月姫ショートストーリー 


文化祭物語 食い逃げ喫茶ローキック 翡翠食い逃げ編 


作ユウヒツ





 第一夜 ルール


  一、挑戦者は廊下の階段まで逃げ切る事ができればどんなに飲み食いしようとただになる。

  二、挑戦者は直接的な行為(殴る、蹴る、極める等)を禁ずる。捕らえる我々もそういった行為は

  行わない(なお、挑戦者が破った場合はその限りでない。我々も紳士ではない)

  三、挑戦者は捕らえられ、押し倒された時点で負けとする。再挑戦は認められない。

  四、食い逃げ行為によって挑戦者及びその観客がいかなる被害を負おうと我らは一切保証しない。
 
  なお、保健室での治療や簡単なクリーニングなどの最低限の保証はする。ただし、金銭的弁償は

 一切関知しない。

  五、以上の事柄を厳守する事。それでは皆さん、楽しく食い逃げをして下さい。



 第二夜 三咲高校 廊下にて


 「姉さん、もう少しゆっくりして下さい」

  人通りが激しい廊下にて翡翠は少し顔を赤らめながら前を歩いている姉、琥珀に声をかけた。

  琥珀は足取りも軽くスキップするようにハミングしながら歩いてる。

  周りも二人を見ると思わず振り返る。特にカップルは男性が翡翠と琥珀に見とれて、女性が不機嫌

 に(それ以上の事も)なるケースが多い。

  翡翠はいつものメイド姿だし、琥珀は魅惑的すぎるチャイナ服。フトモモのスリットは凶器である。

 「あいや、ワタチ、琥珀でないアル。ワタシ、謎の情報屋ミスター陳アルね」

  怪しい独特のイントネーションで琥珀は言った。

 「姉さん」

  翡翠は軽く琥珀を睨む。まあまあと琥珀は翡翠をなだめる。

 「せっかくの文化祭なんだから翡翠ちゃんも楽しまなきゃね。ねっ」

  琥珀の言葉に翡翠は少し溜息をついた。

  そう、今日は志貴の学校の文化祭の日なのだ。一般公開の日でもあるため、二人は志貴に会いに

 遊びに来たのだ。

  ちなみに余談だが秋葉も文化祭に参加している。秋葉の学校は浅上女学院だが前に少しだけ志貴の

 学校に転校していた。その縁で特別参加している。秋葉のクラスでは人気種目のお化け屋敷をやって

 いるらしい。

  翡翠は愛する主人、志貴のために弁当を作ってやってきた。人ごみは苦手だがメイド服という己の

 戦闘服で何とか堪えている。

  琥珀のチャイナ服は近くのクラス、貸衣装&撮影処まーぶるふぁんたずむで借りた物。みなの人気

 は高く、かなり撮影された(翡翠も撮影されそうになったが逃げた)

