月ニ住ムモノ。





 視界は白く、身を包む空気は冷たく冴え渡っている。
 石造りの広間は果てが見えず、呆れるほど高い天蓋から望む月は、見た事の無い大きさで明るく輝いていた。
 見覚えのある場所。ここに来るのは何度目だったか。
 千年城。
 最も月に近き土地。最愛の恋人の生まれた場所。
 そのまま自らの体に視線を戻して、遠野志貴はため息をついた。
 いつもの寝巻き姿。アルクェイドの部屋で眠りに就いた時と同じ格好だった。ご丁寧にちゃんと眼鏡も掛けていて、頭痛を引き起こすあの線が見える事もない。
 ひどくちぐはぐで都合のいい状態に、これは夢なのだと彼は理解した。それも、誰か別の人物の紡ぐ夢だ。
 千年城は世界に在りながら世界にはない場所。こんな格好で来られるわけもないのだから。
「今日は何の用だ、朱い月?」
 誰の姿も見えない広間で志貴は叫ぶ。程なく彼の背後で、鈴の音のように澄んだ声が響いた。
「あまり無粋な物言いをするでない」
「あのな、いきなり呼ばれればこっちだって……って、てぇ?!」
 口を尖らせた志貴は振り向き――顎が外れそうになると言う状態を、生まれて始めて味わった。
「戯れに呼び寄せたまでの事。そう気に病むでない」
 そんな彼の様子に目を細めて、この城の主は嫣然と志貴に笑いかける。
「今宵、おぬしの国の者たちは月を愛で杯を傾ける。そう、あれに語っておったな?」
 その姿が間違いではないかと、志貴は何度も瞬きするが、目の前の姿には全く変化が見られなかった。
 受けた衝撃のまま、纏まらぬ頭を無理やりに回して彼は日付を思い浮かべた。九月十五日。そういえば今日は満月だった。寝しなに確か、そんな話をアルクェイドにした気もする。
「……ああ、確かにそうだけ、ど……」
「かつておぬしは言った筈だ。この身もまたあれである、と。ならば月の王たるこの身の無聊を慰めるのも、あれの好いた相手の義務だとは思わぬか?」
 小首をかしげ、彼に向かってまるでアルクェイドがするように瞳で訴えかけてくる。朱い月の仕草に志貴の鼓動は不謹慎に高鳴った。正確には仕草にだけではないのだが。
 夢の中に作られた仮初の場とはいえ、ここは月に最も近き土地。確かに月見をするには最高の環境とも言えるだろう。
 そう、月見をするならば。
 今の志貴にとって、月の事など考える余裕も無かった。衝撃に引きずられたまま、彼はひどく上ずった声で呟いた。
「その、何ていうか色々聞きたい事あるんだけどさ」
「良いぞ? 申してみよ」
「こう……なんて言うかさ。その格好は何なんだお前」
 志貴の目に映る朱い月は、記憶に残る純白と群青のドレス姿ではなかった。
 真っ赤なハイレグのレオタードに網タイツが、そのたおやかな肢体を包んでいる。胸のカップからは豊かな乳房が零れんばかりに張り出していて、チョーカーの真紅が抜けるような白い肌に良く映えていた。足首まで届きそうなほど伸ばされている艶やかな金髪は、先が緩やかに編み込まれ、小首をかしげる度に、まるで尻尾のようにふりふりと揺れている。それとは別に、レオタードには白い綿毛で拵えられた尻尾がちょこんと乗り、形良く切れ上がったお尻を彩っていた。
 そして彼女の頭には、まるでそれが自然な事のように、大きなうさぎの耳が付いていた。その造作は明らかに作り物だと言うのに、いかなる原理かまるで元から彼女の頭に生えていたかのように、時折ぴょこぴょこと揺れては存在を主張しているのだ。
 いと高き千年城にあるまじき、城主のバニーガール姿。
 例えるならば酒の味よりは色を売り物にするような店、はたまた一夜の狂騒を金で買い求める賭博場か。そう言う場所に咲き乱れる花に相応しい格好で、朱い月は志貴の目の前に立っている。
「む……似合わぬか?」
「いやいやいやいや! そんな事はないけど! でも、何で?」
 呆けたように首を横に振るも、志貴の疑問が積みあがる一方だった。
 似合っているのは確かだった。
 そも、彼女の顔立ちもその肢体もアルクェイドと一緒なのだ。この傾城の美貌ですら似合わぬ格好など、この世の誰も着こなすことができないに違いない。
 しかし普段のアルクェイドには失われがちな気品を備えた彼女が、よりにもよってバニーガールなどしているのだ。何をどうすれば納得できるというのか。
「何故も何もあるまい。おぬしの国では、月にうさぎが住むと言う言い伝えがあるそうではないか。ならば私が、その意に応えぬ訳にはいくまい」
 眉を顰めて不満げに呟く朱い月。
