よくわかる聖杯戦争の勝ち方



権兵衛党





 衛宮士郎。
 設定上全員18歳以上なので、きっと18歳以上。
 穂群原学園の生徒にして、学園きっての便利屋。
 人助けとアルバイトに明け暮れる、生粋のお人よし。
 しかしてその実体はといえば、養父から幾ばくかの魔術だけを教わった半人前魔術師であり。
 そして、一人の熱く燃える魂を持った『正義の味方』志願なのであった。
 闘え士郎! 己の理想と正義のために!

 それはさておくとして。

 現在、衛宮士郎は聖杯戦争と呼ばれるものに巻き込まれていた。
 セイバーのサーヴァントと名乗る女の子を呼び出した事を皮切りに、生死の境を彷徨いまくって今に至っている。
 君は生き延びることが出来るか? というフレーズが良く似合うこの戦場で、とりあえず我等が『目指せ正義の味方!』は今のところ、まだ生き延びている。

 さて、聖杯戦争が始まっているという事は街には危険がイッパイという事でもある。半人前のマスターがヒョコヒョコ独りで歩き回るなど言語道断以外の何者でもない。
 よって。
 セイバーは口うるさく単独行動をするな、と言っているのだがこれが中々聞き入れられない。
 丁度今も士郎は玄関を出ようとして捕まったところだった。

「いけませんシロウ。一人は危険だと何度言えば」

 こうしてお説教を食うのも何度目やら知れず。
 他のサーヴァントやマスターがうろうろしている街へ出るのに彼一人では思いっきり危険なのは分かりきっている。
 でも彼は反論していた。

「けど四六時中、ずっと一緒に居ろってのか?」

 身の程を知らないのと危険意識が薄いのと、状況をよく把握していないせいである。
 特に女の子に免疫がないのが致命的だった。
 いっしょに帰って噂になると恥ずかしいし、と言えるくらいの図太さがあれば良かったのだが。

「無茶言うなって、大体だな……」

 そうして是が非でも単独行動をしようとする士郎に、セイバーは溜息をつく。
 聖杯戦争勝利を願う彼女としては折れるわけにも行かない。みすみす士郎を敵の手にかけさせて敗北する訳にはいかなかった。だって聖杯欲しいし。
 故に、彼女は秘策を提案した。

「シロウ、実は聖杯戦争には必勝法があります」
「……必勝法?」

 なにやらへ理屈をこねていた士郎の動きがピタリと止まる。
 その視線は目の前のセイバーを凝視する。
 彼だって理由はどうあれ聖杯戦争に参加した以上は勝ち抜くことを望んでいるのだ。
 だって、正義が負けたらダメだろーし。

「……本当に?」
「はい。私と切嗣は、前回そうして最後まで勝ち残ったのです」

 自信たっぷりに言い切るセイバー。
 しかも実績があるらしい。
 どことなく偉そうにエッヘンと腰に手を当てていたりする。

「親父が!? ……あ、だがそれは」
「安心してください。騎士道に背く行為ではありません」

 士郎の懸念を見抜いて、先に言っておくセイバー。
 それを聞いた士郎が見るからに安心した様子なのをみて、内心頷く。
 やはりシロウは騎士道と言う物を持っていると、この未熟なマスターを見直した。甘っちょろいと言わば言え。騎士道とは現実と理想を天秤にかけて理想を選ぶ道なのだ。
 見直した故にこそ教える価値がある、とセイバーは判断した。

「これはもはや、近代聖杯戦争におけるセオリーなのです。前回そうしなかったコトミネは敗退するはめになりました」

 近代聖杯戦争とは大きく出たものではある。
 けれど前回から残っているのはこの場にいない言峰とギルガメッシュを除くとセイバーだけなのでどこからも文句は出やしない。
 士郎は喉をゴクリと鳴らしつつ訊ねる。

「教えてくれ、セイバー。それは……?」

 傍目にも緊張した様子の士郎。盗み聞きを警戒してか、声もやや抑えられている。
 つられる様に抑えた声で、セイバーは語る。

「はい。聖杯戦争では主従のうちマスターが狙われるもの。つまりは基本を徹底的に遵守してマスターを守り通し、マスターがやられなければサーヴァントはそう簡単に倒されません。ですが、それが難しいのはシロウも主張した通りですね?」

 小さいながら真剣に語られる声に、こっくりと頷く士郎。
 確かにセイバーと自分なら、自分の方が狙われ易いと理解できたからだ。
 それを確かめたセイバーは、やや緊張した表情で、提案する。
 士郎に耳打ちするように顔を近づけて。