  二人は今、志貴のクラスに向かっている。志貴のクラスの出し物は食い逃げ喫茶ローキック。まあ、

 ごく普通のケーキと飲み物の店だ。ただ、食い逃げ可能というとんでもない付加価値はあるのだが……

 「とにかく、早く志貴さまのところに行きますよ」

  そう言って、翡翠はさっさと歩いていった。琥珀は「待ってよ、翡翠ちゃん」と追いかけていく。


 第三夜 志貴のクラス 食い逃げ喫茶ローキックにて

 
 「志貴さまは居られないのですか」

  翡翠は残念そうに行った。

 「悪いね。あいつ。今、自由時間なんだ。さっきまで居たけど、なにやら遊びに来た小さい子にケーキ

 をご馳走してどっか行ってしまったよ。自由時間は始まったばかりだから、帰ってくるのは遅いよ」

  対応したのは志貴と同じ班の舞士間祥子。クラス一乱暴者の女性だ。その証拠に彼女も食い逃げ

 対策用のオープン・フィンガー・グローブをはめている。どこかのファミレスみたいな制服に

 ミニスカートを穿いている。翡翠には少々ぶっきらぼうな口調で答える。

 「どうしましょう、姉さん」

  翡翠が琥珀の方を向いて聞く。

 「そうですね……少し、ここで休憩したら探しに行きましょう。せっかくですからここのケーキを食べ

 たいし、遅くなるなら待ってて無駄だと思しますしね」

  琥珀は少し考えていった。翡翠は「そうですね」と少し落胆した声で同意した。

 「ふーん。お客さんになるんだね。案内するよ。ところで食い逃げはするのかい」

  舞士間は二人をじろじろ見ながら言った。

 「まさか……そんな気はありません」

  翡翠の否定に舞士間は「残念だな、ぶちのめせると思ったのに」と物騒な事を呟きながら二人を

 案内した。

 
 「結構、美味しいね、翡翠ちゃん」

  琥珀はニコニコ微笑みながら翡翠に言った。

  翡翠は浮かない顔で「そうですね」と同意した後、溜息をついた。

  学校の机にテーブルクロスを敷き、椅子には簡単なクッションを置いただけ。それでもテーブルごとに

 花をいけた小さな花瓶を置いたりと工夫はしている。また、テーブルごとの間隔は広くしており、中央も

 大きく開いてる。これは食い逃げ用のレイアウトなのだろう。

 「ふふっ、翡翠ちゃん。もう少ししたら本格的に志貴さんを探しましょうね」

  琥珀は少し微笑んでいった。二人は学校の文化祭というのが初めて、なので琥珀は志貴を探すより

 いろんなクラスや部活の出し物を見るほうに重点をおいていた。

  もっとも、翡翠にとってはそれが不安であり不満なのだろう。琥珀としてはもう少し自分や志貴に

 依存する翡翠の癖を直したかったのだが。

 「あれっ、翡翠ちゃーん、どうしよう。財布が無いの」

  ケーキと紅茶を食べ終わり、いざ行こうとした所で琥珀は少し困った顔で言った。

 「姉さん。冗談はやめて下さい。さっき財布を出していたでしょう」

  翡翠は少し琥珀を睨むように言った。いろんな出し物には琥珀が全部お金を払っていた。貸衣装にも

 当然お金を払っている。

 「だから、さっきの貸衣装屋に全部置いてきてしまったの。財布だけじゃないわ。携帯や薬などの小物

 など全部を置いて来てしまったのよ」

  琥珀の言葉に翡翠は思わず頭を抱える。確かに琥珀は体の線が出るチャイナ服のみ。いろんな小物を

 入れる小さなバックは持っていない。

 「翡翠ちゃんはお金を持ってきてないよね……」

  少し確かめるかのように琥珀は言った。翡翠はあまり外に出ないため財布とかを持つ習慣はあまり

 無い。あるのは女の子には不可欠な小物と志貴のために作った弁当のみだ。

 「……ここはもう翡翠ちゃんの暗黒翡翠拳の出番ね」

  ゴーゴーと囃したてる琥珀に翡翠は冷たい目で見た。

 「馬鹿なこと言わないでください……まさか、姉さんわざとではないでしょうね」

  翡翠の言葉に琥珀は慌てて手を振る。

 「そんな、まさか。偶然よ。偶然」

  少しあせった声で琥珀は言った。

 「まあ、仕方ないですね。店の人に言って少し待ってもらいましょう」

  そういって、翡翠は立ち上がり、レジの方に向かっていった。


 「駄目だね」

  舞士間祥子はそっけなく断った。人見知りの激しい翡翠は女の子でしかも先ほど話した舞士間祥子に

 話し掛けたのだが、それは失敗だったかもしれない。

 「うちのルールにあるように階段まで行ったらタダにしなければならない。今、この場でお金を支払って

 もらわないとな」

  舞士間祥子の言葉に翡翠は少し眉をひそませ、

 「ですから、先ほども話したようにお金は支払う気はあります。ただ、姉さんのミスで置いてきたので

 取りに行かせて欲しいのです。なんでしたら、姉さんをここに置いていってもいいですし、わたしが

 代わりにここに居てもいいです。何とかそれで承知してもらえないでしょうか」

  翡翠の必死の懇願にも舞士間祥子は鼻で笑う。他のクラスメートの「それぐらい、やらせればー」

 という言葉にもひと睨みで黙らせる。

 「駄目な物は駄目。この場で金を払うか、食い逃げをするかどちらかにしな」

  舞士間祥子の言葉に翡翠は少し睨むよう見て、

 「お金が無いのにどうやって支払えばいいのでしょう」

 と冷たく言った。少々腹を据えかねてるようだ。

 「そうだな……ここは、体で支払って貰うというのは定番なんだが……それは遠野への弁当か?」

  嘗め回すように翡翠の体を見たあと、大事そうに持っている弁当箱に注目した。

 「そうですけど……」

  少し戸惑って翡翠が言うと。

 「なら、それを置いていってもらおう。寛大なあたしに感謝しな」

  舞士間祥子のぶっきらぼうな言葉に、

 「これは志貴さまへの大切な弁当です。渡すわけには行きません」