 そんな事言ったかな。
 昼間の自分に問い詰めたい衝動に駆られた志貴だったが、すっかり記憶から抜け落ちていた。もっとも、いつもの調子でアルクェイドに話をせがまれれば、面白がって色々話していても不思議ではないかもしれない。
 その話に目を丸くして相槌を打っているアルクェイドの奥底で、朱い月も耳にしていたのだろう。
 だからと言って、なぜにバニー。
 志貴も男である。確かにアルクェイドがそういう格好をしたら綺麗だろうなと、妄想した事が無いとは言わない。
 しかしいざ目の前にしてみると、感嘆より何より脳が理解するのを拒んでいる感じだった。
 いや、アルクェイドならばまだ受け入れられるのであろうが、よりにもよってこのような戯言とはもっとも縁遠い印象の朱い月が、と言うのは破壊力抜群だった。
「そも、おぬしの記憶にある「うさぎ」の格好がこれだったのだがな。おぬしはこの身がこのような格好をする事は、不相応だと思うか?」
「いやそんな事ない。そんな事ないぞ良く似合ってる! 良く似合ってるけど!」
 志貴は慌ててぶんぶんと、壊れた玩具のように首を振る。しかしうさぎと聞いて真っ先にバニーを思い浮かべるあたり、人としてどうなんだとも思う。
「ならば思い悩むでない。おぬしの望み通りの格好であるというに、そのような顔を浮かべるのはつれないのではないか?」
 すべておぬしが悪いのだ。まるでそう言いたげな口ぶり。
 不満げな顔から一転して、朱い月は艶の篭った微笑みを浮かべている。
 口元に手を当て、目を細める上品な仕草。しかし格好はバニーで、作り物の筈の耳がぴょこぴょこと揺れていて。
 志貴はその様に目を離す事が出来なかった。
 アンバランスの極致なのに、ただ、ひたすらに美しい。
 一歩、二歩。音もなく朱い月が歩みを進める。繊手を伸ばして志貴の頬に触れる。
 瞬き一つする事が出来ない。魔性に見入られてしまった哀れな旅人のように、その怖くて優しい朱い瞳から、志貴は視線を動かす事が出来なかった。
 頬に回された手がするりと伸び、彼の頭の後ろで組み合わされる。甘い鳥篭のように、志貴を腕の中に収めた朱い月は、そのまま彼を引き寄せた。
「うさぎは、寂しいと死んでしまうのだと聞くぞ? あまり気を揉ませるでない」
 そんな悪戯めいた響きが耳を掠める。
 彼が何を言う間もなかった。
 しっとりと濡れた、柔らかい感触。
 鼻腔を掠める、甘い香り。
 自分の唇を包みこむ朱い月の口付けの感触は、ひどく熱い。アルクェイドと同じ体の筈なのに、その感触はやはり異なっていた。
 止め処なく深く。這い上がれないほど深く。志貴はその禁断の味に酔いしれていった。
 もっと溺れてしまいたい。いや、溺れるのなど当然。深く、深くもっと深く更に深く奥の奥まで奥底まで、朱い月に沈み込んでしまいたい。
 思考が一つに塗り潰されたまま、志貴もまた手を伸ばして朱い月の頭を抱え込み――
「こらー! 何してるのそこっ!」
 自らの後ろから響き渡る、そんな怒りの叫びで志貴は我に返った。
 あわてて振り向いた彼の目に映ったのは、何故というか案の定というか、ひどく不機嫌な顔をした最愛のお姫様。
 アルクェイドは腰に手を当て真っ赤な瞳を吊り上げて、目の前の二人を睨みつけている。志貴を、というよりはその後ろの朱い月に対していたく御立腹の御様子。
「あ、アルクェイド…………って、おい」
 あわてて朱い月の腕を振り解いた志貴の目が、何とも言えない気の抜けた物に変わっている。
「……何でお前もそんな格好なんだよ」
「知らないわよっ! 志貴の意識がまた変なトコに連れてかれたのかと思って、慌てて追っかけたのに。入ってみたらこんな格好だったんだもの!」
 戸惑った口調で頬を膨らませるアルクェイドも、志貴に身を寄せる朱い月とまた変わらぬ扇情的な姿であった。当たり前といえば当たり前なのだが、朱い月と同じ、目の毒と言えるほどのプロポーション。違う所といえば、艶やかな髪の長さ。そして朱い月の真紅に対してアルクェイドは白いバニーガール姿であると言う所だろう。その色と彼女の瞳の色が、殊更に兎を連想させる。
「当然であろう? ここは私の一時の夢だ。どのような格好をさせるかなど、思いのままよ」
 名残惜しげに志貴に添わせていた腕を外して、朱い月はアルクェイドに向かって轟然と胸を張って見せた。
「そ、そんな事はどうでもいいから、志貴を返しなさいっ!」
「ふむ、何故かの?」
