかしくなる。
 青子の秘裂を啄ばむ俺の唇と、有珠の身体をまさぐる橙子の指。
 俺たち二人の攻撃に、示し合わせたように二人とも真っ赤になった顔でキスをしながら耐えている。
 硬く瞑られた瞼、酷く扇情的で吐きそうになる。柔らかそうな青子のふくらはぎとむっちりとした太もも、青子の一番恥ずかしい部分までも、すらりとした青子の身体の全てが俺の目の前に晒されている。
 その瑞々しい白い肌は月下にあってなお冴え冴えとした美しさを放っている、いつの間にか堕ちてきそうなほど大きい満天の月が窓ごしに光を落としていた。
 青子が欲しいと言う気持ちは止まらないのに、気持ちがひどく穏やかになる。きっと月のせいだと結論して、俺は青子を愛そうを心に決めた。
「行くよ、青子」
 俺の願いはやっと叶う。
 痛いくらいに張り詰めた生殖器を、震える指で支えながら、ゆっくりと押し進めた。
「ふっ、あ!? く……」
 驚きと苦痛に耐えるその悲鳴、忘れていた――――せめて聞いておくのがマナーだろう。
「橙子、悪いけど有珠を暫く頼む」
「ふむ? まぁよかろう」
 そう言って橙子は有珠の腕を掴んで青子から引き剥がす、有珠は暫くこの世の終わりのような悲鳴をあげていたが、橙子が耳元で何事かを囁くと急に大人しくなり、力なく引きずられていった。
 さて、これでゆっくりと話が出来る。
 半ば入れかけと言うえらく中途半端な寸止め状態のままではあるが、俺は青子の目を見ながら問いかける。
「えっと、青子?」
「く、な、なによ?」
「一応聞いておくけど、初めてじゃないよな?」
 此処まで非道なことをしておいてなんだが、さすがに処女まで貰ってしまうわけにはいかない。
 まぁさすがにないだろうと思っていたが、しかし存外に予想外の反応がきた。
「――――っ」
「なんだその反応は!? お前まさか本当にはじめ……」
「違うわよ!!」
 ガーと火を噴きそうな勢いで怒る青子、よかったいつもの青子だ。
 うん、やっぱり青子にはこう云う顔が良く似合う、久しぶりに普段の青子を見た気がして、なんだかえらく心が落ち着いてしまった。
「魔術儀式とか或る程度はあるわよ……」
「或る程度って?」
 本気で心配になって聞き返す、果たして帰ってきた答えは。
「――――い…一、二回くらい」
「それって初めてではないにしろほぼ皆無ってことじゃ?」
 呆れた、何が呆れたのかってそんな状態で床上手を競おうとかするそんな青子の精神構造に。
「っさいわねぇ、私の勝手でしょ?」
「あっ、ああ。それはそうだけど……」
 参った、調子が出てきたのは良いけれど少しばかり勢いがあり過ぎる、押さえ込まれているのに、今この場で主導権を握っているのは青子だった。
「でもいいのか? 本当に嫌ならやめるぞ」
 我ながら情けない話だが、やっぱり俺は本気で青子に嫌われそうなことは出来そうにないらしい。
 こんな状態でおあずけと言うのも悲惨だが、しかし相手を傷つけるようなことだけは絶対に出来ない。
 そんな事を考えていると、当然青子は何時もどおりのからっとした笑顔で俺に笑いかけてきた。
「――――草十郎なら別にいっか、いまさら遠慮する仲でもないしね?」
 小刻みに震える指、もしかしたら処女でないだけで男に抱かれたことなどないのかもしれない。それでありながらも青子は内心の不安を押し殺して俺に気を遣わせまいとしてくれたのだ。
 情けない、本当に情けない。
 この状態で青子に気を使わせてしまった自分が、舌を噛みたくなるほどに情けない。