  翡翠はかなり強い口調で言った。

 「なら、食い逃げするんだな。弁当を渡すか食い逃げするか、どちらか選びな」

  舞士間祥子もかなり強い口調で言い返す。

  翡翠は舞士間祥子を少し睨んだ後、弁当をテーブルに置き、その後、教室の掃除用具の入ったロッカー

 を開けてモップを取り出す。
 
 「志貴さま付の使用人、翡翠。まことに不本意ながら食い逃げさせてもらいます。不肖の身ではあり
 
 ますが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」

  翡翠がモップを構えると深々とお辞儀した。

  舞士間祥子は凶暴の笑みで翡翠を見た。


 第三夜 前哨戦

 「いいね、いいね。常磐、吉良、出番だ」

  舞士間祥子がにやりと笑うと指を鳴らす。すると二人の男が出てくる。常磐と吉良。共に柔道部の

 エースだ。

 「うっひょー、待ってました。俺、こういうの期待してたんだよね」

  吉良はそういうと腕をパコンバコン鳴らす。身長が二メートル近くの巨体は伊達ではない。学校で

 柔道をやるだけでなく、近くの道場、武真会館で空手も習っている。

  食い逃げする女の子に抱きつけると思って志願したが、洒落の分からないプロレスラーみたいな連中

 ばかりでウンザリしていた。

  彼の実力は相当な物。街の不良たちも彼には道を譲るという。

 「さて、覚悟はいいかな、翡翠ちゃん」

  少しにやりと笑うと、吉良は身をかがめる。

 「大丈夫。優しくフォールしてやるよ」

  吉良の言葉に翡翠は答えない。無表情に見るだけ。

  琥珀は近くの店員にコーヒーを注文する。何の心配もしてないみたいだ。そのまま、足を組んで

 凶暴なフトモモがさらに露わになる。

 「どうぞ、そちらから来てください」

  翡翠は静かに言った。同時に吉良がタックルする。見事な胴タックル。まともに喰らえば百キロ

 クラスの重量級も押し倒せる。

  スンッ。

  翡翠は近くのテーブルの花瓶をモップで引っ掛ける。花瓶は吉良の足元で割れる。

  わっ、

  花瓶に気を取られ、思わず止まる吉良に翡翠は一気に近づく。

 「終わりです」

  翡翠の言葉と共に吉良が投げ飛ばされる。どういう原理なのか片手で吉良を掴み、弧を描いて床に

 叩きつけられる。一撃。翡翠の足が吉良の腹を打ち抜く。さらにもう一撃。悶絶する吉良の顎を翡翠

 は軽く蹴る。

  それで、吉良の意識はとぶ。

 「……なかなかやるようね」

  常磐は静かに言った。翡翠は黙って常磐を見る。

 「まあ、構えを見た感じからして何かしらやっているとは思っていたけどね」

  すっと構える常磐。吉良に比べて隙は少ない。

  吉良に比べて小柄でオカマ口調の常磐。だが、実力は常磐の方が上なのだ。学校で柔道だけではない。

 吉良と同じく近くでレスリングを習っている。

  喧嘩の修羅場もかなりこなしている。すこしお調子者の吉良に比べて強敵といえよう。

 「あたし、吉良坊より強敵よ」

  常磐はそういうと翡翠の隙を窺うかのようにじっと見つめる。

  琥珀はさらにケーキを一つ注文した。コーヒーをすすると少し伸びをする。ゆっくりと二人の対決

 を見る。

  翡翠は黙って常磐を見る。

 「……来ないのですか」

  翡翠の言葉に常磐はすぐには答えない。

 「あなたから来れば」

  静かにゆっくりと答えた。

 「なら、そうします」

  すると翡翠は構えを解くと無造作に常磐に近づいていく。これには常磐も驚く。初めて動揺した。

 「なっ──」

  いつのまにか常磐の間合いに翡翠は入る。翡翠は何もせずに立っている。思わず手が出る。常磐は

  翡翠に掴みかかる。

  ひょいと翡翠が沈む。しゃがみ込んだのだ。そのまま手で常磐の足を払う。

  虚空を掴む常磐の手。バランスがずれた状態で足を払われた。

  そのまま仰向けに倒された所に翡翠が常磐の手首を取る。翡翠の膝が常磐の腹に乗る。

 「タップしますか?」

  翡翠は静かに聞く。常磐の手首は翡翠に捕られ極められている。苦痛は無い。だが、少しでも翡翠が

 力を入れれば手首が折れてしまう。どういう原理なのか体がぴくりとも動かない。

  タンタン。

  常磐は空いている手で床をたたいてタップした。とてもでないが敵わない。それを実感したのた。

  教室内は静まり返る。

  二人とも弱かったわけではない。むしろ、学校内ではトップクラスの実力だ。それを簡単にあしらう。

  素人でも翡翠が手加減していたのが分かる。

  立ち上がった翡翠は周りを見渡した後、

 「もう相手は居ないようですね。それでは食い逃げさせていただきます」

  深々とお辞儀すると教室から出ようとする。

  ガラガラ、バタン。

  教室のドアが勝手に閉まる。翡翠の行く手を遮る。

  思わず振り返る翡翠。その先には舞士間祥子が笑っていた。獲物を見る怖い笑みを浮かべていたのだ。


 第四夜 メインバトル

 
 「まいったねー、本当に。あの遠野だって、食い逃げを捕まえるのにあの怪しげな歩法を使わなかった

 のに。こうバチバチと裏の技を使われたら、こちらの立つ瀬がないよ」

  舞士間祥子は無造作に自分の髪を少しかきむしると立ち上がる。

 「ところで翡翠さん。あんた、ルールを見たよね。直接行為は禁ずる。これを破るとこちらとしても

 紳士的な対応が出来なくなるんだよね」

  嬉しそうに指を鳴らしながら舞士間祥子は言う。翡翠は黙ってモップを構える。

 「とりあえず、そのモップは置いてもらおうか。漢と漢の戦いにそんな物は無粋だからね」

  そう言うと舞士間祥子は親指を下に向ける。一気に下ろす。

 ?!
  