「な、何故って……そんなの、わたしが志貴を愛してるからよっ!」
 頬を染めて、でもはっきりと口にするアルクェイドの言葉に志貴もまた顔を赤くする。ベッドの中で、またはデートの最中に、幾度となく耳にした言葉ではあっても、こうしてはっきりと彼女の口から聞かされるとそれは格別だった。
 しかし朱い月は余裕を崩さず、
「以前この男と出会った時、この身もまたアルクェイドである、そうはっきりと言っておったぞ? であるならば、私がこの男を愛するのもまた道理よな?」
 くすくすと笑い声を上げたまま、志貴の後ろから手を回し、朱い月は彼の体を引き寄せる。
「あー、こ、こら! だめーっ!」
 アルクェイドの叫びに耳を貸さず、志貴の肩に顎を預けた朱い月は真っ赤な舌を伸ばして、彼の喉元をぺろりと舐め上げた。
 その温く蕩けてしまいそうな感触に、そして背中に感じる柔らかな双丘の至福に思わず頬を緩めた志貴だったが、目の前の泣きそうな顔をしたお姫様の姿に我に返る。
「こ、こらっ! 離れろって!」
 慌てて振りほどこうとするも、力の差がありすぎる。うんともすんとも言わない。
「ふむ、それではこの男に決めてもらうとするか? 果たしてどちらのアルクェイドを選ぶのか」
「「え……?」」
 面白そうに口にする朱い月の言葉に、二人の顔色が変わった。
「朱いうさぎと白いうさぎ。どちらを選ぶのか、互いのやり方を駆使して興を勝ち取るのも面白かろう」
「お、おい……朱い月、お前何を言って……」
「いいわよ!」
 文句を言いかけた志貴を遮るように、決然とアルクェイドが言い放った。
「あなたには負けない。あなただけには負けられないんだからっ!」
「では決まりかの。なれば互いの技を競うにこの場では、いささか趣に欠けるか」
 朱い月が呟く。ただその一言で世界は変容した。
 冷たい石造りの広間であった場所が、三人を乗せてもまだ余る巨大な寝台へと変わる。外界を区切る壁も姿を消し、辺りは見渡す限りの花園へと姿を変えている。今にも落ちてきそうなほど蒼く大きく輝く月の光が、寝台の上の彼らを照らしあげていた。
「まずは私からで良いな? 交わらず、己の性技で思うが侭にこの男を悦ばせよ。精を一度吐き出させたら入れ替わりという事で良かろう」
「ええ! 二人とも終わったら、志貴に決めてもらうのね? どっちが良かったかって」
 いつの間にかアルクェイドの顔にも笑みが浮かんでいる。それは絶対に負けないという自信の表れか。
「お、おい。お前ら本気かよ。馬鹿な事はやめ……」
「ここまできて無粋なことを申すな」
 か細い抵抗の声を上げる志貴の言葉を封じるように、朱い月は彼の顎に手を掛け自らの首を回すと、その唇を再び重ね合わせた。
「月の王の奉仕を受ける人の子など、恐らくお前だけであるぞ」
 二度目の口付けも、脳髄が蕩けて流れ落ちそうに甘い。
 吐息を漏らして、朱い月は志貴の唇を自らの唇で甘噛んだ。挟みこんだ唇の表を舌先で突ついて舐めまわす。まるでそこから溶け合い交じり合ってしまうのではないかと思うほど柔らかく、熱の篭ったノックに、志貴の口から溜息が漏れる。熱に浮かされたまま自分の舌も絡めようとする。
「くっ……あ……」
「そう急くでない。せっかちは嫌われるぞ?」
 口元に笑いを溜めた朱い月は、唇を外すと志貴の肩に手を掛けた。そのままベッドに押し倒す。自然と仰向けの志貴に馬乗りになる格好。
「凄、いな……」
 下から仰ぎ見る眺めに、志貴の口から思わず感嘆の溜息が漏れた。アルクェイドと同じ体なのだから、その乳房が豊か極まりない物である事は目でも指でも知っている筈だった。しかしそれを強調させる服を着て、下から見上げる様は迫力の一言に尽きる。重力になど負ける筈がないとばかりに、つんと張り出した両の乳房に阻まれて顔がよく見えない。肩を揺らす度にぷるぷると震えるその先端は既に固く尖り、カップの先を押し上げている。
 ある所にはあるんだよなぁ、本当に。
 財の不均衡に日々枕を涙で濡らす妹の顔を、頭の片隅に思い浮かべながら、志貴は目の前に揺れる二つの果実に声もなく見入っていた。
「これが欲しいのか? ならば存分に堪能するがよい。今この時この場において、この身は全てお主の物ゆえな」
 自らの手で乳房を抱え上げ、朱い月は微笑んだ。男の性感を知り尽くしたかのような蠱惑な表情を浮かべて、カップからはみ出した自らの白い肌に指を重ねてみせる。
 何の抵抗もなく、双丘に指が沈んでいくかと思えば、すぐに柔らかに押し戻される。
