死とは一瞬の煌めき

 その死を刻みし殺人貴は復讐鬼の片腕を斬りおとした


 決意とは胸に秘めたるもの

 決して己の『ココロ』を見せない復讐鬼は微笑む……

 その瞳から読み取れるものこそ…彼の『決意』だった……





















〜夢幻の闇〜

第四話  「復讐鬼」

作 過ぎ去りし流星






 一体、どれほど見惚れていただろうか。

 左腕が肘の辺りから横一文字に切り取られている…

 目の前に相対する男…遠野志貴はこう言った。

「その左腕が再生することは二度とない」と。

 正に死神…どんな者にも平等な死をもたらす者。

 対峙したことのある者達の気持ちがわかる。それは、絶対的な恐怖…

 どんなに強靭な生命であろうと蒼き魔眼に魅入られては逃げ場はない。

 この世に存在する限り縛られ続ける『死』という鎖…

 それを問答無用で相手に刻み付ける姿は魔神バロールの如し。

 だが、オレが今感じているものは恐怖ではない……

 不覚にも頬が緩むのを感じる。

 これは歓喜にも似た感情……ここが、復讐の終焉か……そう思わされるには十分な事態と言える。

 そうだ…今日、オレの目的は達成されるのだ。

 オレは残った右腕で自らの角…永きに渡り共に戦ってきた愛刀を構える。鞘は左腕と共に地面に転がって

いるため抜き身の刀身を晒している。まるでその姿は今のオレのようだ……

 帰る場所を失い、本当に守りたかった者達も失ったこのオレに…

 そして、紅く輝いているであろう眼で再び敵を見据える。

 この眼に映った彼は話に聞くような死神ではない。

 ああ……この姿は…まるで………










 志貴は観月が斬りおとされた左腕をずっと眺めている事に警戒していた。

 何かしようとしているようには見えないが、その隙だらけな姿に戸惑いつつ……

 自分が殺人衝動に突き動かされていたなら躊躇い無く踏み込んだだろう。

 だが、今の志貴は殺人貴…守る者達のために自身を剣と化して戦いし者。

 思考はいつものような真っ白になるような、高揚していくようなものではなく、『殺させない』、『守る』。

単純なようだが深い…普段なら自分が絶対的に死をもたらす者として強者になったような感覚……

 今は、そんな驕り高ぶった感情など存在しない。

 自分はとても弱い…現に秋葉が殺されそうになった時も怒りより恐怖が付きまとった。

 両手いっぱいの大切な者を失わせないための強さ……

 殺人衝動に支配され強者となるぐらいなら自分は弱者でいい。

 弱いから精一杯足掻き、もし守れなかったら……などという恐怖を殺す。

 故に自身にこう言う……『さあ、殺し合おう』…と。

 もう一度観月を見るとゆっくりと刀を構えこちらに視線を投げかけていた。
 
 まだ戦うと言うのか…片手を失い、自らの最大の攻撃手段も封じられているというのに。

 また…殺さなければならないのか……










 いくらかの時が過ぎ去った後、先に動きを見せたのは手負いとなった観月だった。

 自らの周囲に刻まれた蒼い剣閃――空間の断層の一つへ死を刻まれた左腕を差し出す。あろうことか、切断された

肘よりもやや上腕をその断層へ触れさせ…斬りおとした。

 「何のつもりだ?」

 志貴の問いに答えることなく観月は鬼眼の力を使い、断層を完全に消し去る…

 そして…殺したはずの左腕を再生させた。

 だが、失われた体力までは回復できず、呼吸を乱しているが…

 志貴にしてみれば驚愕…思考が落ち着いているため動揺は少ないが直死の魔眼で殺しきれなかったのか?

