鬼の一族の力である鬼眼を発動させ文字通り真の『復讐鬼』となった観月

 かつての遠野が欲しがった『力』を解放し狂刃を振う…

 月下の舞台で蒼き魔眼と紅き鬼眼が錯綜する

 月はただ見守るように佇んでいた…



                           〜夢幻の闇〜





                          第三話  「七夜」



                                                   作 過ぎ去りし流星







 新円を描く月夜を舞台に戦い始めた者達に早くも静寂が訪れていた。きっかけは志貴が観月の脚の線を直

視し、観月が力を解放した瞬間だった。

 志貴は内心驚いていた。戦いの最中に死の線が急速に減っていったのだから当然だろう。だが、不思議と点

だけは一箇所だけ視える。

 その、場所は…

 (心臓の位置…左胸に点が視える…)

「志貴……」

そう考えているなか、観月は志貴に声をかけていた。

「貴様は万物の死を視る者…オレの死点が左胸に視えるはずだ」

「さあな。例え視えていたとしてもあんたに報告する義務も義理もない」

 志貴はやや動揺するが平然と返す。観月は気にした様子もなく更に言葉を続ける…

「不思議とは思わんか?鬼となったオレに何故一箇所だけ死に繋がる部分があるのか……それはな、心臓に

当たる位置、即ち『心』が痛いんだよ…今にも壊れそうだ。一族の者達の断末魔の声がオレを苛む……」

 一瞬夜空の月を見上げ、さらに言葉を続ける。

「もっとも、それも今夜終わることだがな」

観月は左胸を押さえ、そう語る…その姿は教会で懺悔する信者のように写るが…

「ふざけるな…こんなことをしておきながら自分は被害者ヅラか?あんたが来た日、秋葉はなあ――」

「兄さん…」

 秋葉は志貴の言葉を遮り、観月を刺すような視線で射る。

「私達は決意したはずです。戦うと…ですから余計なことは言わないで…」

 志貴は秋葉があの日罪に囚われたことを目の当たりにしている。それ故、観月の言葉に我慢できなかった。

お前は秋葉の気持ちを考えたのか、と。だが秋葉は…

「それに彼を復讐から解放させるには眠らせるしかありません。死を経て安息を…だから戦うのです」

 秋葉の目には決意がある。それを見た志貴は何も言わずに観月を見る。

 七夜独特の重心を限りなく下げた構え…志貴も覚悟を固めたのだ。

「……………勝負だッ!」

 その目を見た観月も刀に手をかけ、今度は腰を落とし居合いの構えをとる。

「……………無謀だ」

 舞台は再び静から動へ移行する…








 秋葉は志貴が観月に自分が復讐の刃に屠られようと考えた時の心情を語ろうとする気配を察知し、それを抑

止した。

 常日頃から完璧を求める秋葉はこう考えている。

 復讐する者は己の死すら覚悟し向かってくる。ならば迎え撃つ側はどうするか?

 答えは簡単、うろたえ、恐怖するばかりなら抗わずに死ぬべきだ…

 だが、自らの罪を認めそれを償うためにも生きることを決意した者は復讐者の心情を理解し、せめて死とい

う形でも復讐の念から解き放つためにも戦わなければならない。安心して眠らせるために、かつての遠野とは

違うということを証明してみせる!

 これが秋葉が戦う理由であり決意。そんな想いを込め観月を見る。

 志貴もそれに気付いたようで七夜独特の構えを取りつつ、観月を見ていた。

 もっとも、秋葉は気付かなかったが、この志貴の決意の中に『秋葉だけに負担をかけさせはしない』という想

いも込められていた。

「……………勝負だッ!」

 決意の声で兄が言うのが解かる…

「……………無謀だ」

 自らの本能が恐怖する声で鬼が言う呪詛が聞こえる…

 秋葉もまた構えるが、場違いな事が頭に浮かんだ。

 (そう言えば…私の、遠野の力を誰かを守るために使うのは初めてね…)

