■ あくまのしるし。 ■




 ああ、そういう物だと知ってはいたつもりだったけど。
 改めて目にしてみると、それはまた随分と不思議な光景だった。
「……衛宮士郎。貴方に対して今更だとは思いますが」
 辿り着くまで名前すら知らなかった、欧州の小国。薄汚れたホテルの、古ぼけたパイプベッドの上には見知った銀の髪の女。くすんだ金色の瞳を細めて、今にも射殺さんばかりの目線で俺を睨みつけている。場所が場所だけに濡れ場か修羅場が待っていそうな状況だけど、残念ながら彼女相手にそれはない、と思う。
 カレン・オルテンシアと言うのが名前で、聖堂教会の修道女と言うのが彼女の役職だ。神秘を封印蒐集して回るのが仕事で、盛大にばら撒き捲くってる俺とは随分相性が悪い女である。
 ある筈なのに、なぜか随分と長い事彼女に付きまとわれている気がする。腐れ縁と言ってしまえばそれまでなんだが、それに相応しい相手は他に何人もいる筈だ。何故彼女なのか俺にもよく分からない。
 だけどまぁ、そんな事は今どうでもいい。
 問題は、今現在進行形で彼女の身に起きている怪異である。
 被虐霊媒体質という厄介物を抱え込んだ彼女は、人の悪意をその身に映し出す。断る事も逃げ出す事もできないまま、「悪魔憑き」と呼ばれるその現象を一身に引き受けてしまう。その多くは、彼女自身の肉体を変質させると言う乱暴な物だ。そも悪魔憑きに犯された者の体は、それを前提として変質を遂げるが、彼女の場合は鏡に過ぎない。悪魔と化した部分は着実に、彼女自身の肉体に傷跡を残していく。俺の胸ほどまでしかない華奢な体のあちこちには、消えない傷が刻み込まれてしまっている。右目も右足も、もう満足には動かせない。毎朝毎晩、傷口に当てる包帯を替えるのが日課になってしまっている。悪魔の姿がその体に映るたび、忌まわしい印が一つ、また一つと刻まれていくのだ。
 だが――幸い、と言っても良いのだろうか。今回のそれは命に別状なさそうだった。
 今カレンの体に刻まれている悪魔の印はぴくぴくと震えて、あるいはふるふると視界の端で揺れているが、声ははっきりしてる。それに見た所、他に傷を負っている様子もない。やれやれと、呆れたように頭を振る余裕まであるのだから。
 ――いやまあ。
 本当に命に別状はなさそうだし、見てる分には楽しいんだからそのままにしておきたいのだけれど。
「デリカシーと言うものはにゃいのですか、本当に」
 溜息混じりに呟くカレンの頭からは大きな三角形の耳が生えている。そして穴でも開けたのだろうか、法衣のお尻の辺りから飛び出た見事な毛並みの尻尾が右に左に動いていた。
 なんでさ。
 なんでねこ耳ねこ尻尾なのさ。
「士郎? 聞いているのかしら」
「いやまぁそのなんだ。あんな悲鳴上げられればそりゃ気になって覗くと思うんだ」
「……その挙句に人を笑い者にするのが、あにゃたの正義にゃのかしら? だとしたら随分と悪趣味な事にゃ」
 ああ、怒ってるなぁ。こんな怒った顔見たのは久しぶりかもしれない。
 でもなぁ。
「すまんカレン、そんな言葉遣いで怒られても可愛いだけ……」


 ――当然というかなんと言うか。
 ねこ化は語尾だけではなく、どうやら指の爪にも及んでいたようだった。







「つまり、あいつが連れていた黒猫が悪魔だったってのか?」
「ええ。随分と位が高かったみたい。成体と化したモノなのか、あるいは真性か。どちらにしてもしばらくは元に戻りそうににゃ……ないわ」
 互いに死地より抜け出した男の顔を思い出して、顔をしかめる。眼鏡の奥の柔和そうな瞳は相変わらずだった。絶望的にそりが合わなかったのも相変わらずだったが。
 そういえば確かに寄り添うように子猫を連れて歩いてたな。首輪の代わりにリボン巻いてるなんて変わってるなとは思っていたけど、まさかあれが悪魔だったとは。
「どうするのかしら? 今回の仕事はもう終わったのだから、足手纏いはここに捨てていくのかしら」
「あのなぁ、答えが分かりきっている事聞くなっての。見捨てて出歩けるなら俺はそもそもあんたと行動共にしてないよ」
 今回はかろうじて命を拾えた。零れ落ちた者はあまりにも多かった。でも確かに救い上げられた命もある。
 やらねばならない事はたくさんあるし、時間はいくらあっても足りない。それでも、目の前の困ってる人間から目をそむける事なんか出来ない相談だ。