 そんな考えが渦巻く…

「別に隠すつもりはない。何故かと問われれば答えるが?」

 僅かな休息になるのでな…と付け加える観月。

「ならば問う。何故死んだはずの腕が蘇生するのかを、な」

 いくら鬼と言えど、数十秒の休息で何か変わるはずがないと判断し、問う志貴。

「簡単な図式だ。貴様が刻み込む『死』はな、何かが存在するから刻めるもの。オレは左腕に死を刻まれたが、

その上から空間ごと断った。刻まれた『死』もろともな…そうして、断層を消し去ればオレの腕に『死』は無くなる。

故に蘇生も可能と思ったが…うまくいったという訳だ。」

 もっとも、バラバラに刻まれたら助からないな、と続ける…

「都合の良いことだ…だが、鞘は拾わせない。まあ、そんな隙を見せるとは思えないが?」

「心配せずとも…鞘は捨てる。貴様ならばこの意味も解かろう……」

 言いつつ自然体の構えを取る。両手を下げ、脚は左右に軽く開く…無形の構え、というやつか。

 そして、剣持つ者が鞘を捨てる事の意味…それは帰還するという行為を捨てることだ。

 死を覚悟し、背水の陣とも言える事…そうまでして遠野を討ちたいのか……

 志貴は無意識にギリッ、と歯を食いしばる。

 死ぬ覚悟があると解かっていながらその相手を殺さなくてはならない…それが、悔しい……

 そんな志貴の心情を知ってか知らずか、観月は攻撃にでる。

 目の前の標的…志貴に向い風の如し速度で…

 志貴は回避しようとするものの、居合いの太刀筋に慣れすぎていたため仕方なしにその剣を受け止める。

 ガキイイイイイイイイイイイイイイインと金属同士がぶつかる音と同時に凄まじい衝撃が襲い掛かる。

 まともに受け止めていたら問答無用で弾き飛ばされただろう…

 志貴は受け止める瞬間、刀が振り下ろされる方向と逆向きに体をずらし衝撃を緩和した。

 緩和したとは言え両手で短刀を持ち、それでも腕が痺れるほどの一撃に変わりは無い。

 (そう何発も受けられないな…)

 観月の斬撃はありとあらゆる角度から繰り出される。

 志貴が動こうにも斬撃を受け止めれば一時的に動きが止められてしまう…

 そしてこのまま受け続けていればいつかは完全に弾かれる…

 そうすれば容赦なく喉元に牙が迫り来るだろう。

 (目が慣れたとしても…これではッ!)

 辺りには先ほどとがらりと変わり剣戟の音が響く…

 いや…一方的に志貴が攻められているため剣戟とは言い難いか。

 冷たい金属音が響き渡る中、夜空に浮かぶ月は寒々とした光を放つ…

 そして、蒼と紅の眼が闇夜を切り裂く…

 さながら、蒼き光を放つ星に紅く燃える流星が降り注ぐように…

「せやああああああッ!」

 観月の一際強く、一際速い連撃が志貴を屠らんと迫る。

 逆手に構えた短刀で最後の一撃を受け止めようとする刹那…短刀の角度を変え斬撃の軌道を反らす。

 上段から渾身の力を込め振り下ろしていた観月はそのまま大きく体勢を崩すことになった。

 志貴はそのまま逆手に構えた短刀を真下…観月の背中に向け突き立てようとする…

 観月も何とか回避を試みようと右へ飛ぶが、左の肩甲骨辺りを深く抉り取られていた。

 回避の動きを見ても解かるように明らかに速度が鈍っている。

 だが、志貴とて万全ではない。今までの動きで体力は根こそぎ奪われ、斬撃を防ぎ続けた両手は血が滲んでいる。

 疲れは表情に出さず、血は拳を握り締め隠す…そして自分に傾いた流れを確実に掴むために駆ける。

 右から左へ水平に短刀を薙ぐ。観月は左手を刀の峰に宛がいその一撃を防ぐ…

 その際に先ほどの傷痕からさらに血が噴出す。

「くぅ…」

 疲労か傷の痛みか…観月の次の動作が出ない。

「今度はこちらが攻める番だなッ!」

 縦横無尽…言葉の通り斬っては移動、移動しては斬る。観月の前後左右、あらゆる方向から斬りつける。

 志貴は攻撃、観月は防御のたびにそれぞれの傷痕から出血が溢れる…

 自分の血とも相手の返り血ともつかない血を浴びながらも攻防は続く。

 現在志貴は左右への高速移動に重点を起き攻め続けて観月の目をこの動きに慣れさせようとする。

 何度か繰り返した後、観月は防御ではなく志貴の振りに合わせるように斬りかかってきた。

 その瞬間、志貴は短刀を急停止、同時に跳ぶ…

 人間と同じく目が左右に着いている以上横への動きは見やすくとも、急な上下への動きは見失いやすい…

 志貴が投じた布石はこれだった。もっとも、極限状態の相手であったからこそ効果的だと言える。

 観月は右へ刀を振り払ったままの格好で一瞬動きを止めざるを得なかった。

 その隙に空中から全体重を乗せた刺突を相手の頭部目掛け仕掛ける…

(これで…終わってくれッ!)

