第六夜 郊外。「希望の丘」へ続く林道にて






「本当に申し訳ございませんでした」
リーナは頭を下げてナルバレックに謝った。
「何度も言っただろう──もうよい」
 ナルバレックはそんなリーナをぶっきらぼうに突き放す感じで謝罪を受け入れる。
 あれから──組織の連中は全て捕まえた。他の場所に監禁されていた子供たちもおおむね無事に保護することが出来た。基本的には子供たちは売り物なので、あまり手荒なことはされてなかった。
 ただ、やはり何人かは……ナルバレックが来たときに陵辱の限りを尽くされ殺されていた少女、シンディのような目にあった子は残念ながら存在していた。殺されぬまではいたらなかった子はすぐに 病院に搬送された。
 そして一箇所。救出に向かった騎士団もろとも子供たち、そしてギャングが惨殺されているところがあった。
 ジェシカの仕業だった。
 現場は酷い有様だったそうな。
 スラボンスキーの所のように壁から何まで血で塗りたくられていた。
 死体のまともな部分は頭だけしかなかった。
 幸いにもエレイシアは別の場所に監禁されており、他の騎士団に無事保護された。
 しかし、それでも──子供たちに負った傷は深い。
 誘拐されて監禁される。しかも──乱暴され陵辱された子はもとより、無傷でも深い絶望と恐怖に 突き落とされたのだ。
 全ての子の心には深い傷を負ったといっても過言ではない。
 それが全て癒される日はいつになるのか……ナルバレックには見当もつかない。

 ナルバレックは子供たちを全員救出とジェシカの出現の報告を受けて命令を出した。
 一つは子供たちを「希望の丘」に帰宅させること。病院に入院させるほどでない子達は全員「希望の丘」に帰宅させた。エレイシアもその中に入っている。もはや子供たちの自宅となったここが、一番の安らげる場所なのだから。
 問題は二つ目だ。ナルバレックは聖歌騎士団の現在動員できるメンバーのリストを見て命令したのだ。

 「希望の丘」の護衛は不要。これより通常任務に戻ること。なお、ジェシカを捕らえるまでの「希望 の丘」の護衛任務はザ・サーティーンから「撲殺神父」ヴィクター神父、聖遺物及び奇跡認定委員会 から「ホーリーアーマー」のシスター・エイミーが担当する。なお、引き続きイリーナーは私のサポート任務を続行させる。