 ……たとえそれがカレンであっても。
「また失礼な事考えているみたいだけど」
「気のせいだろ。あんたの腹の中ほどじゃないって」
「……ぽるかみぜーりにゃ」
 ぷいと横を向いてしまうが、耳だけこちらに向けられている。
 本心はおろかちょっとした感情も普段は隠して見せやしないのに、その一端が現れているようでどこか可笑しい。言ったら今度は左頬ひッ掻かれそうだが。
 しかしまぁ、実際問題どうしたものかねこれ。ねこ耳はまぁ帽子で誤魔化せない事はないような気がするけど、尻尾はちょっと難しいぞ。
 妙案も思い浮かばず溜息が口から飛び出てしまう。途端体が疲労を思い出したように足の力が抜けてしまう。そのままよろよろと、彼女と向かい合う椅子に腰下ろした。
「相変わらず自分の体の事には無頓着なのね。私の覚えている限り、三日はまともに寝ていない筈だけど」
「あー、そうだったっけ。まぁ、眠りこけて喉首掻っ切られるわけにもいかなかったからなぁ」
 心底呆れているのだろう。呟く声は随分と冷めていたから、苦笑を浮かべる他無かった。この分だと、彼女の機嫌が戻るまではもう少し掛かりそうだ。踵を返して自分の部屋に戻れば良いのかもしれないが、そうするともっと機嫌が悪くなるのは経験上良く知っている。耳や尻尾が無くても、猫みたいな女なのだから。
 しかし手持ち無沙汰は如何ともしがたい。
 俺は羽織っていたコートのポケットから、ゴムボールを取り出した。
 最初は握力強化と思って持ち歩いていた物だけど、今ではすっかり手に馴染んでいる。何度か潰れそうなほど強く握り締めた後、床に向かって投げ下ろした。
 たん、たん、たん。
 二度三度、フローリングの床に投げつけ受け止めているうちに気づいた。
 ぴくりぴくりとカレンのねこ耳が動いている。不貞寝するように顔を背けているのに、耳だけが興味津々とこちらを見つめてる。
 やがて耳だけでなく尻尾まで左右に揺れ始めた。
 どうやら性悪な子猫様は、非常に興味をもたれているご様子である。
「なぁ、カレン」
「……言いたい事は分かりますが。これは私の意志とは無関係です」
「本当に?」
「本当ですにゃ」
 ほう無関係と言い張るかねこさんや。
 無関係じゃあ、仕方ないな。
「――投影、開始」
 基本骨子はシンプルに。
 構成材質は弾力を重視。先っぽのもふもふ感は最優先事項。
 想像の理念は単純だ。嗚呼、日ごろの恨みを思い知れ。
「――――全工程、完了」
「士郎?」
 かくて俺の右手に姿を現したそれに、何事かと振り向いたカレンの目が吸い寄せられる。
 この瞬間、勝負は決した。
 プラスチックのようなもので組み上げた、ピンクの柄は柳のようによくしなる。その先につけられた毛玉の大きさも柔らかさも自信作だ。
「ほれ」
 スナップを効かせて猫じゃらしを振る。カレンの視界の右から左へ、左から右へ。その度毎に彼女の瞳が先を追いかけ泳いでる。
 いつの間にか体を起こしてベッドの上で丸くなっているのは、果たして飛び掛る準備なのか必死でその欲望を押し殺しているのか。
「し……士郎、あにゃたと言う人は……」
「無関係なんだろ? 慎み深い修道女であらせられるカレンが、まさかこんな物に興味を示すわけがなぁ」
 ダメだ笑いが抑えられない。噛み殺しても噛み殺しても口の端が震えてしまう。ふるふると体を震わせるカレンの様子が可笑しくてしょうがない。
「だ、駄犬の分際で余計にゃ知恵を……うにゃあっ?!」
 椅子から立ち上がってカレンの目の前にしゃがみこむと、猫じゃらしを目の前へ。
 今にもそっぽを向いて逃げ出したいのだろう。だけど今彼女の体は猫の本能に支配されている。この誘惑から逃れる事なんか、出来る訳がないのだ。
 それでも彼女は耐えた。実に三十秒耐えて見せたのは流石だった。
 だけどまぁ、無理だよなぁ。
「――にゃっ!」
 一際大きな啼き声と共に彼女の右手が閃くが、一瞬の見切りで猫じゃらしを引っ込める。
「にゃ、にゃ!」
 間髪いれず飛んでくる左手を避け、毛玉を彼女の頭より上へ上げてしまう。
「ほれほれ、届かないだろ?」
 ここぞとばかりに嫌味な笑顔を作って、猫じゃらしを閃かせると、カレンの顔に悔しそうな表情が浮かぶ。唸り声を上げた彼女は身を起こしてそのまま、って、おい。
「にゃーっ!」
「ちょっと待てーッ?!」
 そのまま全力で、ベッドの上から猫じゃらし目掛けて伸び上がってきましたよ?!
