闇鍋おかわり。


 某掲示板に投稿したり、SNSにのっけたりしてた小ネタ集その2です。
 あくまで小ネタなので、整合性とかそういうものはご容赦を。


No.1 <エーデルフェルトの膝上で>(Fate)
No.2 <プロジェクトV>(月姫 嘘予告)
No.3 <貴方を、感じたい>(Fate 十八禁)
No.4 <M・S・C>(月姫 嘘予告)




<エーデルフェルトの膝上で>

 つややかな毛並みの猫が、わたくしの膝元に頭を摺り寄せてきました。書き物をしていると言うのに、この子にとってはそんな事などお構いなし。見た目に違わぬ気位の高さと我侭ぶりに、思わず口元が緩んでしまいます。
 ここ数日、ロンドンでは珍しくやわらかく暖かい日が続いていて。愛用の椅子を窓際に移動させて仕事をする、わたくしのささやかな楽しみに花を添えてくれていました。しかし今日の所はこれでおしまい。この子の相手をしてあげなければいけないみたいですね。

 飾り付けられた黒いリボンを揺らして、この場所は私のもの、と言わんばかりに膝の上によじ登ってくる。あわてて手を伸ばして落っこちないように支えてあげると、安心したかのように体を丸めてしまいました。苦笑して、顎のあたりを撫でてあげる度に目を細めて気持ち良さそうに細い泣き声を上げる。
 その様に、わたくしの方が今やこの子の虜になっていました。


 クリスマスプレゼントに何が欲しいかと訊ねてくる。シェロの言葉にしばし考えあぐねたわたくしは、猫が欲しいとおねだりを。
 使い魔ではなく、ただのペットとして。魔術師ではなく、ただのルヴィアゼリッタが一時心を癒す相手として、猫が欲しいとおねだりを。
 もちろん彼の財政も、その師匠であるミストオサカの財政事情もよく心得ていますから、とびきりの血統種など所望いたしません。そんな物が欲しいのであれば、わたくし自ら足を運べばいいだけの話ですから。
 欲しかったのは心のこもった贈り物。添え物がミストオサカの悔しそうな表情であれば、言う事無しだったのですから。
 そして当日。シェロの名の書かれたメッセージカードと共に送られたこの子は、想像をはるかに超えていました。
 掛け値なしの血統種。しなやかな白い体に黒いリボンを巻きつけて、切れ長の翠玉の瞳に尽きぬ知性を宿したこの雌猫を、わたくしは一目で気に入ってしまいました。
 以来、屋敷の中ではどこでもこの子と共にいます。使用人たちは首を傾げておりましたが、わたくし自身が気に入っての行動ですから、何も言ってはきません。

 寒がりなのでしょうか、猫は庭を駆け回ることはなく、わたくしの部屋が大のお気に入りの模様です。魔術の研究を終えて部屋に戻ると、いつもわたくしのベッドを我が物顔に占有して体を丸めています。でもドアの音でわかるのか、ぴょんと飛び降りて足元に寄ってくる。その現金な様に頬が緩み、頭を撫でてあげるとこの子も嬉しそうに鳴き声をあげてくるのです。


 猫は自分が可愛い生き物であると気づいているのでしょう。わたくしが構わずにいられないと知っているかのように、時折手を差し伸べてもつんと首を振り、部屋の片隅で毛繕いをしている事があります。
 そんな時はこの子とわたくしの我慢比べ。興味が無いとばかりに椅子に腰掛けて本を読んだり、宝石の手入れをしたり。そうするとこの子も気を引こうと、伸びをしてみたり可愛い鳴き声を上げてみせたりします。でもここで視線を上げてしまっては駄目。そうするとこの子の思う壺ですもの。
 ああ、だけど今日の所はわたくしの負けみたい。手にしている本はお気に入りの作家の新刊。普段ならば周りの音も気にならないくらい内容に没頭できるのだけど、今日はまったく文字が頭に入ってこないのです。ため息をついてぱたんと手を閉じて、椅子から立ち上がりました。
 私の勝ちね。そう言いたげな顔で胸をそらしている猫の傍へいくと、その柔らかな体を抱きしめて、敗北を認める事にいたしました。

 夜眠る時もこの子と共に。
 ベッドは広いですから、猫が一匹潜り込んだ所で何の問題もありません。
 ある時はわたくしの胸に寄り添うように。またある時は背中にぴったりとくっついて寝息をたてている。気まぐれなこの子は寝る場所も気分で変わるようですが、今日は私の腕の中を寝床に決めたみたいです。その可愛らしさに思わず手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめてしまいました。
 苦しげに鼻をひくひくとさせたこの子はすぐに、お返しとばかりにわたくしの指をかぷりと甘噛んできます。爪先に当たるこの子の歯の硬い感触と、指の腹を撫で上げる滑らかな舌のやわらかい感触。異なる二つの刺激に思わずわたくしの口からはしたない吐息が。その声に悪戯心を刺激されたのか、猫は胸元に擦り寄って、わたくしの首元をぺろりぺろりと舐めてきます。
 本当に悪戯な子なのですから。
 咎めるように額を軽く小突くと、目を細めてさらに擦り寄ってきました。
 この悪戯も甘えん坊の裏返し。それを受け止める喜びに打ち震えて、わたくしはこの子のしたいがままにさせる事にいたしました。
 どうやら、今日の所は少しばかり眠りにつくのが遅くなってしまいそうです。


 この子をプレゼントしてくれたシェロに語りつくせぬほどの感謝を。
 彼の誕生日はいつだったでしょうか。おそらく猫を欲しがる筈ですから、今の内からしっかりと用意をしておかないといけません。
 金色の毛並みの、そしてとびきり気位の高い、リボンの似合う可愛らしい雌猫の用意を。