 不思議と胸が暖かくなる。それはかつての遠野と今の遠野を分ける決定的な相違…それが見つかったような

気がした。

 秋葉は檻髪を展開させる。それはついこの間までは反転するかもしれない諸刃の剣…

 しかし、四季が奪った兄の命は四季の死とともに兄の元へ戻った。それにより自分が兄に続けていた命の供

給も必要ではなくなり以前ほど不安定な力ではなくなった。

 その力で罪の根源に向き合う。血は繋がらないが、確かに自分の兄である志貴とともに…

 舞台は再び静から動へ移行する…





 七夜は暗殺を生業とする一族…故に戦法は奇襲。相手の隙と死角を突き、気取られずに殺す。

 さらに志貴には直死の魔眼があり、その戦法は更に活かされる。

 だが志貴は仕掛けるきっかけを掴めずにいた。観月の構えは居合い…正面からの攻撃には後の先をとれる

が左右、背後は正に死角…

 本来ならそこを突くが、観月の構えはまるで剣の結界…死角があるようには思えなかった。

 居合いを崩すには利点を殺すこと…つまり剣を抜かせればそれは死んだ剣となり、鞘に納める隙を突くこと

ができる。

 隣にいる秋葉にだけ聞こえる声で囁く。

「秋葉、なんとかあいつの剣を抜かせてくれないか?そうすれば俺が仕掛ける」

「解かりました。先に攻撃させてもらいます」

 秋葉は志貴の真意を読み取り、檻髪を展開させる。

「さあ!逃げれるものなら逃げてごらんなさいッ!」

 挑発するように言い放ち観月の全方位に狙いを定めた。

 志貴はその動きが魔眼により紅い髪が周囲を囲むように展開するのを視ながら自身も攻撃に備える。

「甘く見るな…」

 観月はその場を動かず、居合いを一閃…その周囲を斬りつけた。

 ヒュンッ!何度か斬りつけたはずだが、その音は一回しか聞こえない…それ程の速さ…
                 ・ ・ ・ ・ ・
 周囲に展開していく檻髪を斬り捨てた…

 志貴はそれを確認するより速く仕掛けていた。

 その場から消え相手の背後を空襲し斬りつける七夜の技…



―――――閃鞘 八穿―――――





 観月が最後に刀を鞘に納めるよりも速く背後を取る事に成功し、後は背中に僅かに視える線を斬るッ!

「悪いが終わりだッ!」



ザシュ…




 何かを切り裂いたような音を残し志貴は観月の後方へ着地した。

「ガハッ…」

 呻き声を上げたのは斬りつけようとした志貴だった。左肩から脇腹にかけて浅く斬られた痕がある…

「なんでだ…ヤツに動きはなかった…なのに、なんで俺が斬られた!?」

 (待てッ!ヤツは秋葉の檻髪をどうした?切り裂いた…何故そんなことができる…あれは不可視の力、触れる

ことは出来ない…)

「兄さんッ!」

「え…?」

 志貴が志貴が蹲った体勢から顔を上げると眼前に迫る観月の姿があった。

「相手を分析するのも結構だが、集中力が散漫だな」

 再び繰り出すのは居合い斬り…鞘から解き放たれた高速の一振りは志貴を断つべく迫る。

「くッ…」

 志貴は地を蹴り観月の左側に回り込むように回避する。左手の鞘から繰り出す居合いの弱点は鞘を持つ方

向…つまり左側に反応が遅れる。

 左腕の線を狙い再び七夜と銘が書かれた短刀を薙ぐ。


 ガキィィィィィィィィィィィィィン!


