月姫 ショートストーリー 
「少し遅れたクリスマスソング」
 作ユウヒツ


 お断り。今回の作品には40%の60Lさんとあーぐらすさんの考えたオリジナルキャラクターが
 出て来ます。これはお二人様より快く許可を頂きました。この場を借りて御礼を言います。
  なお、お二人のキャラクターは僕の解釈を多分に含んでおり、原作とは全然別のキャラクターとなって
 おります。その点をご了承してくださいませ。





  第一夜 ローマ 某公民館 貸し会議室にて



 「どうやら、みんな揃ったようやな」
  
  赤毛の大男が簡素な会議室をギロッと見回して言う。

  男の言う通り、円卓には赤毛を含め五人の男女が席に座っている。

 「それで、何の用なのブラッソ」

  赤毛の大男──ブラッソの近くに座る金髪の少女、エトワールが少しふてくされた様子で言った。

 「クリスマスプレゼントや」

  ブラッソは一言だけ言った。それにエトワールが少し呆けた顔で、

 「はっ? クリスマスプレゼント──」

  と呟く。

 「そや、我らが敬愛するナルバレック女史野郎のためにクリスマスプレゼントを用意しようと思うんや」

  嬉しそうに言うブラッソにみんなは開いた口がふさがらない。

 「第六司祭。まさか、その為に我ら埋葬機関の司祭を集めたのか」

  口を開いたのは髪の右半分が白髪、左半分が黒髪という変わった人物。着ている服、カソックも

 同じように右が白。左が黒となっている。埋葬機関第三司祭、「翼」のルミエルである。

  そう、ここに集まっているのは世界に名だたる退魔組織にしてカトリックの裏組織を束ねる所、

 埋葬機関のメンバー五人である。


  第六司祭 「腕」「鋼」「獣」などの二つ名で呼ばれるブラッソ。元イタリアンマフィアの構成員。抗争

 に巻き込まれて相手組織に殺されかけた所をナルバレックに拾われる。暗黒街で鍛えたナイフの腕は

 超一流。しかし、一番の武器はそのしぶとさであろう。ただの人間である彼がいかなる所からも必ず

 生還する。化け物じみた生命力を持つ。さらに獣じみた直観力も彼の武器だ。赤毛に二メートルを越す大
 
 男。いつも冗談を言っておどける。第四司祭エトワールとは機関公認のバカップル(ブラッソだけ暴走

 している)で陽気なムードメイカー


  第四司祭 「牙」「糸」「狩人」などの二つ名で呼ばれるエトワール。十五歳で埋葬機関予備も含めて

 最年少の司祭である。それでも司祭として予備役も含めて十年近く前から活動をしている。

  金髪、碧眼の可愛い女の子。ハーフで、日本人の父を持つ。母親は魔女でその世界では有名なウィッチ

 クラフトの使い手。父親は日本では狼の民と呼ばれる獣人。二人ともある事件のためこの世には居ない。

 いや、生きている事は生きてるが会う事は不可能に近い場所に居るのだ。

  一人になった所をナルバレックに保護されて現在にいたる。

  日本の狼の民は独特で、西洋の獣人たちには無い技を使う。噂では日本の狼の民はもっとも純粋とか。

  エトワールも父から教わった技、指先から糸を出し、それらを巧みに使用する。これは蜘蛛の神々に 
 
 授けられた技だとか。明るく元気な女の子だが、少々皮肉屋で物事を斜めに見る傾向がある。

  多重人格者で普段の「あたし」理性的思考の「私」戦闘的思考の「ボク」がある。

  狼には変身しない。最後の人格と共に獣人化は封印中。
    

  第三司祭 「翼」「灰」「束縛」などの二つ名で呼ばれるルミエル。彼(彼女)は人間ではない。

  第五司祭のメレム・ソロモンも吸血鬼だが一応元人間である。彼(彼女)ルミエルは天使。しかも

 受肉した降天使なのだ。

  彼(彼女)に性別は関係ない。天使である為両性具無、男でも女でないのだ。場合に応じて男性化、

 女性化は可能。