 切っ先が観月の頭部へ吸い込めれようとした正にその時、観月は咄嗟の判断か偶然か…

 首を右へ反らす…だが、その動きを脚にまで伝えることは出来ず突きを左肩にくらう。

 左肩へ深々と突き刺さった短刀を引き抜き、そのまま左胸の『点』を直死するが

 観月も最後の抵抗を見せる…

 奇しくも互いの刃を交える形となり、両者にとっては無限地獄ともいえる剣戟が始まる…

 今度は攻める、防ぐと言った型は成り立たない。何故ならば最早どちらが攻め、どちらが防いでいるか解からない。

 ただただ、相手の一撃に反応し、同時に刃を繰り出しているのだから……
 
 しかし、このような状態であるからこそ互いの剣に込めた想いが刃を交えた瞬間に錯綜していた。

 志貴はこれまでの日常を『護る』ため…

 観月は今までの誓いを『守るため…

 その姿は二匹の蛇が互いの尾を喰らい、どちらも引かず最後には二匹共消え去るかのように…










 だが、その内の一匹の蛇に手を貸す者がいたとすれば…


 片方が生き残り…


 もう片方に死が訪れるのは…


 自明の理であろう……


 志貴と観月が何度目かになる一閃を放つ瞬間…観月の体に赤い奔流が疾る…

 その奔流は弱々しいが、強き想いの元に放たれていた。

 志貴はそれが放たれた方を横目で見ると…

 翡翠に助け起こされ不敵な笑みを浮かべる秋葉。

 秋葉に肩を貸しながらもこちらに心配そうな視線を送る翡翠。

 そして、満面の笑顔でVサインをしている琥珀。

 かけがいのない日常のカケラ達が…そこに居た。

 みんなに笑顔で応え、みんなが生み出したこの一瞬に、観月の『点』を突く…

 ふと、観月を見る。確かに体勢を崩していたものの得物のリーチの差で今正に志貴の喉元へ迫ろうとしていた

 刀を引き、秋葉達と、志貴に小さな笑顔を向けていた……

(待てッ!止まれ、止まってくれッ!!)

 だが、すでに直死した観月の『点』を目掛け短刀が吸い込まれる瞬間だった…

 もう…志貴の手は止まらない…止められなかった……

 志貴は視てしまった。拡がり往く『死』を…ゆっくりと倒れ逝く、観月の姿を……












「兄さんッ!大丈夫ですか!?」

「志貴さん、すぐに手当てしますッ!」

「志貴様…志貴…さま……」

 俺の元に走り寄ってくる秋葉、琥珀さん、翡翠。

 でも、俺は叫ばずにはいられなかった…

「なんでだよ…さっき刀を引かなければ死んでたのは俺だったんだぞッ!おい…応えろよぉ……」

 今まで自分に宿っていた七夜の力が抜け、集中を解いた反動もあり俺は地面に倒れながらそう叫ぶ。

 そう…あのまま観月が刀を引かなければ最低でも相打ち、うまく行けば俺の喉を突き破り自分は助かった

かもしれないのに…それに……

「今まで散々仏頂面だった奴が…最後に…」

 確かに笑っていた…

「兄さん…」

「志貴様…」

「志貴さん…」

 秋葉達も最後の瞬間を見ていたはずだ。

「また、また俺は殺すだけだったのか?こんな眼じゃあ…誰も救えないのかよ……」

 頭に浮かぶのはかつて自分が兄と読んでいた少年、そしてクラスメートの少女。

 彼らも助けられなかった…もうあんな思いは御免だったのに…

「……それは、違うよ…志貴君…」

「「「「え…?」」」」

 俺たちの声が重なる。つまり、空耳でも自己満足でもなく…

「観月…か?」

 側に倒れている観月の顔を見ようとする。しかし、全身の神経、更には筋組織が悲鳴を上げていて指一本

まともに動かせないときてる。

「志貴さん、眼鏡です。それと私が肩を貸しますから…」

 琥珀さんはいつの間にか眼鏡を拾ってくれていたようで俺に掛けてくれた。

 そうすることでやっと『遠野志貴』に戻れたような気がした。

 そして、琥珀さんに肩を借り観月の側に歩みよると…
 
 鬼眼の紅い色から通常の眼に戻った観月が確かに目を開け、息をしていた。

「生きて…いるのか…?」

「ええ…君の……短刀のおかげ、みたいだね…」

 その言葉に俺は右手に握り締めたままの短刀を見る…

 これは飛び出し式のナイフ…刃を出しておくと刃が再び柄に落ちてこないようにロックが掛かる構造だ。

「ロックが…壊れて?」

 そう。よって、この状態で刺したとしても相手の体に触れる前に刃は引っ込んでしまうだろう…
 
だから、完全に『点』を貫ききれなかったか…

「ふふ…使い手の想いに応える……いい…刀だね…」

 私にとっては不幸ですがね…と観月は言う。

「…ふざけないでくださいッ!貴方はただ死にたかっただけなのですか?そのために復讐を利用したのですか!?

