復讐鬼は遠野の扉を叩いた

この瞬間復讐の幕は上がった……鬼は思う。復讐が間違ったことと誰が決めたのか

想いを秘めたまま彼はワラウ…その顔に浮かぶのは仮面か、それとも……

『悲劇の傍観者』は己に誓う。不退転…と

そして心優しき殺人貴達は決意する。鬼に狙われた姫を守るための『剣』となることを

幕は開かれたばかり…





〜夢幻の闇〜

第一話 「静かなる宣戦布告」


                                            
作 過ぎ去りし流星









 日曜の遠野家の朝、普通ならあたりまえのことだが『チャイムを押す』という来訪者には当然

の行動、秋葉はその行動にすっかり機嫌が良くなった。何故かというと…

「今日の来訪者はまともな方ですね。安心しました。まったく、何ヶ月ぶりに呼び鈴の音を聞

いたことか…例えばあーぱーとかカレーとかあーぱーとかカレーとか…礼を忘れた方々ばか

りでしたから」

(ごめん、秋葉。二人とも俺の関係者だ…)

 志貴はそう思ったが、

「いや、ちょっと待て。業者さんとかみんな呼び鈴押すだろ?」

「明らかに押さない方々の出現率が高いんです!最近では呼び鈴の音はα波すら超える癒

しの波です」

 もはや語るまい…そうこうしてる間に客を迎えに行った翡翠が帰ってきた。

「秋葉様にご用があるようですが、いかがなさいましょう?」

「そう。どんな方だったの?」

「十夜観月様というスーツ姿の若い男性の方でした。」

 十夜…その姓に不安を覚える俺と秋葉。何故なら俺の姓は七夜だったから…

「大丈夫ですよ、兄さん。きっと考え過ぎですから。珍しい姓ですが、いやな雰囲気は感じま

せん」

 秋葉の言葉。確かにそうだが、気のせいか?七夜の血が僅かに反応する。

「そうだな。じゃあ、俺は席を席を外すよ」

 多少の不安はあるが秋葉にちょっとでも殺気を向けるようなヤツなら飛び出せばいい。そう

結論付けた。

「そうしてもらえますか?あ、翡翠、ここに通してもらえる?」

「かしこまりました」

 一礼し迎えに行く翡翠。俺は食堂に向かった。何故かって?秋葉の説教で朝食すら食べて

ないからさッ!ちょ〜ショック!!……

「琥珀〜?コーヒーの用意お願いね〜!」

「はぁ〜い♪」

 台所から琥珀さんの声が聞こえる。見ないと思ったらそこにいたのか。





 食堂への扉を開けるとすでに朝食は用意されていた。しかも湯気が上るほど暖かい…琥珀

さん、感謝ですッ!!

「おはようございます、志貴さん。お客様ですか?」

「そうみたいだよ。秋葉に用があるみたいで若い男だってさ。セールスかな?」

 内心の不安を隠すようにおどけてみせる志貴。

「あは〜♪この屋敷に押し売りに来る命知らずな方々はもういませんよ。今ならいざ知らず、

昔は警備の方に…」

「警備の方に?」

「あはっ♪」(笑)

「こ、琥珀さん?」(恐怖)

「では、コーヒーをお持ちしなければならないので」

 そう言ってトレイを持って出て行く琥珀を見ながら志貴は、

(きっと俺の不安に気付いて和ませてくれたんだよな?そうだよなッ!!)