 金属同士が衝突したような音。観月は刀を納め、鞘で志貴の斬撃を防ぐ…

「気を抜くのは早いぞ…」

 観月はそのまま鞘で志貴の短刀を弾くように振り払う。人と鬼…単純な腕力では志貴に勝ち目はなく短刀を

弾かれ、体勢を崩す。

 そこに先ほどの勢いを殺すことなくその場で横に一回転、回転の勢いも利用した観月の居合いが志貴に迫

る…

 だが志貴もその攻撃を読み、弾かれた衝撃に逆らわず後ろに流れるような動きで跳んだため居合い斬りを

喰らうことはなかった。

 それでも学生服の前面は斬られていた。

「まだ続くぞ…ッ!」

 後ろに跳んだ志貴に追い討ちをかけるべく距離を詰め再度居合い斬りを放つ…左下から右上にかけて切り

裂く一閃を五回放つ。

 いつぞやの路地裏で見せた、ハイリスク・ハイリターンである居合い斬りを瞬時に五回繰り返すその剣技。

 一度目…志貴は不利な体勢からなんの予備動作も無しに横に回避する…

 二度目…回避した方向に起動修正された一撃も真下を掻い潜る…

 三度目…真下から横に回避する余裕はなく、仕方なしにバク転で避ける。これにより体が起こされる形となる。

 四度目…観月を視認出来ず僅かな気配を察知し回避するものの、右腹部をやや深めに切り裂かれる…

 五度目…受けた傷の痛みから反応が遅れ、先ほど斬られた学生服の前面と全く同じ位置を斬られる…

「ぐ…」

 上半身に一条の傷跡、腹部に抉られたような傷跡を残しつつ何とか致命傷だけは避ける志貴…

 間合いを離すべきかこのまま勝負を続けるか思案するなか、一陣の紅い風が脇を駆け抜けた。

「なッ!」

 驚きの声を発したのは観月だった。紅い風はそのまま爪を振い観月の胸元を切り裂く…

 観月は咄嗟の出来事に対応が遅れ、その一撃をまともに受けたようだ。

「後ろからこそこそやるばかりだと思いましたか?」

 紅い風…秋葉は見下したような視線を投げかけている。

「なるほど…鬼を討てるものは同族の爪のみ…油断したようだな」

「秋葉!なんで近付いた…さっき俺が見えないナニかに斬られたのを見ただろ?」

 志貴は秋葉が不用意に近付いたように思えたが秋葉の考えは違っていた。

「ええ、はっきりと。ですから兄さんに見えなかったものも見えました。」

 そう言って秋葉は前方の空間を指差す。志貴もつられてそこ見ると………


 一見何もない空間。


 ただ、蒼い軌跡がいくつか残っている…


 黒く写る死の線とは違う輝き…


 空間に刻まれた傷痕のように視えるその軌跡…


 月光より蒼く、月光より禍々しく…


「あれは……ん?消える?」 

 その軌跡は初めから何もなかったかのように消えていった。

 志貴はいつの間にか背中に嫌な汗をかいていることに気付き、秋葉を見る。

 秋葉は一人で観月に接近戦を挑み、互角の戦いを繰り広げていた。

 観月が居合いを試みれば檻髪で牽制する。

 そしてその隙に爪を巧みに使い懐に入っての接近戦の繰り返し。

 なるほど、刀の間合いの内側を取ることで相手は若干間合いを調整するためにワンテンポ動作が遅れる。

 秋葉の上手いところは観月のスピードには対抗できないことを踏まえた上で檻髪を巧く展開させ逃げ道を塞

いでいるところにある。

 志貴の今までの戦いを見ていたこともあり、秋葉は完全に相手の動きを把握しているように追い込んでいく。

 戦闘経験の無さを驚異的な学習能力でカバーしているのだろう。

 その戦いぶりに志貴でさえも舌を巻く…

「……なんだか、俺よりも強く見えるぞ、妹よ…」

 安堵し、しばらく体力の回復に努め、隙あらば援護に回ろうと判断を下す。

 だが、志貴は気付いていない。

 いくら秋葉の反転衝動が薄れているとは言え、慣れない遠野の力を連発するには相当の負担が掛かること

に…





 何度爪と刀の剣戟を交えただろう…

 何度檻髪で仕留めようとしただろう…

 ガキイイイイイイイィィィィィィィィィィン…

 爪と刀が交わり膠着を生む音が響く。

 すかさず私は視界内に捉えた相手に檻髪を展開させる。

 すると観月は力任せに私を振りほどき、その場を離脱した。

 たった今相手がいた場所を紅い奔流が埋め尽くすが、そこには誰もいない。

 (常に相手を視界に収めて先手を取るッ!)