 アルクェイドの乳房の感触を知り尽くしていたつもりの志貴でさえ、その光景に目をそらす事が出来ない。貪りつくように手を伸ばして、彼は朱い月の手の上から、その乳房を揉みしだいた。
 ひやりとした手の、指の感触。そのまま溶け消えてそうなほどの乳房の柔らかさ。アルクェイドの物と同じようでいて違う。一度手にしたら二度と離したくなくなる。否、手が吸い付いて離れない。
「凄いな、お前のおっぱい……」
「盛りおって。そんなに気に入ったのであれば、もっと直に触れてみよ」
 朱い月の囁きに導かれるように、志貴は手を滑らせて、胸を覆うカップをめくり上げる。まろびでた両の白い球は、押し込められていた枷からの解放に喜び、ぷるぷると震えていた。
 朱いバニースーツの上に弾む、滑らかな白い双丘。桜色の先端がこりこりに勃ちあがってるのがはっきりと見てとれる。
 志貴の手が再び朱い月の乳房に伸びていく。壊れ物を扱うようにゆっくりと。
 直に触れるその肌の感触に、脳も心臓も動きを止めてしまったかのようだった。掌に吸いつくようなしっとりしたきめの細かい肌。異常なほど柔らかく、しかし奥には芯があり、押しこめば確かな弾力で押し返してくる。
 服越しでも志貴の思考を止める程に気持ちが良かった触り心地だったが、生の感触は格別だった。唯それのみを為す玩具の様に、志貴は熱心に朱い月の乳房を揉みしだき、時には乳首を摘み上げた。
 彼が自らの胸に執心する様を、朱い月は微笑を浮かべて見下ろしていた。
「うむ、よいぞ。この身もおぬしにそうされる事を喜びと思っているようだ」
 朱い月が呟く。しかしその頭には作り物の赤い耳がひょこひょこと揺れていて、その格好はバニースーツ。馬乗りになって腹に当たるそのお尻の感触も、網タイツに包まれた太股の感触も、薄いパジャマの生地越しに、しっかり伝わってくる。
 状況の異常に。触れる肌の柔らかさに。指に伝わる天上の触感に。
 志貴の意識と肉体の両方が、否応もなく反応してしまう。彼の股間は既に、隠しようもないほど張り詰めていた。
 それを見越したかのように、朱い月が腰を滑らせる。細く切れ上がり、タイツが無ければそのまま露出しているといっても過言では無いお尻の谷間が、志貴の下腹部に重ねられる。
「うぁっ!」
 ただ擦り合わされただけなのに。しかも服越しだと言うのに腰の辺りに走った電流のような刺激に、思わず志貴はうめき声を上げた。
「ふむ、随分と猛々しくさせておるな」
 お尻に伝わってきたその感触に一瞬目を丸くした朱い月だったが、すぐにその口元がゆるく孤を描く。
「あまり急くでないぞ。早々に入れ替わる事になってしまっては興醒めも良い所だ」
 そして朱い月は腰を屈めて、志貴の耳元にそっと唇を寄せてくる。
「あれも見ておるのだぞ? あまり早くては愛想を付かされるやも知れぬな」
「おまえっ! 何を言って……くぅっ!」
 志貴の叫びは朱い月の動きで遮られた。わざとその場所を誇示するかのように、お尻の肉でいきりたった陰茎を挟みこまれたのだ。そのまま右に左に腰を振られて、その度に付きぬける快感の波に声が漏れてしまう。
 ただすり合わせているだけなのに、そのまま下着の中に放つ屈辱をしてしまいそう。志貴は奥歯を噛み締めて、快楽の高まりを必死で堪えた。その様を見やった朱い月は余裕を浮かべたまま、指を伸ばして志貴の胸から臍の辺りにかけて筋を引いた。
 それだけで、まるで元からそういうものであったかのように、志貴の寝巻きの上が左右に切り開かれる。外見の割りに引き締まった胸には、大きな傷跡が痛々しい形を残している。
「おぬし、この傷でよくも生きていたものよな。まぁ……」
「ぅあっ!」
「それゆえにこうしてこの身も楽しんでおるわけだが」
 朱い月の指先が、そっと傷跡を撫で上げる。それだけの行為が、まるで舌で舐め上げられたかのような柔らかさを持っていた。勿論腰も開放してもらえない。緩やかに摺り寄せられる朱い月の股間が、服ごと彼自身を飲み込んでしまいそうであった。直に触れられる快感には及ばぬ筈なのに、緩やかな快楽も積み重なればそれを超えると言わんばかりに志貴を責めさいなんでいく。
「やめ……もう……」
「おや、止めてよいのかの? おぬしのここは随分と物欲しげだがの」
 くすくすと、残酷な笑い声を立てて、朱い月は一際強く腰を擦り付けた。
「ふぁっ! あああっ!」
「ふむ、しかしこのまま出されてしまっては困るの」