「じゃあ、いくぞ……」
 青子の心遣いを噛み締めながら、挿入を再開した。
 しとどに濡れた女陰に宛がったペニスを、少しずつ少しずつ奥へと進ませていく。
 熱く潤んだ襞の重なりを掻き分けて穿つ、潤滑剤はむしろ多すぎるぐらいで、一度入ってしまえば残りはスムーズだった。
「くっ、あっ……!」
「はぁ、あっ、あっ!」
 コツンと子宮に亀頭があたる感触で、俺は自身が完璧に青子のなかに埋没したことを知った。
 ぬるぬるしてかなりきつい、折り重なった柔らかな襞は青子が呼吸するたびに収縮して俺のペニスを締め付ける。
 驚いたのは姉妹でありながら橙子とは少し感じが違ったこと、どこがどうだとか言葉に出来ないしどっちが気持ちよかったとかではなく、こう云うのにも一人一人個性があると言うことを酷く生々しく理解した。
「はぁ、青子のなか、すごく……あったかいよ」
「っあ! 草十っろ、あっ」
 青子のなかは物凄く具合がいい、普通ならすぐ出してしまいそうだが、さんざん出しまくったので少しなら余裕があった。
 ゆっくりグラインドする、本で見た知識を総動員して青子が気持ちよくなれるように努力する。
 円や八の字に腰を動かして、ぎこちないながらも精一杯カリ首で膣壁をこする。
 愛とはすなわちギブアンドテイク、俺だけ気持ちいいなんて卑怯極まりない。
「っあ、あおこぉ……」
 いつの間にか戻ってきていたらしい有珠、ふらふらとした足取りで青子へ近づくと、くいとその首を軽く上に向かせ、四つん這いのままさっきの続きとばかりに青子に向かって熱烈なキスを浴びせる。
 さきほどよりもなお激しく、まるで俺に負けないとでも言うかのようにじゅるじゅると青子の口腔を犯している。
 必死に、ひたすらに、まるで母乳をせがむ乳児のように、有珠は青子へとむしゃぶりつく。
 橙子に悪い言葉でも吹き込まれたのか、その姿には少し鬼気迫るものを感じる。
 そこまで逝ってしまう狂気は理解できないが、その心情は少しだけ理解できた気がした。
「ほら、もっと頑張らないと青子がいけないぞ?」
 橙子の声に僅かに視線を送る、見れば橙子は有珠にもっと過激なことをさせようと焚きつけている真っ最中だった。
「青子は此処も好きなんだ――――ん、ゆるゆる入っていくじゃないか、さては毎夜青子の事を思ってこっちで慰めていたのかね?」
 橙子の言葉攻めは容赦が無かった、相手の心に僅かでも瑕があれば、そこからもぐりこんで押し開く。
 橙子は有珠のカソックのなかに指を忍び込ませているが、しかし全身を青子を愛することに使っている有珠には拒む術がない。
 まるで神が与えた試練に耐える修道女、ふるふると震えながらただその暴虐に身を任せていた。 
「ひぐぅぅ!?」
 カソックのせいでよく見えないが、どうやら橙子は有珠のお尻の穴を責めてるらしい。
 想像だけでゾクリとした。
 青子と有珠の二人分の唾液でたっぷりと潤いを与えられた橙子の細い指が、まるで生き物のように有珠の陰門の皺をなぞるところとか。
 カリカリと腸壁を軽く引っかきながら、拷問じみた激しさでずぼずぼと出入りしているところとか。
 有珠の歪んだ顔と、揺れるカソック、そして時折跳ねる下半身を見ていると鮮明に脳裏に浮かんできてしまう。
 しかし橙子は本当に楽しそうだった、生き生きとした顔で有珠の耳に次々と囁きを吹き込んでいる。
 その言葉ごとに有珠は涙を浮かべ、キスを続けながらもふるふると首を横に振る。
 ――――一体全体、どんな卑猥な言葉を吹き込んでいるのか。