 現実逃避をしていたとかなんとか。そこに某青い魔法使いさんの「志貴、自分も騙せない嘘

は相手を不愉快にさせるわ。」と、いうツッコミがあったとか……






 ロビーでは秋葉と来訪者……十夜観月が向かい合っていた。まず言葉を発したのは観月

だった。

「なんの連絡も無しにいきなり訪ねたことをお詫びいたします。」

「かまいません。もっと無礼な方々を存じていますので、気になさらないでください。」

 秋葉は安心していた。兄のかつての姓と似た姓を持つ男の突然の来訪。血生臭い話に展

開するのでは、と思っていたが目の前の男からは殺気など微塵も感じない。だが、その期待

は裏切られる……

「無礼な方々というのは真祖の姫君と代行者のお二人ですか?」

 何気ない言葉……空耳で済ませたかった。思わず秋葉は立ち上がりかけた。そこにタイミ

ング良く……

「コーヒーをお持ちしました。よろしければお召し上がりください。」

 琥珀がコーヒーを持ってきたようだ。

「あ、これはどうも。いただきます」

 と、さっきから雰囲気を変えることのない観月の言葉。

「では、失礼させていただきます。」

 琥珀は一礼し、去っていく。

 ここはあの子に感謝しなくては…頭に血が昇りかけたのだか…

「どうやら、ただの人間ではないようですね。いったい何者です?」

 幾分かは落ち着きを取り戻した秋葉の問いを観月は笑って返した。

「人間でない…それはあなたも半分は当てはまるでしょうに。いいでしょう。まずは自己紹介

といきましょうか。私は…」

 観月は話した。鬼の一族、その務め、自分が最後の生き残りということ。そして…

「もうお気付きでしょう。私はあなたの先祖にあたる鬼ですよ。そして、私の目的も…」

 やはり雰囲気を変えることなく言い放つ観月に秋葉は恐怖した。夢なら覚めてほしい…

「…あなたの目的、それは復讐ですか?」

 禁断の問いかけ。相手の反応しだいで自分はこの世から消えるだろう。だが、相手の反応

は予想外に穏やかだった。

「まぁ、そうなりますね。時代遅れでしょうが、これだけは…譲れないんですよ。」

「でしたら何故この場で私を殺さないのです?」

「それでは意味がないのですよ。それでは、ね。ふふふふふ…私も数百年生きてきましたが、

忘れることはできなかったのですから。」

「…どうあっても遠野に復讐をする、とおっしゃるのですか?」

「ええ。覚悟はこの数十年で決めさせていただきました。」

 勝手な言い分ですね、と観月は笑う。

「今日はいきなりでしたから、また後ほど伺いますよ。そうですね…二日後の満月の夜、"十夜"