 その言葉とともに腰を少しずつ下げていく。柔和な責めが止まり、安堵の溜息をついた志貴だったが、すぐにその顔に朱が走る。
「ちょ……マテ、朱いつ……」
 彼のかすれた声になど構う事無く、腰に手をかけた朱い月は一息に寝巻きのズボンを引き下ろした。かちこちに勃起していたペニスがゴムに引っかかり、バネ仕掛けのように跳ね上がって下腹を打つ。
 アルクェイドには自らの一糸纏わぬ姿を幾度と無く晒しているし、彼女の生まれたままの姿も同じ位見てきている。朱い月もアルクェイドなのだから、普段とさして変わらない筈だ。そう思う志貴だったが、しげしげと眺めてくる朱い月の視線は彼の恥ずかしさをいや増そうと煽って来る。
「志貴……凄い。そんなに大きくしちゃって……」
 横で食い入るように見ているのだろうか。アルクェイドの熱っぽい呟きが志貴の耳を打った。首を回そうとすると、そっと伸ばされた朱い月の手に押さえ込まれた。
「……今は私の番であるぞ。あれに目など向けるでない」
 呟くその声に、志貴は普段と違う響きを感じた。言われるまま、彼は再び朱い月に視線を戻す。
 吊りあがった紅い目で睨みつけてくる、その顔がどこか駄々をこねる少女のようだった。冷厳に彫り上げられた美貌を融かす、どこか無防備な表情。それがまた似合っているのは、アルクェイドと一緒だった。
 その原因を察した志貴の口元に、柔らかい微笑が浮かんだ。
 朱い月が、嫉妬を顔に浮かべている。この月の王様が、そんな俗な感情を持っているだなんて。
 しかし彼の余裕もすぐに終わってしまった。
「何を笑っておる?」
 朱い月の手が、彼の陰茎を包み込んだ。ふわりと、薄絹で絡めとるように柔らかく。空いた手で彼の陰嚢が揉みしだかれる。こちらは少し力が篭っている。手の中で胡桃を回すように、ゆるゆると二つの玉を玩んでいる。
「毎度毎度、浴びせるようにあれに掛けて注いでいると言うのに。本当に節操無しだの、おぬしのここは」
「くぁっ……あああっ……」
 志貴は思わず顔をしかめて、唇を噛み締めた。軽口に言葉を返す事もできない。朱い月の手の内で、竿が身を振るわせる。その反応に満足げに目を細めると、朱い月はゆっくりとそれを握りしめて、動かし始めた。
 ひやりとした感触。
 熱く滾った幹の赤黒さとは対照的に、朱い月の手はどこまでも抜けるように白い。緩すぎず、さりとて痛みを覚える程ではない。絶妙の力加減でそそり上がった陰茎を擦りあげ、欲望を絞り上げていく。
「感じておるな? 放ちたくてたまらぬか? 切なそうな顔をしおって」
 くすくすと笑いながらも、朱い月の指使いは止まらない。裏筋を指の腹で擦り、親指と人差し指で輪を作って張り出した亀頭のえらを小刻みに擦り上げる。堪らず滲み出してきた先走りを掬いとり、尿道口へと擦り付ける。そこから螺旋を描くように亀頭全体へ塗りこんでみせた。
 指先が、てらてらと光る粘液に塗れていく。朱い月はいつの間にかうつ伏せに身をかがめて、息の掛かるほど顔を側に寄せて志貴のモノを熱心に扱き上げていた。髪の間から揺れる赤い耳の間で、朱い月の目もまた確かに欲情を浮かべていた。
 腰から背筋に突き抜ける、痛みにも似た快感。堪えきれぬ快楽を無理に押し止めているせいで、志貴の目の奥でぱちぱちと火花が散っている。
 もう我慢するな、放ってしまえ。彼の理性はそう叫んでいる。
 そもそも恋人はアルクェイドじゃないか。朱い月もアルクェイドであるとは言っても、これじゃ浮気みたいなもんだ。彼女の目の前でこんな痴態を晒し続けてどうするんだ。さっさと放って入れ替わり、アルクェイドと密に楽しめばいい。
 しかし理性とは別の感情が、必死で放出しそうな快楽を押さえつけていた。
 ただ指で扱かれているだけなのに、堪えきれぬほど気持ちいい。アルクェイドとの睦みあいでは、感じた事の無い魔性の指技。
 ならばその先はどうなのだろう。ここで放たずその先を引き出せば、どれだけ気持ちいいのだろうか。
 例えば血のように鮮やかに赤く濡れたその唇で包まれれば。
 例えばその朱いボディスーツからまろびでた二つの膨らみで挟まれしごかれたら。どれほどに気持ちいいのだろうか。
 先を知りたい。この気持ちよさの先を知りたい。
 その欲望が、志貴の限界を先送りにしているようだった。幹は今にも裂けそうなほどに膨らんでいるのに、先走りが朱い月の指をべたべたに濡らしているのに、ぷるぷると震えたまま樹液を吐き出す事無く堪えている。
「ふむ……指だけでは満足できぬか」