おしまい。





 ――かつて人と死徒が刃を交えた時代があった。
  戦いは気が遠くなるほど続き、人々は力と住処を失い。
  そして世界は、黒き森に埋め尽くされた。


「ここもまたアインナッシュに飲まれたか……」
「クソ、こんなところにまで根が伸びてきていやがるっ!」
「この谷の水でもダメなんです。彼らはただ貪欲に、血を求めている」




 <プロジェクトV>
黒き森を止めろ! 〜吸血鬼化森林浄化作戦 不可能に命を掛けた祖〜





 世界が汚染されている。彼の愛した、美しき自然が失われていく。
 死徒の祖、ヴァン=フェム。
 長き時を生きた彼にとって、その事実は耐えがたい苦しみだった。

「ボクには理解出来ないね、ヴァン=フェム殿。何でそんな無駄な事に労力を費やすんだい?」
「リタ殿が美しい者を愛するように、私は美しい世界を愛しているのですよ」



 自信を持って作り出した除草剤。
 結果は、散々るものだった。
 森は、止まらなかった。



「もう、諦めた方がいい。森がなくても私たちは生きていけるだろう?」
 友人である、トラフィムの言葉。ヴァンには、とても重いものだった。
 首を横に振る。
 それは認めるわけにはいかない事だった。自らの、誇りのために。
「王よ。例え不可能だったとしても、出来たかもしれない事を諦めて生きるのは、私には耐え難い事なのです」



 薬の開発は、難航を極めた。
 積み上げられる試作品。寝食を惜しんで、命を削って開発は進められた。
 だが、駄目だった。
 どうしても問題点が越えられなかった。



 自らの力のみでは事を成しえない。
 それを悟ったヴァン=フェムは、その扉を叩いた。古き仇敵の扉を。

「貴方がここに来た事は、率直な驚きね」
「黒き姫君。過去の所業を水に流しましょうとは申しませぬ。ですが、そこをあえて曲げてお頼みしたい。この老骨に、力をお貸し下さいませ。古き世界を取り戻すために」
「……出来るとは思えないわ。あれは世界を覆い尽くした。それはつまり、世界がその姿を望んでいるという事ではなくて?」
「そうは思いませぬ」
「何故?」
「世界は美しいという事を、あなたは知っている。私も知っている。そして世界自身がそれを知っているのですから」



 助力は得られなかった。
 振り出しに、戻った。
 酔えぬ酒に溺れる毎日。研究は進まなかった。



「手伝っても良いわよ、じーさん」
 門を叩いたのは、放蕩者として有名だった女だった。

「スミレ殿。何故、貴方が」
「じーさん、美味しいお酒って、何から出来るか知ってる? 麦もとうもろこしもお米も皆無くなっちゃったんだよ? あのクソったれの森のせいでさ。許せるわけないじゃん。だからあたしはあんたに協力する。美味しいお酒飲むためにねっ!」



 研究は、格段の進歩を遂げた。無から有を作り出すスミレの力によって。
 試作品の精度は上がっていく。もう眷属であれば、十分に対処する事が出来た。森の拡大は食い止めることが出来る。
 しかし、森の中心。真なる魔樹アインナッシュに対しては、無力であった。

「じーさん。あんた頑張ったよ。森の拡大は食い止められる。それで十分じゃん!」
「確かにこれならば、世界を守る事は出来ますな。ですが、世界を取り戻す事は出来ない」

 ヴァン=フェムは苦悩する。
 これで良いのではないか。これ以上彼女に負担を書けるわけにはいかないのではないか。

「スミレ殿。これまでの協力、本当に感謝……」
「じーさん。あんた、もう少し我がままになりなよ」
「は?」
「あんたの力が必要だ、命を懸けてくれ――素直にそう言ってくれればいいの。あたしはあんたの事が気に入ってる。あんただってあたしの事、気に入ってるんだろ?」
「スミレ、殿……」
「女に意地を出させたんだ、責任とって見届けないと許さないよ?」



 薬は、完成した。
 酔いどれ水魔の、最後の言葉がヴァン=フェムの脳裏を霞めた。
「このあたしが一生に一度の本気を出したんだから、役に立たせないと化けてでるからね!」
 手に抱えた瓶が重かった。絶対に失敗は出来ない。そう思った。



 眼科に広がる黒き森。
 魔樹・アインナッシュ。
 周りのすべてを貪欲に飲み込んでいく。そのスピードは、ヴァン=フェムの想像を超えていた。
 心が揺れた。勝てないかもしれない。そう、思った。
 その肩を、誰かが叩いた。

「スミレを殺すのはボクだったんだ。それが出来なくなっちゃったんだから、代わりに楽しませてよ、ヴァン=フェム殿」
「王の役は保留だ。友の苦しみを分かち合う。たまにはそんな役回りもよかろう」
 ――リタが、トラフィムが。

「誤解しないでね。私は、私のために動くだけ。これ以上自分の領地を侵されて、気分安らかな王など居ないとは思わない?」
「この剣は姫様に捧げた物。ヴァン=フェム殿。貴方への確執は今はおいておきましょう」
「貴公は貴公の道を行け、古き友よ。俺はただ、アルトルージュ様につき従うのみ」
 ――仇敵たる黒き姫とその騎士が。

 剣を振るい魔術を練り上げ、黒き森を止めている。
 諦めろと、無駄だと彼を諭した彼らが、刹那の時間を稼ぐため、命を投げ出している。
 揺れは止まった。心は固まった
 絶対にたどり着いてみせる。そう、思った。



 しかしその決意をあざ笑うかのように、森は深く広く、そして強大だった。



 ――声が、聞こえた。
「お前の決意はそんな物なのか。世界を救う意思は、その程度で挫けてしまうのか」
 腕にも足にも力が入らない。
 地に倒れ伏したヴァン=フェムの前に、男がいた。
 赤い男だった。
 真紅に染め上げた外套を纏っている。肌は浅黒く焼け、髪は白く色が抜け落ちている。
「挫けるならばそこで寝ていろ。その程度の決意で世界を救うつもりなど片腹痛い」
 嘲り吐き捨てる彼の両の手には大きな、大きな鋸がそれぞれ握られていた。
 薙ぎ払い、切り捨てる。切られた枝は二度とは生えない。男の周りには確かに、森の届かぬ静寂が生まれている。
 霞む視界でヴァン=フェムは、その背中を見つめていた。