 確かに猫の本能に支配されてるとはいえ、あくまで生えてるのは耳と尻尾だけで大きさは普段のカレンと変わらない。挙句彼女自身の体は色々がたが来ている不良品。
 ベッドの下は安普請の板張り床。クッション性能まるでなし。
「うぉぉぉぉっっ?!」
「にゃー、にゃあっ?!」
 膝立ちで伸び上がって重心が宙に浮いてしまえば、後はこちらに向かって倒れこんでくる他ない訳で。
 つまりはまぁ。
「ゲット」
「……痛ぅ。くそ、無茶しやがって」
 後頭部にでかいコブこしらえた俺を下敷きにして、カレンは大層楽しげな表情で猫じゃらしをかまっているのでありました。
「おい、おいカレン」
「にゃー、にゃ、にゃ」
「誤魔化すな、お前わざとやりやがったろ」
「知りません。今の私は無力な猫ですにゃ」
 どこからどう見ても普段のカレンです。本当にありがとうございましたちくしょう。
「……まぁ、その調子なら怪我はなさそうだな」
「お陰さまで。本当、無駄に大きくなったその体も、思わぬ役に立つものですね」
「それだけ言えりゃ大丈夫だな、クソ」
 吐き捨てても聞きやしない。こちらの心を見透かしたように、寝そべったままの俺の胸の上で、満足そうにカレンは猫じゃらしを玩んでいる。
 その表情が、妙に新鮮だった。
 いや勿論頭に変な物が付いてるからってのもあるとは思う。だが、よくよく考えれば俺をからかう以外に何かに没頭した顔は見た事がなかったような。からかわれてる時はこっちはそっぽを向いているし、そう考えれば彼女の楽しそうな表情などと言うのは、割と希少価値が高いものかも知れない。
「何か?」
「いや、猫の本能でもお前さんの欲求でも何でも良いんだが、随分と気に入ってると思ってな、それ」
「貴方の魔術に呆れていた所です。本当、これだけの事が出来るくせに、不器用極まりない生き方が好みだというのだから。救えないわ」
 辛らつな言い様だが、その右手の様子じゃ説得力に欠ける事夥しい。それに何年も付き合いがあればいい加減彼女の言葉の槍にも耐性が出来てくる。
「元から救う気なんかないだろうが、あんた。俺が泥沼の中でもがいているのを楽しんでるくせに」
「心外な言われようね。救いを求めて伸ばされた手を取るのが私の仕事なのに。大体貴方のように、最初から伸ばしてこない相手にはどうすればいいのかしら」
 むぅ、そこを突かれると痛い。
「あー、それに関しては前向きに検討しとくからさ。取りあえず今はどいてくれないか。重くはないんだが流石にそこに乗られていたら起き上がれないぞ」
 押し倒されて馬乗りになられている構図というのは、あんまり褒められた状況じゃない。なにせ彼女のお尻がちょうど俺の腹の上に来ているのだ。いくらカレン相手でも、やっぱり気まずいものはあるわけで。
 だがそんな俺のお願いに、一瞬目を丸くした彼女の表情が変わる。
 なんかこう、とっても嫌な方向に。
「あら、衛宮士郎」
 金の目がすっと細められる。唇の端が釣りあがる。そうすると今のカレンは本当に猫そのものだ。
 彼女の右手が、猫じゃらしから離れて俺の胸を這い登ってくる。起こしていたはずの上半身が、段々こちらに向かってもたれかかってくる。
 左手はどこへいったんだ。そんな疑問に答えるように、ひやりとした感触が俺の右の頬を撫で上げた。
「そう言われた猫が、気に入った場所を譲り渡す事があると思うのかしら?」
「持ち主に優先権はないのかおい」
「座布団が喋る訳ないのだから、そんな物の優先権を考慮する必要なんてないわ」
「一足飛びに無機物扱いかよ!」
 いや分かってたけど口論では埒が明かない。
 俺はカレンの肩に手を掛けて、無理やり引き剥がそうとした。
 しかしそれよりも早く、彼女が腕の中に忍び込んでしまう。行き場を失った手が、図らずも彼女を抱きしめるような格好に。慣れない温もりが俺の体を包んでる。
「な、ちょ、ちょっとカレン……」
「顔が赤いわ、士郎。相変わらずね」
「赤いって、お前が原因……」
 文句を最後まで言わせてもらえない。ぴったりと体を密着させたカレンの顔に、視界を埋め尽くされてしまった。
 鼻を突く筈の消毒薬の匂いが、覚えのない甘い香りに変わってる。彼女の唇から漏れた吐息が正体だろうか。
 見下ろすくすんだ金色の瞳が、吸い込まれそうなほど深い。心なしか潤みを帯びた輝きから、視線をそらす事が出来ない。
 離し時を失って、彼女の背中に添えられたままの俺の両手にはしっとりとした感触が伝わってくる。分厚い法衣越しなのに、まるで素肌の彼女を抱きしめているかのよう。
 いや、待て。待ってくれ。
 なんかとてつもなくヤバイ罠に、腰まで浸かってしまってませんか俺?
「か、カレン? あんまりこういう冗談は笑えないからさ」
「冗談だと思うの?」
 小さく開かれた彼女の口が、すっと迫ってくる。反射的に顔を捩ろうとすると、両の手で押さえ込まれてしまった。
「彼の連れていた悪魔は、淫魔の一種だったの。その本能に引きずられてしまうのだから、こうする事もしょうがないと思わにゃい?」
「い、淫魔ってってって、おいっ?!」
 彼女の腰が段々と、俺の腰下目指してずり下がってくる。何を狙っているかは明白で、非常にまずい事に、愚息が先ほどから自己主張しかけている。
 いやそもそもカレン相手にこんな事になるなんて思いもしなかったんだけど、でも腕の中の彼女が余りに柔らかく温かくて、思わず意識してしまったんだから仕方ないじゃないか。
 先ほどから漂うこの甘い香りが、頭の中に深い靄を掛けてくる。淫魔とやらの影響なのか、それとも今まで考えを向けようとも思わなかった、カレンの女としての顔の表れなのだろうか。
 いや待て待て待て落ち着け慌てるなこれはカレンの罠だ。だから落ち着いてくれ息子さん。そう言い聞かせてみても聞く耳持ってくれない。ジーンズの生地の下でますます硬く大きく膨れ上がってもうどうしようもねぇんですがこれ。
 ――いやそれでも頑張った。頑張ったんだ。
 頑張って身を捩って逃れようとしたんだけどさ、マウントポジション取られてる状態でどうすればいいのかね。ほらもう到着されちゃったようわあい。
「士郎? 私のお尻に何か当たっているみたいだけど」
「お、お前が自分から摺り寄せたんだろっ!」
「過程はどうあれ、はしたなくもこんなにおちんちんそそり上がらせているのは、貴方の方ではにゃいかしら?」
「……すみません俺が悪かったので散々罵った後で構いませんのでどいてくださいお願いします」
 もうお腹を見せて全面降伏するより他ない。いやもうしてるけど気分的に。
「そう。悪かったと思ってるの」
 だけど返ってきたカレンの言葉は、俺の想像を超えていた。
「なら、私を犯しにゃさい」
「…………は?」
 な、にを、を言い出すんだ、こいつは。
「あにゃたはセイギノミカタで、困っている相手を見捨てる事が出来にゃいのでしょう? 私は貴方に救いを求めているのだけど?」
「待て! ちょっと待て! だから訳の分からない冗談はやめろと!」
「冗談にゃど。言ったでしょう、今この身に巣食っているのは淫魔の残滓だと。それでも堪えようとはしていましたが、貴方が散々玩んでくださいましたからもう無理です。抑えられませんにゃ」
 とろんと潤んだ瞳で、荒い息をつきながら、気づけば彼女の唇が俺のそれに触れんばかり。
 うん本当にカレンは限界っぽかった。何がとかあんまり考えたくないけど。
 つまりあれですか。猫じゃらしでからかってしまったのが、墓穴への道一直線だったということですか?