  翡翠の手のモップが急に重くなる。思わず離してしまう。ガタンとモップが床に落ちる。今度は

 舞士間祥子が指を自分の後ろに向ける。モップはその方向に滑っていく。


  うそー。

  琥珀は初めて戦いに注目した。三咲町内もとより近隣の街の裏の人間や人外連中は全てチェックして

 あるつもりだった。この学校内にも何人か裏側の人間が入り込んでいるのは知っている。しかし、この

 志貴のクラスには居なかったはずだ。舞士間祥子は完全にチェック漏れだ。

  それに……

  舞士間祥子の今、使った力。魔力は感じられなかった。すると超能力? しかし、何か違う気がする。

 魔の異能に近いがやはり違う気がする。

  琥珀は初めて戦いに注目した。

  
  強敵ですね。

  翡翠はあらためて舞士間祥子を見る。吉良と常磐は確かにそれなりの場数は踏んでいよう。しかし、

 それはあくまで表側での話。翡翠のように裏側の場数は積んでいない。しかし、舞士間祥子には自分と

 同じ匂いがする。そう、裏側の人間なのだ。

 「ふーん。戸惑っているようだね。それで来ないのかな。なら、こちらから行くよ」

  舞士間祥子がそう言うと無造作に近づく。

  一閃。

  舞士間祥子の神速の蹴りが唸る。ハイキック。翡翠は腕でカバーする。

  それから捻ってトゥーキック。もう一度トゥーキック。右のロー、左のミドル。踵落としから前蹴り。

 次々と蹴りを繰り出していく。翡翠はそれを腕でブロック、またはさばき、体を捻って避けて行く。

 「近代フルコン空手プラスムエタイですか。体の姿勢から見てそれだけじゃないみたいですが」

  翡翠は少しはなれたあと言った。顔つきは真剣になっている。予想以上に蹴りは速く、重い。

 「当たり。他にもブラジリアン柔術とコマンドサンボをマスターしているよ。そっちは古代中国拳法と

 日本の古武術をベースにしているみたいだな。丁度いい。よくマンガやゲームで近代武術は古武術に

 負けるよな。けど、現実は違うという事を教えてやるよ」

  舞士間祥子はにやりと笑いを浮かべると一足飛びに間合いを詰める。

  今度はパンチのラッシュ。ジャブの連打から始まり、ストレート、フック、アッパーの巧みな

 コンビネーション。フルコン空手には顔面打ちが禁じられているのが多いため、顔面への攻撃及び

 防御が弱い。しかし、舞士間祥子はそれを苦とせず攻め立てる。

  翡翠は防戦一方になる。少しづつ攻められて後ろに下がる。

 「見切りました」

  翡翠はそう呟くと舞士間祥子の手首を掴む。そのまま、自分の脇に固める。

  だが──

  ?!

  舞士間祥子の体が軽い。まるで風船のようだ。思わずバランスを崩す翡翠。その隙に関節技から

 抜け出す。

 「危ない。危ない」

  楽しそうに笑う舞士間祥子。翡翠の眼は鋭くなる。

 「力を使ったようですね。何の力かは存じませんが、あなたは先程から力を使っている。分かりました。

 わたしも少し力を使いましょう」

  翡翠がそう言うと両腕をぐるぐる振り回す。円を描いている。
 
 「先程から気になっていたのですが、そのミニスカートで蹴りを出しますと下着が見えますよ」

  翡翠は腕を回しながら言った。

 「いいんだよ。これは勝負パンツだから。今日に懸けているんだよ、あたしは」

  そういって、舞士間祥子の目が細くなる。翡翠の力を見極めようとしているのだ。

 「では、行きます。暗黒翡翠拳。その恐ろしさを存分に味わってください」

  腕を振り回すのをやめたあと、そのまま歩いて間合いを詰める。腕を大きく振り上げ、一気に殴り

 つける。

  テレフォンパンチ。動作が大きくて、すぐに見切られる。

  だが──

  くっ、

  舞士間祥子は苦痛で顔を初めて歪ませる。翡翠の前蹴りが舞士間祥子の腹を打ち抜く。

  ばかな、いつの間に。

  舞士間祥子が考えるより先に再び翡翠のけりが襲う。ふわりとスカートが翻る。すぐにガード。

  しかし──

  がっ、

  舞士間祥子のこめかみに翡翠の一本拳の一撃が襲う。頭の中がゆれる。予想以上に強烈。想定して

 なかったためダメージはかなりデカイ。

  いったい、どうやって?

  いくら考えても分からない。翡翠の攻撃は確かに見切ってるはずなのに。

「降参しますか」

  翡翠は再び腕をぐるぐる回す。

 「はっ、まさか」

  舞士間祥子は毒づく。

 「ならば、倒させていただきます」

  そう言うと、翡翠の足が上がる。踵で舞士間祥子の足の甲を打ち抜くつもりのようだ。

  フンッ、

  舞士間祥子が気合を入れる。ピタリと翡翠の攻撃が止まる。まるでビデオの停止ボタンを押したかの

  ようだ。翡翠の攻撃姿勢は舞士間祥子が認識していたのではない。掌底フックを顎に打ち込む姿勢だ。

 「なるほどね、カラクリは解けたよ」

  舞士間祥子はにやりと笑う。逆に翡翠は顔をしかめる。今、自分の攻撃が止まったのに戸惑っている

 のだ。

 「やってみな。あんたの攻撃はもう通じないよ」

  舞士間祥子は不敵に笑うと目をつぶる。

  ──?!

 「どうした。あたしは目をつぶっている。チャンスじゃないのか」

  手をだらりと下げ、ノーガードで舞士間祥子は攻撃を誘う。

 「行きます」

  翡翠は迷うを止め、一気に攻める。

  右のフック、左の前蹴り、手首を掴みかかる、顔面への一撃。

  全て無効。翡翠の攻撃は全て当たらない。舞士間祥子は目をつぶっているにもかかわらず攻撃は当たら

 ないのだ。

  どういうことでしょう。

  翡翠は攻撃を止め、舞士間祥子を見据える。


  翡翠ちゃーん。

  琥珀はどきどきしながら見ていた。舞士間祥子は強い。予想以上だ。それに何故なのか、さっぱり

 分からない。翡翠の戸惑い。だが、自分が何も出来ない。その焦りに襲われる。

   
  ですが、ひとつ分かったことがあります。

  翡翠はそう考えると大きく腕を振りかぶり、攻撃する。それも避けられる。

  だが──

 「攻撃しないのですか?」

  翡翠は攻撃を避けられたので大きく姿勢を崩している。隙だらけだ。しかし、舞士間祥子はその好機

 に何もしようとしない。

 「わたしもあなたのことを見切りました。確かにあなたにわたしの攻撃が当たらないかもしれません。

 しかし、そのままではあなたはわたしに攻撃を仕掛けることは出来ないでしょう。舞士間祥子さん。

 あなたは運動エネルギーを操ることが出来るのですね。それがあなたの秘密です」

  翡翠の言葉に舞士間祥子は動かない。

  ゆっくりと目を開けると、くっくっくっと笑い始める。

 「大正解。あたしの力は「マクスウェル」全てのエネルギーを操るもの。あたしはミューマン。新たな

 力に目覚めしもの」

  舞士間祥子の言葉に琥珀は衝撃が走る。

  ミューマン。別名ニューマン。侵食されし者。‘異’との融合者。呼び名は幾つもある。それは

 新しき力。魔術、超能力、魔の異能力とは違うもの。

  1908年。シベリアのツングースカに隕石が落ちた。タイガの森を一気に焼き払い。周りに大きな

  被害を与えた。

  1921年。初めて調査の手が入る。その後、何度も調査団が派遣される。原因は隕石が落ちたもの

 とされる。しかし、いくつも異論が出る。

  いわく、マイクロブラックホールが落ちた。

  いわく、彗星の落下。

  いわく、UFOの墜落。

  現場にイリジウムの欠片が落ちているなど幾つもの謎がそれに拍車をかけた。

  ソビエトの科学アカデミーはツングースカの隕石についてはほとんど沈黙を続けてきた。

  真実は一体? 