「そこで、切嗣が考案した必勝法とは――」






 その日の深夜。
 他マスターを探して深夜徘徊を続ける凛は、交差点に佇むセイバーを発見する。

「……あれ?」

 遠くにぽつんと立つ人影はただ一人。
 あたりに隠れることの出来そうな場所もなく、見落としもありえない。
 つまり、セイバーは単独行動をしている事になる。
 ぶっちゃけ、ありえなかった。

「……どう思う? アーチャー」

 足を止め、霊体状態で側にいるアーチャーにそっと尋ねる。
 士郎と協力している凛にとって、セイバーは味方には違いない。でも様子がおかしいなら油断は禁物だった。
 最終的に、勝者はただ一組。
 それが聖杯戦争の掟なんだし。

「判らん。油断できないのは確かだが……」

 中空から、ボソボソとした声が降ってくる。アーチャーも判断に迷っているのだろうと凛は推測した。

「……それよりも気づいているか、すでに我々の存在は感知されているぞ?」
「え? あ、ああ、そうか。セイバーが気配に気づかないはず、ないか」

 自分が見つけた時点で、セイバーにはすでに察知されていると考えた方がいい。
 だからここで挙動不審なマネをして、下手な疑惑を産むわけにはいかなかった。
 もちろん相手の出方次第でもあるのだけど。
 しかし、セイバーが襲い掛かってきた場合に凛に成す術があるかどうかは、初見ですでに知っている。

「それじゃアーチャー、いざというときのフォロー頼むわね」
「ああ、まかせておけ」

 それでも呟いて凛は坂道を下る。
 すでにこっちを見つけているセイバーのいる交差点に向かって。
 あくまで自然に。違和感の無いように気をつけて。
 そうして、目の前に一人立つセイバーに凛は声をかけた。

「こんばんはセイバー。一人なの?」
「こんばんは凛。いえ、一人ではありません」

 ごく自然にいつも通りにセイバーは返答した。
 ただし。

「……いえ? つまり士郎と一緒という事?」
「はい」

 凛にはそこだけが不可解だった。
 慌ててもう一度周囲を見回すけれど、士郎の姿は影も形も無い。
 だというのにセイバーは士郎と一緒だと主張している。
 ならば、士郎はどこにいるのだろうか。
 お人よしの士郎が一緒であれば、まず罠の可能性はないのだが。

「セイバー、衛宮くんはどこに居るの?」

 再度あたりを見回す凛に対し、セイバーは事も無げに言う。
 ただ、事実を告げるように。

「凛の目の前にいますよ」

 でも、凛にはセイバーしか見えやしない。
 凛の脳裏を疑惑が駆ける。
 いくつもの想像が駆巡る。
 この状況が何かの罠だという可能性は低いように思えるが、信用は出来ない。

「うぬぬ……」

 段々思考が煮詰まっていくのに凛本人は気づかない。
 羽目を外した思考が面白い方向に転がっていく。

 むー、それじゃぁ……

 ―― まさか、戦闘があって士郎は倒されたとか。

 ……それでそれで、現実が認められないセイバーが自分の世界に閉じこもって、あげくに脳内士郎が見えちゃってたりなんかして……

 どこまでも煮詰まって変な方向に思考が転がっていく凛。
 それを珍獣を見る顔で眺めるセイバー。
 珍しいといえば大変珍しい光景であるが、大変失礼な目で見られていることに凛はまるで気づかない。
 やがて結論が出たのか、凛は妙に気の毒そうな表情でセイバーに向き直り、恐る恐る声をかけた。