「……えーと、他に手段は、無し?」
「みゃあ」
 真似にしてはひどく上手い鳴き声を上げて、彼女の舌がぺろりと、俺の唇を舐め上げた。







 ベッドの縁に上半身をうつ伏せにしたカレンが、俺に向かってお尻を向けている。膝の下に引き釣り下ろしたシーツを引いているのは、擦れて膝に傷がつかないようにするための気遣いか。
「顔を合わせているとやりづらいのでしょう、貴方は」
 くぐもった彼女の呟きが図星だったので、顔をしかめる他はない。つい五分前までそういう相手だなんて意識もしてなかったのだから、仕方ないじゃないか。
「なぁ、怖くないのか」
「何が、ですか?」
「その、俺なんかにこういう事されるの」
「別に。貴方が相手であれば命を取られるような事でもありません。それとも……」
 未だに踏ん切りがつかない俺を笑っているのか、カレンの声の調子が変わる。
「私の体など、触れるのも汚らわしいと思っているのかしら。そういう事にゃらば仕方ありません」
 この、性悪シスターめ。
 分かりきった答えを俺に言わせようとしている。波打つ銀の髪に隠れた顔にはあの意地の悪い笑顔が浮かんでいるに違いない。
「悪かったよ。せいぜい痛くしないように頑張るから」
「そんな気を使う必要などにゃいわ、士郎。望むようにしにゃさい。そうされる事が私の望みでもあるのだから」
 なのに、そんなどきりとする事を言う。
 その言葉の奥に意味は込められているのか、それともいつもの戯言か。髪の間から少しだけ覗いた金の瞳からは、真意が読み取れない。ツンとせり立ったねこ耳も今は動きを止めて、俺の様子を伺っているようだった。
 ただ、嘘はないと急かすように、彼女の両の手が後ろへと回される。そのまま法衣の端をつまみ上げ、ゆっくりと捲くりあげていく。
 ふくらはぎを過ぎ、膝を越えて太ももへ差し掛かる。厚ぼったい藍染の裾から現れた足が目にまぶしい。日に当たる事の稀な彼女の肌は、透けるように白く滑らかだ。作り物のような造形に痛々しく巻き上げられた包帯が、逆に彼女が生身の人間だと知らせてくる。
 引き寄せられた視線の中で、彼女の太股に違和感を感じる。ぼやけた蛍光灯に照らされたそこが、きらきらと艶かしい輝きを放っている。
 濡れている。
 何でとか、何になどと疑問に思う間など無かった。
「見て、士郎……」
 熱の篭ったカレンの呟きに、耳が焼かれる。
 法衣が腰まで捲り上げられた。丸みを帯びた、張りのある彼女のお尻が露になる。慎み深く覆い隠している筈の下着の姿はどこにも無かった。
 しっとりと汗ばみ、薄く色づいた肌がまるで桃を思わせる。両の足がゆるく開かれているから、割れ目の奥まで俺に露になっている。
 てらてらと蜜を垂れ流しているカレンの花弁も、小さく窄まった陰門も全て晒されていた。その上から艶やかな毛並みの尻尾が伸びて、右へ左へと揺れている。
 振られているのは尻尾の筈なのに、まるで彼女がおしり全体を振って、俺を誘っているかのよう。そんな錯覚をしてしまうほどに、目の前の光景は刺激が強すぎる。
「ちょ、カレンお前下着……」
「恥ずかしい話ですが、こんにゃ状態では着けていられませんから。手間が省けて貴方にも良い事尽くめにゃのでは?」
「だからって、これは……」
 喉がカラカラに渇いて、声が掠れてしまう。晒されているのは下半身だけ、その事が殊更彼女を抱くと言う行為を意識させてしまう。ただ裸で寝転がられている方が、よほど落ち着いて受け入れられた気がする。
 見ろと言われるまでもなかった。鮮やかに色づいた彼女自身から、目を離す事なんか出来るわけがない。
 ズボンの中で俺のペニスが、痛いくらいに張り詰めている。このまま戒めている必要などない事に気づいて、ベルトに手を掛けて引き下ろした。上着も何もかも脱ぎ捨てて彼女の前に素の自分を晒す。
「うわ、こりゃあ……」
 思わず自分でもあきれ返ってしまうくらい、それは硬くそそり上がってしまっていた。窮屈な拘束を外された癖して、すぐにまた潜りたがっている節操のなさ。
 だけどまだ早い。ココだけで味わってお終いにしてしまうには、目の前の果実はあまりにも美味そうだ。
 まるで盛りのついた犬だ。殆どその事しか考えられなくなっている。よろよろと跪いた俺は、カレンの尻に手を伸ばした。
「ん、くぅ……」
 押し殺したカレンの呟きに、かっと目の前が赤くなる。ただ触っただけなのに、それだけでもう感じているというのか。
 あんまり強く握り締めたりしたら、壊れてしまいそう。かろうじて残った理性が指に届いて、ゆっくりと指を尻の肉に這わせていく。
 うっすらと湿っているのに、確かに滑らかで。どこまでも沈んでしまいそうに柔らかかった。
「カレン……お前の体、すげえ熱い」
「し、知りません、そんにゃの……んッ」