  ソビエト科学アカデミーは何度目かの調査に不思議な物体を見つけた。それは回りの荒野を

 見たこともない植物で埋め尽くしていた。

  怪しく七色に輝く石。それは全てを変質されるものだった。

  科学アカデミーはそれを極秘に持ち帰り詳しい調査をする。

  それは本当に想像を越えるもの。その石の輝きに触れたものはどんどん変質していく。

  物質は今まで見た事もない性質を持ち。生物もまた、変わっていく。

  羽や鱗が生えるもの。精密な思考が出来るもの。光を操るもの。

  想像を絶する力を有していた。

  だが、それは人の精神も変質させる危険なもの。正気を保てる者はほとんど居なかった。

  ある博士がその石を持って亡命しようとした。

  だが、亡命中、その飛行機は撃ち落とされた。

  石も永久に失ったと思われた。

  だが、そうではなかった。

  成層圏内で粉々になった石は世界中に小さな欠片となってばら撒かれたのだ。

  ほとんどの人には影響を与えることはない。

  だが、時折与えることがある。

  世界中に怪事件が続発した。

  同時期。謎の秘密結社が発足する。

  メテオ。

  石の力で身体は変質しても精神は変質せず人の心を持つもの達の集まり。

  石によって変質したものの怪事件を解決する。

  新進気鋭の組織は裏の世界に瞬く間に広まった。

  隕石によって地球の歴史は何度も変わったとされる。

  恐竜の絶滅説もその一つだ。

  それ以外にも何度か地球の生物たちを絶滅の危機に追いやっている。

  同時に大きな進化の発展へと駆り立てている。

  地球に生命が芽生えたのは隕石の影響もあるという。

  メテオとはそういう意味なのだろう。

  琥珀も話だけは聞いていた。

  だが、実際に見るのは初めてだ。

  「マクスウェル」

  石の力によって発現、変質したものの一つ。

  あらゆる力のエネルギーを操るもの。

  翡翠がモップを重くなって落としたのもその一つ。

  舞士間祥子の動きをフォローし、翡翠の攻撃を見切ったのもそれだろう。

  驚異的な力だ。

 「だが、翡翠さん、あたしもあんたの力を見切っているよ。あんたはあたしに暗示をかけ、認識を狂

 わせている。それがあんたの暗黒翡翠拳の秘密だ」

  舞士間祥子の言葉には翡翠は動かない。黙ってみているだけだ。

  古武術の技法に人の錯覚を利用したものがある。五十歳くらいの小柄な男が現役のアメフトの

 タックルを受け止め、ボディービルダーとの驚異の筋肉の持ち主と腕相撲しても勝つことが出来た。

  これは人の錯覚と隙をついたもの。

  体さばき、目の動き、手の動作などで相手の認識をかく乱させる。

  どんなに力が強くても、その実力を半分も出すことが出来なければ意味がない。

  翡翠の暗黒翡翠拳はそれをさらに進めたものだ。

  翡翠の特技に「洗脳探偵」がある。これは相手に暗示、いや洗脳してあらゆることを思い込ませる

 荒業だ。使い方次第でどんなに恐ろしいことができるか想像に難くない。

  暗黒翡翠拳は翡翠の暗示の力を応用したもの。

  簡単にいえば右のパンチを繰り出すと思わせて左のローキックを叩き込む。

  一見すると派手さがなく地味なものに見える。

  だが、それは想像以上に恐ろしいもの。暗示にかかれば翡翠の攻撃は避けられない。さらにプロ

 レスラーのような驚異の耐久力を持っていても無駄だ。プロレスラーのタフは相手の攻撃を認識して

 力を入れて耐えている。暗黒翡翠拳は相手の予想を越えたところに攻撃を加える。

  舞士間祥子が避けられたのは翡翠の運動エネルギーのみを感知したため。だが、それではその事だけ

 に力が集中し、攻撃は加えられない。


 「お互い、手の内を晒した訳だな」

  舞士間祥子が淡々と言うと、

 「そうですね」

  翡翠も淡々と言う。

  お互い、まだまだ隠している部分はある。しかし、基本的な手の内は明らかになっている。

  風景がゆがむ。

  空気が強張る。

  二人の気が互いにぶつかり合う。

  同時に動く。

  二人はぶつかり合う。

  そこには技がない。

  技術がない。

  己に覚えさせた技法が出る余地がないのだ。

  ただ、力と力。

  速さと速さのみが競い合う。

  力と速さ。それは舞士間祥子が一歩リードしている。だが、翡翠も相手の攻撃をいち早く認識し、

 攻撃を防ぎ、対応している。

  互いに近づき腕を繰り出す。想像を絶する速さ。舞士間祥子のラッシュ。翡翠がさばき、反撃。

  見るものは瞬きが許されないほどの攻防がそこに存在した。

  ガツ、

  二人の拳がぶつかり合い、二人は離れていく。

  舞士間祥子の息は荒い。力を使い、体力を消耗している。

  翡翠の息も荒い。相手の攻撃を裁くのに精神を集中している。それは想像以上に神経を磨耗する。

 「一つ、聞いてもよろしいでしょうか」