 かつて見た美しい世界が、重なった。
 酔いどれて、無責任で、しかし誰よりも熱い女の顔が、重なった。
 折れて直らぬ筈の足に。砕けて動かぬ筈の腕に、力が篭っていく。
 痛くて、重くて、どうにもならない筈の体に、力が流れ込んでいくかのようだった。

「一つだけ聞かせてくれ。人を喰らい人に忌み嫌われるお前が、何故世界を救おうとする」
「そんなのは決まっておりましょう。貴方と同じです。私は、この世界が好きなんです。ただ、それだけですよ」
「……そうか。ならばここは引き受けた。これ以上は広げさせはしない。だからお前は、自分の仕事を成し遂げろ」
 ――名前も知らぬ。正体も分からぬ。だけどそれは問題ではなかった。
 世界を共に守れと、男が言ったのだから。
 だからヴァン=フェムは、駆けた。



 聳え立つ巨木。禍々しい紅い葉。
 捜し求めたアインナッシュの中心は、ヴァンの想像を超えて巨大な物だった。
 無理だ。
 そう思った。心が軋む音が、聞こえた。
 折れそうになった心を、手の中の重みが支えた。
 背中を押してくれた人たちを裏切る事など、出来よう筈がない。
 自分たちの力を、信じた。
「世界は、まだお前の餌になるのは早いのだっ!」
 作り上げた究極の一を。
 アインナッシュをうち滅ぼす、除草剤を振り撒いた。



 森は、止まった。
 一人の男の小さな思いが、数多の仲間を動かして。
 そして確かに今、世界は救われたのだ。



 老いた表情を隠さず、それでも満足そうに彼は語る。
「……私の手で世界を救おう。世界を救った英雄になろう。そんな大それた望みを抱えていたわけではありませぬ。ただ、ただ私は美しい世界を見続けてきた。それをこれからも見たいと思っていた。ただ、それだけなのですよ」