 この命令は騎士団から大きな反発があった。基本的にこのような護衛任務は騎士団の仕事だ。
 さらには騎士団に犠牲者は出ている。敵討ちをしたいという心もある。それが任務途中で解任され、別の組織が担当することになる。これは屈辱としか言いよう無い。実際、抗議する者はいた。
 ナルバレックにジェシカに惨殺された仲間のためにと詰め寄るものもいた。しかし、ナルバレックは冷笑で答えた。
「残念ながらここにいる騎士団のメンバーではジェシカに勝てるものはおらん。これは能力の問題でなく相性の問題なのだ」
 その言葉にさらに説明を求めるがナルバレックは取り合おうとはしなかった。
 現在、ナルバレックとリーナは「希望の丘」に続く林道にいる。後ろを見れば五百メートル先に「希望の丘」の正門が見える。
 リーナはシスター服に聖書。
 ナルバレックは白いカソック姿に手には古い槍を持っている。
 恐らく近日中に決着がつくとナルバレックは思っている。
 雪が降っていた。既に道は薄く白く化粧されている。
 吐く息も白い。
 ナルバレックはじっと前を見ていた。もう夜だ。暗くなった道でナルバレックはじっと前を見ていた。
 その表情からは何も伺うことが出来ない。
「ナルバレック様。言いたいことがあります」
 リーナは静かに言った。まるで懺悔するかのように。
「なんだ」
 前を見たままナルバレックは聞き返した。
「あたしは人間ではないのです」
 少し悲しそうに言うリーナ。その言葉を受けてナルバレックは、
「そうか……確かに普通の人間は頭に銃弾を受けて、魔力も使わずに再生は出来ない──ミューマンか」
 そう言った。リーナは短く、はいと言った。
 最近、教会の討伐任務で奇妙な魔物に出会うことが多くなった。
 既存の術が通用しないのだ。
 簡単な話をしてみよう。
 たとえば相手の動きを封じる術は非常に大きく分けて二種類存在する。
 一つは物理的拘束。擬似重力場での拘束や物理的な植物の蔓や縄などでの拘束。
 もう一つが相手の魔力回路を利用した拘束術だ。
 難しい言い方しているが人に限らずガイアの生命体は生きるのに最低限度の魔力。別な言い方では霊力を持っている。それによって己が存在し維持していく。魔力いうか霊力が尽きたものは死ぬ。
 この概念も非常に難しく異論はたくさんある(生まれ、そして尽きるのは無から有へ。有から無へと行くのではなく転変していくという説も根強い。つまり有とは滅するのではなく新たなる形となり、別の有になる。その繰り返しなのだ)。概して、魔というのはその魔力が非常に強い。しかし、その過剰すぎる力ゆえに弱点を持つのだ。
 例えば死徒と呼ばれる吸血鬼は太陽光に弱い。これは吸血鬼が闇(夜)の属性が強いため相反する太陽(昼)に弱いとされている。そして、その魔力回路を利用した封印術が教会を始めとする退魔組織の戦い方なのだ。
 考えてみれば当然だ。魔力を変換して物理的な力にするより直接叩き込むほうが効率はいい。
 人の何十倍もの力で暴れまわる吸血鬼に物理的な場を作って拘束するより魔力回路を利用して拘束させるほうが使用する力に何倍もの差があるのだ。
 人という脆弱な種が魔という圧倒的な力に対抗する数少ない手段なのだ。
 しかし、それが通用しない相手が出てきたのだ。
 それは確かに牙を剥き出しにして人の血をすする。
 それは確かにケダモノへと変わる。
 それは確かに炎や氷、電気を操る。
 しかし、血をすする相手に聖印が通用しない。
 しかし、ケダモノには銀の武具が通用しない。
 しかし、炎を操るものに場の精霊力を封印しても平気で炎を繰り出す。
 今までとは違う新たなモノが誕生したのだ。
 それは一体何か。
 それが──
 ミューマン。別名ニューマン。侵食されし者。‘異’との融合者と呼ばれるもの達なのだ。
 全く新しき力。魔術、超能力、魔の異能力とは違うものなのだ。
 その生い立ちはこのように伝えられている。
 1908年。シベリアのツングースカに隕石が落ちた。タイガの森を一気に焼き払い。周りに大きな 被害を与えた。
 1921年。初めて調査の手が入る。その後、何度も調査団が派遣される。原因は隕石が落ちたものとされる。しかし、いくつも異論が出る。
 いわく、マイクロブラックホールが落ちた。
 いわく、彗星の落下。
 いわく、UFOの墜落。
 現場にイリジウムの欠片が落ちているなど幾つもの謎がそれに拍車をかけた。
 ソビエトの科学アカデミーはツングースカの隕石についてはほとんど沈黙を続けてきた。
 真実は一体? 
 ソビエト科学アカデミーは何度目かの調査に不思議な物体を見つけた。それは回りの荒野を見たこともない植物で埋め尽くしていた。
 怪しく七色に輝く石。それは全てを変質されるものだった。
 科学アカデミーはそれを極秘に持ち帰り詳しい調査をする。
 それは本当に想像を越えるもの。その石の輝きに触れたものはどんどん変質していく。
 物質は今まで見た事もない性質を持ち。生物もまた、変わっていく。
 羽や鱗が生えるもの。精密な思考が出来るもの。光を操るもの。
 想像を絶する力を有していた。
 だが、それは人の精神も変質させる危険なもの。正気を保てる者はほとんど居なかった。
 ある博士がその石を持って亡命しようとした。
 だが、亡命中、その飛行機は撃ち落とされた。
 石も永久に失ったと思われた。
 だが、そうではなかった。
 成層圏内で粉々になった石は世界中に小さな欠片となってばら撒かれたのだ。
 ほとんどの人には影響を与えることはない。
 だが、時折与えることがある。
 世界中に怪事件が続発した。
 同時期。謎の秘密結社が発足する。
 メテオ。
 石の力で身体は変質しても精神は変質せず人の心を持つもの達の集まり。
 石によって変質したものの怪事件を解決する。
 新進気鋭の組織は裏の世界に瞬く間に広まった。
 隕石によって地球の歴史は何度も変わったとされる。
 恐竜の絶滅説もその一つだ。
 それ以外にも何度か地球の生物たちを絶滅の危機に追いやっている。
 同時に大きな進化の発展へと駆り立てている。
 地球に生命が芽生えたのは隕石の影響もあるという。
 メテオとはそういう意味なのだろう。
 ミューマンに対し教会は分かっていることはほとんど無い。新たなる魔として位置付けているのがほとんどだ。
 秘密結社「メテオ」に関しても直接の交流は無いに等しい。魔術の殿堂、協会も同じようだ。