「あの、セイバーよく聞いてね? 私知らなかったの、あなたがそんなに衛宮くんを思いつめてたなんて……」
「凛、その想像は間違っているし、微妙に失礼だ」

 セイバーはキッパリと断言し、凛のヤバ気な言動を制止する。
 さっきの自分の目つきは棚に上げる事にしたらしい。
 その上で呆れたようにボソリと言うセイバー。

「シロウ、あなたが黙っているから凛が混乱していますよ?」
「…………へ?」

 凛の頭に疑問符が浮かぶ。
 一個、二個、そして三個。
 それが景気よく点滅するのを待っていたかのように。

「ああ、悪い遠坂。あんまり面白かったから」

 聞こえてきた声は、紛れもなく衛宮士郎のものだった。
 ギョッとして、固まる凛。
 対して、声はどこまでものんびりしていたりする。

「ど、何処にいるの、士郎?」
「此処だ、此処」

 事も無げに言って。
 そうして士郎はひょっこりと。
 何事も無かったかのように顔を出した。




 ―― セイバーのスカートの中からひょっこりと。




 凛、硬直。
 固まった。
 完膚なきまでに凍りついた。
 絶対零度な勢いで。

「凛?」
「遠坂?」

 そうしてフリーズする事数秒。

「な……」
「な?」
「な?」

 無事、再起動に成功した凛様。
 まず手始めに。


「何してるのよっ、あんたはぁぁぁぁぁっ!!」

 程よい高さの士郎ズ顔面に、しこたまヤクザ蹴りをぶち込んだ。
 連打、連打、連打、連打連打連打連打打打打打打打……




「痛たた……何するんだ遠坂」
「大丈夫ですかシロウ……あ、そこ触らないで」

 荒い息を吐く凛が正気に戻った時、事態は一向に改善されていなかった。
 目の前にいるのはセイバー。
 そして、そのスカートからカタツムリのよーに顔を出している衛宮士郎。
 ちなみにさすがにアヴァロン内包してるだけあって、士郎は思いっきり頑丈だった。あれだけ本気でぶち込んだヤクザ蹴りがすでにノーダメージのようである。
 さすがだ主人公。タフでなければ正義の味方はやってられない。

「で、あんた達なにしてんのよ……」

 顔を片手で覆ってため息を吐きながら、疲れた様に凛は言った。
 それに対し、セイバーと士郎はキッパリと答える。
 自分の行動に何も迷いの欠片なく。
 威風堂々胸を張って。

「「必勝法だ」です」
「…………は?」


 10分後


「という訳で、常に密着している事によってマスターをガードしてだな」
「はぁ、あんたソレ本気で言ってるの? おかしいと思わない?」

 説明する士郎に頭を抱える凛がいた。
 もちろん士郎は未だにセイバーのスカートの中。恥も外聞もなく、全然出てきやがらねぇ。
 そして凛には、そのアイデアは酷く馬鹿馬鹿しく聞こえる。どう考えても。
 というか、普通に考えたらそうだろう。
 スカートの下が一番安全なんだと主張して、本気で潜る馬鹿は変質者として突き出すに限る。
 だが二人は強硬に必勝法だと言い張って譲らない。
 特に士郎は尊敬する養父を心の底から信じきっている。
 本気で言ってるから始末に終えない。
 そうして今この場においては、実は彼らの方が多数派だった。

「親父はこうやって勝ち残ったんだ!」
「その通りです。 ……あ、シロウ、そんな所……」

 実績があると主張し続ける二人。
 時折セイバーが変な声をあげたりするのが、何か猛烈にアレだった。
 大体からして、前回の聖杯戦争経験者はセイバーしかいないのが困った所。
 ……というか、セイバーのスカートに潜りこんで聖杯戦争勝ち残ったのか、衛宮切嗣。手段を選ばなさ過ぎるのも程がある。

「はぁ……ねえアーチャ―、何とか言ってよ」

 立て篭もり犯の説得――凛からすれば、正にそんなイメージだった――に疲れきった凛が、未だ姿を現さないアーチャーに助けを求める。
 気持ちは判らなくもない。
 凛の呼びかけに応じてか、頭の上辺りで霊体アーチャーが揺らめく気配がする。

「凛……」

 そうして、返答するアーチャー。
 キッパリと。

「素晴らしい名案だぞ、それは!」
「………………え?」

 中空から降ってきた声は、心底からの賛辞を送っていた。
 一部の隙も無く、見事なまでに。

「正に目から鱗だ! 戦術の革新だ! まさかそんな手が有ったとはな!」
「……え、え?」

 最後の頼みの綱は、すでに切れていたりした。
 いくら進化したとはいえ、こいつも結局の所詮エミヤ。
 ……ひょっとしてこれは誰の眼にも明らかな帰結で、おかしいのは自分の方なのだろうか……いや、そんな筈はない! どう考えてもこんな結論はありえない……はず。
 なまじ頭が良いだけに混乱と困惑の渦に叩き込まれる凛様。
 それを余所に状況は転がる。

「心からの賛辞を送らせてもらおう」
「それじゃ、遠坂達もそうすればいいや」
「そうですね。協力者が簡単に敗れては困ります」
「そうだな……ではいくぞ」

「へ?」

 こうして、凛がふと我に帰った時には――


「二身合体! パーフェクトアーチャァァッ!!」
「ぐぇっ!?」


 アーチャーが降ってきていた。
 きっちり押し潰されて、潰れたカエルのよーな声をあげる凛様。
 もちろんアスファルトにベチャッと潰れた様もカエルのごとし。

「おや? 目測を見誤ったか?」

 冷静に、事実を告げるアーチャーの声。
 彼の算段では、凛が自分の腰布の内に納まるはずだったらしい。
 対する凛。

「見誤ったか? じゃ、ないわぁぁぁぁっ!!」
「ぐはっ!?」

 下から火の出るよーなアッパー炸裂。
 メコッというヤバイ音と共にアーチャー撃沈。
 ……ちなみに場所はアーチャーの股間。

「うああ……」

 思わず眼を背ける士郎。
 気に食わない相手ではある。
 だが、その瞬間だけは士郎は深く同情した。
 その息絶える寸前のようにアスファルトの上でビックンビックンと痙攣している様を見ると、同性として生暖かい同情に耐えない。
 だが、女性陣はそんな些細な事――そう、その痛みの理解できない彼女らにとっては些細な事なのだチクショウ――に構ってはいなかった。
 だから、いち早く気づいたのは彼女たち。