END








<貴方を、感じたい>



 自らの体の奥底を、固く冷たい作り物に刺し貫かれる。
 そこには慈しみも温かさも感じられる事はない。腰を打ち付けられるたびパンパンと響く、肉同士の奏でる乾いた甲高い衝突音。そして湿った水音。
 そこにはただ、自らの欲望を発散しようと言わんばかりの荒々しさしか感じられない。なのに確かに沸き起こる快楽が、肉体を淫らに溶かしていく。
 心と体がバラバラになってしまいそうな苦しみに、ルヴィアゼリッタの口から悲鳴にも似た懇願の声が漏れ出した。
「あふっ……冷たい……リン! こ、んなの、ひぁう! こんなのはぁ! 嫌ぁ……」
「そう、それじゃ入れる度にきゅっと締め付けてくるのは何なのかしら」
 ルヴィアゼリッタの嘆願に、腰の下の凛はくすくすとくぐもった笑い声を上げた。その間も腰の動きが止められる事はなかった。黒い皮のベルトで括りつけられた作り物の男性器が、それに合わせて金の少女の膣内から、グロテスクな外見を外に晒される。
 少女同士が淫らに交わりあう、倒錯した光景。
 それを望んだのは、ルヴィアゼリッタ自身だった。
 夜毎の凛と士郎の逢瀬。決して士郎に選ばれる事はない自分。募る思いが行き場のない熱となって体を燃やし、火照りを沈める為に指を走らせた事などもはや数え切れなかった。
 この火照りが押さえられるのならば。士郎の温もりを、熱い欲望をこの身で受け止める事が出来るのならばどんな事でもすると。
 それが何を意味するのかを知りつつも、ルヴィアゼリッタは凛の差し伸べてきた手を取った。
 そして、彼女の夜は変貌を遂げた。
 確かに、自分の指を使う必要はなくなった。
 そのような暇など与えぬとばかりに、この一週間、凛に倒錯した欲望をぶつけられていたのだから。
 士郎はすぐ側にいる。自らの後ろで声も出さず、この痴態を余す事なく見つめている。その視線を感じる度に、ルヴィアゼリッタは自らの体に、電流のような快楽が突き抜けていくのが感じられた。
 だけどそちらを向く事は、決して許されない。
 凛の気が済むまでは、玩ばれなければならない。女同士の交わりで悦楽にわななく恥知らずな体を、ただ士郎に晒し続けなければならない。それが赤い魔女の示したルールだったのだから。
 確かにそれは自分が望んだ事。しかしそれは対価があってこそ与えられる羞恥。先の見えないそれを耐え忍び続けるには、ルヴィアゼリッタの想いはあまりにも大きく、深い。
 彼女は涙の浮かんだ瞳で、自らを刺し貫く少女を見つめた。
「お願い、しますわ……リン。シェロを、わたくしにシェロを感じさせてくださいまし!」
 その言葉に、凛の顔に浮かんだ笑顔の種類が変わる。
 獲物を手の内に納めた猫の様な、嗜虐を帯びた残酷な笑顔に。
 腰の動きを止めた凛は、その体を起こして、ルヴィアゼリッタと向かい合う。繋がりあったまま彼女の背中に腕を回して、そっと口元を耳に寄せてきた。
 吹き込まれる暖かい吐息に、ルヴィアゼリッタの背中が粟立つ。続けて発せられた声に、彼女の心がぐらぐらと揺れ崩れだした。
「そう。誇り高きルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト殿は、恥知らずにも自らの執事の荒々しくそそり上がったおちんちんが欲しいって、そうおっしゃるのね」
「そ、れは……」
「士郎ったらあんなにおちんちん大きくしちゃって。さっきからずっとあなたの後ろで、食い入るように見つめてるわよ。私と貴女がこうして交わりあってるのを見て、今にも放ってしまいそうね。そんなあいつのえっちなおちんちんが欲しいって、貴女はそう言うのね」
 楽しくてたまらないと言わんばかりに。
 鈴を転がしたような声で、自らに囁いてくる凛の言葉に、ルヴィアの頭の奥底で警鐘が鳴り響いている。そこに飛び込んでしまえば、二度と帰ってこられないと告げている。
 しかし同時に頭に思い描かれる、愛しい男の逞しい剛直が、彼女の理性を焼きつかせていく。
 凛ではなく、こんな作り物でなく、直に士郎を感じ取りたい。士郎の熱さを、猛々しさを奥底で受け止める事が出来るのならば、それはどんなにか素晴らしい事だろうか。
 思慕が暴走し、理性を脇に追いやっていく。
「そうです。わたくしは、シェロのお、ちんちんが……逞しくそそり上がったペニスがどうしようもなく欲しい……ひゃうっ!」
 皆まで言わせない、とばかりに耳たぶを甘噛まれ、ルヴィアの声が跳ね上がる。凛の唇が耳を伝い頬を滑り落ち、彼女の唇に重ねられる。
 思わず目を閉じたルヴィアだったが、唇に伝わる感触は蕩けてしまいそうなほど気持ちよい。意思とは裏腹に体はその感触に酔いしれてしまい、気づけば凛のなすがままにされていた。
 どれだけそうしていたのか、唇を離した凛は、不思議なほど優しく彼女に微笑みかけてくる。
「ふふ、素直な子は好きよ。可愛いわねルヴィア」
「ふぁ、ああ……そんな、事は……」
「だからご褒美を上げたいんだけれど……でも士郎のおちんちんは私だけのものなの。だから、ルヴィアのココには入れられないのよ」
「え、そ……んな……ひぁっ! ああっ……!」
 甘美な快楽から一転、奈落に突き落とされたルヴィアの顔から血の気が失せる。同時に凛が腰を突き上げ、再び自らの中で暴れまわる異物の感触に声が乱れ跳ね上がってしまう。
 ここまで来ても与えられないのか。期待をさせるだけさせておいて、今日もまたお預けされてしまうのか。膨れ上がった切なさに、泣きそうな顔を浮かべる彼女に向かって、凛が再び甘い声で囁きかける。
「でもね、ルヴィア。ココじゃなければ、あげてもいいわ。こっちにだったら……士郎のおちんちん、貴女の中にあげてもいいわよ」
「え……?」
 いぶかしげな声を上げるルヴィアゼリッタには構わず、その背に回されていた手がゆっくりと、ゆっくりとずりおろされていく。辿りついた凛の掌が、白く丸い瑞々しい彼女のお尻を柔らかく撫で回し、揉みしだいた。緩やかな快感にルヴィアの口から吐息が漏れるが、疑問は解けない。こことは、一体何処なのか。
 やがて凛の指が双丘を割り入りゆく。誰の目にも晒された事のない、ルヴィアゼリッタの奥底を、しなやかな指先で突付き回してきた。
 ああ、そんな。
 ルヴィアゼリッタの心は、感じた事もないほどの羞恥で今にも燃え上がってしまいそうだった。
 よりにもよって、そこで。
 排泄の時以外に触れもしないような場所を士郎に晒せと。