 そう言いながらもこらえきれないように背をそらせて、カレンは体を震わせる。意識してなのかどうなのか、激しく振られる尻尾が俺の頬を撫で回してくる。こそばゆさに思わず目を細めて、俺はその根元を掴んだ。
「ひゃ、そこは……にゃぅ」
「あー、やっぱりちゃんと感覚通ってるのか」
「あ、当たり前です! それは今、私の体の一部なんですからにゃあっ?!」
 予期せぬ感覚だったのだろう。右手の指で輪を作って、尻尾をしごいてやるとカレンの声が裏返った。
 毛並みに逆らい先から根元に撫でおろし、また根元から先へと戻していく。ふわふわとした感触なのに、中心にはちゃんと芯が通っていて緩やかに押し返してくる。まさに猫の尻尾そのものだ。
「こうされるとどんな感触なのさ」
「そ、そんにゃ事……あなたにもこれからの行為にも関係は……」
「関係はないけどさ。でもなんかカレン、すごく気持ちよさそうだから」
「誤解です! まったく余計な事ばかり考えているのですねあにゃたは!」
 シーツに顔をうずめてうなるカレンの様子は、普段の様とは程遠い。まるで俺に顔を見られたくないかのようだ。
 だけどなぁ。
「カレン。お前、耳真っ赤」
「にゃ、にゃに、を……」
 銀の髪を掻き分けて、先をのぞかせた本来の彼女の耳は赤く染まってる。せわしなく動くねこ耳も彼女の内心を雄弁に語っている。
 とっさにそこを隠そうと伸びた彼女の手を掴んで、俺は彼女の体にうつ伏せに覆いかぶさった。
「なぁ、カレンさぁ」
「こ、こんな時に動かすのが腰じゃなくて口ですか。ケダモノの癖に紳士の真似事をまだ続ける気?」
「真似事って……酷い言い様だなおい」
「そんなにおちんちん固くして私のお尻に当ててるくせに。もう我慢の限界にゃんでしょう?」
 あー、確かに彼女の言うとおり、際限なしに固くなりっぱなしのペニスが彼女の尻に当たってる。改めて言われるとすげー恥ずかしい。
 だけどな、今は俺のほうが切り札握ってるんだぞ。いつもいつもやられっぱなしだと思うなよサドシスターめ。
 口元に浮かんだ笑みをかみ殺して、俺は彼女の元耳の方に口を寄せた。
「お前、さっきは俺が恥ずかしがってるとかいったけど。本当は恥ずかしいのお前の方なんじゃないのか?」
 びくんと。
 面白いようにカレンが体を震わせた。
 どうやら俺の矢が見事に図星を打ち抜いた模様である。
「な、にゃ、そんな事は……!」
「そんな事無ければ顔くらい見せてくれたって良いんじゃないのか? ずっとベッドに埋めたままじゃないか」
「ですからこれは、貴方がやりやすいように――!」
「うん、じゃあ俺は今カレンの顔が見たい。真っ赤にして恥ずかしがってるその綺麗な顔を見ながらしたい」
「にゃ、あ……っ!」
 そら半分は勢いだけど、もう半分は本心だ。
 消毒薬と包帯に塗れた体だと、事あるごとに呟くカレン。だけどこうして今俺の下で熱い吐息を漏らしている彼女の温もりは、不思議と俺の中に染みてくる。
 どんな顔をして俺を見るのか、知りたくなったって不思議じゃないだろう。
「なあ、カレン」
 だけどこの銀の猫は、気位の高さも筋金入りだった。ぷいと顔を背けて、俺の顔がふわふわとした彼女の髪に埋もれてしまう。澄んだ花のような香りはたぶんシャンプーだけじゃなくて、彼女自身の香りでもあるんだろう。しかし俺に許すのは匂いまでという事で、目で楽しませるつもりは欠片もないらしい。
 じゃあ仕方ない。別のプランでいこう。
 俺は彼女のお腹の方へ手を回すと、ずり上がった法衣の中へ忍び込ませていく。腰はそのままぴったりと、彼女のお尻に摺り寄せたまま。
「ふぁ、あん……士郎、にゃに、を……」
「やりやすいようにしろって言うから、やりたいようにするだけだって」
 彼女が熱い息をつくたびに、お尻の肉に挟まれたペニスが緩く擦られる。盛大にあふれ出し、お尻のほうまで回ってきた彼女の蜜がこねられてくちゅりと音を立てるのがいやらしい。温めのお風呂に使ったまま、タオルに包まれてると言おうか。これはこれで気持ち良いけど、高まるほどじゃない。
 だから今は、忍び込ませた不埒な両手に意識を集中させる。
 肉付きの薄い脇腹は、流石にお尻のようにこね回せるほど柔らかくはない。それでも肌は滑らかで、するすると指が滑っていく。
「ひぁ、うん! 士郎、そこは……」
「くすぐったい?」
「当たり前です! そんなところ触られても……ふぁあぁっ!」
 お気に召さないみたいなので、疾く指先を目的地へと。薄くアバラの浮いた脇を一段飛ばしで這い上がって、なだらかな二つの丘陵へと辿り着く。
 ひょっとして上はつけているのだろうか。そう思ったけど、指先に伝わってくるのは間違いなく素肌の温もりだった。
 ショーツはおろかブラジャーも着けてないとは。それが普段の習慣なのか、はたまた猫化の影響なのか分からないけど、今こうして楽しむ分には最高だ。