 メテオとは闘うということはあまり無いが新たなる脅威として認識されている。
「あたしがナルバレック様より年上とは話しましたよね。あたしはもう五十を超えてるのです。あたしは化け物なのです」
 リーナの悲痛な声を聞いてもナルバレックはそうか。としか言わなかった。
「あたしは旧ソ連の頃。あの謎の石の実験体の一人でした。何十人もの実験体が発狂、または変質して処分されていった中の数少ない適応者でした。あたしの力は「アルケミー」結社「メテオ」ではそう分類されてるようです」
 「アルケミー」――錬金術師の事。リーナの力は物質を変換して操ることにある。大の男で持つ事の出来ない剛剣もリーナなら軽々操れる。物質の材質や性質、さらには形状もリーナは自由に操れる。
 そういう力だけではない。ミューマンは基本的に人をはるかに凌ぐ生命力を持っている。頭や中枢神経が完全に破壊されたにもかかわらず再生した例はそれこそ山のように報告されている。人ではない化け物といわれても仕方の無い話かもしれない。
「昏く寒いシベリアの極寒地であたしは毎日、実験体として扱われてきました。いろんな事をされてきました。いろんな事をしてきました。それが長いこと続いたのです。本当に長い間……」
 リーナに何が起きたのか何をされてきたのかはナルバレックは聞かない。ただ、推測はつく。
「それが開放されたのがソ連がロシアになってからです。あたしのいた実験施設も解体されました。
 あたしは自由になったのです。もっとも途方に暮れてしょうがなかったというのが本音でしたけどね」
 ソ連からロシアに変わったことによる経済的、社会的混乱が大きく起こった。
 さらには魔の混乱も起こったのだ。
 ロシアは昔からカトリックとは違う独自の道を歩む「東方正教会」が存在する。その退魔部門が根を上げるほどの大きな魔の混乱がロシアを襲ったのだ。 
 ソ連は西との技術的格差が広がりつつあるのに懸念を覚え、さまざまな取り組みを行った。
 超能力部隊の育成。
 魔の遺伝子を取り込んだバイオ兵器。
 ミューマンの力もその一環に過ぎない。
 それらが野放しに一気に開放された。
 その激動の場を人生のほとんどを実験施設で過ごして何も知らないに等しいリーナが乗りきり生きていく。
 その苦労は筆舌に尽くしがたいことだろう。
「あたしが教会に……騎士団に入ったのはある縁のためです。本当に不思議な縁──あたしは幸せでした。自分というのが役に立てるのが幸せでした。そして、この頃、勘違いしてました。自分は人間だと勘違いしてました。けど、あれではっきり分かりました。あたしは化け物です」
 ナルバレックは黙って聞いていた。
「あの現場を見たとき……少女の顔が殴られて血で膨れ上がり、全身が汚されてるのを見て……虚ろな絶望の目を見て、あたしは止められませんでした。全てをみんなを破壊し殺戮したいと思いました。
 汚すものは全て無くしてしまいたい。それだけしかなかったのです」
 リーナの苦しみに満ちた告白を受けて──ナルバレックは言った。
「貴様は人間だよ」
 えっ、とリーナは顔を上げる。
「そもそも人とはなんなんだろうか。我らは何故、魔を狩るのか。異端を狩るのか。それは考えたことあるか」
 ナルバレックの言葉は続く。
「それは教義だから……任務だからでは」
 戸惑いつつもリーナは答えるが。 「教義が全てか。我らが最高か。下らん。私は原理主義。教典主義ほど下らんものは無いと思っている。私は神を信じているし信仰している。それは認める。だが、それを人に押し付けようとは考えてはいない。人は違うものだ。分かり合えにくいものだ。それでいいのだ。時にはぶつかり合う。それでいいのだ。人とは何か。それは人と人の間に生きる事を言うのだ」
 そもそも魔とは何か。教義では人より外れたものだという。そうだろう。しかし、全てが外れたものなのか。我らと少しでも違うものは存在してはならないのか。違うだろう。そうではないだろう。魔は昔から存在した。人というものが存在する以前からいるものもあれば人がいるからこそ生まれたものがある」
 私が何故、魔を狩るか。人ではないからではない。人の間に入り害悪をなすからだ。我が埋葬機関には第四司祭エトワールがいる。彼女は人狼と魔女の子。傍から見れば異端だな。時代が時代なら火あぶりされてもおかしくない。第七司祭シエルも同様だ。シエルはリーナ。貴様よりはるかに化け物だった。決して死なない不老不死を会得していたのだからな」
 しかし、二人は化け物ではない。人間だ。なぜなら人と人の間に交わり生きているのだから。人は人を認めなければならない。時には衝突してもそうしなければならない。そうしながら高みを目指していくのだ」
 ナルバレックの話にリーナは呆然と聞いていた。それを見てナルバレックはにやりと笑い、
「そうだ。面白い話をしてやろう。あの真祖の姫君。アルクェイド・ブリュンスタッドも人間になった」
「そんな……まさか」
「能力面。肉体面からは人とは程遠い。相変わらずの不老不死を持つし、驚異の空想具現化の力を持つ。戦闘力も同様だ。
 しかし、彼女は人の間に生きている。笑い、泣き、そして怒り、悲しむ。喜怒哀楽の感情を覚えてる。否、感情を持つのが人間ではない。人と人の間に生きるのが人間だ。彼女はそうなった。無駄を覚え、人の中に溶け込んで生きている。少年、遠野志貴の手によってな。アルクェイドは殺された。遠野志貴の手に。否。生まれ変わったのだ。遠野志貴の手によって人として生きることを覚えたのだ」
 だから貴様は人間だ。人の間に生きることのできる貴様は人間なのだ。外れてはおらん。安心しろ」
 長いナルバレックの台詞は終わった。
 リーナはいつしか涙を流していた。
「ありがとうございます。ナルバレック様」
 深々と頭を下げて礼を言う。
「ふん……私とて説法の一つや二つは出来る。そして──人ではないとは今のジェシカの事を言うのだ」
 吐き棄てるように告げるナルバレック。
「彼女もあたしのように抑えきれぬ衝動──血の衝動によって行ったのでは。それを教え導いていけば人として生きていけるのでは」
 リーナは慰めるように言うが、
「ジェシカに血の衝動は来ておらん。あれは自らの意思で行ったのだ。自ら魔に堕ちていったのだ」
 ナルバレックの言葉にリーナは息を飲む。その意味を聞き返そうとしたときナルバレックは呟いた。
「──来た」
 ナルバレックとリーナの前に少女が──ジェシカが歩いてきた。
 静かに笑っていた。