 不浄の窄まりを、士郎に犯されろと。
 そこ以外は許さない。そう、この女は言っているのか。
「リン、貴女……っ!」
 出来るわけなどない。このルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが、そのような不道徳極まる行為など、士郎に頼めよう筈もない。
 そう叫ぼうとした彼女の声は、しかし言葉になる事なく、掠れて消えていく。
 出来るわけがない。
 このまま士郎を感じる事なく惨めに去ることなど、出来るわけがないではないか。
 士郎に抱かれたかった。どうしようもなく士郎に抱いて欲しかった。そのためならば、その場所が膣であるか肛口であるかなど些細な問題ではないか。
 普段の彼女ならば決して考えもしないような事が、熱に浮かされて頭の中を埋め尽くしていく。
 奥底に頭をもたげる、獣のような欲望に突き動かされるまま、ついに彼女はその言葉を口にした。
「……ろでいい、です」
「ん、なぁに? 聞こえないわよルヴィア」
「うし、ろの穴でいいですから。おしりにください。シェロの、熱くて太いおちんちんをわたくしのアヌスに入れてくださいまし!」
 絶叫のような懇願が、部屋に響き渡る。満足げな笑みを浮かべた凛は、それに引き倒されるようにしてルヴィアゼリッタを抱きしめたまま、再びベッドに倒れこんだ。
 先ほどと同じような格好。凛の上に馬乗りになるようにルヴィアゼリッタが覆いかぶさっている。陰唇は張り裂けそうなほどに広がり凛の腰から生えた張り型をくわえ込んだまま。そして割り開かれた尻肉の奥には、小さな窄まりが真っ赤に充血して、外にさらけ出されていた。
「ですって。士郎、見てあげて? あなたのおちんちんが欲しいって。物欲しげに、恥知らずにひくついてるだろう、ルヴィアゼリッタのお尻の穴をしっかり見てあげて」
「いや、いやぁ……そのような事、言わないで下さいまし……」
 それは後ろの男に聞かせるというよりは、ルヴィアゼリッタをより辱めんがための責め句。それが分かっていてもなお耐え切れぬ恥ずかしさに、彼女はいやいやと首を振る。豪奢な金髪が揺らめき、薄闇の中に色をきらめかした。
「凄いな、ルヴィア」
 しかし彼女の抱えた恥ずかしさも、後ろから掛けられた声で霧消する。
 ずっと待ち望んでいた男の声が聞こえる。いつの間にか彼女の側に寄ってきていた士郎が、そっと耳元に唇を寄せてくる。
「遠坂と繋がってるところ、もうどろどろでどっちの愛液なのかわかりゃしないぞ。真っ赤になってもうこれ以上広がらないだろうに、もっと欲しいって、後から後から湧き出てきてる」
 士郎の熱っぽい声に、ルヴィアゼリッタの心に僅か残っていた理性の鎧は、ボロボロと崩れ落ちて消えていった。
「見て……見て下さっているのですね、シェロ」
「ああ、恥ずかしい所を全部晒して遠坂に抱かれてる、いやらしい姿をしっかり見てるよ、ルヴィアお嬢様」
「ああ……!」
 お嬢様、と。からかうように囁かれたその一言が、完全にルヴィアゼリッタを解き放った。
 羞恥は快感に摩り替わり、秘すべき場所は見せなければいけない衝動へとひっくり返る。
「シェロっ! わたくしの全てを、凛に犯され快楽に溺れてしまっている、この恥知らずな体をしっかりと見て下さっているのですね」
「本当に恥知らずだな、ルヴィアお嬢様。お尻の穴まで愛液が滴って、てらてらと光ってるものな」
 自らのはしたない姿を口にして、それを頭に思い描いてさらに高まる。快楽の円環運動と化したルヴィアを、士郎の言葉が後押ししていく。
 震える声で呟くルヴィアゼリッタに向かって、証拠と言わんばかりに士郎がお尻を撫で回してくる。
 しなやかな凛の指使いとは違う、荒々しく力の篭った愛撫は、それを待ち望んでいたルヴィアゼリッタにとってあまりにも強烈な物だった。
 体を突き抜ける快感の波に、背を仰け反らせて耐えようとする。
 しかしそれだけでは足りなかった。
 自らのもっとも恥ずかしい部分を男の目に晒している羞恥。女性に抱かれている異常。それらに苛まれた金の魔女は、身の内から沸き起こる熱に突き動かされるまま、蕩けた声で懇願する。
「お願いします、シェロ。わたくしの、おしりを……犯してください」
 涙を浮かべてそう呟く。
 命令ではない、懇願。誇り高い金の魔女が、不浄の穴を犯せと頼み込む。
 それに逆らえる男など、いる筈がない。すでに士郎の肉棒はこれ以上無いくらいに張り詰めている。先走りが赤黒い先端をてらてらと濡らす様は、まるで収めどころを求めて唸り声をあげているようだった。
「分かったよ、ルヴィアお嬢様……」
「お願い、しま……ひぁ! あああああっ!」
 手を伸ばした士郎に、ルヴィアゼリッタは悲鳴を上げる。凛の張り型をくわえ込んだ秘唇をなで上げられたからだ。
 あふれ出し、太ももまで濡らしている蜜が掬い上げられ、そのまま後ろのすぼまりに塗りつけられる。最初は回りに刷り込むように、そして徐々にその中心へと。物を入れる場所ではないはずのそこは、しかしいくらの抵抗も見せる事無く、ねとりと士郎の指を飲み込んでいく。
「ふぁ、あ、ああっ! 太い……そこ……」
「凄いな、ルヴィアお嬢様。簡単に奥まで入っちゃったよ」
「本当に? 凄いわね、ルヴィアったら。思ってた通り、素質あるみたいね」
「……シロウ、リン。意地悪、しないで……」
「意地悪じゃないさ。しっかり慣らしておかないと、後でもっと痛い思いをしちゃうだろ」
 指を曲げるたびに声を跳ね上げるルヴィアゼリッタは、肩越しに士郎の顔を見やろうとする。愛しい男の、欲望に火照っているであろう顔を。
 しかし下から伸ばされた凛の腕に彼女の顔を絡めとられ、それを見る事が叶わない。
「ダメよ、ルヴィア。あなたはこっちを見ていなさい」
 そのまま再び唇が重ねられる。
 秘所を貫く張り型の冷たい感触と、菊門の奥を貪り抉る熱い士郎の指。そして唇を蕩かし、柔らかく潜り込んでくる凛の舌の感触。三種類の異なる快楽装置にルヴィアゼリッタは翻弄されてしまう。
「ひ、ひあっ!」
 再び悲鳴を上げて、ルヴィアの背中が反り返った。アヌスに潜り込んでくる指が増えていたのだ。
「うわ、痛いくらいに締め付けてくる。二本なのにあっさり入っちゃうし」
「本当にえっちなのね、ルヴィアの体って」
 揶揄するようにルヴィアゼリッタの肛内で士郎の指が暴れ周り、口の中を生き物のように凛の舌が弄っていく。それだけでも達してしまいそうなほど、気持ちよかった。