 カレンのおっぱいは掌にすっぽり収まってしまうくらいのサイズで、お世辞にも大きいとは言えないけれど、そこはそれ。さっき楽しんだお尻の感触が前菜に思えてしまう。
 ゆるく揉みしだくだけでも自在に形を変えて俺の手のひらに吸い付いてくるくせに、確かな弾力が伝わってくる。乳首ももう両方こりこりに硬くなっていて、指でつまみあげた瞬間彼女の口から小さな声が漏れた。
「もう少し強くするのと弱くするの、どっちが良い?」
 一応気を使って聞いてみたけど答えてくれないので、やりたいようにやれという事だと判断する。ちょっとだけ力を込めて、つまみあげた乳首を乳房の中に押し込んでみたり。
 これはこれで楽しいけど、ちょっとだけ物足りない。
 何が足りないのか考えて、吸えない事だと気がついた。
 快感を堪えて震えているカレンを、こうして背中から抱きしめているのは良い。けど、唇で啄ばんだり出来ないのはちょっと惜しい。
 何か良い手段がないだろうか。そう思った瞬間、それに気がついた。
 せわしなく動くカレンのねこ耳。その先っちょを唇で咥えてみた。
「にゃ、にゃぁあぁっ!?」
「うぉっ?!」
 全くの予想外だったのだろう。かわいい悲鳴と裏腹に、反射的に突き上げられたカレンの脳天で、顎先を突き上げられかけた。
「あ、あぶねぇ。びっくりさせるなって」
「それはこちらの台詞です! いきにゃりそんな所を」
「あー、分かったよ。じゃあ舐める」
「え、あ、にゃあっ?!」
 名残は惜しいけどおっぱいを弄んでいた手を引き抜いて、俺はカレンの頭に手を掛ける。そのまま毛先の流れにそって、根元から耳先に向かって舌を這わせた。
 長く緩やかに波打つ彼女の髪から飛び出たねこ耳は、同じ色をしてるけど短く太い獣の毛で覆われている。少し脂っぽかったりするのだろうかと思ったが、伝わる感触はさらりと乾いたものだった。だけど人間の髪とは違うそれはちくちくと舌先に突き立ってくるけど、経験のないその感触がむしろ楽しい。
 何よりも、だ。
「にゃ……ぁあっ、いや、だめ、そんな事」
 俺の舌の動きにあわせて、カレンが声を震わせてくれるのだから。
 緊張からだろうか。触れ合う肩には力が篭っているけれど肌の火照りはいや増しているし、何より下が大洪水だ。お尻の肉に挟まれた俺のペニスも、もう先走りなのか彼女の愛液なのか分からない位ドロドロになってしまっている。
「気持ち良いんだ、カレン?」
「そ、それは、そんな事は……にゃあ、ない、ですから……」
「ん、じゃあまた噛む」
「や、それはっ!」
 普段虐められてるせいだろうか。そんな事言われたら意地でも気持ち良くさせたくなる。もちろん彼女の事だから口にはしないだろうから、言い訳できないよう態度に表してもらおう。
 歯を立てたら怪我させてしまうかもしれないから、唇で。それだけ気をつけて、先ほどよりも深く、中ほどまで唇で挟み込んだ。
 唇の裏側に伝わるのは毛先の固い感触。でも何より感じるのは熱だった。全身の血がそこに集まってるんじゃないかと思うくらい、彼女の耳が熱くなっている。
「にゃ、ぅなぁ……く、ん、だめ、士郎……そこはぁ!」
 甘く響いた叫び声が耳に気持ち良いけど、また顎突き上げられたらたまらない。しっかりと彼女の頭を抑えて、隙間なく体を擦り合わせた。
 今だ右手で包み込んだままの乳房を柔らかく揉む。硬く反り立ったままのペニスを、円を描くように彼女のお尻に擦り付ける。そして唇の挟んだねこ耳の内側を、舌先で何度も何度も舐め上げた。
「く、うん……だめ、もう……駄目です、にゃあ……!」
 裏返って掠れたカレンの嘶きが天井辺りまで突き抜けて。
 ピンと一度反り返った彼女の体から、糸が切れたように力が抜けていく。
「カレン……?」
 呼んでも返事はない。視界を遮る髪の毛の向こうから、荒い息が聞こえてくるだけ。
「ひょっとして、イッた?」
「……本当に、あにゃたは」
 俺の腕の中をすり抜けて、カレンが向きを変えた。息が触れ合うほどの距離でお互い顔を見合わせる。釣りあがった目で俺を睨みつけるカレンは、しかし頬が真っ赤に染まってるし口の端が唾液の跡でてらてら光ってる。どう感じていたか、それがよく物語っていた。
「犯しなさいと言われて、する事がこれですか。一体にゃにを考えているのですか貴方は」
「いやまぁ。それはそれでしたくないと言ったら嘘になりそうだけど……でもほら、今はカレンが可愛かったから」
 呆れたような目をしても、そんな顔じゃ効果なんかない。今のカレンは誰よりも可愛らしく見えるのだからしょうがない。満ち足りてる今の気分は、達成感だけではないだろう。
 いやこう、普通に感じるそれと、猫を可愛がるそれが混じってる気がしなくもないけど。