  翡翠が質問する。

 「なんだ?」

  舞士間祥子が聞き返すと、

 「あなたはどうしてわたしを──いえ、志貴さまを嫌うのでしょう。何か恨みでもあるのでしょうか」

  翡翠の問いかけに舞士間祥子は、は吐き捨てるように、

 「嫌いだね。あんな奴」

  と言った。

 「なぜです。志貴さまはあなたのご学友ではないのですか」

 「だからだよ。あいつのことがよく分かるから嫌いなんだよ」

 「どういう意味ですか?」

 「あいつは……さつきの事を気づかずにいた。あんなにさつきはあいつのことを慕っていたのに。

 気づかずに……だから、死んだ。夜の噂を確かめに行って、さつきは吸血鬼に殺された。それだけで

 ない。山瀬舞子もだ。舞子はあいつを助けようとして死んだらしい。生きながら獣達に食われた。

 それもあいつが──遠野が不甲斐ないからだ」

  舞士間祥子はそれこそ血を吐くような口調で言った。

  翡翠は黙っていた。


  弓塚さつきは中学の頃、志貴の事が好きになったが、恥ずかしがり屋で自分から言い出せない性格

 に加え、志貴の超鈍感さのため、二人の仲は進展することはなかった。ただ、志貴が遠野の屋敷に

 戻ったときに帰り道が同じ方向だったため、一緒に帰り、少し意識した。それだけだ。

  次の日、さつきは行方不明になった。学校に流れている噂。遠野志貴が夜の街を出歩き、人を襲っ

 ている。その真偽を確かめるため、さつきは夜の街に繰り出し消えていった。

  路地裏に大きな血痕があった。さつきの血だった。死体こそ見つからなかったがその血の量から

 生存は絶望的だ。


  山瀬舞子。隣のクラスの子。直接、志貴の事は知らない。ただ、話に聞いていただけだ。母と妹と

 三人で暮らしていた。武真会館で空手を習っており、少しおっとりとした性格ながらも積極的なところ

 あった。正義感も強く、そもそも空手を習ったのはいじめられっ子だった妹の明美を守るためだった。

  その日、公園で誰かが襲われてると思い助けに行った。

  そして、ネロ・カオスの犠牲になった。


  翡翠は黙っていた。黙って目を閉じていた。


  分かってはいる。舞士間祥子には分かってはいる。遠野志貴は悪くはない。さつきも勝手に外に

 出たのが悪いし、山瀬舞子も己の腕に過信しすぎた。ただ、自分の親友二人が、あいつのせいで失って

 しまったのは確かだ。それに──

 「にもかかわらず、あいつは女をはべらしてやがる。三年のシエル。あいつの妹にお前たち。そして、

 金髪の美女。あいつは二人の事を忘れて、女遊びをしている。それがあたしには我慢できない」

  まさにそれは絶叫だった。舞士間祥子と遠野志貴は学校でいつも顔を合わせている。言いたい事は

 たくさんあっただろう。しかし、それは言うわけには行かない。自分の事を話さなければならないし、

  これは自分の気持ちだけの問題だ。

  だから、この場で吐露した。舞士間祥子の叩きつける言葉に翡翠は動じることなく見ていた。

 「あなたの気持ちはわかりました。ですが訂正させていただきます。志貴さまは死を誰よりも深く

 理解してます。ゆえに二人のことを忘れてはいません」

  小さな声だった。静かな声だった。けど、舞士間祥子の耳に染みた。

 「ウソだ」

  舞士間祥子は一蹴した。だが……

 「わたしは志貴さま付のメイドです。志貴さまに誰よりも近いのです。それゆえに分かります。残念な

 ことですが志貴さまの心を占めているのはわたしではなく、金髪の美女。たぶん、アルクェイドさま

 でしょう。しかし、それ以上に心に留めているのは弓塚さつきさまであり山瀬舞子さま。さらには

 隣町のホテルの犠牲者様たちです。志貴さまは優しく暖かく見えます。しかし、心の中は冷たく

 澄んでいます。死が誰よりも近いから……志貴さまは後悔してます。二人のことを。自分がもう少しと

 考えているのです。訂正させていただきます。志貴さまは二人の事を忘れてはいません。わたしたちは

 自分の意志で志貴さまを慕うのです。ですから志貴さまを責めるのは筋違いです。責めるならわたし

 達を責めてください」

  翡翠の告白は叩きつけるような勢いは無かった。しかし、舞士間祥子の胸に突き刺さった。

  少し黙ったあと。

 「一つ聞きたいことがある。あんた、遠野のことが好きなんだよな。なら、それでいいのかよ。あいつ

 はお前のことを一番好きだと思ってないんだろう。あの遠野のことだ。その場限りの刹那的優しさ

 のみだ。お前の恋は報われないんだぞ」

  舞士間祥子の言葉を翡翠は静かに受け止めて。

 「構いません。わたしが志貴さまを慕うのは……好きと言う気持ちはわたし個人のもの。それを押し

 付けようという気はさらさらありません。それにわたしは志貴さまに仕える事が出来るだけで

 幸せです。それ以上を求める気はありません」

  それが翡翠の本音なのだろう。否、本当はそれ以上の気持ちはある。志貴を独占したい。それは