そのせいで…志貴様も、秋葉様も…」

「翡翠…」

 声を上げたのは翡翠だった。彼女は心を痛めていく秋葉と戦う決意をした俺に自分自身も心を痛めていた。

 自分は、何も力になれない、と……

「そんなことはないですよ…翡翠さん、でしたね…」

 翡翠の言葉に観月は悲しそうな声で答えていた。
 
「私は…確かに復讐を果たしました……それと、着物を着た貴女…お名前は…?」

「…琥珀です」

「そう…ですか……志貴君と秋葉様の手当ては…必要、ありませんよ…」

「ただ…ゆっくり休むだけでいい…はずです」

 言われてみて気が付いたが、俺に付いていた刀傷は綺麗に消えている…外傷は両手の血豆ぐらいだ…

「どう言う事です?」

 秋葉は外傷は元から無く、失った体力も琥珀さんの『感応』でなんとかなったのだろう。

「私が付けた傷は…全て空間の断層によるもの……それを傷として刻まず…無かったことに修正することも

できますから……」

 平然と言い放つ観月だが、今の今まで傷は確かにあった。つまり…

「じゃあ、あんたは俺と戦い続けている間も…傷痕に鬼眼の妖気を送り続けていたのか?傷としてでなく、

ただの痕として…」

 だから、最後にはあんなにも衰えていたと言うのか。だったら、何故…ッ!