に逢いましょう。あのときと同じ、禍々しき夜にね。」

 十夜とは観月の一族での聖夜、満月に祝福されし夜という意味がある。そして観月という名

の由来は、『十の夜に月を観続ける者』という意味がある。それは月に祝福されし者という表

現だが、観月が観た十の夜は遠野に滅ぼされた夜。

 自分だけ逃がされた。いうならば、『悲劇の傍観者』

 そうして観月は遠野家を去った。新たな十の夜に月を観るために……




 観月が秋葉と話してる間、食堂ではちょっとした騒ぎが起きていた。

「琥珀さん!どんな話してた?」

 コーヒーを運んで食堂に戻ってきた琥珀と志貴は訪問者に興味があったのだ。

「それがですね〜、ちょうど秋葉様が何かを言いかけたところだったので、よくわかりません

でした」

「そうか〜、ここからだと観月さんしか見えないから秋葉の様子がわからないんだよなぁ」

 そう、志貴はさっきから食堂のドアを少し開け、様子を伺っていた。いつでも飛び出せるよう

に…だが、心配はなさそうだ。観月は終始笑顔だし殺気など微塵もない。七夜の血がやや気

がかりだが…

「十夜さんという方、なかなかの紳士ですよ〜。お若いのに礼儀も心得ていましたし。」

「そうなんだ。でもなんの用なのかな?」

「私はお見合いだと思います」

「うおっ!!翡翠、いつの間に?」

「先ほどからです。一応私も退室しておきました」

 それでも気配など微塵も感じなっかたが…

「あっ、翡翠ちゃんもそう思った?」

「姉さんも?」

「そうよ〜、なんて勇気のある方でしょう♪」

 暴走する姉妹、だが見合いならば当然前もって連絡があるだろう。そのことを指摘すると、

「あはっ♪きっと町中で見かけた秋葉様に恋してしまったんですよう。」

「はい。そしてこの屋敷の場所を知り、訪ねて来たに違いありません。」

「秋葉って普段出歩かないないだろ?それに、ストーカーみたいじゃん。」

「「違います!」」

 と、琥珀さん怒ってますのポーズ、翡翠は不機嫌な顔でのコンビネーション。う〜ん、姉妹

だな。

「わかったよ。あれ?話終わったみたいだよ。観月さん帰ってくし」

「では、お見送りに行ってまいります」

 失礼します、と翡翠は出て行った。

「さて、秋葉になんの話だったか訊きに行きますか!」

「あはは、志貴さんもお好きですねぇ。」

「お好きですッ!!」

 ビシッと親指を立てる志貴、何事もなっかたことが彼を安心させた……秋葉の言葉を聞くま

では……




 観月の去った後、秋葉はロビーで唖然としていた。復讐?そんな…やはり遠野は平穏には

暮らせないのか…自分はいままでの贖罪として屋敷から親戚を追い出し、強硬派の動きも抑

え、監視している。そんなことも自己満足だったのか。

 復讐者の目には過去の遠野も現在の遠野も同じに映るのか…秋葉はそれが悲しかった。

なによりも。

 そういえば、と秋葉は思い当たる。七夜も退魔から遠ざかったとはいえ父に滅ぼされた。

ならば、その逆も然り。

「結局、遠野がいくら変わろうとも罪は消えませんね…」

 自らを笑う。このまま皆には打ち明けずに自分だけが復讐の刃に屠られよう。秋葉は気付

かなかった。この考え方は自らの兄、志貴が自分達を巻き込まずに一人で戦おうとする考え

方に似ていることに…そして、そんな兄の考えが嬉しい反面もっと自分を、自分達家族を頼っ

てほしいという不満な感情であるということに。

 志貴と秋葉…血は繋がっていないが二人は誰が何と言おうとも兄妹だった。同じ感情を抱

けるのだから…

 考えれば考えるほど泣きたくなる。だが、泣くことは許されない。相手は遠野の最初の犠牲

者なのだから。

「秋葉」





 志貴と琥珀は秋葉に声をかけることをためらった。顔は見えないが雰囲気はまるで子供の

頃の泣き虫だった秋葉そのものだったのだ。

「(なんか、話しかけ辛いですね)」

「(はい、余程のことがあったんでしょうね。ほら、志貴さんの出番ですよ!)」

「(俺よりも琥珀さんの方が…)」

「(何言ってるんですか!!志貴さんはお兄さんでしょう!つべこべ言ってると地下王国に誘

いますよ!)」

「(うっ…わかりました)」

「(あは〜、わかればいいんですよ〜)」

 そうは言った志貴だったが、いつもと違う秋葉に声をかけていいものか悩んでいた。触れれ

ば壊れてしまいそうな危うさを持った妹に…

 反面そんな秋葉を見ていたくない、と思っている。『お兄さんでしょう!』琥珀の声が蘇る。

(俺は何を迷っているッ!?琥珀さんの言う通りじゃないか!)

 志貴はそう決心し、秋葉に声をかけた。

「秋葉」





 兄からの呼びかけ。それを待っていたと思う自分は弱い存在だろうか?今しがた自分一人

で決着を着けると決めたばかりなのに…

「どうしました?」

 なるべく自然に応えた。余計な心配をかけたくないための行動だったが志貴にはそれは

通じない。

「どうしたって、お前泣きそうじゃないか。さっきの人に何か言われたのか?」

 いきなり核心を突く質問。どうして普段は朴念仁ぶりを発揮するのにこんな時は鋭いのだろ

うか?