  

第七夜 別れの時





 雪は少し強くなった。しかし、ジェシカに雪がかかる事は無い。雪が避けていくのだ。

 ジェシカはワンピースを着ていた。冬のさなか、袖口の無い白いサマーワンピース。

 靴も靴下も履いていない。はだしで雪の上を歩いている。点々と足跡はつく。だが、足は汚れることは無い。白い素足のままだ。
「こんばんわ」
 ジェシカは言った。優しい笑顔だった。この頃ナルバレックには不機嫌そうに怒ってばかりいた。久しくこの笑顔を見てい
なかった。
 ナルバレックは黙っていた。
 ジェシカはくるっとナルバレックの前で体を回す。スカートの裾が翻る。
「覚えてる、シスター・ナルバレック。この服のことを」
 優しい声だ。嬉しそうな声だった。
「ああっ。二人でハイキングに行った時のだな。確かお前が普通の学校に通えると聞いて、お祝いで行ったんだよな」
 ナルバレックの声は堅い。
「そうなの。あの時は楽しかったなー。何年前だっけ。三年か四年位前だったよね。少し小さくなったけど、わざわざサイズを大きくして合わせたのよ」
 ジェシカはスカートの裾を軽く持ちあげて言う、白い太ももがちらりと見える。
「そうだな……だが、お前はすぐに学校を辞めたな。合わなかったといって」
 それからのような気がする。ジェシカがナルバレックによそよそしくなったのは。ちょうどその頃、新しい子供たちが大量に入所したので構うことは怠ってしまった。
「ねえ、ナルバレック。あたし、夢があったの。ナルバレックと本当の家族になりたいという夢があったの。けど、ナルバレックは取り合ってくれなかった。あたしはナルバレックのことが好き。だから家族に──だから一緒になりたかったのに」
 はじめてジェシカの顔がゆがむ。悲しそうな顔で言う。
「何度も言った筈だ。我が一族は深い業を背負っている。血と闇にまみれている。ジェシカ。お前にふさわしい家ではないと──」
 ナルバレックは無表情に言った。恐らく何度交わしたことなのだろう。
「それでもいいと言ったじゃない。あたしだって呪われている。見て、父親は化け物だった。あたしも化け物になった。違うの」
 自分の胸に手を当てジェシカは問い掛ける。
「……そうだな。お前は化け物だ。私がお前に何をするつもりか覚悟はしているのだな」
 初めてナルバレックは動いた。すっと槍を構える。穂先を下げ、すぐにでも突きにいける構え。
「ナルバレック。あなたがあたしを家族にしてくれないなら、あたしがあなたを家族にしてあげる」
 ナルバレックの構えを見てもジェシカは動じない。絶対的。圧倒的自信を持って笑うだけ。
「リーナ。始めに言っておく。手を出すな。貴様たちは保険なのだ。あ奴が私の屍を乗り越えてきたときこそ手を出せ」
 目だけがリーナに向き、鋭く怖い口調でナルバレックは言う。
 どきりとしながらリーナは頷く。
「始めに言っておくよナルバレック。あなたはあたしに勝てない。絶対にね。諦めてあたしの家族になろう。ねっ」
 リーナの朗らかな声。それにナルバレックは唾を吐いて、
「ごめんだな。貴様に血を吸われ与えられ、死徒になるくらいなら自ら命を絶つ」
 カトリックにおいて自殺は禁忌の一つ。敬虔たる神の信徒ナルバレックの言葉とは思えない。
「あなたに永遠をあげようと思ったのになー。いらないの? 不老不死は。人は儚く簡単に死んじゃうよ。ずっと一緒に過ごそうよ」
 不老不死。それは人の憧れ。永遠というジェシカの蛇の誘惑にナルバレックは笑う。
「永遠、不老不死。それは幻想だ。そしてまた永遠の愛も幻影にすぎん。知ってるかジェシカ。貴様と同じように愛する者の血を吸い、永劫の時を過ごそうと思ったものたちの末路を。みな破滅したわ。愛とは炎。そして水。連綿と流れ受け継ぐもの。それを止めたときこそ停滞し倦み病んで行く。永遠の愛こそ神のみが持つ御技なり」
 話は終わりとばかりにナルバレックの姿勢は低く沈む。「あたしは違う」と叫ぶジェシカに突き掛かろうとする。
 ナルバレックが地を蹴る瞬間。
 むっ、とナルバレックの足が止まる。その足元に短剣が三つ突き刺さっている。
「お叱りは後で受けます」
「ここは我らにお任せあれ」
「同朋の仇、とらせてもらうぞ化け物」
 いつのまにか木の枝に三人の騎士たちが陣取っていた。
 古風な鎖帷子を身に纏い、手には長剣を持つ。
「われら蒼き三流星なり。道を外れし吸血鬼よ。速やかに神の御許に送り届けてやる」
 青い鎖帷子を着た三人の騎士はその鎧の重さを感じさせぬほど高く跳躍し、剣を構え、ジェシカに襲い掛かる。ジェシカは笑ってそれを見上げる。
「やめろ! 貴様らでは絶対に勝てん」
 ナルバレックは絶叫する。何を馬鹿なと三人の騎士は思う。タイミングは完璧だ。吸血鬼は動こうとしない。串刺しになるだけだ。
 三人の騎士の剣の切っ先がジェシカに当たる瞬間に呟いた。
「とまれ」
 小さな囁き声だった。ジェシカの声は小さく風にかき消されるほどだった。
 だが、その場にいるものは全員聞こえた。そして、三人の騎士は空中で静止した。
 剣を構えたまま動かない。ビデオ停止のように空中で固まっている。
 くっとナルバレックはジェシカに飛び掛ろうとする。だが……
「ここにいるものは全員、動かないで」
 ジェシカは再び呟く。それだけでナルバレックは動けなくなる。
「あなたたち邪魔ね。せっかくのナルバレックとの対面に水差して。
 うん、決めた。
 あなたは焼き死んで頂戴。あなたは潰れて死んで。そしてあなたは全身から血を噴きだして死ぬの」
 にこやかなジェシカの声。同時に騎士たちは果てていく。言葉どおりに生きながら炎に包まれ、骨の折れる音とともに体が折りたたまれ潰れていき、血を全身から噴きだして死んでいく。それは地獄絵図。苦痛にうめくことも出来ずにそのまま殺されていく。
「空想具現化……」
 青ざめたリーナが呟く。
 それは違うとナルバレックは思う。自然の力たる空想具現化は人には直接作用できない。ジェシカの力は人のみに適用可能な固有結界というべきもの。そう「絶対殺人権」というべきものだ。ガイアの怪物プライミッツ・マーダーは全てのガイアに属する者は思いのままに出来るという。人は決して逆らうことが出来ずに殺されるだけ。それと似たような力だろう。
 ナルバレックは自分の予想が当たった事に愕然としていた。スラボンスキーは痩せても東欧という修羅場で力をつけてきた吸血鬼。それが真祖の血統とはいえ素人同然の少女にあっさりとやられたからには何かしらの秘密があると思った。
 これがジェシカの秘密なのだ。ジェシカは人と真祖という魔の間の子孫。いわば「混血」だ。
 「混血」は人であって人でなく魔であって魔でない。いわば中途半端な存在だ。能力だけを見れば「混血」は純粋な魔に到底及ばない。しかし、人の柔軟性を取り入れてるがゆえに通常ではありえない「力」を持つことがある。
 それが「混血」の強みなのだ。
 死徒はかつて人であった。人であるならばジェシカの力に対抗できない。
 だから自信たっぷりなのだ。
 ジェシカに対抗できるのは完全に人でないものだけなのだから。
 瞬きすら出来ずにナルバレックはジェシカを見る。酷薄した笑みでこちらを見る。ゆっくりと近づいてくる。
「ナルバレック。一緒に行きましょう。永遠にね」
 そうやって、手を差し伸べる。ナルバレックの体は石のように動かない。彫像のごとく受け入れるしかないのか。
  閃光が走る。ナルバレックに触れようとした手が慌てて引っ込められる。愕然とした顔でジェシカは 見る。リーナが己の聖書から大剣を引きだし構えてるのだ。
「なんで? なんであなたは動けるの。止まれ。切り裂かれろー」
 ジェシカは愕然とした顔で絶叫する。しかし、リーナは止まらない。スラボンスキーも通用した「力」がリーナには一切通用しないのだ。