 だけどそれで終わりではない。終わらせて欲しくない。
 むき出しにされた気持ちに、彼女は突き動かされていく。
「シェロ……ああ、シェロ! お願いします、あなたを、あなたを、くださいませ……」
 口付けの合間にもらされるおねだり。それが士郎の堰を押し流した。。
 彼は弄んでいた指を引き抜くとルヴィアの腰を掴み、膨らみきった自分の肉棒を押し当てる。
 指とは比較にならない太さと、押し付けられる火箸のような熱さ。
 わななく彼女に止めを刺すように、士郎はそそり立ったそれを突き入れていく。
「ああ……痛、あああっ!」
 流石に指とは勝手が違う。張り出した亀頭はきつい締め付けのせいで、なかなか先には進まない。しかしそれでも、ゆっくりと彼が腰を進めるたびに、ルヴィアゼリッタの小さな穴を一杯に広げて、彼のモノが埋め込まれていく。
「ああっ、あああああ! シェロが! シェロが、入ってっ!」
 感極まった叫び声を上げるルヴィアゼリッタ。
 そのような行為の経験など一度もない。無理やりに押し広げられた肛門は耐え難い痛みで頭の中を焼いてくる。
 しかしその痛みすらも、愛する男に貫かれている喜びと交じり合い媚薬となり、彼女の心を蕩かしてしまう。
「すごいわっ! 士郎の、震えて伝わってくるぅ!」
 薄い肉の壁越しで張り型に動きが伝わるのだろう。下から彼女を貫く凛も、士郎が腰を進めるたびに陶然とした溜息を漏らしている。
「ルヴィアお嬢様、そんなに力んじゃだめだ。ほら、もう少し力を抜いてくれ……」
 きつすぎる締め付けに耐えかねたように、士郎がルヴィアゼリッタの首筋に舌を這わせてくる。
 温かい舌が、怯えなくてもいいと言うように、彼女の背筋を撫で伝っていく。
「ほら、せっかく士郎に犯してもらってるのに。それじゃ最後までしてもらえないわよ?」
 腰の動きを止めた凛が、ルヴィアゼリッタの鎖骨の辺りに唇を這わせていく。
「あ、あ、そこ、だめっ!」
 二人の唇は的確にルヴィアゼリッタの急所を突き、緊張がほぐれた彼女のアヌスは徐々に士郎のペニスを飲み込んでいった。
「入った……!」
 深い溜息と共に、士郎がルヴィアゼリッタの背にもたれかかってくる。まるで丸太のように感じてしまうほど、太くて堅い士郎自身がお腹の奥底に埋め込まれている。息苦しさすら覚える圧倒的な圧迫感は、しかし士郎に満たされているという何よりもの証。
 士郎に抱かれている。
 お尻の穴とはいえ、士郎に愛されている。欲望の限りをぶつけられている。
「ああ、シェロが、シェロが……深、いぃ……」
 感極まったルヴィアゼリッタは、涙を流して薄く呻いた。
「士郎? 一緒に、イカセテあげましょう?」
 彼女の肩越しに艶然と微笑む凛。それに応えるように士郎も身を起こし、腰に力を込めた。
 自分の前から、そして後ろから感じる、肉同士のぶつかり合う感触。くちゅくちゅと秘肉が凛の腰使いで掻き混ぜられ、ずしりと杭を打ち込まれるように士郎に腸の中を抉られる。
「ひぁ、ああああっ! はげし、ああっ! ああああああああああっ!」
 リズムを合わせてあるいは突きこまれ、そして引き抜かれる。
 その動きに翻弄されるルヴィアゼリッタの口は、もはや意味のある言葉を紡げない。
「き、つい……」
 前の穴とは違う締め付けの強さにうめく士郎だが、腰の動きにはいささかの躊躇もない。
 目の前の金色の魔女を、一突き毎に女に変えていく、その快楽に没頭している。しかし凛の模造品とは違うそれには、やがて、限界が訪れ――
「っあ、ダメだ、出る……っ!」
「出して、っ出してぇシェロッ! 貴方の、精液をわたくしにぃ!、」
 まるでルヴィアゼリッタの声に引き出されたかのようだった。
 震え、噛み締められた声と共に一際強く士郎の腰が突き出され、そして白い欲望が彼女の中に注ぎ込まれる。
「ふぁうぁ、ああああっ! シェロのが、あつぃっ!」
 腸の中一杯に感じる、火傷しそうなほどに熱い士郎の精液。
 本来受け止める場所では無いことなど関係無い。
 愛する男の物が注がれた。その事実がルヴィアゼリッタを際限なしに高め、そして逝かせきった。
 蕩けた顔で、息も絶え絶えに呟いたルヴィアゼリッタの身体から力が抜けて崩れ落ちる。
「ふぁ…ぁあ、私も、だめぇ!」
 くたりと力が抜けてのたれかかった彼女の重みに止めを刺されたかのように、凛もまた跳ね上げられ達してしまった。
 部屋に満ちる淫蕩な匂いと、三様の荒い息遣い。
 凛と士郎の間に挟まれて、二人の鼓動を背中と胸に感じる。二人に愛されたのだと改めて突きつけられたようで、ルヴィアゼリッタは体をわななかせた。
「ふふ、ルヴィアったら、そんな顔でイくのね。綺麗よ……」
 宴の閉幕を告げるように、凛がルヴィアゼリッタに囁く。
 しかし彼女はその声に応えることは出来ない。
 肛口を貫く士郎のペニスは、未だ固さを失ってはいない。どくりどくり、と、まるでそこが心臓であるかのように、彼女の中で熱く脈打っている。
 その感触が再び、ルヴィアゼリッタの奥底を燃やしていく。
 なんと恥知らずな事だろうか。
 秘肉を、肛門を一度に犯されたというのに、未だ飽き足らず更なる快楽を求めようとしている。魔術師にあるまじき意志の弱さではないか。
 しかし肉の求めから目をそむけるには、彼女の体はあまりにも淫蕩に高まりすぎてしまっていた。
 士郎に愛されたい。もっともっと士郎に愛されるためにはどうすれば良いのか。
 心を巡るルヴィアゼリッタの切ない疑問の答えは、向かい合う魔女が抱えていた。蕩けた表情に浮かぶ笑顔の裏に、求めた答えが示されている。
 それに否やを唱えることなど、今のルヴィアゼリッタには出来よう筈もない。
「リン、シェロ……お願いします、もう一度、もっと、もっとわたくしを……この破廉恥なわたくしの体を愛して、下さい……」
 絶え絶えに呟くルヴィアゼリッタの瞳は、切なげに潤んでいる。
 それを見やった凛は、やはり肉に溺れた瞳を細めて、口元に弧を浮かべた。
「ええ。良いわよ。まだ夜は長いわ。いくらでも、何度でも愛してあげる」
 お尻の方からは、力を取り戻した士郎が再び指を這わせてくるのが感じられる。
「貴女も、士郎ももう私の物なんだから。ずっと、ずっと一緒に愛してあげるわ、ルヴィア」
「はい……お願いしますわ、リン。わたしはもう、貴女の物なのですから……」
 契約の証は、熱く蕩ける様な口付け。
 再び愛される喜びに打ち震え、ルヴィアゼリッタは忍び込んできた舌に自らのそれを絡めていった。