 最大の特徴は首や服の袖から覗いてる革のベルト。全身いたるところをベルトで縛っているのだ。

 これは拘束具。彼(彼女)の力を抑え、戒める物だ。そう、その力は大きく封印しないほど危険なのだ。

 詳しい事は明らかでないが熾天使クラスの力を持つと言われる。どうして地上に受肉して降りたかは

 不明だ。ただ、受肉降臨は天使の間では不名誉とされるらしい。

  技は光の力。手をかざすだけで闇が滅びる。さらに天使の歌でさまざまな奇跡を起こしたり、天使の

 ラッパで天使の軍団を召喚したりと圧倒的な力を持つ。欠点は戦闘活動時間が短い事。最大で十分しか

 戦闘できない。それでもまともに戦って十分以上持つ相手はほとんどいないのだが。

  性格は喜怒哀楽など基本的な感情が少ない無表情無感動タイプ。それでもこの頃は感情を少しずつ

 覚えてきた。

  地上に降りて数千年経つというがつい最近まで封印されていたため、埋葬機関では一番の若輩になる。


  まだ、発言はしていないが他にも、

  第五司祭 「王冠」のメレム・ソロモン。死徒二十七租にして埋葬機関構成員という変り種。本来の姿

 は金髪の美少年だが、今は左腕の魔獣に四十代の温和な司祭の姿をとらせている。

  神の子として四肢を切断され崇められていたが、真租に血を吸われ死徒となる。秘宝コレクターと

 しても知られている。

  己の四肢に四つの魔獣を住ませている。彼の本来の姿を知るものは第一、第二司祭、そして第七司祭の

 シエルのみだ。


 予備役 「笑」「罠」「触手」などの二つ名で呼ばれるアルバート。眼鏡をかけた三十代の痩せ型の

 男性。いつニコニコしている。説法も得意。元、軍の特殊部隊の従軍神父。兵達の懺悔を担当していた。

 ブラッソと同じく魔力の持たないただの人間だが、特殊部隊で覚えたトラップの名手。さらにナイフや

 銃などの使い手。ただ、直接戦闘力は埋葬機関の中で一番低い。しかし、知謀知略の使い手で敵は何が

 なんだか分からずに死亡する。豊富な人脈とコネも彼の武器である。

  穏和な性格でとても裏の人間は見えない。

  以上がこの場に集まった埋葬機関の司祭たち。埋葬機関は個人行動を主としており、この場に五人も

 集まるのは異例の事態といえる。

 
 「それで、いったいなに考えてるのよ、ブラッソ」

  エトワールがブラッソを睨みながら言う。少し頬を膨らませているのがとても可愛い。

  ブラッソはジョーク好きというかいたずら好きで、この前もネット内に自分のサイトを開いて

 「ナルちゃん日記」を公開した。これは上司ナルバレックを可愛くおちゃらけて書いたもの。さらには

 英語、スペイン、ポルトガル、フランス、そして日本語訳して載せていた。日本の任務から帰ってきた

 ナルバレックに何故かばれて、こっぴどく怒られた(という表現は生易しい。過酷な任務をさせられたが

 彼はぴんぴんして帰ってきた)恋人であるエトワールは彼のとばっちりを受けることが多い。それを

 警戒しての発言である。

 「まあまあ、落ち着いて下さい。今回は私がブラッソに頼んでみんなを集めさせたんです。今回の件は

 皆さんの力を結集させないと出来ない事ですから」

  四十代の姿をとっているメレムの言葉にみんなは激しい衝撃を受けた。

 「待ってください、メレム司祭殿。いったい、何をするつもりです?」

  アルバートがいつもの笑みを忘れて言う。埋葬機関は先ほども言ったように個人行動を主とする。

 一人一人が一騎当千だからだ。他の教会の裏組織のサポートは受ける事が多いがせいぜい恋人同士の

 ブラッソとエトワール。予備役のアルバートが誰かのサポートに組むぐらい。五人もの司祭が集まって

 事を起こすとは前代未聞だ。

 「このごろ、ナルバレック女史野郎の元気が無いやろう。そこで、ごッつく元気づけてやろうとクリス

 マスプレゼントを考えたんや」