「ここは我が領域なり。我が領域内では我がルールなり」
 リーナは高らかに宣言する。これは結社「メテオ」の構成員たちが宣言する戦いの文句。剣を掲げ、リーナは突撃する。
「まさか? ‘異’の者。ナルバレック。あなた、なに考えているの。こんな‘化け物’を脇に侍らして置くなんて」
 驚愕の表情でジェシカは呟き、跳躍する。そこにリーナの剣が襲っていた。
 間合いを大きく取ると同時にジェシカは手を突き出す。見えない波動がいくつもリーナを襲う。
 ひょいと体をひねるだけでリーナは全ての波動を避けた。いくら力が強くても所詮ジェシカは戦いの素人。絶対的の切り札が敗れた今、百戦錬磨のリーナに敵うわけがない。
「あっ、あー」
 ジェシカは言葉にならないことを叫びながら波動を撃ち続ける。リーナには一切当たらない。中には見当はずれのところに波動が飛んでいく。
「汝の周りの雪は刃なり。切り裂かれる刃なり」
 リーナの宣言と同時にジェシカの周りで降り注ぐ雪がカミソリの刃になる。刃は容赦なくジェシカを切り刻む。 
「ああっ、痛い。痛いー」
 ジェシカは全身が切り裂かれ絶叫する。血が体のいたるところから流れ落ちる。顔を抑えてうめき続ける。ひたすら食い込む続ける刃に苦痛の声を上げつづける。 
 冷静に考えればカミソリの刃の傷は浅く、少し念じればすぐに復元される。しかし、完全に頭が混乱しているジェシカはそれが思いつかないのだ。
 ああっ、分かった。どうしてあたしをそばに置いたか。どうして騎士たちを下がらせ、あの二人を護衛につけたか。
 リーナはうめき続けるジェシカに近づきながら考える。
 あたしはミューマン。完全に人から外れた‘異’の存在。ザ・サーティーンのヴェクター神父は、埋葬機関第三司祭と同じく受肉した天使。シスター。エイミーは普通の人間だが、彼女が装備している
 ホーリーアーマーはいかなる影響も遮断する力を持つ。ジェシカの影響は受けることない。
 ナルバレック様の慧眼には驚くだけです。
 リーナは剣を掲げる。傷の痛みで完全に戦意を喪失し、地に伏して泣き続けるジェシカに止めの一撃を加えんとする。
「痛い。痛いよっ。助けてー、ナルバレック」
 ぼそぼそと呟くジェシカにリーナは何も言わず剣を突きたてた。
 否。突きたてようとした。
「誰が手を出せといった。私は言ったはずだ。こ奴が私の屍を乗り越えてきたときこそがお前の出番だと」
 鉄甲作用。ナルバレックの投げた釘がリーナの肩に突き刺さり吹き飛ばしていく。そのまま道を数メートルもリーナは飛んで転げ落ちる。
「……なぜっ。まさか、ナルバレック様?」
 起き上がりながらリーナはナルバレックを見る。昏く怖い表情でナルバレックはリーナに近づいていく。手には古い槍を持っている。
「ナルバレック。やっぱりあたしの事を……」
 ジェシカは喜び勇んで迎え入れる。だが、ナルバレックの表情は硬い。
「ナルバレック……?」
 ジェシカはナルバレックの顔を見て困惑する。さらに考えればジェシカはナルバレックの拘束を解いたつもりはない。「力」ある言葉は言ってないのだ。
「すまない、リーナ。これは私の我侭だという事は分かっている。だが、ジェシカは私の手で仕めさせてくれ」
 ギラリと槍の穂先が光る。ナルバレックは再び槍を構える。
「ナルバレック。ゴメンナサイ。反省します。もうこんなことは絶対しません。だからお願い許して」
 ジェシカは泣き喚いて懇願する。ナルバレックはゆっくり近づく。
「もう遅い。もう遅いのだよ、ジェシカ」
 二階ほど首を振り、優しく諭すように言う。
「そんな……反省してます。お願い。あたしとナルバレックの仲でしょう。あたしはあなたが欲しいだけなの。あなたと本当の家族に……姉妹になりたかっただけなの」
 手を組んでお祈りをするかのようにジェシカは言った。しかし──
「シンディーを覚えているか。あいつは男たちに嬲られて死んだ。まだ九歳なのに幼いあそこを男のあれで貫かれて咥えさせられ、苦痛と絶望の果てに死んでいった。
 否、シンディーだけでない。キャシーもホワイトもルカも同じ目にあった。幸い命だけは取り留めたが、心の傷がいつ癒えるか見当もつかん……恐らく残りつづけるだろう。けして癒えぬ傷は残りつづける」
 よく年端の行かない子が性交し気持ちよく喘ぐモノがある。それは幻想だ。完全に虚構の世界だ。未成熟な体が性交を受け入れることはない。ただ、恐怖と苦痛の絶望だけが待っている。
「あたしもよ。あたしは年が取りすぎてあまり高値で売れないから奴らの嬲り者になりそうになったのよ。だから殺したのよ。あたしが悪いの。あいつらの方が悪いじゃない」
 ジェシカの絶叫もナルバレックは冷笑で受け止めて、
「そうだな。自分の身を守るために力を使ったことには私は咎めるつもりはない。だが、なぜ、他の子達も殺した。ステファノ、ワルター、ジュリアにローザン。他にも何人も殺している。
 血の衝動か。笑わせるな。貴様は正気だった。己の意思で他の子達を殺戮したのだ」
 スラボンスキーの部屋を覚えているだろうか。部屋中が血でべっとりしていた。血の衝動に突き動かされたのならそんなことはないはずだ。ジェシカの父親のように血を吸い尽くしているはずなのだ。
 さらに言えば現場は下町。もっと他に犠牲者が出てもおかしくない。
「もっと言おう。ジェシカ。お前が子供たちを。エレイシアを殺そうとしたのは私を取られたくないからだ。己の薄汚い欲望を満たすために殺したのだ。私を独り占めにしたいという理由だけでな。
 そして、最後に言おう。お前は自分が不幸だと思い込んでいる。それは違う。他の子達も魔に襲われてこの施設にきている。皆同じなのだ。自分だけのことしか考えない奴。それが魔だ」
 ナルバレックの断罪。ジェシカは震えて聞いていた。恐怖で顔がゆがみ聞いていた。
「とまれー。止まるのよ、ナルバレック」
 ジェシカの「力」ある言葉が襲う。だが、ナルバレックは槍を掲げて、
「無駄だ。ジェシカ。もはやこのゲオルギウスには通用せんよ」
 竜殺しの聖人として名高い聖ゲオルギウス(英語名聖ジョージ)彼は吸血鬼、狼など夜の眷属からの守護として知られる。その槍に宿る力は闇を退ける。ジェシカの力も無効化されるのだ。
「せめてもの情けだ。一撃で送ってやるよ」
 ナルバレックの槍の構え見てジェシカは背を向けて逃げ出した。
 走り去ろうとするジェシカになるバレックは槍を突き刺す。
 心臓を直撃。ゴボッと口から血を吐き出すジェシカ。最後に
「……あた……ナル……あ……姉妹に……なり……だけ」
 そう呟いた。
 死体は残らない。果てるとともに光の粒子となる。
 風が舞う。
 降り注ぐ雪とともに風が舞い、粒子は消えていった。
「私も出来れば……」
 ナルバレックは静かに呟く。
 泣いてはいない。槍を収めると歩き始めた。
「以上をもって異端のジェシカ討伐任務を終了する。リーナ。お前は施設に戻り、あの二人の護衛任務を解け」
 ナルバレックは泣いてはいない。毅然とした表情のままだ。
「よろしいのですか。子供たちに会わなくて」
 リーナは問い掛ける。
「必要ない。ただでさえ今回の任務で私の業務は溜まっているのだ。そんな時間はない」
 リーナは知らない。ナルバレックとジェシカがどんな仲だったのか。どんな思い出があったのかは。
 歩き進めるナルバレック。「殺人狂」「鉄の女」そんな形容詞が確かにふさわしい。
 しかし、リーナには哭いているように見えた。
 肩を震わせて幼い少女のように泣いているように見えた。
 その背中にリーナは深々とお辞儀した。
 そして神に祈った。
 ナルバレックの心の傷が癒えることを。
 そういえば……
 もう少しでクリスマスだ。
「聖夜の奇跡が貴女に届くことを……」
 ナルバレックの遠ざかる背中にリーナは祈りを捧げた。