「誰?」
「何者!」

 新たにその場に現れた気配に、いち早く対応する凛とセイバー。
 その反応に一分の隙も無く、アーチャーへの一分の同情も無い。
 それはさておき。
 新たな人影は、悠々とその場に現れた。

「フッフッフ、話は聞かせてもらったよ」

「慎二!」
「それに……ライダーのサーヴァント、ですか」

 現れたのは間桐慎二とライダー。
 ゆっくりと闇から現れた慎二は、警戒する彼らを他所にニヤリと笑う。そしてその後ろに無言で佇むライダー。
 そして、実は内心で凛もニヤリと笑っていた。

 ―― よし、これで戦闘だ。

 このまま必勝法論議なんて続けたくなかった。
 馬鹿馬鹿しい事はうやむやにして、ここは慎二をぶちのめして今夜はおしまい。
 私は闘うヒロインとして大活躍!
 そんな思惑があったのだが。
 しかし、慎二はそう考えなかったようだった。
 うやむやどころか露骨に話に乗ってくる。

「まさか、そんな手があったとはね。これで僕たちの勝利は確実だ!」
「クッ!」
「しまった!」

「…………」

 慎二の言葉に慌てる士郎とセイバー。凛はなんだかものすごく微妙な表情で黙っていた。
 話を終わりたかったのに……けど真似されたら、本当に困るのかソレ?
 だが慎二は余裕シャクシャクに彼らの方をクイと顎で示して指示を下す。

「あの通りにしろ、ライダー!」
「はい、シンジ」

 その指示は、慎二もまたあの必勝法とやらを有用とみなした事を示していた。

「チィ……」
「シロウ、下がって!」

 士郎とセイバーが緊張の汗を流して一歩下がる。
 優越感を浮かべて眺める慎二。
 そして、ライダーが命令通りに動き始めた。
 まず慎二の背中に片足をかけ、そして――


「変身! スーパーライダー!!」
「グエッ!?」


 次の瞬間、ライダーが慎二を踏んでいた。
 きっちり押し潰されて、潰れたカエルのよーな声をあげる慎二。
 もちろんアスファルトにベチャッと潰れた様もカエルのごとし。

「…………」
「…………」
「…………」

 交差点に微妙で生暖かい静寂が生まれていた。
 その痛い雰囲気のまま十秒ほど経過。

「ライダァァッ! 違うだろがぁぁぁぁっ!!」

 ガバッと跳ね起きて喚く慎二。
 それはもう、凄い勢いで。
 その慎二にライダーは小首をかしげて問う。

「スーパーライダー旋風キックの方が良かったですか?」
「そうじゃねぇぇっ! アッパーからそのままフィスト入れるぞゴルァ!!」

 泣きながらアッパーを空撃ちする慎二。
 どうやらアーチャーをKOした凛の一撃は見ていたらしい。
 で、それを黙殺してライダーのたまう。

「指示は正確にしてください、シンジ」
「おまえわざとだろ? 今の絶っ対わざとだろぉっ!?」

 詰め寄る慎二、露骨に視線をそらすライダー。
 なんとも言えない表情で見守るその他の面々。
 慎二は涙眼になっていたりして、ちょっぴり哀れだった。

「ああもう! 衛宮だよ、衛宮の方を真似るんだよ! 判ったか!」

 ズビシッとセイバーのスカートから覗く士郎の顔を指差す慎二。
 きっちり正確に指示しているあたりは、割と健気だ。
 だが、ライダーは「やれやれだぜ」と言いたげに首を振る。

「な、何でだよ!」
「落ち着いてくださいシンジ。私のスカートに隠れるのは無理があります」
「あ……」
「おお!」
「そういえば」

「…………」

 ふと我に返ってセイバーとライダーを見比べる慎二。
 及び士郎&セイバー
 いや。見比べるまでもなく、どう考えてもライダーのミニスカートの中に隠れるのは無理だろう。……というか最初に気づけ、と心中突っ込みを入れる凛。

「な、なんだよ! それじゃ衛宮に勝てないじゃないか! この役立たず!!」
「安心してくださいシンジ、手はあります。要は主従一体となればいいのですから」
「そうか! どうするんだ!?」
「まず、こうやって……」

 ああやってこうやって……
 ……………………
 ……………………

「……シロウ、今攻撃したら勝てますが」
「……まあ、待ってやらないか?」

 セイバーと士郎の間に戦闘中ではありえない空気が流れていた。
 凛にしたってすでにやる気は失せている。
 コレを「敵」と認定するのは魔術師として沽券の関わるような気がヒシヒシとするのだった。
 そしてややあって。