  ブラッソが嬉しそうに言う。確かにこの頃ナルバレックの様子はおかしい。少し前にある任務で日本

 に行ってからだ。

  詳しい任務内容は同行したメレム・ソロモン以外は誰も知らない。なんでも第七司祭シエルの様子と

 新しい埋葬機関の構成員のスカウトと聞いている。

  シエルは日本に滞在している。真租の姫君、アルクェイド・ブリュンスタットの動向を監視する

 ためだ。なぜか彼女は日本に長く滞在している。

  日本に現れた死徒二十七租番外「蛇」のロア、十位の「混沌」のネロ・カオスは二人が協力して滅ぼ

 したという。そのため、アルクェイドはロアに奪われた力を取り戻し、シエルは不死の呪いから開放

 された。

  しかし、二人の力だけで最も滅ぼしにくいと言われる二人の死徒を滅ぼせるのだろうか。どうやら

 現地の協力者がいるという。それを確かめにナルバレックは日本に向かった。

  その後の詳しい事は誰も知らない。スカウトには失敗したと聞いている。

  追加報告で死徒二十七租十三位のタタリが滅びたのもその現地の協力者が関係していると噂に聞く。

  だとしたら想像以上の力だ。

  それはともかく、ナルバレックの様子はおかしい。公務では微塵も見せないが休憩時間など私事に

 なると溜息をついたり何かを深く考えたりする。結構うわの空の時が多いのだ。あそこに行く回数も

 かなり増えた。

  日本で何かがあったというのは確かなのだが、それが何なのかは誰も知らない。同行者のメレムを

 除いて。

 「いったい、何をするつもりか知らないが、とても、我ら全員の力を必要とするとは思えんな」

  ルミエルが冷たく言う。

 「必要やとも。なにせ、敵は真祖の姫、アルクェイド・ブリュンスタット。我ら埋葬機関の第七司祭の

 「弓」のシエル。さらに日本の鬼の混血の一族遠野家が敵やからな。場合によってはさらに増えるかも

 知れんぞ。少なくてもアトラスの錬金術師にして名家エルトナム家のシオンも敵になるやろうしな」

  ブラッソの言葉には全員が息を飲んだ。


  
  第二夜 ローマ郊外 養護施設「希望の丘」の食堂にて



 「ほら、このくそガキども。このナルバレック様がケーキを焼いてきてやったぞ」

  もし、貴方がナルバレックの事を少しでも知っているならば驚愕するだろう。彼女が柔らかい優しい

 笑みを浮かべて子供達に自ら作ったケーキを切り分けているのだから。

  子供達はワー、と歓声を上げながらナルバレックのほうに殺到する。

 「落ち着け、落ち着け。ほら、シスター達が睨んでいるぞ。ケーキはたっぷりある。逃げはしないぞ」

  意外な事に子供達をあやすナルバレックの姿はかなり様になっている。

 「シスターナルバレック……」

  最後のほうに一人の少女が顔を少し赤らめてもじもじしながら出てきた。年は十歳前後。肩まで

 かかる髪で顔を隠しながら首を少し振っている。

 「おおっ、エレイシアではないか。お前の大好きなチーズケーキを焼いてきたぞ。今回は改心の出来だ。

 うまいぞ」

  ナルバレックはそう言って少し大きめに切り分けたチーズケーキを少女に差し出す。

 「ありがとう、ナルバレックおばちゃん」

  意を決したような少女の言葉にナルバレックは横から頭を殴られたような衝撃を受け、真っ白になる。

 「あの、シスターナルバレック……」

 こわごわとエレイシアがナルバレックの顔を下から覗き込む。

 「エレイシア……お姉さんは全然怒らないからよく聞いてくれ。その言葉、誰に吹き込まれやがった」

  とてつもなく怖い笑顔で優しくエレイシアの肩を掴みながら聞く。

 「ブッ、ブラッソのお兄さんがシスターナルバレックをこう呼ぶとすごく喜ぶと聞いて……」

  少し怯えながらエレイシアはいう。ナルバレックは頭の中でブラッソにバードショット(小粒の散弾)