 

第八夜 聖夜の奇跡






 疲れきって自室に戻ったのはあれから数日後だ。
 子供たちの誘拐の事後処理。その後の対策。さらには通常の激務と仕事は山のようにあった。
 悲しむまもなく仕事に没頭した。  
否、没頭することで忘れたのだ。
 全てが終わり一人になるとこみ上げてくる。
 くっ。
 歯を食いしばるとナルバレックは歩き出した。
 ナルバレックの自室。それはある寺院の一室にある。華美を嫌い、質素に暮らす。本当に必要最低限のものしかない。
 酒に逃げるのは嫌だった。
 だが、居間に入るとコップを取り出し、サイドボードからバーボンを取り出す。
 ?
 ようやく気づいた。ここに誰かがいる。寝室のほうに気配が感じる。
 こんなのを逃すとはな。
 自嘲しながらナルバレックは声を張り上げる。
「そこにいるのは誰だ。賊か。だったら不幸だな。ここには何もないし、私は不機嫌なのだ。今すぐ出てくれば丁重に扱おう。そうでなければ懺悔することになるぞ」
 そう言って少し待つ。カタッ。カタッと物音がするだけ。出てくる気配はない。
「そうか。そうか。そんなにも痛い目に会いたいのか」
 にやりと笑うとナルバレックは自分の寝室に入る。同時に明かりをつける。
 そして驚愕する。
「遠野志貴。どうしてここに」
 目を見開き絶叫する。ナルバレックの簡素なベットには日本にいるはずの遠野志貴が普段着姿で手と足、さらには口を縛られて転がっていた。
 志貴はナルバレックを見ると助けを求めるかのようにうめく。
「待ってろ、今、縄を解いてやる」
 そう言って近づくナルバレックにふと、目が止まるものがあった。ベットの脇の小さなテーブルにクリスマスカードが置いてある。

 シンアイナル上司、ナルバレック女史野郎に。われら埋葬機関一同より(第七司祭除く)クリスマスプレゼント「遠野志貴」を送ります。

 と書いてある。
「……なにを考えているんだあいつらは」
 呆然となり呟くナルバレック。呆けているのを見て、遠野志貴はさらにフー、フーとうめき自己主張する。
「ああ、すまない。今助けてやるぞ」
 そういってナルバレックは志貴の縄を解いた。
「ふー、助かったー」
 志貴は大きく息をつき、縛られていた手首をさする。
「それで、どうしてこんな所にいるんだ遠野志貴。ここはローマだぞ」
 ナルバレックの問いかけに、
「俺にもわかんないよ。家でみんなとクリスマスパーティーをしていてその終わり際に襲撃を受けたのだから」
 志貴の話では遠野の屋敷で秋葉と翡翠に琥珀にレンとクールトー、アルクェイドとシエル。アトラスから遊びに来たシオン。そして浅上三人娘とプラムに有彦とみ んなでクリスマスを祝っていた。
 いろんなことがあった。
 シエルがアルクェイドの誕生日を祝うためケーキを焼いてきた(ろうそく八百本のせて)
 翡翠がクリスマス料理を作ろうとして厨房をめちゃめちゃにした。
 シオンが吸血鬼からの治療化に愚痴をこぼしているとプラムにあっさり解決されて呆然(その後文句を言ったためシオンは再び吸血鬼になった)
 プレゼント交換が波乱万丈の対決となり(みなが志貴のを欲しがった)勝者琥珀なり(オセロ対決)
 秋葉と晶の酒の飲み比べで晶が勝ち。
 羽ピンは相変わらずのマイペースに蒼香は笑っていた。
 そんな楽しいいつもの日常だった。
 それが破られたのはお開き直前だ。
 ほとんどが酔いつぶれ、広間で眠りかけたときに赤毛の大男がサンタクロースのコスプレをして丸太を持って乱入してきた。