「さあ、これで主従一体MkU型です。我々はセイバー達にも負けていません」
「よ、よし。フハハハハ、どうだ衛宮! 僕が怖いかぁっ!!」


 優位を確信して高笑いを上げる慎二。
 その顔は狂ったような優越感に満ちていた。

「……怖いな。あれで疑問を感じないところが、特に」
「はい」
「……慎二……あんたってヤツは……」

 ライダーの指示でその場に四つんばいになった慎二。
 そうして、ライダーはその首にカチャカチャと鎖を巻きつけて。
 完成したそれは、どこから見ても『犬の散歩』以外の何者でもなかったりする。
 しかもライダー飼い主。
 どこから出したのか、ライダーがビニール袋とスコップを持っている辺り芸が細かかった。

「どうした衛宮! 怖気づいたかっ!」
「いや、怖いけどな。……おまえの脳みその在り方が」

 哄笑する慎二。げんなりする三人、ただし士郎はセイバーのスカートの中。そして未だ痙攣しているアーチャー。
 ちなみに凛にとってはエロカタツムリ士郎の脳みそだって、十分怖かった。
 それはさておき。
 場はもう、どうにもないくらいに、どうしようもなくなっていた。
 泣いて「いやー、お家帰るー」言い出したいくらいにまで。
 ああ誰かどうにかしてくれないかしら。この際、全部うやむやになるような派手な戦闘とか……
 不謹慎に、そんな事をお星様に願っていたりする。
 そんな祈りが通じたのか。

「あらあら、ぞろぞろと集まって何のご相談かしら?」

 聞こえた声の主はキャスター。
 その背後からの声は、凛には天の助けのように聞こえた。

 ―― いける! このままうやむやに、派手なバトルにすり替えできる!

 キャスターを倒して、めでたしめでたしで終わる話に変えるのだ。
 そうして私は闘うヒロインとして君臨するのよ! 私は単なる親友キャラでも解説キャラでもない! 絶対「最終決戦には重症を負って不参加のテリーマン野郎」とか「子犬ならともかく慎二を助けて戦線離脱のテリーマン野郎」とか「実力者と言われつつ噛ませ犬に最適のテリーマン野郎」とか、もう言わせないんだから!
 何か、テリーマンに恨みでもあるかのように心の中で叫ぶ凛だった。
 もしアーチャーに意識があれば「凛、それは近親憎悪だ」と言って、もう一度沈められていた事だろう。
 ともかく凛は張り切っていた。
 クルリと振り返ってビシッと指を突きつける。

「現れたわねキャスター! ……あ?」

 硬直する凛。
 指差した先に居たのは確かにキャスターだった。
 ただし、身長が2mを大きく上回っていたりする。

「あ……え?」

 一度、思いっきり上にあるキャスターの顔を呆然と見つめて、それからゆっくりと顔を下げていく凛。ローブの先からは地味なスーツの下半身が突き出ていた。
 つまり。
 キャスターは葛木に肩車されているのだ。


「おほほほっ、必勝法とやらはもらったわ! しかも高機動型よ!!」
「あ、あんたらもかぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 ガックリと泣き崩れる凛。
 それを見たキャスターは何故かはしゃぐ。
 というか、葛木に肩車されてるだけで異様にハイだ。
 内心では「ああん、宗一郎様が私の脚に……それだけでメディア濡れちゃうぅ」とか思ってる事は説明するまでも無い。更に「ああん、こうやって宗一郎様のお顔を素足で挟み込んで、脚を絡ませて(中略)」とか思っていたりとか、それから「いっそ(以下省略)」とか思ってるのは言うまでもなかった。

「宗一郎様! 私たちの愛の前に、敵は戦意喪失しましたよ!」
「そうか」

「うううううう、あんた達だけはシリアスだって信じてたのにぃぃぃぃ」

「む、高機動型だと!?」
「うむむ、強敵だ……」

 涙に濡れる自称戦うヒロイン。
 その後ろでは、必勝法『エロカタツムリ型』と『(自称)主従一体MkU型』がボソボソと何か言っていた。
 気おされたかのような面々に、俄然勢いづくキャスター。

「宗一郎様、ここは一気に!」
「うむ」

 ―― 来る!?