 私は自分にそう言い聞かせ地を蹴り、回り込むように接近する。

 ビュンッ!

 この音は高速の居合いによる剣圧…

 (足止めのつもりでしょうけど、所詮はただの空気の刃…)

 迫り来る風圧は私の動きを見極めたように移動先に飛んでくるが…

 ボオオオオオオオオオオオオオオ……

 檻髪が巻き起こす衝撃でそれを飲み込み無効化する。

 いちいち動きを止めていたら見失う、私は無い胸……失敬、無い知恵を振り絞り抗い続ける。

 観月は私がよもやこんな方法で攻撃をやり過ごすとは予想もしなかったようで動きが止まっている…

 気にいらない…相当この私を見くびっているみたいね。

 一気に畳み掛けてやるッ!

「はああッ!」

 接近し檻髪を観月のやや左側に放つ。

 そうすれば右に避けようとするはず…

 まさか動きの制限される空中に逃げることは私相手には愚の骨頂。

 そして予想通りに右へ回避する。

 咄嗟のことでその動きには無駄が見受けられる…

 移動先に先回りしている私に気付かないなんて……




                     ――――なんて、愚かなの……――――




「その首、取らせていただきますッ!」

 『鬼の首を取る』という格言通りに私は自らの爪を観月の首目掛け繰り出した。

 ヒュンッ………

「なッ…手応えがない!?」

 そんな馬鹿な…現にこうして首を切り裂いているのに……

「オレの動きを読んだのは見事…だが、今のは残像だ……」

 一体どのような動きをしたのだろう?

 完全に隙を突いたはずなのに観月はあろうことか私の背後を取っていた。

「終わりだ……ッ!?」

 勝利を確信していた観月の声に驚愕が走る。

 何故なら攻撃を仕掛けようとしていた観月の体が炎上しているのだから。




                      ―――――赫訳・紅葉――――――




 檻髪の力を自分から切り離し、その切り離した力を特定の場所に設置する。

 その後、私の指先一つでその場所を爆破できる。

 力を切り離すため一撃必殺とはいかないが、この設置爆弾は相手の不意を突くことができる。

 あらかじめ私の背後に設置しておいてよかった。

 先ほどの檻髪を放ったときについでに仕掛けたものが役立つとは…

 とにかく、最大の勝機!

「これでッ!」

 私は渾身の力で再び観月へ爪を振う。

 今度こそ、勝利を確信した…


 ………ハズだった。

 ガクン…

 私は急速に体力が失われるのを感じた。

 気が付けば髪も元の黒髪に戻っている。

 爪も…届かなかった……

「秋葉ああああああッ!!」

 兄さんの声が聞こえる…

 そうだ、観月は…?

 先ほどの赫訳・紅葉が効いているのか、スーツの上着は完全に燃えている。

 がしッ……

 突如視界が黒く染められる。

 否、これは手だ。

 観月が私の両目を塞ぐように頭を掴んでいる。

 わざわざ視界を塞がなくても私にはもう力が残ってない……

「ごめんなさい…兄さん…」

 最期にその言葉を残すだけで精一杯だった。





「秋葉あああああああッ!!」

 完全に俺の不注意だった。

 圧倒的に秋葉が押しているように見えた…

 途中で何度か援護に走ろうとしたが逆に邪魔になってしまう場面もあった。

 それほど相手を圧倒していたというのに…

 その答えは簡単…秋葉は体力の配分を考えずに動いた。

 そうしなければ太刀打ちできないと判断したのか…

 さらに檻髪の連発…

 こうなることはもっと早くに予測できたんじゃないのか?