 翡翠にもある。だが──自分だけが幸せになれない。姉さん──琥珀のことを考えるとそう思う。

  己を犠牲にして守ってくれた姉さんを思うと──

 「うがー」

  舞士間祥子は叫び、一気に跳躍。飛び蹴りを一閃。翡翠は頭を軽くひねって避ける。すぐに沈み込む

 舞士間祥子の体。蹴りが跳ね上がる。ミニスカートの中の薄い赤の下着があらわになる。同時に足に

 引っ掛けた翡翠のメイド服の重いスカートが跳ね上がる。翡翠の黒い下着があらわになる。

  翡翠は慌ててスカートを抑える。しかし、舞士間祥子は力を使って、スカートの運動エネルギーを

 操り、舞い上がらせたままだ。前を押さえるとお尻のほうがめくり上がり、お尻と前を押さえると横が

 跳ね上がる。男たちは「おおっ」と歓声を上げる。人見知りの激しい翡翠は恥ずかしさで顔から火が

 出そうだ。

  キッと、少し離れてにやにや笑っている舞士間祥子を涙目でにらむと、人差し指を突き出す。

 「暗黒翡翠流──ご奉仕推奨波!」

  翡翠の言葉とともに舞士間祥子はのぞけり、口、耳、目、鼻から血を垂れ流す。同時に翡翠の

 スカートのめくれも収まる。

  相手の五感に直接作用してダメージを与える翡翠の必殺技。これを防ぐには翡翠を認識しないよう

 感覚を遮断するしかない。これも「洗脳探偵」暗示術の応用だ。

 「しっかり、‘女’してるじゃないか。その下着はいつでも遠野に見せてもいいようにしてるため

 だろう。本音で語れよ翡翠」

  顔から血を流しながら壮絶な笑みを浮かべる舞士間祥子。翡翠の顔も恐ろしいほど怖い。

 「あたしには好きな奴がいる。そいつは妻子持ち。子供はあたしと同じくらいの年。でも、諦めない、

 あたしは自分に正直に生きると決めたんだ。どんな結末が待っていても突き進む。翡翠。貴様のは

 ただの逃げだ。怖いから先を進めないだけの逃げ口上だ」

  初めて翡翠の顔に亀裂が走る。舞士間祥子の言葉に動揺する。

 「あなたこそ、自分のやりきれなさを志貴さまにぶつけてるだけです。そんなのを認めるわけには行

 きません」 

  翡翠の言葉に舞士間祥子の顔はゆがむ。本音を突かれたのだ。

 「いいだろう。あたしは本気を出すぜ」

  舞士間祥子は構える。

 「わたしも全力を出します」

  翡翠も構える。

  闘気。否、殺気が二人に充満する。

  先ほど以上の戦いが始まろうとしている。


 「双方、それまで」

  気が抜けるような声がする。

  二人が振り向くと、そこには、

 「翡翠ちゃーん。ごめーん」

  琥珀が小太りな男、志貴のクラスメートの高田君に後ろから抱きしめられていた。密着し、手は腰と

 腕を掴まれて逃げられそうに無い。申し訳なさそうに琥珀は翡翠を見ていた。

  琥珀がつかまった事により翡翠は負け。弁当は置いていく事になった。

  男たちは歓声の声をあげた。

  可哀想に……

 
  第五夜 


 「ごめんね、翡翠ちゃん」

  廊下を歩きながら琥珀は翡翠に謝る。琥珀は薬を持っていなかったため、高田君に抵抗できなかった

 のだ。

 「いいんです姉さん」

  翡翠は静かに言った。表情からは怒ってるように見えない。 

  おそらく、琥珀はわざと捕まったのだろう。もしかしたら琥珀から持ちかけたかもしれない。

  それは正解だろう。あのまま行けば戦いはただの殺し合いになったのだから……。

  あの後、舞士間祥子は、

 「翡翠、言っておくが今回の勝負のケリはついてねえ。また、機会があれば決着つけるぞ。ただ──

 遠野のことはもう何も思ってない。あれはあたしの思い込みだ。違う見方で見てやるよ。安心しろ。

 あんな軟弱な奴、あたしの趣味じゃない。惚れる事は決して無いさ」

  さっちんに悪いからな。そう言っていた。

 「翡翠ちゃん……」

  琥珀は静かに翡翠を見る。表情からはなにも伺えない。

 「とりあえず、志貴さんを捜しに行こ」

  琥珀の言葉に翡翠はふっと表情を緩めて、

 「その前に三年の方の教室に行きましょう。パンフレットに面白い出し物がありました」

  翡翠の言葉に琥珀は一瞬、呆けるが、

 「うん、そうしましょう。でも……いいの?」
  
  満面の笑みで琥珀はうなずいた後、翡翠にたずねる。

 「いいんです。それにこうして回ってる内に志貴さまには会えるでしょう。文化祭は今日一日だけで

 はないし、二人で楽しみましょう」

  翡翠はそう言って、歩を進める。琥珀は「ああっ、翡翠ちゃーん、待ってよー」と追いかける。

  雑踏の中、二人は歩く。翡翠はふと、考える。

  わたしは志貴さまのことしか考えたことありません……ですから──

  暖かい日差しの中、翡翠は考えていた。

  みんなと志貴。そして、これからのことを──




























  なお、志貴の教室にて、翡翠の弁当を食べたものはショックで全員倒れていた(笑)