「それにあんた、好きなようにしろって言ったじゃないか。だからうひゃぁっ?!」
 言い訳は最後まで言わせてもらえなかった。カレンの手が俺の股間に伸びて、ペニスを摘みあげたのだ。
「こんなに固く大きくしてるくせに、好きなようにもにゃにもあるのですか? びくびくびくびく震わせて、先走りでこんなに汚して。出来ない我慢を無理にするからでしょう」
「いやまて、汚れは半分くらいあんたの――」
 反論は彼女の口に塞がれた。
 唇に火が点る。視界がカレンの顔で一杯になる。彼女の唇が軽く動いて、俺の唇を挟み込む。
「っつぅ……」
 軽く歯を立てられて、鈍い痛みが伝わってくる。散々撫で繰り回されたお返しと言う事だろうか。
 こちらが文句を言うより早く、そのまま顔を引いて逃げたカレンの目は甘く蕩けている。
 彼女の指が動きを再開した。裏筋を撫で上げる右手の指と、そして自らの股間に滑らせた左手の指。
 真っ赤に染まって、愛液に溢れた彼女の陰唇。半ば綻んだそれが、たおやかな彼女の指によって開かれる。
「満たしてください、士郎……」
 その顔で、その声でそんな言葉を彼女が囁く。
 乱れた法衣は胸の辺りまで捲くれ上がり、つつましくも形良い乳房が両方むき出している。彼女から求められているのに、その格好が殊更に背徳的で脳を焼く。
 もう限界だ。今度は俺がイきたい。猛り狂ったこの肉の棒が、収めどころを求めて今か今かと喘いでいる。
 カレンの体を掬い上げる様にして、ベッドの中ほどまで押し上げた。そのままお預けを解かれた犬の様に、一目散に彼女の膣内に突き入れた。
「はぁ、ん、あぁっ!」
「く、うっ」
 充分に潤った彼女自身が一息に俺を飲み込む。ただそれだけで情けなくもイキかけた。
 こんな行為自体が久しぶりだってのもあるし、お預けの時間の内に想像以上に高まってたってのもある。
 でも何より、あられもない声でよがり歓ぶ。カレンのその姿が何よりも俺を蕩かしてくる。
 ぐっと奥歯を噛み締め、お尻の辺りに力を入れて射精感を押さえ込んだ。カレンの太股を抱え上げてより深く奥まで押し込めるようにして腰を打ち込んでいく。
「し、士郎……熱い、ん、んぅ……」
「そ、んなの……お互い様!」
 飲み込まれたペニスから俺の体がドロドロに融けてしまいそう。シーツを掴んで目を閉じて喘いでいる、カレンの姿に声に絡め取られてもう逃げられやしない。なにせ今腰振ってる獲物は、進んでそこに飛び込んでいるのだから救えない。
 氷のような印象で、慈愛に満ちた祈りを天に捧げ、悪魔のように俺の心を突付いて回る。随分いろんなカレンの顔を見てきたものだと思うけど、こんな顔は初めてなんだから。
 本当に、なんて。
「……可愛い顔してるよな、カレン」
「ま、た……そんな世迷言を……ん」
 腰の動きを少し緩めて、身を屈めた俺はカレンにキスをする。今度は噛み付かれたりなんかしないで、彼女の唇が温かく迎え入れてくれる。
 啄ばむような重ね合いが、すぐに舌を絡めたものへと変わる。俺から先か、それともカレンの方なのか。互いに頭に手を回して引き寄せあった。
 繋がりあった股間の方と同じくらい、絡め合わせた舌から卑猥な音が鳴る。どっちが猫なのか分からなくなるくらい、互いの口から水を舐めあってしまう。
「ふぁう、あ、ぅ……もう、そんなにがっついてるなんて。貴方の方がケダモノみたい……にゃあ、またそんな……」
 俺の髪を弄びながら、口付けの合間に突付いてくるのを忘れない。お返しに、ねこ耳の根元をこしょこしょと指で弄んでやったら、途端に体を震わせてくる。
「こんな耳だけじゃなくて尻尾まであるんだから、今のカレンはすげーケダモノって事だよな?」
「知りません。それに執着するあにゃたの方がよっぽどです……」
「良く言う。こうされるのも、尻尾を扱かれるのもどっちも気持ち良いんだ……はぅあ?!」
 突然股間の辺りに感じたこそばゆい感触に何事かとかと目を向ければ、カレンの尻尾の先が俺の陰嚢を弄んでるではないか。
「ちょ、ま、それなんか変、くぁっ!」
「聞こえません。ケダモノですから、にゃあ……」
 ぷいと顔を背けるか、それとも嫌味な笑顔を浮かべてるのかと思ったのに。下を見るなとまた唇をふさがれてしまった。
「ん……ほら、腰が止まって……」
「うるさ……わかったよ!」
 また尻尾でくすぐられては敵わない。舌を絡ませあいながら、腰に力を込めた。
 と言うか、流石にもう限界。
 カレンの中で俺のペニスはもう最大限に膨らんでプルプル震えている。もう後一、二回も動かせば、彼女の膣中に盛大に射精してしまいそう。
 ――いや待て。流石に中に出すのは。
 飛びかけた頭でそれだけを認識して、腰を引き抜こうとする、が。
「し、士郎――」