 なのに…俺はどこか安心しきっていたんだッ……

「ごめんなさい…兄さん…」

 秋葉の弱々しい声…

 上着が燃え、黒いYシャツに紅いネクタイ…

 観月のネクタイが秋葉の血に見える……

!!…動くなら今しかないだろう!遠野志貴ッ!!



「やめろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…」

 俺は全力で走る…

 だが、そんな俺を嘲笑うかのように、ナニカ、オトガキコエタ………




―――――ゴキィィィィィィィ………




 ナニかが砕ける音。




 それが何かわからない…




 いや、わかりたくない……




 だって…秋葉を掴んでいる観月の手が………






































                    ――――――粉々に砕け散っていたのだから――――――































 秋葉は今俺の腕の中で眠っている。

 何が観月の手を砕いた?

 秋葉は気絶している以上それはない。

 偶然観月の腕が砕け散るなど在り得ない……

 ならば…俺か?俺がやったのか?

 素手で鬼の強靭な肉体を破壊した?……

 まったく…どうか…してる……

「馬鹿な…何が、起こった?」

 観月の動揺した声だ。

 ああ、確かに自分の手が一瞬の内に砕かれたら動揺するよな。

 ――――なんて、無様

「なっ!?」

 声が、声が聞こえる…

 自分によく似た声…否、同じ声が…

 ――――予定外のことが起これば動揺する…ふん、三流以下だ。そうは思わんか?志貴

 この声の主を俺は知っている…忘れようはずがない。

 俺の内に眠りし殺人鬼としての側面……

「七夜…志貴……」

 ――――いかにも。どうやら七夜の力が目覚めたようだな

 七夜の力?殺人衝動のことか?

 否ッ!と、七夜志貴は告げる。

 ――――七夜の極意は暗殺に在り…だが、その信念は殺戮に非ず

 さらに七夜志貴は言葉を続ける……

 ――――閃鞘…七夜の技を飾りし言葉……これこそ吾らが信念

「どうゆうことだ?」

 イマイチ七夜の言葉は古風と言うか、要領を得ないと言うか…解かりづらい。

 ――――閃とは、敵を屠るための力…まさに暗殺を形容すべき言葉だ

 ――――では、鞘とは何か…解かるか?志貴

「いや?解からない」

 実を言うといきなりな展開が続き、うまく思考が回らない。

 ――――鞘とは、吾らが守りし者達…

「なんだと…?」

 七夜を形容する言葉で『殺す』と言うのなら解かるが『守る』?

 七夜とは正反対にある言葉のように思える。

 ――――七夜が退魔の任に就く理由の原点は一族を守るため…そして帰りを待つ者のために戦い、生き残

るという信念

 ――――己を研ぎ澄まし相手を屠る…即ち『閃』、そして胸に秘めし想い…即ち『鞘』

 ――――これが揃いし刻、七夜の『閃鞘』は成り立つ

「つまり…どう言うことだ?」

 ――――まだ解からんか…お前は秋葉を守りたいがために力を振った…お前の覚悟が真のものになったと

言うべきか…

 ――――殺人衝動に突き動かされる事とは訳が違う…存分に七夜を見せ付けろ

 俺が秋葉を助けたのは七夜の力なのか…

 今まで忌み嫌っていた…いや、恐れていた力で。

 ――――鬼とは言え人体に近い姿…ならば幾らでも破壊する急所は存在する…暗殺の基本なり

 その言葉に志貴はやや気後れするが…

 ――――どうやら、夏に観た悪夢を引きずっているようだが、あのようなモノと吾を等しく思うな

 ――――吾は、いや…吾らは七夜…守ると誓いし者達のために自らの心を殺せし剣なり

「それが、七夜…なのか?」

 遠野志貴は問う。

 ――――そうだ…これが七夜だ

 七夜志貴は応える。

 不思議と恐怖が消える。

 七夜の戦う原点を知ったからか?