 それを見た朱い月は呟くと、扱いていた指を下げていく。
「当たり前、だろ。そんなにやわ、じゃ……うぁ!」
 ふぅ、っと。
 露になった志貴のモノの中ほどに、唇を窄めて息が吹きかけられた。向きの違うむずがゆい快感に、一瞬志貴の堤防が緩みそうになる。
「このニンジンもほとほと良く茹で上がっておる。冷まさねば火傷してしまいそうでな」
 悪戯めいた笑みで、そんな戯言を口にして。
 朱い月はそっと志貴のペニスに口付けた。
 途端、うつ伏せのまま志貴の腰が跳ね上がった。
 幹の中ほどから亀頭に向けて、ゆるゆると這い上がっていく。唾液の跡を残して、よじ登っていく朱い月の濡れた唇。
 指とは違う。指とは比べ物にならなかった。
 そのまま頂点で一瞬止まった唇がゆっくりと開かれ、一息で雁首まで飲み込まれた。
「う……あ……」
 言葉にならない叫びが、志貴の口から漏れ出す。反射的に放ってしまわなかった事が不思議なほどだった。
 熱い。熱く滾ったペニスよりもなお熱い、朱い月の口の中。
 舌が軟体動物めいた動きで、志貴の亀頭を玩んでくる。唾液の海に浸すようにこね回し、尿道口の先を突付いてみせる。時折歯先に当たる、その刺激すらも堪えられない悦楽だった。
「ふぁ……むぅ……」
 吐息を漏らしながら、朱い月の頭が動き出す。
 口内で肉が密着する。ちゅぼちゅぼと卑猥な音を立て、朱い月の頭が踊る。朱い付け耳が激しく揺れて、舞い上がる前髪が志貴の腹をくすぐる。頬をへこませて男のグロテスクな肉棒を咥え込んでいる。喉奥まで飲み込んで、亀頭が唇から飛び出るくらいに引き出され、そこからまた一気に最奥に。
 志貴のモノで口を膨らませたまま、朱い月はじっと彼の顔を見つめてみせた。うつ伏せに寝そべってる志貴から見れば、上目遣いで見つめられている構図。
 出してしまっても良いのだぞ。
 潤んだ瞳でそう語っている。涼やかな美貌が、この瞬間は肉と熱に塗れて溶け崩れている。その顔がひどく淫らで、目からも志貴の欲望を煽り立てる。
「はぁ、あっ!」
 堪えきれぬ叫びが彼の口から漏れた。
 張り詰めたモノの熱に浮かされたように、彼は思わず腰を突き上げてしまう。喉奥を突かれた朱い月が目をしばたたかせ、咥えていた肉捧を離してしまった。
 壺惑的な唇から抜け落ちる、荒々しく勃ち上がった志貴のモノはてらてらと唾液に濡れて光っていて、朱い月の施した口淫の熱心さを示しているようだった。
「くっ……っはっ! けほっ……」
「ご、ごめん! その……って?!」
 そのまま彼の上で咳き込む朱い月に、慌てた志貴が声を掛ける。しかしそのまま起き上がろうとした彼だったが、腰はおろか腕一つ動かす事が出来なくなっていた。
 自由に動くのは首から上だけ。しかし腿の辺りには朱い月の重みを感じるし、寸前で止められた股間のモノは臍まで反り上がって熱く火照っているのが分かる。感覚はあるのに動かす事が出来ないもどかしさに、志貴の背筋を冷たい汗が伝った。
「良い、気に病むな。こうしておかなかった私の不注意ゆえな」
 呼吸を戻した朱い月の唇が緩やかな弧を描く。いつの間にかその瞳は鮮やかな金色に染まっていた。
「お前っ! 魔眼まで使うか?!」
「少しばかり動けなくなっているだけだ。おぬしの元気が良すぎるのが悪い。ほれ、感覚は普段どおり残してあるから、安心して私の奉仕を受け取るがよいぞ?」
 くすくすと肩を揺らすと、朱い月はしなやかな指を伸ばして亀頭に押し付けた。ぐりぐりと、指先が潜り込むほどに強く押し付けられても、志貴に伝わるのはもどかしい快楽。
「ちょ、こんなの奉仕じゃないってのっ!」
「気持ちよいことに変わりはあるまい? ほれほれ、続きを求めてひくつかせておるくせに」
 彼の抗議などどこ吹く風と、朱い月は指先を滑らせて裏筋をなで上げる。その度に走る痺れのような弱い快感に耐えようと、志貴は奥歯を噛み締め目を閉じる。
「もっとも、食事の続きを求めているのは私とて同じ事だがの……」
 呟く朱い月の声には、また滴るような艶が篭っていた。根元まで辿りついた指を絡めて持ち上げると、再び顔を寄せていく。
 ちゅ、と軽い音が響く。わざと音を立てて、志貴の亀頭に、雁首に口付けを繰り返していく。先ほどの積極差に比べると今度の口技は遊戯めいた軽快さ。子鳥が餌をついばむように、彼を翻弄していく。
 もっとも、される側にとっては遊戯だのと笑ってはいられなかった。