 凛はハッと我に帰り飛び退る。
 右にエロカタツムリ型セイバー&士郎。
 左に(自称)主従一体MkU型ライダー&慎二。
 そして、凛自身のサーヴァントはといえば――

「すぴー」
「寝るなぁぁぁぁっ!!」

 いつの間にか寝入っていたアーチャーに蹴りをくれた。

「おぅ!?」
「ああもう、いいからチャッチャと立つ!」

 そうして無理やり立たせたアーチャーの背中によじ登る。
 形的にはおんぶの格好。

「凛、ようやく判ったか!」
「もう何でもいいから! 必勝法とやらでいいから、片付けるわよ!」
「承知!」

 もう、どうでもいいから暴れさせて!
 そんな投げやりな戦意が凛を無闇に駆り立てていた。

「遠坂……やるぞ」

 スッとアーチャーの横に並ぶセイバー&士郎。
 その瞳には闘志がみなぎっている。
 ……片方はスカートの下からだけど。

「ふん、今回だけは手を貸してやるよ」

 更にその横に並ぶライダーwith慎二。
 ライダーの戦闘力は味方にすると頼もしい。
 ……ただし、慎二が四つんばい鎖つきだったりするが。

 ともかくも三人のザーヴァントと三人のマスターが横に並ぶ。
 しかして対峙するキャスターは一歩も引かない。
 三人のサーヴァントを相手に回して、不敵に笑う。

「あらあら怖い事、それでは……来なさいアサシン!」
「なにっ!?」

 驚く面々の前でキャスターの腕の令呪が光る。
 サーヴァントにしてマスターであるキャスターは、令呪を使うことが出来るのだ。
 令呪による召喚が、五人目のサーヴァントをここへ呼ぶ。

「お呼びかな?」

 そうして現れた涼しげな声の男。
 陣羽織を着た優男は――

 ドザッ

「はぅっ!?」

 よりにもよって、キャスターの上に現れた。
 そのままキャスターの肩にドサッと。
 つまりキャスター、アサシンを肩車。

「お、重!? き、きゃあ、バランスがっ! きゃあきゃあ!?」
「ぬっ……」
「よっ」

 グラッと行くキャスター。
 しかし、鍛え抜かれた筋力で耐える葛木と、極限のバランス感覚で持ちこたえるアサシン。
 究極のバランスと筋肉、三人肩車の完成である。
 ちなみに、なまじ真ん中に入ってしまったキャスターさんわりとピンチ。
 一番上ならともかく、これでは魔術も使えない。

「こ、小次郎! なんでそんなトコに!」
「ぬ? 出掛けにこれがマスターを守る形だと言っていたではないか?」

 サーヴァントにしてマスターであるキャスター故の悲劇だった。

「そ、それは……あああっ!?」
「むぅ、ん」
「っと、今度はこっちと」

 踏みとどまる葛木とバランスを取るアサシン。
 フラフラと揺れる、三段肩車。

「……アホだ」
「……アホがいる」
「……馬鹿ね」

 ――ダメだこいつら。

 バランスを取るだけで必死のキャスター様ご一行を前にして、凛達の戦意はモリモリと盛り下がっていた。
 では、サーヴァント陣はどうかというと。
 もう全員なんかやる気の無い眼で、そこらから石を拾い集め始めていた。
 無論、目前の『トーテムポール』に投げつける為である。

「さー」
「誰の石が」
「アレを倒すでしょうね」

「ちょ、ちょっと、キャーー!?」

 ものすごく投げやりに棒読み口調でそう言って、ポイポイと石を投げつけるセイバー、アーチャー、ライダー。ただの石でもサーヴァントが投げればそれなりの威力はある。
 悲鳴をあげるキャスターに、見えてないのに勘だけで避ける葛木。そして物干し竿で迎撃するアサシン。バランスを取りながらやっているのだから大したものだった。
 それでも身体能力の低いキャスターが、いずれこの体勢に耐え切れ無くなるのは時間の問題ではある。上の動きと下の動きについていけずに、キャスターの腰がグキッと行くのは間違いない。
 そのまま何事も無ければ。

 結局のところ。
 そうなる前にそれは起こった。

「ん?」
「なんだ?」
「む?」

 それぞれ地響きや視界で、そいつの接近を捉える。

 ドドドドドドドドドドドドド……

 地響きがこの交差点に近づいてくる。
   それは正に疾走する巨獣のごとき威圧感。

「シロウ! この気配は……あふん、ソコ舐めてはダメ……!」
「ああ、バーサーカーだ……じゃ、この辺は?」


 緊張が走る。
 セイバーには快感が走ってるらしいが、どうでもいい。

「凛、油断するなよ!」
「……うん、一応ね……」

 お願いだからこのままシリアスになってくれないかなぁ。そう祈りながらも、凛はすでに半ば以上あきらめていた。
 そして、ついに黒い暴走機関車が目前で急停止する。
 その威容とド迫力、力を内包した圧倒的な筋肉が、戦慄を呼び起こす。
 凛の眼がその姿を凝視した。
 バーサーカーのその身体を。