  何のことはない…同じじゃないか。

 七夜も…今の俺となッ!

 最後に七夜志貴は笑みを浮かべ、吾の力…貸すからには遅れをとるな…と言った。

 俺は秋葉を木に寄りかからせるように置くと観月を見据える。

「当然だ。俺は、秋葉を守る」





 どうやら遠野志貴と七夜志貴の会話は一瞬の出来事だったようだ。

 あれから時間はそれほど経過しておらず、観月も呆けたままだ。

 (雰囲気が変わった?)

 志貴の様子に若干戸惑いながらもようやく我に返る。

「さあ、殺し合おう…」

 志貴はゆっくりとした動作で振り返りながら言葉を吐く。

 その姿は無言の殺気を放つ。

「…………無謀だ」

 いつしか吐いた言葉をさらに殺気を込めながら観月も構える。そして、砕かれた手を再生させた。

 その瞬間、志貴は消える…

 ただ真っ直ぐに立った姿勢のまま残像すら残さずに…

 だが、観月は自分の周囲を囲むように斬り付けただけだった。

 そこには蒼い剣閃…

「タネは解かっている…」

 どこからともなく志貴の声…

 その隙間のない結界のような剣閃を掻い潜り、所々斬られた痕を残しながら観月に迫る。

「ちっ…」

 舌打ちする観月だが、再び抜刀するべく志貴を見据えるが…すでに間合いの内側…

「遅すぎるんだよッ!」

 死の線は狙わず、もっとも隙を突きやすい箇所…刀を持つ左腕を斬る……

 ズンッッッ!