 を装填したショットガンを構える。

 「そうか……ブラッソか」

  この養護施設にはナルバレック以外にもブラッソとエトワール、この頃は顔を出さない(出せない)が

 シエルがよく尋ねにくる。

 「あの……ナルバレック母さん、気にいらなかったの」

  考え込んでいたナルバレックにこのエレイシアの言葉は効いた。今度こそ致命的な一撃で回復不能。

 「そっ、それも……ブラッソか」

 かろうじて、かすれるような声でナルバレックは言った。

 「うん……ブラッソ兄さんが、もし、シスターナルバレックが気に入らないようだったらこう呼べって、

 これもだめなの」 

 「いや、駄目ではない……駄目ではないが」

  狼狽するナルバレックにエレイシアは満面の笑みを浮かべてこう言った。

 「なら、これからそう呼ぶね、ナルバレック母さん」

  ぼんっ、という言葉が似合うほどナルバレックの顔が赤くなる。同時に他の子達もナルバレックの事

 をお母さん、お母さんと呼んでいく。

  ナルバレックの顔が熟れたトマトのように真っ赤になる。

  どう反応していいか分からない。ただ、頭の中でブラッソにバックショット(大粒の散弾)の

 ショットガンをフルオートでぶち込んでいた。撃たれたブラッソはダンスを踊っていた。

  エレイシア──本当の名前は不明。フランスの片田舎の町出身。しかし、その町はエレイシアと呼ば

 れる死徒に滅ぼされる。少女は数少ない生き残りの一人。瀕死の重傷だがかろうじて生き残っていた。

  少女に残っている幼い記憶。それは死者となった実の母親に腕を噛まれ、血を啜られるという陰惨

 な物。それ故に母親には余りいい感情は無い。だから──恥ずかしそうに嬉しそうにナルバレックを

 母さんと呼ぶのは効いたのである。

  ここは身寄りの無い子供や老人、そして大人が収容されている施設。教会自らが管理運営している。

 そう、ただの養護施設ではない。魔に襲われた身寄りの無いもの、心に傷を負ったもの達を癒す施設だ。

  PТSD──心的外傷後ストレス障害。地震、殺人など大きな衝撃的体験を受けた者は心に大きな

 傷を残す。その傷は生半可な事では消えはしない。爪で引き裂かれた体の傷が癒えても心の傷は深く残り

 続ける。魔に襲われるという事はそれほど衝撃的なことなのだ。

  考えてみればそれは当然だろう。今までの己の常識というのが大きく覆されるのだから。

  もちろん、魔術や薬などの暗示によって、魔に襲われた記憶をあやふやにする。ただ、人の記憶とは

 厄介な物で、それぐらいでは傷は消えたりはしない。むしろ、直接的な記憶がない分、回復には時間が

 かかる。

  そう言ったもの達を保護、教育していくのがこの施設の目的だ。最終的には更正し社会復帰を目指す。

  少し話しは外れるが退魔機関(そう言ったものでなくても類似機関)において戦闘の比重はあまり

 高くない。埋葬機関のように少人数での一騎当千はともかく、魔との戦いにおいては様々な雑業が存在

 する。例えば情報操作。魔が出現した地域の交通規制や新聞やテレビなどの規制など。例えば、情報収集。

 魔に関する知識を集めつづけなければならない。さらにはどういった魔なのかなど情報ひとつが生死の

 分かれ目になる事は少なくない。そして、事後処理。魔を退治してもその地域の傷は深い。それらを癒し

 ていく必要があるのだ。この施設もその一環のひとつといえよう。

  ナルバレックはこの施設を激務の合間に週に一度は訪れている。多くの者の陰口に「ポーズのひとつ」

 「新しい構成員の発掘目的のため」といろんな事がささやかれている。

  ナルバレックはそう言った言葉を聞いても冷笑で応えるだけだ。それゆえに憶測は広がるだけである。

  ただ、笑顔で子供達に接する姿からはそんな目的は微塵感じさせないのだが……