「だったら尚更だ。あんたがしたことに意味なんて無いじゃないか!こんな、茶番に付き合わせたのか!?」

「それは…今から説明しますよ…」

 観月は語りだす…あの日…初めて遠野の屋敷を訪れた日のことを…













 私が屋敷を訪れた時、その時はまだ遠野秋葉を殺すつもりでした。

 ただ…彼女の印象は私がかつて見た遠野の者とはだいぶ違って見えた…

 彼女ならば…かつての遠野とは違うかもしれない。

 ああ、こう言えば何故その場で話合わなかったのか…と思うでしょうね。

 私は…一度遠野というニンゲン達を見ています…平気でみんなを殺し…私達を道具を見るような目で見て、

あまつさえ…己の身内ですら…同志ですら手駒として扱う。

 そのような一面を見せ付けられ、どうして信じることが出来ようか…

 貴女を見た瞬間…その場で首を刎ねたい衝動に駆られましたよ。
 
 ですが、それは復讐ではありません。ただの…八つ当たりです。

 私は…何年も、何十年と待った。己の内に眠る衝動を抑え、遠野の血が強く目覚めるのを…

 つまり、貴女が当主となる日をね。そうすれば…本当の遠野がどういうものか判断できる、と。

 私には他に方法が思いつかなかった…言葉は信用できず、態度も然り。

 君達と刃を交えるまでは、遠野は身勝手な理由で私達の日常を奪い、自らはのうのうと日常を謳歌する…

その上…私達の力を使いより自らにとって都合のいいように裏から操る…

 これほどの侮辱があろうか…私達の力…過去から受け継がれてきた想いと共に有ったものを

私利私欲に使う…殺して、殺し尽くして、全てを虚無に消し去ってやりたかったよ…

 皆殺しにした後、屍の上で高笑いし…このような私に殺される愚か者共め、とね。

 その上で私も命を絶ち、皆に報告したかった…もう、泣く事も、苦しむことも無い、と。

 我らの血に溺れていくモノ達を見たとき、私達の呪いかと思ったぐらいですから。

 やっと、この怨念から解放されると思った時、あなた方から感じたのはなんと暖かな想いだったか…

血の繋がらない兄妹が互いを支えあい、死なせないという願い。遠野とは関係ない、いや…むしろ私に近い立場

の君が遠野のために戦っていた。

 刃を交えて…その想いがどんなに、純粋であったか…

 そして、使用人である貴女方が己の危険を顧みず…君達を助けにきた…

 恐怖によって支配されていたかつての遠野であらば…存在しない光景でしたね。

 どの道私は死ぬ…安心してください。皆には伝えますよ…かつての遠野は滅んだということを。

 志貴君…私の腕を殺した時の姿、私には死神には見えなかった。あの姿はまるで……

 過去、私が求めた強さ…誰かを守れるすばらしい力を秘めた姿だった…














 ここまで話しきった観月は急に咳き込んだ…

 俺には眼鏡を掛けていても…『死』で覆われていく彼の姿が視えた…

「秋葉、すぐにあのヤブ医者を呼ぶんだ!来るまでは琥珀さん、応急処置を頼んだよッ!」

 俺は力の限り叫んだ…まだ、希望はあるはずだ。『死』の侵食は限りなく遅い…

 秋葉が翡翠を伴って動こうとした時、予想外の人物から、予想外の言葉が紡がれた……

「志貴さん…このまま死なせてあげましょう」

 琥珀さんだった…この時ばかりは、本当にワケが、解からなかった……

「琥珀ッ!何を言うの!?目の前で人が死に掛けているのよ!それを――」

 秋葉の言葉を遮り、琥珀さんは観月に声を掛ける。

「言葉通り、あなたが死ぬと言うなら私は止めません。むしろ賛成します…ですが、死に逝く前に御聞きしたい

ことがあります。しゃべれなくなる前に答えてください」

「ッ…姉さん!」

] 翡翠の…本気で怒った声だ。俺だってワカラナイ…何故琥珀さんがこんな、まるで勝手に死ねとでも

言っているような行動を取るのかが…

「私もかつては遠野に復讐を誓ったことがあります。ですが、果たされることは無かった…だから私には復讐を

遂げられた方のお気持ちが理解できません。それに…もともと望んでいた形ではないでしょうに。」

 観月は納得したようで、静かに告げる…

「…最高、ですよ」

 そして笑顔…まるで無邪気な子供のような、本当に喜んでいるように……

「もう、みんなの悲痛な声を聞かなくてすむ。その上、やっと…逢えるのですから……」

「そうですか。よかったです…でしたら付け加えておきます…あの日、あなたが屋敷に来て帰られた後ですが

私達は改めて家族であると思いましたよ?つまり、かつての遠野はあなたによって完全に滅ぼされました。

ですから、天国にいるみなさんに胸を張ってお伝えください…」

「貴女は…面白い方だ…そして、優しいんですね…」

「琥珀…でも死なせることはないでしょう?」

 秋葉の二度目の問いにも琥珀さんは首を振る…

「…私には翡翠ちゃんがいて、秋葉様がいて、そして志貴さんもいました。ですから、また『人間』として

動くことが出来ました。でもこの方は今までずっと一人で戦っておられたのでしょう…

その上、誰も殺さずにいてくれました。負の感情に負けることなく…もう、休ませてあげましょう。

この方の最期の願いですから…何よりも、早く御家族や御友人に逢わせてさしあげましょう……」

 その言葉を聞いて…いや、琥珀さんの顔を見て動ける者は誰もいなかった…

 琥珀さんは泣いている…この中で誰よりも彼の満足感、哀しみが理解できるから…

 かつて琥珀さんは独りだと思い込んでしまいたかった。だが、観月は独りだとしか思えなかった…

「あり…がとう…」

 観月の…恐らく『最期』となる言葉が紡がれていく…

「ああ、やっと…月が観れた……今まで暗雲が覆って…いたのに……あなた方と刃と…言葉を……交え…

この月を隠していた闇が…夢幻のものであると……気付かせて…くれた……最期に、こんなに綺麗な月が観れて

……よかった…」

 それきり、観月はしゃべらない…最後に笑顔を浮かべたまま、その姿は閃光のように消えていった…

 傍らにあった刀も主人に寄り添うように、一条の光と共に消えた。

 俺には最後の彼の笑顔と、ありがとうと言う言葉が…いつまでも頭の中に残っていた………






続く






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あとがき

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

もちろんこのまま後味の悪い終わり方はしません。あと一話…エピローグまでお付き合い

いただければ幸いです。

では、過ぎ去りし流星でした♪



 過ぎ去りし流星様より頂きました、「夢幻の闇」第四話です。

 十夜の辛い選択に涙。彼は本当に不器用で、こういう生き方しか選べなかったのでしょうか。憎い敵であれ、相手を

気遣ってしまう。人を思いやる心が誰よりも深い彼は、他人を許せても自分を許す事だけは出来なかったのでしょうか。

 エピローグ、果たして彼の結末がどの様に描かれるのか目が離せませんね。

 過ぎ去りし流星様、ありがとうございました。