 ―― スカートはない、鎖も持ってない、おんぶしてない、肩車もしていない。

 ようやく? ようやくシリアスなバトルになってくれるの? わたしに闘うヒロインに相応しい活躍を……与えてくれるの!?
 かすかに期待を膨らませ、夢あふれる凛。
 だが、彼女は気づくべきだった。
 イリヤの姿が全然見えないのが、どういう事なのか。

「……おい、おまえ。マスターはどうした」

 最初にそう問うたのが慎二であったのは、端からマスター狙いに徹するつもりだったのかもしれない。
 それでこそ悪役に相応しいとは言える。ただ、ダークヒーローを演じるにはその飼い犬スタイルは致命的ではなかろうか。
 無論バーサーカーは答えない。
 だが。

「あら、わたしはちゃんと居るわよ?」

 その場にイリヤの声が木霊した。
 とても楽しそうなその声。

「なにぃ?」
「どこだっ!?」

 士郎が、慎二が、セイバーが、アーチャーが、ライダーが、キャスターが、葛木が、アサシンが油断無く辺りを探る。
 でも、凛だけは酷く冷たい眼をして探さなかった。
 なぜなら何となく判ってしまったからだ。
 最初に士郎を探して見つけた時の脱力感を思い出してゲンナリする。
 だって……


「フッフッフぅ、じゃーーん!!」


 そうしてイリヤが顔を出したのは。
 案の定、バーサーカーのパンツの中からだった。

 ―― あははは、やっぱりか。結局、シリアスなんて夢のまた夢なのね……

 乾いた微笑で冷たい視線を送りながら、人知れず涙する凛だった。
 一方、周囲はどよめいていた。
 バーサーカーのパンツから顔を出すイリヤは、まるで親のお腹の袋から顔を出すカンガルーの子供みたいで見た目可愛らしい。
 だが、その可愛い有袋類スタイルがその実、恐るべき機能性を秘めていることを誰もが見抜いていた。……らしい。

「むぅ、さすがアインツベルン……」
「あれが完成形なのか……」

 ざわめきが起こる。
 それを尻眼にニンマリと笑うイリヤ。

「そうよ? アインツベルンは失敗を繰り返さない。キリツグの見つけた戦術は、アインツベルンで更に進化したのよ!」

 どよめく面々。
 唯一人「ホントかよ」と内心突っ込んでいる凛。
 今でも馬鹿馬鹿しいと思っている。
 こんなんが必勝法だなんて、正直ありえないと考えている。
 でも。
 すでに周りがおかしいのか、自分がおかしいのかが分からなくなりかけていた。

 ―― 父さん、あんた、こんなのに負けて死んだんですか?

 そう思うと泣くに泣けなかったりするのが、そこはかとなく哀れだったり。
 だが事態は凛の思いとは別に、状況は進行した。
 彼等の結論はもちろん――


「セイバー」
「はい?」

「凛」
「何よ?」

「ライダー」
「なんですかシンジ?」

「メディア」
「はい、宗一郎様?」
「キャスター殿……」


 各々、信頼する相棒に呼びかける。
 そして一瞬の間を置いて。


「「「「「やるぞっ、あれをっ!!」」」」」


 一斉にイリヤをズビシッと指差した。
 それも、ものすごく嫌ンな感じにシンクロして。

「「「「はい?」」」」

 言われた方も、奇妙にシンクロ。
 でも、こっちはイマイチ理解していなかった。
 が。

「こういう事だ」

 その声を皮切りに、一斉に行動開始。
 ここでの思考は全て同じ。
 熱い男達の目指したのは、イリヤの示した完璧な必勝法。
 つまり。



『マスターinサーヴァントのパンツ作戦!』



 これあるのみ!
 皆が一斉に行動し、それぞれ個別に状況が進んだのだが――

 ――ではここでプロセスをもう一度見てみよう。


 1.セイバー&士郎

「セイバー! おまえのパンツの中に、俺をっ!」
「や、シロウ! それは……ああ、ん……やぁ、中にぃ……」
「うん? 変だな、中はぐっしょりだぞセイバー?」
「い、言わないでくださいっ。ああ、イヤァ……シロウぅ」

 セイバー、速攻で陥落。
 地面に濡れたショーツがポトッと落ちた辺り、双方目的を途中で見失ったっぽい。
 ……若いからな。


 2.アーチャー&凛

「さあ凛、ここに!」
「何見せてんのよバカっ!!」

 一撃。

「はおぅっっ!?」

 アーチャーはゆっくりと崩おれる。
 額に青筋の浮いたあくまの笑顔に見送られて。
 フルチンのまま。


 3.ライダー&慎二

「ライダー! 僕を、げはッ!?」

 慎二はライダーのパンツに手をかけた時点で、意識を失った。
 だが。
 全国一千万のライダーファンの祈りか、はたまた欲望か。
 かけられた手は、掴んだままズルリと落ちて――

