光と共に『復讐鬼』は消え去った

復讐に彩られた思念も…そして彼自身も

彼が残したものは二つ

何人たりとも覆されぬその秘めていた想い

そして……




〜夢幻の闇〜

エピローグ  「うつろい往く、時と共に…」






 あの日、決着が着いた日から一夜明けた。

 つい先ほどまであんなに寒々とした月が顔を覗かせていたかと思えば…

 帰る場所さえ見失いそうな程の闇が広がっていたかと思えば…

 辺りには全てを優しく包み込んでしまう程の朝日が…そこにあった。

 まるで、彼が遺した言葉…『今まで覆っていた闇が夢幻のものであった』という言葉通りに初めから闇がなかっ

たように。

 本来ならば歓迎すべきはずの陽のヒカリ……

 ここ、遠野家ではそんなヒカリを受け入れようとする反面、抵抗もある。

 闇として生き、そして闇として死んで逝った彼の言葉を思い出してしまうから…

 それは逃避と言う感情からではなく、哀しみ…

 いっそ、彼が…心の底から憎むべき殺戮者だったらよかったのに。

 誰かがそんな言葉を口に出す。

 解かっている。その言葉を出した者も、この場にいる全員が解かっている。

 そんなことを思うのは彼に対する最大の侮辱に他ならないということを…

 心では彼に対する敬意、感謝、そして…死出の旅路が安らかであることを願っている。

 でも、せめて…この哀しみを紛らわせてくれる言葉ぐらい吐かせてほしいのだろう。

 責める者もいなかった……

 彼が語った通り、その憎しみは計り知れない程大きかったはずなのに…

 それなのに…こうして志貴達は誰一人として欠けることはなく朝日を見ていた。

 本来なら、皆死んでいたかもしれない…これも彼が心を失わなかったからに他ならない。

 憎しみに支配され、ただ破壊を求めるのではなく己の誓いを果たすための戦い……

 かつての何も出来なかった自分を責め、苦しみぬいて見出した答えは…純粋すぎた。

 己の命を剣と化し、人を斬るのに一族の死を理由として使わず、あくまで自分の意思で行った。

 それは今、志貴達全員が生きていることが証明だろう。

 恐らく、多くの者は怨みを晴らすために復讐を望み相手を殺す…

 それは誰のための行為か…?

 『自分』のため…自身の怨みを晴らすために刃を振う者がほとんどではないか?

 これこそが、人を斬るために誰かを利用しているということであった。

 殺されていった者のため、と言いながらも自身のために刃を振うということ。

 彼の出した答えはこの行為と大きくかけ離れたものと言えるだろう…

 永きに渡り己の心を殺し、ただ一族の苦痛を取り除くために生き、そして目的が果たされたと思えば……死を望

んだ。

 それも逃避の死ではなく皆に逢いたいがために…

 やっと…眠りにつけただろうか?

 その想いは逝き際に残した『ありがとう』という言葉……

 憎んで、どうしようもなく憎んだ相手に感謝と謝罪の言葉を遺して彼は旅立った。

 それが死への旅路だとしても…どうか、安らかであるよう……志貴達は願った。

「こんなふうに思うのは傲慢…なのかな…?」

 それは志貴の言葉…生き残った者としてこのような願いを抱くことに僅かながらの戸惑いがあるのだろう…

「いいえ…今はいない誰かを想うのは傲慢ではありません。誰だって、切なさを閉じ込めておくための扉の鍵は

無くしてしまいます。今、兄さんが心に描いた彼に対する想いはきっと届きます。そして彼もそれを嫌ったりはしな

いでしょう…最期に見せた笑顔が…その答えだと私は思います。」

 まるで志貴が考えていたことが解かったかのように言葉を返したのは秋葉だった。

 恐らく彼女も同じことを考えていたのだろう…

 まるで、その言葉を肯定するかのように朝日がより強い輝きを放った。

 すると、見落としてしまいそうな程の弱々しい光が一瞬だけ煌めいた。

 そこには黒く…深淵なる闇を凝縮させたような黒。

 今までは辺り一面闇に覆われていたため気が付かなかったが、たしかにあるモノが存在していた…

 それは彼が戦いの最中に捨て去った鞘だった。

 陽の光に照らされ輝くその様相はこの世を去る直前の…目的を果たし、自身に決着を着け、

 暗い世界から光輝く世界へ歩んでいった彼――観月の姿を彷彿とされるものだった。

「まるで、あの人みたいですね」

 そう言って鞘を手に取ったのは琥珀だった。

 彼女は観月と最後に言葉を交わし、そして見送った者だからこそか……余計に似ていると感じ取ったのかもしれ

ない。

 そんな彼女の言葉に頷きながら自然に全員が同じ行動を取った。

 それは別れの、そしてそれぞれが想うままの言葉だった……

『さようなら、気高き復讐鬼』







 結局、その日は俺も秋葉も学校を休んだ。あの後屋敷に戻ると糸が切れた人形のように眠ってしまったからだ。

無理もない。ほぼ半日近く戦っていたから…

 翡翠と琥珀さんも最低限の仕事をこなすと休んだようだ。

 二人とも俺達のことを心配してくれていたみたいで、ろくに睡眠もとっていなかったからか、仕事の最中も眠そう

だった。

 そして彼が残した鞘は今、俺の部屋にある。

 屋敷に残っている資料を調べ、彼――観月の生まれ故郷を探し、そこに返そうかとも思ったが

 残念ながら資料は残っていなかった。

 だから、俺が預かっている。

 観月をこの手で殺してしまったからか?

 それに対する罪悪感か?