 嗜虐心を掻き立てるその姿に、青子のなかに突き込んだ自分の分身が体積を増すのを実感する。
「あ、おっき……!」
 腰を振る、青子の為に頑張らなくちゃいけないのに視線だけはどうしても時折橙子のほうへ流れてしまう。 
 僅かに視線が絡む、橙子は悪戯っぽい俺を一瞥すると、一度だけ右目を閉じてウインクを俺に送ってきた。
 茶目っけに溢れたそんな仕草、見間違いかと思って慌てて振り向いても、もう橙子は有珠へと向き直っていてその表情は読み取れない。
「ほら? ほら?」
 カソックの下で橙子の手が激しく揺れ動く、後ろを攻められ続けている有珠は息も絶え絶えに、えづくように呻きながら歯が触れそうなほど深いキスを狂気じみた執拗さで続けていた。
「あっ、はっ……!」
 俺だって負けていられない、より深く深く青子と繋がる。
 手を青子の首にまわしてしっかりと青子を抱きしめる、自然と、目の前に青子の顔を両手で抱いた形の有珠の顔が来る。
 それが恥ずかしくて俯いた、もっとも有珠は俺のことなど欠片も眼中にないのだが、そんな事も言っていられない。
 そんな事も言っていられないので、見なくても済むように青子の胸に顔を埋めた。
「ひゃ!? ちょ、草十郎。なにして……」
 聞こえない、そんな恥ずかしそうな声なんて俺はこれっぽっちも聞こえない。
 ツンと立つ桃色の乳首を赤ん坊みたいに吸いながら、腰を押し込む。
「んっ、あはっ!?」
 青子も俺の動きに合わせてくれる、なだらかに触れ合い離れていく互いの恥骨。
 揺れる、ベットを軋ませながら肉の塊が揺れる。
 俺が、青子が、有珠が、橙子が、汗と淫水のなかでまるで一匹の生き物のように揺れる。
 肉と肉が溶け合って全員が一つになってしまいそうな幻想に、惑溺する。
 くらくらと揺れるユメのなか、終わらない宴に酔いしれる。
「ほらぁ、はっ、どうだ?」
 いつの間にか橙子は空いたほうの手で自身の秘裂を弄くっている、ぷっくりとしたクリトリスを虐めるたび、有珠を責める声に艶っぽい色が混じる。
「あおこぉ、もっと、もっとよあおこぉ……!」
 有珠のほうもいつの間にか別の行動に移っていた、キスに飽きたのか、その可憐な舌で青子の顔中を滅茶苦茶に愛撫する。
 耳を、髪を、鼻の穴を、おでこを、眼球を、眉毛を、瞼を、青子の全てが愛しいというようにべとべとに唾液で汚していく。
「はぁ、あぁ、あっ……ふぁ!?」
 みんな狂ってる、このユメに溺れている。
「ああ、がふぅ――――あっ、ひあっ!?」
 もはや喘ぎ声も誰のものか判別がつかない。
 確かなのはしっかりと銜え込まれた生殖器の柔らかな感触と、ただ脳髄を焼く蕩けそうな快感だけ。
 体中が溶け合ってしまいそうなくらい、深く深く繋がっている。

 ――――それは芥子の花が生み出す快楽のユメ、ただ一夜限りピュプノスの宴。

「もう、だめだ、でっ……!」
「あっ、私っも…お願い草十郎……もっとぎゅって、ぎゅってして!」

 ――――その夢もこれで終わる。

「あっ、やぁっ!? ああ、すきぃ、あおこぉ、すきなのぉ……」
「んあっ、あっ…いい!だめっ!あっ!」

 せりあがってくる欲望を前にして、白く染まっていく思考。
 ――――それでも、体が動かなくなる前に最後に一言だけ気まぐれな言葉を言うことができた。
「――――青子、愛してる」
 それだけ言うのに精一杯で、あとはもう何もすることができなかった。
 四つの嬌声の合唱を聞きながら、まるでブレーカーが落ちるように俺は意識を失った。




4へ