 もどかしい。放つほどではないのに、流して楽しむ事の出来ない強さの快楽が、間を置かず志貴を攻め立ててくるのだ。奉仕ではなく責め苛まれているような錯覚すら覚えてしまう。
 否、それは間違いではないのだろう。朱い月自らが明らかにこの行為を楽しんでいるのが伝わってくるのだから。
 薄目を開けた彼の瞳に映るのは、白皙の肌に朱を走らせて、醜悪ともいえるモノに唇を絡めている朱い月の姿。開いている片手で、露になった自らの乳房を揉みしだいている。勃ち上がった乳首をつまみあげながら、志貴の陰茎に口付けを繰り返している姿はあまりに淫蕩だった。
 あの朱い月が、快楽に溺れている。男のペニスに奉仕しながら感じている。
 どくん、と。志貴の鼓動が高鳴った。
「たのむ、もっと……」
 弱々しい呟きが、志貴の唇を付いて出ていた。
 アルクェイドへの罪悪感が、胸をちくりと抉り出す。しかし今目の前に傅くもう一人のアルクェイドの、蕩けた痴態が目に焼きつく。そんなものを見せられて虚勢を張り続けられるほど、志貴の心の中の欲望はおとなしくなかった。
「ん、何か言ったか?」
 志貴の言葉に、とぼけた調子で小首を傾げた朱い月は口付けを繰り返していく。負けを認めろと肉体に囁かれ、志貴は素直に白旗を掲げた。
「いかせてくれ、朱い月」
「ふふ、良い顔だ。その顔が見たかったのだ、志貴。そのままあれを忘れるくらい、吐き出すがいい」
 志貴の言葉に顔を綻ばせると、朱い月は豊満に張り出した両の乳房で、志貴のペニスを挟み込んだ。
「く、ぁ……っ!」
 途端襲った感触に、志貴の口からくぐもった悲鳴が漏れた。
 一度目の口愛すら、この前には前戯だったのだと思い知らされた。自分のそそりあがった陰茎が、この乳房の中に溶けて混じって消えてしまいそう。
 手で触った時の感触など比較にならなかった。最も敏感な自分自身で感じる朱い月の乳房は、ただ包まれているだけで際限なしに彼の生還を引き釣り出してくる。
「そんなに気持ちよいか? 切ない声を出しおって」
 上目遣いで志貴の様子を見つめた朱い月は、満足そうに呟いた。そのまま両の手に力を込め、一層強く志貴のモノに乳房を摺り寄せてくる。
 先まで隙間なく包み込まれた陰茎が揉みしだかれる感覚は、口内とも女陰の中とも明らかに違う、別種の快楽だった。
 抜けるように白い肌と肌の山の間から、赤黒い醜悪な亀頭が飛び出しまた沈んでいく。
 確かに自分の肉体に起きている事なのに、まるでどこか別の映像を見ているように現実感に乏しい。しかし送り込まれる快楽は確かに本物だった。
「まるで……ふぅ、焼けた鉄棒だの。私の乳房が、んむぅ……溶けてしまいそうだ」
「うぁ、ぁぁぁあっ!」
 揶揄する朱い月だったが、攻めの手は緩めない。緩急の差をつけ、時にはきつく激しくこすりあげたかと思えば、急に力を抜いて包み込むだけに留めてしまう。巧みな攻めに志貴は意味の成さない悲鳴を漏らしながら、それでもぎりぎりの所で踏みとどまっていた。
 早く放ってしまいたい。もっと我慢すればもっと気持ちいいのだろうか。
 相反する意思が、下腹でせめぎあってる。なみなみと注がれた水が、コップの淵からこぼれる寸前、ふるふると震えてこらえていた。
 目の奥で、火花がばちばちと散っている。視覚が白く染まって何も見えなかった。想像が尚の事感覚を鋭敏にしてしまう。
 それでも奥歯を噛み締めて、溢れそうになる波を堪えきった瞬間だった。
「んあっ、んむ……ちゅっ、はぁ……」
 ちゅぽちゅぽと、はしたなく立てられる、粘ついた水音と吐息。
 同時に亀頭に走る、熱く濡れそぼった感触。
 朱い月の玲瓏な美貌が紅く染まり、頬を凹ませて男のグロテスクな肉棒の先を咥え込んでいた。
 鮮やかな朱の唇が、膨らみきった先を包み込んで、甘噛みしている。舌が尿道の先を突付いて、浅く潜りこんでくる。
「ちょ、ま、やば、そ、それは反則だって……」
「んむぅ……んあ、こ、この、勝負に反則も何もあるまい? ほれ、耐え切れぬなら白旗を振ってしまえ」
 一度口を離して微笑んだ朱い月は、再び志貴のペニスに舌を伸ばす。胸の愛撫も形を変え、勃ちあがった乳首でこりこりと幹を擦られる。
 唇の端には唾液が糸となり幾筋も流れて、乳房ももうべとべとに濡れている。
 淫らに崩れた月の姫の姿は、志貴の最後の堰を容赦なく叩き切った。
「で、出るっ!」
「んんっ?!」
 叫びと同時に、先を咥え込んだままの朱い月が目を丸くする。
 溜まりに溜まった精液が、喉奥に打ち付けられて口中を一気に満たしていく。普通ならばむせ返りそうな勢いのそれを、しかし朱い月は喉を鳴らして飲み干した。