  梅サンドは強烈すぎたのだ。

  舞士間祥子はそれを知らずにあの人の元に向かっていた。

  みんなにいい事したなーと考えながら。

                                                            終わり


教えてあげよう ナルバレック先生





 ナルバレック「ここは作者の後書き代りに世界観やネタばれを暴露する場。よくある話だが気にするな」

 メレム「そういう事。この作者は見てのとおりオリジナル要素がてんこ盛り。ほんとにいいのかなーと

 言いたいぐらいです」

 ナルバレック「ふん、気にするな。今に始まったことではない」

 メレム「だよねー」

   
                 ──暗黒翡翠拳とは──

 メレム「なんか……翡翠、ものすごく強いんだけど」

 ナルバレック「初めからその設定らしい。当初は暗黒翡翠拳はただの拳法だったが「洗脳探偵」の暗示

 を考えていて思いついたらしい。ちなみにその後、テレビで古武術の原理を科学的に検証する番組で

 自分の考えていたのとほぼ同じなのには爆死したらしい」

 メレム「あれまー」

 ナルバレック「それでも翡翠の強さはメインヒロイン五人では最弱ではある。所詮、ただの人間だからな

 アルクェイドには当然勝てないし、シエルの体術ならともかく魔術まで繰り出されると勝つのは不可能

 に近い。それにシエルは何だかんだ言っても戦闘のプロだ。場数が違う。秋葉の「略奪」は認識を狂わ

 せても決定打に欠けるしな。琥珀は何も体術は覚えてないが薬には対抗できない。まあ、それでも翡翠

 はモップ一つで軍の特殊部隊をあしらえる実力はあるがな」

 メレム「へえー、かなり強いんだね。聞いた話だと翡翠は志貴の「直死の魔眼」をモップで受け止める

 ことが出来るとか」

 ナルバレック「うむ。本当だ。他のヒロインでは防げないが翡翠はそれを防ぐ技を持っている。ただし、

 初めに言っておくがこれは作者個人の解釈。また、強さとは一概に言えるものではない。圧倒的な強さ

 を持つのはアルクェイドだが、やはり弱点はある。完全無敵はあまり面白くないからな。個々のキャラ

 はそれに応じた特徴と強さを持つということだ」

 メレム「ところで、一つ聞きたいけど、翡翠はどうやってあんな技を身に付けたの。遠野家で教えて

 くれるとは思えないけど」

 ナルバレック「翡翠の家、すなわち巫淨は巫覡の一族。武術の達人を降ろし、修行したのだ。

 まあ、ここにも色々と秘密はあるがな。詳しいことは他のネタばれのため明かせない。ある家が協力

 したと言っておこう」


                 ──舞士間祥子について──

 メレム「……これ、すごいね。呆れて物が言えないよ」

 ナルバレック「世界観の構築には色々と混ぜてあるからな。これもその一つだ」

 メレム「舞士間祥子の能力って詳しくはどんなのなの」

 ナルバレック「『マクスウェル』は力の流れなどエネルギーを操る技。舞士間祥子は主に運動力と重力を

 操れる。壁を普通に登ったり、一時的に天井に重力をかけて地面にしたり出来る」

 メレム「すごい力だね」

 ナルバレック「ミューマン(ニューマン)の力はほとんど分かっていない。彼らは人に見えて人では

 ないらしい。ソビエトが一番研究は進んでいたが、例の革命で資料はほとんど残っていない。おそらく

 もっとも詳しいのは「メテオ」新進気鋭のこの組織のみだろう」

 メレム「『メテオ』はとりあえず、他の組織には喧嘩は売っていないから、ほぼ静観という感じかな。

 秘密組織でどういう規模など不明な点はかなり多い。日本、アメリカ等先進諸国を中心にかなり

 広まってるみたいだけどね」

 ナルバレック「さて、彼らの能力は多種多様だ。一つか二つ、多くて三つの力に秀でていてそれを

 応用している。しかし、一番の特徴は人でない事。彼らは‘異’に属する。力自体は魔術や超能力で

 再現可能。だが、本当に恐ろしいのは彼らはガイアの摂理から離れた存在である事だ」

 メレム「うん、どういう意味なの」

 ナルバレック「簡単に言えば、プライミッツ・マーダーの「人類に対する絶対的殺人権利」から外れて

 いる。死徒二十七祖で、一番近いのはオルトになる。起源など、色々違う点はたくさんあるがな」

 メレム「わおっ。それはすごい」

 ナルバレック「まあ、基本的には人と変わらないし、ただ、力ある人間に見える。だが、本質は違う

 ということを頭に入れるべきだな。これからの裏の世界は大きく変わるかもしれんぞ」

 メレム「ちなみにこの世界では吸血鬼は裏世界では強いけど、最強ではありません。さまざまな幻想種

 に力ある人間たちが群雄割拠。白翼公も個人としてはかなりの規模だけど吸血鬼社会では圧倒的

 といえる力は無いしね。アルトルージュも崇められてるけど勢力としての規模はそんなにたいした事

 無いしね」

 ナルバレック「話がそれたな。まあ、世界観についてはおいおい説明していく。ここでは書ききれない

 事はたくさんあるからな」

 メレム「だよねー」

 ナルバレック「舞士間祥子は色々とこれから絡む予定だが、志貴の毒牙にかかることは無い(笑)

 安心したまえ」

 メレム「そういえばさっちんと山瀬舞子にも……」

 ナルバレック「それ以上は秘密だ」

 メレム「だね。それでは、そろそろ」

 ナルバレック「この辺でさよならとしよう」

 二人「では、次回は別なところでお会いしよう」

終わり 


 うちの常連、ユウヒツさんより頂きました、食い逃げ喫茶激闘
の日々のドキュメンタリーです(違)
 ……なんというか、すげーですw 俺じゃ絶対に思いつけない
怒涛の発想に脱帽。翡翠も強いけど舞士間さん、あんた何者
だ一体(笑

 元は別の方のHPにお贈り作品するはずだった、との事です
が、諸事情ありまして有り難くもウチでお預かりする形になりま
した。
 ユウヒツさん、どうもありがとうございました〜