 「シスターナルバレック……」

  子供達にケーキを配ってあやしているナルバレックに十五歳くらいの長い髪の少女が話し掛ける。

 「おおっ、ジェシカではないか。どうだ。お前もチーズケーキは好きだろう。どうだ?」

  少し子供達の攻勢に嬉しいながらも辟易していたナルバレックはそう言って少女に近づく。

 「いらない」

  少女──ジェシカはそっけなく言った。なぜか、ナルバレックや回りを睨むように見ている。

 「そうか……そういえば聞いたぞ。また、学校を……」

  少し戸惑いながらもナルバレックが話し掛けるが、

 「どうでもいいでしょう。そんな事。あたし、部屋に戻ってる」

  そういって、ジェシカはきびすを返すとすこし荒々しい歩き方で食堂から出て行った。

 「ジェシカ……」

  ナルバレックは寂しそうに呟いた。

 ジェシカ──十年以上前にナルバレックが助けた少女。父親が魔に変貌し暴走。母親を惨殺した後、

  ジェシカに手をかけようとしたが寸前で助かった。しかし、心の傷は深く。誰とも喋ろうとしな

 かった。唯一、ナルバレックだけには少し心を開き、以来、姉妹のように母娘のように二人は接して

 いた。

  ここ数年はかなり回復し他の人と普通にしゃべけるようになる。ただ、まだ、傷は深いのか学校に

 行っても皆と打ち解けずに登校拒否をする。

  専門医の話ではもう心の傷はかなり回復しているというのだが……

  この頃はナルバレックにもそっけない態度をとる事が多い。難しい年頃なのだろう。新しい子が

 増えたため、ついつい、かまう機会は少なくなったがナルバレックはジェシカを心配していた。

  なんといっても二人の仲は長いのだから。

 ケーキを配り終わった後、嬉しそうに皆と食べているエレイシア達を見ながらナルバレックは小さく

 溜息をついた。

 「寂しそうだな」

  不意に後ろから声がかかる。少し驚いて後ろを振り向くと頭巾付のシスター服を着込んだ老婆が

 立っていた。 


  第二司祭 「杭」「命」「枯木」などの二つ名で呼ばれるシスターニコル。世界で唯一、

 ナルバレックの頭の上がらない相手。

  齢九十を超えるが、まだまだ現役。医者の話では内臓の肉体年齢はいまだに三十代と化け物ぶり。

  二つ名の通り、杭を武器に魔と戦う。鉄甲作用の第一人者。他にも神の奇跡も巧みに使う古き良き

 エクソシスト。もっとも、本人が古き良きエクソシストかどうかとなるとはなはだ疑問だが。

  八十年近く教会の裏家業に携わっていたが、あだ名は不良シスター。若い頃からその名を轟かせて

 いた。今もシスター服こそ着ているものの、黒メガネに手には葉巻、ポケットにはウイスキーの子瓶が

 ねじ込んである。

  だから、

 「何しに来た? 不良シスターニコル」

  と、ナルバレックの声が冷たくなるのも仕方の無い話である。

 「反抗期か。結構な事だ」

  普通の人なら震え上がるナルバレックの睨みを軽く受け流しながら不良シスターニコルは言った。

 同時に葉巻をくわえ、オイルライターをナルバレックに放り渡す。

 「おい、火だ」

  ナルバレックはタバコを吸わない。だから、わざわざ渡したのだ。

 「……点けると思うのか」

 「点けろ」

 「不良シスターめ。ここでのタバコは止めろ。子供の教育に悪い」

 「教師としてならわたしも役に立っている。世の中、反面教師という言葉があるだろ」

 「……」

 「分かったら、さっさと火をつけろ」

  催促する不良シスターニコルにしぶしぶとナルバレックは葉巻に火をつけた。

  美味しそうに葉巻の煙を吐くとポケットからウイスキーを取り出して一口飲む。もう一度、葉巻を

  美味しそうに吸う。

 「……それで、どういう風の吹き回しだ。こんな所に貴様が来るなんて」