「なんでもありません。これは遠野の問題ですから。」

「それは可笑しいな。俺はお前の兄貴だぞ?それとも俺は遠野とは無関係ってか?」

「そんなことありません! ただ、兄さん達を不愉快にさせてしまうと思うので話せないだけです」

「話せないって言ったな?秋葉、お前一人で背負い込むのは無しにしてくれないか…俺は頼

りない兄貴だけど、お前の力になりたいし、そう思っているのは琥珀さんと翡翠だって同じなん

だ。だから、秋葉が俺を、いや、『俺たち』を家族として見てくれるならさ、話してみてくれない

か? 話を聞いて迷惑だって思うヤツはここにはいないさ」

「志貴様の言う通りです、秋葉様」

 そこには見送りに行った翡翠が戻ってきていた。

「秋葉様は私も姉さんも家族だとおっしゃってくださいました。家族がそのようなお顔をなさって

いるのですから、お話を訊きたいと思うのは当然です。どうか、お話しください」

「翡翠…」

 この子は見かけによらず頑固だ。翡翠からこんな言葉を聞くとは…

「そうそう、翡翠ちゃんの言う通りですよ?」

 今まで様子を覗っていたであろう琥珀の言葉。

「秋葉様?もうお付き合いも長いですし、気兼ねなく話していただけませんか?志貴さんの

言ったように迷惑だなんて私たちは思いませんよ?」

「琥珀…もう、本当にみんな…馬鹿なんだから…」

 私は泣いた。家族皆を前に泣いたのはこれが初めてではないだろうか?だって、みんなが

家族と言ってくれたから

 決して自分一人の『家族ごっこ』ではないと改めて思い知った。だから私は泣く。家族だけに

見せる自分の本心…

 家族を残して私は死ねない。死んでやるもんか!私は皆に話す決意をした。





 秋葉は話した。観月の正体、その目的を……

「そうか…あの人鬼だったんだ」

「ええ、間違いなく。あの人の言葉を聞く限りでは、遠野の裏の情報にも精通してるようでした」

 その話を聞いた志貴達は暗い表情を浮かべた。だが、秋葉はこんなことを一人で抱え込ん

でいたのか、話してくれてよかったとも思う。

「あいつ二日後の夜に来るんだろ?それまでにどうするか決めないとな…俺は、万が一の時

は戦うよ。みんなを守らないと」

「兄さん、それは最後の方法です」

 志貴の気持ちはありがたかったが、秋葉はまだためらっている。戦うということを…

「秋葉、その気持ちは解かるよ。俺だって戦いたくなんかないさ。だけどあいつは、一族が滅

んでから今まで復讐の覚悟を決めてたんだろ?

 半端な覚悟じゃないはずだ。最悪の事態は覚悟するべきだ」

「でしたら、何故先ほど秋葉様を狙わなかったんでしょうか?」

 琥珀の当然の疑問。秋葉だけはその事実を知っている。

「二日後の夜は…彼の一族が滅んだ日と言っていたわ。」

「そこがおかしんですよ。確かに一族の命日に復讐を実行するのであれば、わざわざ今日こ

こに来る必要はないと思うんですよ」

「そう言えば、そうね…」

 気が付けばもっともなことだろう。わざわざ決行を予告、それに意味はあるのか、今はなん

とも言えない。

「とにかくさ、俺も二日後にはあいつに会って話しを聞くよ。もし、話が通じないようなら…」

「解かっています兄さん。その時は力を貸してくださいね」

「ああ、誰も失いはしない。俺はみんなといるこの日常が好きだからな。それとさ、アルクェイド

と先輩には…」

「ええ、知られてしまっては仕方ないでしょうが、できれば黙っていたいですね。こればかりは

遠野だけで決着を着けるべきだと思います」

 そう、遠野に対する私怨ならば俺たちだけでやらなければ相手も納得しないだろう。

「秋葉様、以前私が話した遠野家への復讐…覚えておいででしょうか?」

 琥珀の突然の言葉…

「琥珀さん!それは…」

 志貴の声を気にせず琥珀は言葉を紡ぐ。

「私も復讐を考えた人間です。そんな私から言えることは、私が復讐したかった遠野家はもう

ありません。ここにあるのは私が…私達の帰ってきてもいい場所ですから。あの人に教えてあ

げましょう!ここはかつての遠野ではないということ……」

 琥珀は最後まで言い切ることはできなかった。秋葉がその言葉を聞くやいなや琥珀に抱き

つき、泣いているのだから。

「…琥珀、ありがとう…本当に…ありがとう……」

 秋葉は思う。今日は涙腺が緩みっぱなしだと。そして、自分がいままでしてきた贖罪を認め

てくれる人がいた。こんな身近に…

 志貴は思う。この日常を壊させはしない。今の遠野は自分の居場所と言える…家族を守る。

そう、俺達はもう…どんなときだって一人じゃないよ…

 心の中でそう囁いた…





 鬼は静かなる呪詛を残し、月夜に消えた…

 幕は…確かに開かれた




続く


 そして早速頂きました、過ぎ去りし流星さまよりの「夢幻の闇」
第一話でございます。
 ほのぼのとした日常を崩す、過去の罪への罰の襲来。悩み、
苦しむ秋葉を支えるのは血の繋がらない、しかし誰よりも心は
繋がっている家族達。

 いいですね〜、こう言った話に俺は弱いのです(っT▽T)っ

 過ぎ去りし流星さま、有難うございました。第二話も首を長くし
てお待ち申し上げております〜