「…………」

 無言のままライダーの顔がみるみる真っ赤になって。
 そうして羞恥心の表れか、ブンブン鎖を振り回すライダーがいた。

 鎖の先で一つの生命が消えかかっていたのは、特に気にしないらしい。


 4.キャスター&葛木+アサシン

「メディア……」
「あ、宗一郎様……優しく、脱がし、て」

 なんつーか、エロエロだった。

「それではそれがしも」
「あああっ、あんたは何押し付けてんのよっ! いやっ、脱ぐなぁぁっ!!」

 でも、ダメダメだった。

「ぬ……」
「あ、そんな、舌が掻き混ぜて……くぉら、貴様はドサマギに何してるかぁっ!!」
「ぎゃああっ噛まれたでござるよっ!?」

 ……いや、やっぱエロイのか?


 ――と、それぞれがそれぞれにダメダメッぷりを発揮していた訳なのだが。
 そんな困ったちゃん達を目の前に、イリヤはしっかり優越感に浸っていた。


 5.バーサーカー&イリヤ

「うん。分かってたけど、やっぱりイリヤ達が最強ね」

 口の端に指を添えて、ニンマリとする。
 目前でパンツ落としたりとかフンドシ脱いだりとかしてる連中を見据えて。
 そうして、ビッと指差し幼い声で叫んだ。

「一網打尽ね。やっちゃえバーサーカー!」

 それですべてが終わる。
 ……はずだった。
 バーサーカーが命令どおりにしていれば。

「どうしたのバーサーカー?」
「■■■■■■■■!」
「は? ソコでもぞもぞ動かないで? ってなんで?」

 そう、完璧と見えたそのスタイルにも実はあったのだ。
 構造的欠陥が。

「……バーサーカー、そいえばさっきからずっと何か」
「お尻に何かあたってるんだけど。何この固いの?」
「■■■■■■■■■■■!」
 ゴソゴソ

「■■■■■■■■■■■!!」
「……手で触っちゃダメ? なによそれ?」

「■■■■■■■■■■■!!!!」
「もうダメ? 何が……いやあああっ、お尻に何か熱いのがっ!」


「何よ、この白いベトベトぉぉっ!?」


 パニックに陥るイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 服は真っ白なベトベトまみれで、ある種の趣味の人々がハァハァしそうだった。しかもまだまだドプドプと。
 バーサーカーはバーサーカーで何やらっぐったりしてぶっ倒れていた。
 数千年分だったのだろう。たぶん、きっと。

 結局、こいつらもダメダメ。





「……はぁ、虚しいわね……」

 早々にアーチャーを撃破した為、凛はただ一人惨状から免れていた。
 彼女はその地獄の赤と、言うまでもないピンク色に染められた空間を見るとも無く見続けている。
 結果的に立っているのは凛ただ一人。(ただしキャスター達のは立っている内に入らないものとする)
 故に、云わば彼女が勝利者であると言っても良いはず。
 そーいう理論の元に彼女は自らを勝者とみなし、感慨にふけっていた。
 途中経過はこの祭もうどーでもいい。
 つか、思い出したくない。
 だが勝てば官軍なのだ。
 勝利者は義務として敗者を見届けねばならない。

「勝利はいつも空しいものよね……」






 ちなみに数分後。
 通報により駆けつけた警察に、全員しょっ引かれる。

「なんでわたしまでーーーっ!?」

 容疑は『ワイセツ物陳列罪』『傷害罪』その他諸々だったとかなんとか。


 こうして切嗣の編み出した必勝法は、歴史の闇に葬られる事となった。
 黒歴史として永遠に。






 本日の戦闘結果。

 ―― 全員痛み分け。何人かは心に消えない傷を負った模様。以上。






 一方。

「今回もギルガメッシュは承諾してくれなくてな」
「嫌だ! 断じて嫌だ!」
「ぬ……ランサー、おまえは私にまた負けろというのか?」
「何と言われようと嫌な物は嫌だっ!」

 ランサーはジリジリと迫る言峰から逃げ回っていた。


「そんじゃ令呪使ってしまおう……ランサー、パンツを下ろせ」
「ぬあああああああああっ!!?」


 ―― 補足。心に消えない傷を負った者、一名追加。






< 了 >







 後書き

 かつてMARさんと交わした漢の約束、「狂詩曲に参加できない代わりにギャグを一本書く」。
 確かに果たしましたぞよ。
 では、硝子の月にますますの発展を願いつつ。




 MARの感想

   一読して腹抱えて笑え転げました。
 権兵衛党さんのギャグ作品が面白いというのは以前から知っていたのですが、いや、これはズルイ。
 さりげに(?)ピンクな展開なのもポイント高い! やはりギャグに微エロは欠かせませんw
 
 もう、頂いてしまって良かったのかと思うほどの作品。本当に、ありがとうございました〜