 ――「メリークリスマス。サンタのお兄さんがプレゼントを強奪に来ました」

「ブラッソの馬鹿だ……」

 ――何者ですとエーテライトで調べようとしたシオンが逆に見えない糸で縛られた。そこにはトナカイの格好をした金髪の少女。曰く、「私と糸で張り合うなど十年早いね」

「エトワール……また、引きづられたか」

 ――襲い掛かるアルクェイドにはラッパの音色の響きと共に天使たちが屋敷内を飛び回り妨害する。

「ルミエル……貴様、なににそれを使っている」

 ――シエルが黒鍵で対抗しようとしたらそのことごとくを飛んできた杭で撃ち落とされる。そこには葉巻をくわえハーレーに乗った老シスターがいたという。

「二コルよ……なに考えておる。馬鹿騒ぎに付き合いおって」

 ――志貴を縛られて強奪され逃走する奴らを追いかけようとしたら空から大きなクジラが降ってきて進路を断つ。

「メレムだな……そうか、あいつのたくらみか」

 ――そして、なぜかどこかの空軍基地(たぶんアメリカの)に運ばれ輸送機に乗せられたという。

「アルバート……お前だけは信じていたのに」
 その後、志貴は縛られたままここに放り込まれたという。
「まったく……クリスマスはもう終わったというのに」
 今日はもう二十六日なのだ。ほんの数時間前まで二十五日だったが。
「あの……ナルバレック」
 志貴が脇でうめくナルバレックに遠慮がちに声をかけてくる。
「あっ、ああ、すまなかったな。安心しろ。貴様の場所はここではなく日本だ。うちの部下たちの馬鹿騒ぎに巻き込まれただけだ。きちんと返してやるよ」
 そういってナルバレックは頭を抱え、ため息をつく。なぜ、埋葬機関が総出(シエルは除く)でこんなことしたのか分からない。確かにあのメンバーを相手には全員が必要だろう。プラムは笑ってみていたというが……
「いや、そうでなくって……何かあったの。悲しそうだったから」
 志貴の言葉に衝撃を受ける。彼は非常に鈍いくせに妙に鋭いのだ。
「なぜ……そう思うのだ」
 少し声が枯れて聞いてみる。
「泣いているから。体全体で泣いてる気がするから……」
 志貴の言葉には何も言わない。ただ、ナルバレックは立ち上がり居間からグラス二つとウイスキーを持ってきた。 
「何もない。いつものように魔を……異端を狩り、その後始末をしただけだ。それより遠野志貴。部下の不始末は上司が責任を取らねばならん。さきほど言ったようにお前は日本に返してやる。
 ただ、今すぐというわけにはいかん。何事も手続きはいるし、時間が掛かるからな。安心しろ。それまでは私が世話してやるよ。とりあえず、今日は休もう。私も仕事で疲れているし、お前も疲れただろう。
 何か飲むか。バーボン、コニャック、ウォッカ、ラム。何でもあるぞ。私はワインが嫌いだからワインだけはないがな」
 志貴はなにも言わずにグラスを受け取った。静かにナルバレックを見た後、注がれるウイスキーを一飲みした。
「いい飲みっぷりだな。遠野志貴。夜はまだ長い。二人で静かに過ごそう。僅かな時だが静かにな……」
 そういってナルバレックはベットに座る志貴の隣に座りウイスキーを一飲みする。
 そして……二人は倒れこむ。激しいキスと共に。
 分かっている。志貴は優しいからな。私を慰めようとしているのだ。分かっているよ。私に彼は似合わない。血と闇にまみれた私にはな。ただ、ただ……今日くらいは聖夜の奇跡に甘受してもいいだろう。
 なあ──遠野志貴。私はお前を愛している。だから、たった一度だけでいいからお前も私を愛してくれ。
 知っているか。わたしはお前に一目ぼれしたのだ。眼鏡の奥の目を見て、惚れてしまったのだよ。遠野志貴……



















 夜はまだまだ長い。しかし、ナルバレックは静かな夜を過ごすことが出来なかった。
 何度も絶叫し、うめき、失神した。
 志貴とベットを共にして甘い夜など不可能だ。凄い激しい夜になったのだ(笑)



















「どうやらうまく行ったようだな」
「ねえ、ブラッソ。何でこんなこと考えたの」
「ふん。俺はナルバレック女史野郎が大嫌いや。やから、元気のないナルバレックなど見たくないんや。あいつに怒鳴られないと体の調子が悪くなるんや」
「ふーん。あたしもあいつは大嫌い。ほんとに嫌な奴だからね。あたしなんかを庇ってさ……」
「だな。ところで遠野志貴が絶倫のケダモノと聞くが、このブラッソ様も負けておらへん。たっぷり教えてやる」
「ふふっ、そうだといいけどね」
 ダメです。敵いませんでした。




















しかし、不思議ですね」
「なにがだ、アルバート司祭」
「ルミエル司祭がこのような茶番に付き合うとは……」
「ふふ、私に言わせればアルバート司祭がこのような事にかかわったことこそ驚きだ。お前の闇は誰よりも深いからな」
「ははっ。わたしはナルバレック司祭が大嫌いなのですからね。だから参加しました。あの人はわたしに光を与えた。戦場という闇に埋もれさせてくれればいいものを救い上げてくれたのですから。光は知らないほうが幸せなのかもしれないのですから」
「人は変わらぬ。だから私はここにおる。ところでアルバート司祭。日本で手に入れたいいお酒がある。乾杯と行こう」
「何に乾杯します」
「もちろん、我らが嫌悪するナルバレック上司のためにな」
「ですね」
「「乾杯」」



