 手応えは薄いが確かに斬った…

 一意専心とも言うべきか…志貴のナイフは迷いなく鬼の腕を切り裂いた。

 間合いを離しながら観月は傷を再生させる。

 だが、確実に効いている……

 さらに追い討ちをかけるように志貴は観月の『力』を口にする。

「あの蒼い剣閃…不可視の檻髪を斬り、触れただけでモノを断つ。俺の考えが正しければお前は空間を裂くこ

とができるようだな」

「………」

 観月の沈黙は肯定と取れる。

「俺と違い空間を殺しているわけではないから、いずれ空間は自動修復される。大方、鬼眼から発する妖気で

維持しているようだが、当たらなければどうということはない…」

 最早言うことはないとばかりに志貴は再び消える……

「あまり…コケにしないでもらいたいな」

 観月も消える…

 両者は常軌を逸した疾さで駆ける。

 志貴は地を這うような動き、観月は地を蹴り飛翔するかのように…

 観月はやはり居合い斬り…

 志貴を、七夜を相手に同じ技を繰り返すのは一見無謀に思えるが、その剣技に隙はない。

 所々に刻まれた空間の傷痕である蒼い軌跡を一切無駄の無い動きで避けつつ志貴も反撃に出る。

 単純に死線をなぞるばかりだった初めと違い、今はただ『ある瞬間』を待つ…

 辺りには交わる剣戟など存在しない。

 相手が空間を裂くと解かったからには防御という手段はない。

 何故なら受けた箇所を問答無用で空間ごと斬られるからだ。

 故に志貴は回避し続ける…

 高速で走るなか、突如真横に避けたかと思えばそこから一呼吸も置かずに次ぎの行動に出る。

 その動きに制動という言葉は存在しない。

 急停止、急加速…さながら蜘蛛の如し……

「驚いたな…お前のようなバケモノは大抵動きに無駄があるものだが」

 志貴の言う通り観月にはヒトを超えし者の力に溺れた単純な動きは見られない。

 そのどれもが数々の修羅場を潜り抜けた経験と今までの鍛錬が光る研ぎ澄まされた動きだった。

 だが、七夜ほど一切の予備動作を必要としない動きとまではいかない。

 両者は接近し、観月は必殺の間合いだと確信する。

「この間合い…外さんぞ」

 一瞬の煌めきとともに抜刀する。

 直線的に向かってくる志貴にとっては脅威の一撃と成りうるが……

 抜刀の瞬間、真横に跳ぶ…

 それにより一閃は的外れの方向に向かうこととなる。

 さらにもう一度地を蹴り観月の左側面に踏み込み左腕に視える線を穿つ……
 
 シュン…………

 ナイフはまるで隙間を通すかのように観月の左腕に吸い込まれた。

 そう、志貴は待っていた。

 今までは牽制の居合いが目立ったが、このように正面に相手を捉えたなら必ず必殺の居合いが来る。

 散々避けることで相手に焦りを植え付け、大振りを誘う。

 大振りと言えど、さほど速さに変化は見られなかったが今の志貴に対しては致命的な隙となった。

「もう、居合い斬りは撃てない。永遠にな……」

 観月は斬りおとされた自らの腕を見つめ改めて知ることになる。

「これが…直死の魔眼……」

 例え前もって知っていようと実際に死の断片を刻まれたのだ。

 その腕が再生することは無い…





 七夜の力を振いし殺人貴はついに復讐鬼を追い詰める

 だが、彼は気付いただろうか?

 復讐鬼に浮かぶ表情が驚愕ではなく……

 どこか安心し、満足そうな感情が表れていることに…

 月下の舞の終着は近い






続く




あとがき


 今まで連日のバイトとテストで中々仕上げることが出来ず、今日…ついに仕上げました!

 戦闘の難しさを噛み締めていますが…読み返すと迫力無いですね…(涙)

 で、では、補足に逝きましょうか



・七夜の戦う原点

閃鞘の見解―――もちろん私の勝手な解釈です。公式設定とかあったら泣きますが……

        私が『閃鞘』という言葉を見て初めに思った感想ですね♪

        後、七夜志貴が出てきますが、性格はシエルルートのラストに出てきた着物の少年を成長させた

        感じですね。

        あの少年が七夜志貴だと思ったので、元々志貴には協力的だろうと思い、このように登場させま

        した。

        この後志貴は微妙に七夜口調でしゃべっていることにお気付きでしょうか?

        今回のタイトル通りこの話のメインとなるハズでしたが、秋葉の活躍に隠れたような…






赫訳・紅葉―――メルブラより。これは本来格闘技なので、秋葉が今回使った設置型の攻撃は「獣を焦がす」

           というのが本来の技名です。

           何故名前を変えたかというと単に獣を焦がすだとシーン的に合わないので……

                     

                     ―――――獣を焦がす―――――


           あ、意外といいかも♪






観月の力―――えーと、あまりツッコまないでくださいね(汗)

          次回ではもっとご都合主義な使われ方をするので……







 私の予定では後一話をはさみ、エピローグの構成です。

 さて、拙い作品ですが楽しめていただければ幸いです。

 では、過ぎ去りし流星でした♪


 過ぎ去りし流星様よりいただきました、「夢幻の闇」 第三話です。

 秋葉、志貴のタッグと堂々渡り合う十夜。遠間の居合が空間切断とは、
A○MSを彷彿とさせる能力ですが(笑)、威力は折紙つきですからね。

 でも、何よりも心惹かれるのが、大切な人を守りたいという志貴の気持ち
と、それに応えるべく力を貸す七夜。
 志貴も十夜も、どちらも大切な人の為に戦っているのです。それが、失
わせない為か、失ってしまった者への贖罪のためか、方向が違うだけで、
どちらもその思いは一緒。

 次話、どのような展開になるのか非常に楽しみですね。
 過ぎ去りし流星様、本当に有難うございました。