End








<M・S・C>


 時は逆しまには流れない。
 罪は罰によっては償えない。
 私は在り続ける限り、罪を身に刻んで歩み続ける。
 それがどれだけ辛いことなのか、分かっているつもりだった。
 そう、分かっているつもりだったのに――




「シエル先輩、おはようございます」
「お早うございます、遠野君」
 高校の後輩に微笑んで、私は天を仰ぐ。
 天気は快晴。行き交う人々の顔には絶望もなく、忌まわしき闇の住人たちの気配を感じる事もない。
 ありふれた日常が心地良い。
 これが続けば、どれだけ幸せな事だろうか。
 これを続かせるために、私はどれだけ頑張れるだろうか。
「あ、そういえば先輩、ニュース見ました?」
「……ニュース、ですか?」
「ええ。俺も出掛けに新聞に載っていたのをチラッと見ただけなんですけど」
 ――その言葉に、自分の顔から音を立てて血の気が引いていくのが分かった。
「なんでも夜の公園を散歩していたカップルがたまたまその姿を……って、大丈夫ですか先輩?」
「遠野君。私、急用を思い出しました。とても学校に行ってられないくらいの大事な大事な要件なので、申し訳ありませんが担任に、今日は風邪で欠席すると伝えておいてもらえませんか」
「え、いやその先輩。俺先輩とクラスどころか学年も違……」
「頼みましたよっ!」
 そのまま振り返りもせず、私はアパートに取って返した。遠野君が何か叫んでる気もするけれど、彼は頼まれ事はきちんとこなしてくれる人だから大丈夫でしょう、多分。
 彼の事は嫌いじゃない。好ましい人物だと思う。
 しかしそれでも、今この時だけは。彼の苦悩よりも私の身に差し迫った危機の方が、重大な問題なのだから。





「もう無理です。絶対無理です。帰ります帰らせてください局長」
“これから就寝か? 寝言は寝てから言えシエル"
 電話の向こうの局長の声は、今日も今日とて不愉快極まりない。
“お前以外に今回の任務は果たせないと、この私が見込んだのだぞ? なのに無理だとほざくのかお前は。この私の見立てが間違っていると、そうほざく訳だなお前は”
「その見立てた基準をぜひとも教えてもらいたいんですがっ! そもそも、ただの死徒殲滅ならわざわざ私が来る必要ないじゃないですかっ! なんだってこんな人の多い所にこなきゃいけないんですか!」
“他に手の空いてる者がいない。そんな面倒な仕事をやりたがる奴がな”
「見立てなんか欠片も関係ないじゃないですかっ!」
“やかましい。元はといえばお前の中から出てったロアがおっぱじめた不始末の尻拭いだろうが。それを人に任せてとんずらこきたいとは何事だ。恥を知れ恥を”
「恥を知ってるから帰りたいって言ってるんですっ! せめて恥を掻かせない様に装備の一つや二つ送ってくださいっ! なんだって黒鍵一本すら持ち込ませてもらえないんですかっ!」
“予算がない。大体、お前は身に備わった「あの力」があるんだ。そんな奴に装備を送るなんて無駄が出来るわけがなかろうが”
「あ、アレを使いたくないから言ってるんで……」
“……なあ、シエル”
 私の切実な叫びを遮った局長の声は、思わず背筋が凍りつきそうなほど冷え切ったものだった。
“異端審問官どものモルモットだったお前を救い上げたのは誰だ?”
「……局長です」
“罪を償いたいと。生きている限り十字架を背負うと、そう宣言したパン屋の娘は誰だ?”
「……私です」
“それまでに何の訓練を受けたわけでもない、ただの村娘だったお前が神罰の代行者足り得るのは何故だ? あの力のおかげだろうが!”
「…………その通りです」
“ならば存分にその力を振るえ。泣き言など聞くだけ時間の無駄だ。とっとと仕事を片付けろこの無能がっ!”

 がちゃん。つー、つー……

 無常な機械音が流れ続ける受話器の向こうで、TV画面が無味乾燥にニュースを読み上げていた。

“さて、次のニュースですが。先日からN県三咲町で話題となっている変質者が、昨夜未明また出没した模様です……”






 死の縁よりよみがえった私は、一つの力を身に着けていた。
 魔術。それは罪ぶかい私が贖罪に身を焦がすための力。
 それは罰なのだから、使う為には苦痛が伴って当然だと思う。
 思うのだけど。
 ああ神様。確かに姿形より年を取っていることは認めましょう。ですが私は紛れもなく女なのです。
 何だって魔術を使うために。
 人々を守る魔法使いになるために。
 あんな格好にならなければいけないんですかっ!






 私の眼下で、牙をつきたてられた少女がくずおれるのが見える。
 また間に合わなかった。重ねられた罪の重さに胸が締め付けられる。
 月光すらも届かない路地裏。穢れた死徒は歓喜の叫び声を上げて、別の獲物を探さんと踵を返そうとしている。
 当然、こんな寂しい場所に他の人間などいる様子はなかった。
 誰にも見られない。
 その事が暗い愉悦を呼び起こすのを止められない。
 誰にも見られる事がないのならば、あの不浄者を処断するのに、何のためらいがありましょう。
 私は一歩大地を蹴り、ビルの屋上から飛び降りた。
 はためくマントの音が、まるで私を鳥にしてくれるかのようだった。