 蕩けた吐息混じりの声で、名前を呼ばれた。潤んだ瞳で、俺を見つめる彼女の姿がまるで寂しさに震える本物の猫みたいで。
 それであっけなく堰が切れてしまった。
「く、出、る――!」
「ふぁ、あぅ、あぁぁっ!」
 ドロドロに熟れきった、熱い彼女の洞の中へ、尚熱い精液をぶちまけた。それに合わせるように、一際高く啼いたカレンが、ぎゅっと俺にしがみついてくる。
 全身の力が全て抜けてしまったよう。ふわふわとした虚脱感に包まれて、上手い事体に力が入らない。魂も半分くらい出ちまったんじゃないかというくらい、カレンの中に全て出しきった。
 だと言うのに、俺のペニスはまだ半ばくらい硬さを保ったまま彼女の中に埋まってる。ちょっと恥ずかしくなって、よろよろとカレンの中から引き抜いて、彼女の横に仰向けに寝っ転がった。視界の端っこに映るそれは、二人分の体液に塗れてドロドロになっている。
「あー……」
 ぐちゃぐちゃと頭が茹ったままで、上手く言葉にならない。
 ただこんなに安らいだ気分は、ここ何年も感じた事がなかった気がする。満たしてくれと言われた筈なのに、逆にささくれ立った心の中に彼女が染み渡った。
「……随分と沢山、出しましたね」
 少し息が戻ったのだろう。カレンの呆れたような声が耳に届いた。
「仕方ないだろ、こんな事するのすげー久しぶりだったし」
「だとしても、少々多すぎるわ。自慰は姦淫に繋がる行為だけど、貴方の場合は適度にこなしておいた方が良いのではないかしら」
「自慰って、あのな……」
「それとも、私との子供が欲しいという事なのかしら。こんなに中に出されて。中絶は禁忌なのだけど」
 ……最大級に現実に引き戻されるような事言いやがりますね相変わらず。
 そりゃそう言う行為をしたわけだから、結果が伴う可能性はあるんだろうけど。こんな俺に子供が出来るという想像が、何と言うかしにくいんだよなぁ。
 それはカレンも一緒の筈。俺も彼女もそういう日常からは掛け離れてしまっている。
 その筈なんだが。
「どうかしましたか? 私の顔なんかそんなに見つめて」
「いやこう……その時はさ」
「その時は?」
「どこか落ち着いた場所で、せいぜい一緒に頑張って育てるか」
 不意に出てきた言葉に自分でびっくりした。
 俺がびっくりしたんだからカレンはもっとびっくりしてる。目を丸くして呆然と、俺の顔を見入っていた。
 いやカレンが好きだとか愛してるなんて口を裂けても言うつもりはありませんが。
 ありませんが。
 今みたいなねこ耳ねこ尻尾は可愛いけど、こんな現象に身を犯される事なんか無い方が良いに決まってる。
 何より、幻のように浮かんだカレンが子供を抱いている姿が、とても似合っていたのだから仕方ない。
「そうですか――」
 何かを納得したような顔でカレンが呟く。
「では子供が授かるように、せいぜい励んでいただきませんと」
「いや待て」
 何で俺の太股の上に跨ってきますかねカレンさん?
「待てと言われても。そも、私は貴方に救いを求めたのよ? 今のこの体がたった一回の行為で満足したなどと思われるのは心外ですにゃ」
「いや心外って何かそれ違うだろうひゃぁ?!」
 屈んだカレンに、半立ちになってた俺のペニスを摘み上げられた。しかも指じゃなくてねこ尻尾絡めて。
「ほら、早く鎮めていただきませんと自分でもにゃにをするか……ん、ちゅ……」
「て、くふぁ、てかカレンお前それ100パーセント自分の意思じゃ……くぅ」
 根元をねこ尻尾でゆるゆると扱かれて、先っぽを唇で咥えられる。まずい、めちゃめちゃ気持ち良いんですがこれ。
 ――じゃなくて! ひょっとして彼女が満足しきるまで玩具にされますか俺は!
 引きつった顔で彼女の方を見やると、なんかすげー楽しそうに俺の物を弄んでおられます。ちょっとやそっとでは飽きて放り出してくれそうにありません。
 ……かくなる上は。俺に取れる行動はただ一つしかなさそうだ。
「お……お手柔らかにお願いします」
「にゃん」
 答えるカレンの声は今日一番、腹が立つほどに嬉しそうな物だった。




【おしまい】




・後書き。

Q:なんでねこ耳ねこ尻尾?
A:生やしたかったからやった。勿論反省していない。

 ……いやまぁ、元は公式人気投票の時にBlackさんが描かれた集合絵のねこカレンがあまりにも可愛かったので、いつかは書いてやろうと思っていたのですよ。非エロで。
 それが出来上がってみればこんな事に。ナンデダロウ。
 
 でもまぁ、カレンさん鳴かせるのは凄く楽しかった。「にゃっ!」が沢山書けて満足です。
 こんな作品でしたが、お読み頂き楽しんで下さったのであれば、それに勝る喜びはありません。ありがとうございました。


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