 それも無いとは言い切れないが、きっと違う。

 少なくとも俺は観月の左胸の点を突いた時のことを考えていた。

 最初に彼はこう言った。『心が痛いんだよ』と。

 では、俺が穿った点は彼の『死』ではなく痛みに打ちのめされる心だったのではないか?

 だから、彼はもしかしたら生きているのではないか?

 何度もそう考えた…だけど、仮に生きていたとしても彼は死を望むだろう…

 不器用な生き方だ、と言えるかもしれないけれど、少なくとも俺はそんな生き方も『人間』なのではないかと思っ

ている。

 敢えて言うならば『欲望』…

 それは人間なら誰もが持っている感情で、決して綺麗な感情とは一言では言い切れない。

 だが、生きていく上では必要な感情…必ずしも汚いものでなく、『生きたい』というのも

 言ってみれば欲望ではないだろうか?

 彼の場合はそれが鬼という一族と、遠野という一族との決着だったというだけだ。

 永い苦痛の果てに見出した答えと誓いを貫いた結果なんだから…

 その報告のためにも、彼は死を選ぶ。

 だけど…いつか逢えそうな気がしていた。だから、その時まではこの鞘を持っていたい。

 だって、鞘はいつか戻ってくる…という象徴なんだから……

 その時は、今以上の絆と優しさに包まれた遠野家の全員で出迎えよう…

 あなたが滅ぼし、そして新たな一歩を踏み出していく『俺達の』遠野家を…

 俺にはみんながいる。あなたも…家族や友人と逢えただろうか?

 もう…独りではないはずだ。

 俺は鞘に向かい、そんなことを考えていた。

 すると……

 コンコン、とノック音が聞こえた。

 日付も変わり、新たな朝を俺に伝えてくれるこの音…そして彼女だ。

「きっと最初の言葉は…」

「おはようございます。志貴様?」

「おはよう、翡翠」

 俺がニヤけていたからか、少し困惑気味な表情の翡翠だ。

 彼女のおかげで新たな朝を迎えたのだと実感できる。

「では、着替えをどうぞ。私はお先に失礼します」

 いつも通りのやりとり…だけど、俺は…

「あ、翡翠。廊下でちょっと待ってて。着替えたらすぐ行くからさ。たまには一緒に行こうよ」

 と、こんなことを言ってみた。もちろん冗談なんかじゃなくて本気だ。

 すると、少し顔を赤くしながらも翡翠は…

「はい…ではお待ちしております」

 と、笑顔で答えてくれた。

 昨日から色々と考えていたためか、今はみんなと、家族と少しでも一緒にいたかった。

 翡翠の笑顔を見て、ああ…俺はみんなといれるんだな、と思える。

 だから翡翠の笑顔がとても嬉しくて、少し恥ずかしかった。

 ……おっと、翡翠を待たせてるんだ。急いで着替えなきゃな。

 手早く着替えを済まし、廊下に出ると、翡翠はしっかりと待ってくれていた。

「お待たせ!」

「いえ、いつもに比べると待ったうちに入りません」

 さらりと俺を非難する翡翠だが、俺達は互いの顔を見合わせると笑った。

「さて、じゃあ行こうか!あんまりゆっくりもしてられないね」

 翡翠も頷き、俺達は秋葉と琥珀さんがいるであろうロビーに歩いていく。

 いつものように秋葉はお茶を飲みながら琥珀さんと何かを話していた。

 俺と翡翠に気付くと……

「おはようございます。兄さん。今日はおおむね早起きですね」

「おはようございます。志貴さん。あは、朝から翡翠ちゃんとツーショットですか〜♪」

 笑顔で俺にもお茶を勧めてくれる秋葉と、いいな〜とだだをこねる琥珀さん……

「おはよう。秋葉、琥珀さん」

 苦笑しつつも挨拶を返す。

 いつもと変わらない日常。

 これからも変わらず、ずっと続いていくこの日常。

 大切な人達に囲まれて俺はこれからも生きていくだろう。

 旅立った観月も…こんな日常を過ごしているはずだ…


 彼には安らかな終わりを…


 俺達には新たな始まりを…


 願ったものは互いに同じ『日常』…


 穏やかな日にまた逢えたらいいな…


 だから、俺はこう言う


 またな、十夜…観月






〜Fin〜




















あとがき

最後まで付き合っていただき、本当にありがとうございます!

過ぎ去りし流星です。

今回はエピローグということもあり、セリフは少なくなるべく淡々と進めてみました。

それと物語のテーマである『復讐』を今まで書いてきましたが今回で補完、という形です。

私なりの復讐という形でした。かっこよく言えば美学…かなぁ〜?

それと物語全体を通しての遠野家メンバーの

『過去に囚われず生きる。だが、罪も罰も認めてその想いに応える。そして互いを支える家族の強さ、そして……

優しさ』

これらが伝わったなら幸いです。

彼らには家族として本当に幸せに生きていてもらいたいです。

様々な障害もありましたが、それらも乗り越えていける…だって、独りじゃないのだから……

まあ、私の表現力では微妙でしたね…

何はともあれ、今回で終了です!

今まで応援してくださったみなさん、感想をくれたみなさん…本当にありがとうございます!

そしてMAR様…私なんかの作品を最後まで受け取っていただき感謝感謝です!

では、過ぎ去りし流星でした!


 過ぎ去りし流星様から頂きました、「夢幻の闇」エピローグです。
 死が救いとなる……それは生者の勝手な言い分かもしれませ
ん。しかし死者に囚われて足を止める事こそが、もっともしては
いけない事なのでしょう。
 忘れず、しかし立ち止まらず。それが志貴たちの見つけ出し
た答えなのでしょうね。

 流星様、素敵な作品、本当にありがとうございました。俺も負
けてはいられませんねw
 これからもよろしくお願いいたします。