「待ちなさい、そこの死徒っ!」
「?! 何者だきさ……きさ、え、えええええ?!」
「貴方の罪を裁く者。遍く世界に貴方のような不浄者が在るべき道理はありません! 積み重ねた罪の重さに恐れおののいたまま、土に帰るがいいっ!」
 あの腐れ局長に最初に叩き込まれたのがこの口上だというあたり、頭が痛い。けれどもう二度と顔を見なくて済む死徒相手ですし、恥ずかしがってもしょうがないわけで。
「ブチ殺される覚悟はつきましたか? 小便は済ませましたか? 路地裏の隅でガタガタふるえて命乞いを……」
「いやちょっと待て代行者。頼むから待ってくれ」
「私は一切合財を皆殺……って、なんですか。命乞いなら聞きませんよ?」
「いやお前らがそんなの聞く耳持たないのは知ってる。それはいいから頼むから教えてくれ」
 目の前の死徒は、失敬にもこちらを指差して、唖然とした表情をうかべていやがります。
 ……ええ、言いたい事は分かりますよ。多分その事でしょうね。ええ多分。
 果たして目の前の死徒が口にした言葉は、想像と寸分たがわぬものでした。

「……何でお前、裸マントなんだ?」







 私の体に潜んでいた、ロアという名前の吸血鬼。
 彼は非常に優秀なる魔術師であり、そして私の体はその魔術を使うのに非常に適した体であったらしい。
 あの白い姫の手によって、彼が宿った私は死に、そして私の肉体だけは生き返った。
 生き返った私の体に、彼の魔術は刻まれていた。それも生前の彼と寸分違わぬ精度で。
 しかしその行使には厄介な制約が伴っていたのだ。
 行使するための条件。それは私が彼で在った時と、同じ格好になる事。
 ……私は憎悪する。私の人生を玩んだロアを。
 ……私は憎悪する。よりにもよって、裸マントでなんてうろつきやがってくださったロアを。

 
 天国のお父さんお母さん、申し訳ありません。
 私は煉獄へと落ちることでしょう。
 故郷の町を滅ぼし、そして行く先々で痴女扱いされているこの私は……
 






「……雉も鳴かずば撃たれなかったでしょうに」
 死徒の死体を情け容赦なく燃やし尽くしながら、私は呟いた。
 いえこの姿を見られた以上、泣こうが喚こうが滅ぼしますけど。
 さて、後はこの灰を川にばら撒けば……
「……シエル先輩?」
 後ろからかけられた声に、刹那で振り向いた。
 反射的に編んだ魔術弾を右手に掲げて突きつけた視線の先には……
 先ほど死徒に牙をつきたてられて、命を失ったはずの哀れな犠牲者。
 その顔には見覚えがあった。
 弓塚さつきさん。私の高校の、クラスメート。
「わたし、変な男にここに連れ込まれて、なんかのしかかられて急に眠くなって……目が覚めたら先輩が……先輩、助けてくれたんですか?!」
 どういうことなのだろう。
 確かに死徒に血を吸い上げられ、彼女は命を落としていた。私の見立てが間違っていて、彼女はちゃんと生きていたという事なのか。
 それとも。
 頭に思い浮かんだ可能性を、私はすぐに投げ捨てた。
 そんな事があるはずがない。
 噛まれてこんな短時間で、新たな死徒になるなどと。そんな馬鹿な事は……
「先輩、ありがとうございます先輩! 本当に、助けていただいて!」
 こっちの葛藤になど気付く様子はなく、さつきさんは私に飛びついてきて、
「……でも先輩、何でそんな恥ずかしい格好してるんですか? って、下着もつけてないじゃないですか! 駄目ですよ先輩綺麗なのに、その、そんな真似したら変な男の人とかいっぱい……」
 ――たとえ死徒であろうとなかろうと。
 目の前の少女を殺してもいいかなと、心の底から思った。







 かくして。
 太陽が苦手だけど血は飲まない、そんな半端な存在に成り果てた後輩の少女と私は、奇妙な関係を結ぶ事になってしまった。

「先輩、そんな危険な仕事をしていたんですか」
「ええ、本当なら貴方も処断しなければいけないのですが。残念ながら貴方は境界線上をさまよってる存在ですし、何より、遠野君たちも悲しむでしょうから」
「良かった……」
「……命拾いを喜ぶのですか? もう貴方は、人間ではなくなってしまったのに」
「違います。遠野君や、みんなの事をそうやって気遣ってくれる。先輩はやっぱり、思った通りいい人だったんだって」
「な?!」
 時折あけすけに、そんな爆弾を投げつけてくる。この少女は、苦手です。
「でもこの仕事、大変なんですね。そんな、その、ストレスで服を着たくなくなってしまうなんて……」
 時折余計なことを口走るあたり、本当に苦手です。思わずこきっと首をひねってしまいたくなるくらい。
「って先輩先輩! もろ、もろにチョーク決まってますごめんなさいごめんなさい!」







 町にいまだ巣食う、ロアの置き土産は後十数体。
 彼らを刈り尽くさない限り、私の仕事は終わらない。
 私の守るべき日常は、この町に戻ってこない。
 私の罪は消える事はないけれど、罪を償う事で確かに守れる物があるのならば、私はこの道を歩み続けましょう。
 今の私はもう、一人ではなくなってしまったのだから。


「先輩、死徒の気配、見つけました!」
「了解ですさつきさん。その場所は?」
「駅前のコンサートホールです! ちなみに最近人気急上昇中のアイドルグループが来ていて、今一万人くらいの人手が……」
「残念ながら通信機の調子が悪いみたいで、そちらの声が聞こえませんから。私はパトロールを続けますね」
「そんな爽やかにシカトしないでくださいっ! 今こうしている間にもたくさんの犠牲者が出てるかもしれないじゃないですかっ!」
「犠牲者助けても私の人権とか尊厳とか木っ端微塵じゃないですかそんな所に行ったらっ!」
「大丈夫ですよもうすでに木っ端微塵……先輩? 先輩応答をー?!」



 ……この先も上手くやっていけるかどうか、全然自信はありませんが……



<まじかる☆ストリッパー・シエル> おしまい






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