「遠野志貴ってほんとに嫌な奴だね。ボクのお気に入りを次々食べちゃうんだもの」
「ふん、さっさと自分のものにすればいいのに。人間ごときに盗られて悔しくないのか貴様は」
「それは無理だよ、シスターニコル。ボクは女を抱けない体なんだからね」
「──初耳だな。お前が童貞というのも」
「ボクは成長しきる前に死徒になったからね。なんと言うか抱きたいという感情が湧かないの。
 あっ、男は嫌いだよ。あいつみたいなホモでないよ。ただ、そんな感情がわかんないだけ。気持ちいいだろうなーとは予想つくけどね」
「おう、気持ちいいぞ。もし、よかったら、わたしがいつでも相手にしてやるよ」
「はは……好意だけは受け取っておくよ」



















 第一司祭 「骸」「釘」「虚空」などの二つ名で呼ばれるシスターナルバレック。
 このように埋葬機関の誰からも嫌われ殺してやりたいと思われている。
 その感情がある限り――埋葬機関は安泰だろう。

終わり




















教えてあげよう ナルバレック先生








羽ピン「羽ピンでース」
プラム「プラムでース」
二人「二人合わせて羽プラでース」
プラム「ねえねえ、羽ピン知ってるー」
羽ピン「何をー」
プラム「何だろねー」
二人「あははははははは」
メレム「えーと、ボクに何かコメントを求めるのかなー」
プラム「あっ、似非ピーターパンだー」
羽ピン「そうなんだー」
プラム「うん。そうなんだよ」
メレム「……なんか、酷いこと言われてるな」
プラム「ねえねえ、メレム。ナルバレックはどうしたの。ここはナルバレックのコーナーじゃない」
メレム「残念だけど、ナルバレックは運動中でね。ちょっと、ここには来れないんだよ」
羽ピン「どんな運動しているの」
メレム「こういうの」
ナルバレック「ああっ……志貴ー、もうすこし、もう少しゆっくり……はぁー……動い……だめっ、イクッ、イッテしまう」
志貴「部下の不始末は上司が取るといったのはナルバレック、あんただろう。ほら、呆けてる暇はないぞう。俺はまだまだイってないんだ」
羽ピン「ほえー、あんなに優しい志貴さんが鬼畜のケダモノに見えるー」
プラム「彼、鬼畜のケダモノだもん。仕方ないでしょう」 
羽ピン「そうなのー」
プラム「そういうことなのー」
メレム「まあ、というわけで、今回は君たちに来てもらったんだ。題して」





教えてあげるね 羽プラ先生ズ





メレム「ということ。そういうわけでよろしく頼むよ」
二人「はーい」        




──教会の裏組織について──






メレム「まずはこれからかな。解説を頼むよ」
プラム「……これはメレム、あんたのほうが詳しいんじゃないの」
メレム「ボクは永遠の子供だからね」
プラム「まあいいけどね。とりあえず、埋葬機関を頂点にザ・サーティーン。聖歌騎士団、聖遺物及び奇跡認定委員会があるの」
羽ピン「はーい。ここにあるマニュアルによるとザ・サーティーンはひごうほうニンム。あんさつやちょうほう活動が主で教会のだーてぃーな部分を一身に背負っていると書いてあります」
メレム「この組織の前身は最も古くてローマの教会弾圧時代から存在しているんだ。魔だけでなく教会の敵全体が相手。前に共○のア●系(日本とは完全に系統が異なる)テロリストが教会の義援金を盗んだときに隠密に動いたりしたね。教会の汚れ役としてかなり嫌われているね」
プラム「ここのトップは表向きはサルヴァト−レ枢機卿になってるの。けど、本当は13という人がトップなの」
羽ピン「しってるー。後ろに立たれるのが嫌な人で、握手が嫌いな無礼な人ね」
メレム「それ違うひと。13についてはほとんど謎に包まれているね。僕もあまり知らないとコメントしておくね。一応」
プラム「聖歌騎士団は教会の剣と盾。教会を守ることが目的。もっとも昔ながらの鎧や盾は着けてない人が多いけどね」
メレム「タタリを討伐に行った騎士団がこれかな。現代的な武装の人もいるし昔ながらの剣士も居る。集団戦が得意だね」
羽ピン「えっと、マニュアルには普段の任務はボランティア活動に護衛警備。そして、大々的な魔物退治とあります」
メレム「ここのトップはランカスター卿。剛直頑固な武人だね」
プラム「そして、聖遺物及び奇跡認定委員会。タイプムーンの最新作、フェイトに出て来るとある神父さんもこの作者の世界観ではここに属しているのかな」
メレム「聖遺物とは聖者の欠片といわれ、信仰の対象になった。よくあるのは聖者の手やキリストが背負った十字架の破片などかな。いろいろ笑える話もあるけどね。教会が他の教会を襲って聖遺物を強奪したり十字架の欠片を全部集めたら数十メートルになったりね」
羽ピン「マニュアルにはそのままのとおりにそういう物の調査と回収が目的とあるけど……」
プラム「まあ、いろいろあるのよね。奇跡は何とかの泉やマリア像から血の涙などが当てはまりますね」
メレム「ここのトップはイングリットおばさん。凄い嫌な人でね。ナルバレックがか弱い少女に見えるよ。ほんとに」
プラム「埋葬機関についてはどうするの」
メレム「うーん。いいんじゃないの。とりあえず、これらの組織を束ね統括する。そして各司祭は個人で動いていくという程度でね」
羽ピン「他はどうするの」
プラム「まあ、色々あるけど」
メレム「今日はここまでにして置こう」
三人「それでは皆さん、次の作品でお会いしましょう」

終わり。



 ユウヒツさんより頂きました、「少し遅れたクリスマスソング」最
終話です。
 いや、目から鱗のナルバレック像が素敵です。誰にも自らの
心の本心を告げず、血塗られた道を歩み続ける代行者。
 そんな彼女に「届けられた」プレゼントは、束の間の癒しとなっ
た事でしょう。ええきっと、多分。肉体的にはともかくw

 ではでは。ユウヒツさん、ありがとうございました〜