  ナルバレックの言葉には不良シスターニコルは答えない。ただ、

 「この頃、ここに来る回数が増えているそうだな」

  そう言って、食堂からゆっくりと出て行く。子供たちには聞かせたくない話らしい。

 「公務はきちんと果たしている。文句を言われる筋合いは無い」

  ついて行きながら廊下に出て、ナルバレックは言った。

 「そんなにショックだったのか」

  廊下の窓の前に止まり、当りさわりの無い風景を見ながら不良シスターニコルは言った。

 「どういう意味だ」

  ナルバレックも止まっていぶかしげに聞いてみる。

 「遠野志貴。たしか、そう言う名前だったな」

  何気ない不良シスターニコルの言葉。しかし、ナルバレックの衝撃は大きかった。

 「……メレムか。あのおしゃべりめ」

  毒づくナルバレックに不良シスターニコルは

 「勘違いするな。あの小僧は何も言っておらぬ。わたしとて情報ルートの一つや二つは持っている。

 それにしても……東洋の黄色い猿の子を産みたいとは……堕ちたものだなナルバレック」

  不良シスターニコルの言葉にはナルバレックは激昂する。

 「勘違いするな、二コル。私が遠野志貴を欲しいと思ったのは、愛情などという甘ったるいのではない。

 優れた血筋の持ち主だからだ。七夜の一族は我がナルバレック一族とは勝るとも劣らぬ退魔の素晴らし

 き一族。その血を取り入れることができれば我が一族の新しき活力となる。それだけの事よ」

  吐き捨てるようにナルバレックは言った。

  それを不良シスターニコルは静かに見る。黒メガネのためどういう目で見てるか分からない。

 「それに、私がここに来るのも利用するため。ひとつは皆が流布するように有望な人材を探すため。

 もうひとつは己の心を奮起するためだ。ただ、それだけの事だ」

  そう言って、ナルバレックは窓の外を見る。

  二人はなにも言わなくなる。

 「ナルバレック母さーん」

  子供達がナルバレックを慕ってやってくる。

 「おおっ、どうした」

  一転して優しい笑みを浮かべる。

 「あのね、今度スキーに行くの。それでナルバレック母さんも行けるかと思って誘いに来たの」

  エレイシアを筆頭に口々に子供達はナルバレックを誘う。

 「すまないな。その日は忙しいのだ。その代わり、今日は空いてるから今日遊ぼう。シスターニコル。

 私が言いたいのはそれだけだ」

  そういって、ナルバレックは子供達と去っていった。

  静かになった廊下で不良シスターニコルは一人呟いた。

 「八百年か……埋葬機関の発足のきっかけとなった「蛇」は滅んだ。少年、遠野志貴によってな。

 もうそろそろ解放されていいだろう。ナルバレック」

  そういって、もう一本の葉巻に火をつけ、酒を煽る。ナルバレックの子供達と遊ぶ笑顔を想いながら

 初代ナルバレックに語りかけた。



  数日後。ナルバレックに連絡が入る。

 「子供達が吸血鬼にさらわれただと」

  ナルバレックは抱えてる業務を全て捨てて現場に向かった。



                                             
続く 
 
                                                 


 ユウヒツさんより頂きました、埋葬機関が一位、ナルバレック
嬢の物語です。
 同僚の誰よりも憎まれ、そして畏れられる埋葬機関の長。
 彼女の負の魅力を描いた作品は世の中に多いのですが、こ
ういうキャラで描かれたのは新鮮ですね。ユウヒツさんの発想
の独特さがここにも現れてる気がします。

 続く後編、彼女はいかにして自らの両親の拠所たる子供達を
救い出すのか。楽しみです。

 ユウヒツさん、ありがとうございました〜