 そのまま焦らすように朱い月の口中から引き出されていく陰茎は、唾液にてらてらと光っている。
「ふむ、まだ残っておるな……」
 最後の一滴すらもったいないと鈴口を吸い上げられ、志貴のペニスは歓喜の残滓にわななく。
「随分と沢山だしおって。その緩みぶり、随分と満足そうな顔をしておるな」
「満足って言うか、その、魂まで出たかと思った……」
 口元にあふれた精液の残滓を、舌を伸ばして舐め取る。そのまま微笑を浮かべた朱い月の表情にざわめきを覚えながらも、志貴は全身を包む心地よい虚脱感にあいまいな笑みを浮かべた。指も腕も足も、今は自由に動かせるようだったが、その気力すら吸い取られてしまったようだ。
 目の前にいるのが吸血鬼の王なのだと、志貴は今更ながらに思い出す。
 しかし頭に浮かぶのは恐れでも戦慄でもない。ただ気持ちよかったという、単純な雄としての満足感だった。
 魂まで出た、とは自分の口から飛び出た戯言だが、彼にとって半ば以上本心だったかもしれない。
「魂か。なるほど、それも一興だったかも知れぬが。あれとの勝負が終わってないゆえ仕方あるまい」
「ん? ……あ」
 朱い月は付け耳を揺らして、肩をすくめる。
 その視線を目で追った志貴は、この先の未来を思い出して酷く間抜けな呟きを漏らした。
 白いうさぎ様の頬は紅く染まっている。間近で見ていて刺激されたのだろう。しかしその目は容赦なく釣りあがり、ご立腹さ加減も痛いほど志貴に伝わってきた。
「あ、て何よ志貴! わたしの事すっかり忘れてたでしょっ!」
「いやそんな事無いぞ! ないったらないっ!」
「説得力ない! よりにもよってそいつのフェラチオで、そーんなに気持ちよさそーな顔してるのにっ!」
 ずかずかと肩を怒らせて、アルクェイドはベッドに横たわったままの志貴ににじり寄ってくる。一瞬逃げたいと思った志貴だったが、夢の中でどこに逃げればいいというのか。
 なにより、手も足も重すぎて這いずり回ることすら出来そうになかった。
「いや待てアルクェイド。そんな事はないから! 大体これ最初から俺に選択権なかったじゃないかっ!」
「おや、私の拙い口愛では全く満足なぞ出来なかったと。気持ちが悪くてしょうがなかったと、そういう事か? 魂が出そうだったとまで言っておいて、随分とつれない男よな」
「まぜっかえすなそこー!」
「ほら、やっぱり気持ち良かったんじゃないっ!」
 今の志貴に出来る事といえば必死の弁明のみ。しかしそれも通じているとは言いがたい様子だった。
 にじり寄ってくるアルクェイドは、怒りの表情のまま志貴に覆いかぶさってくる。
「志貴のスケベ! 変態! 節操なし!」
「だからお前な、この状態で……」
 反論しかけた志貴は、思わず息を呑んだ。
 間近に見たアルクェイドの姿もやはり、先ほどの朱い月と同じ物。だが明らかに朱い月とは異なっていた。
 余裕と自信を湛えていた朱い月とは違い、眉を吊り上げたその表情にはどこか寂しさが垣間見える。あけすけに怒りを露にするのは、寂しさと不安の裏返しなのではないか。
 白の中に浮かび上がるアルクェイドの肌が、彼女の身近さを儚さを彼に訴えかけてくる。甘えん坊の白いうさぎが、自分だけを構ってほしいと寄ってくる。
 反則だと、志貴は思った。
 そんな姿を見せられて、理性を保てるものなどいるものか。
 志貴の肌に触れる布地が、ひんやりと冷たく、やがてゆっくりとアルクェイドの熱を伝えてくる。今いる場所は夢でも、今ここにアルクェイドがいるのだと、確かに志貴に伝えてくる。
 鼻腔をくすぐる、アルクェイドの香り。熟れ落ちそうに濃厚な朱い月とは違う、どこか清清しさをかもし出す甘い香り。
 気付けば鼻の頭が触れ合うほどに、彼女は志貴の近くに顔を寄せていた。
「ごめん。悪かったよアルクェイド」
「本当に? 本当に反省してる?」
「ああ、反省して……んむっ?!」
 その言葉を、最後まで言わせてもらえない。返答など分かっているとばかりに、アルクェイドはゆっくりと志貴の唇に口付ける。
 味わい慣れたアルクェイドの唇も、こうして状況が変われば新鮮だった。積極的に絡めてくる柔らかい舌を追って、志貴も音を立てて絡めあっていく。
 ぴちゃぴちゃと湿った音が数度響く。抜け落ちていた全身の力が、段々と戻ってくるのが感じられた。
 アルクェイドの肢体がぴったりと寄せられて、素裸より欲情を駆り立てられる。しっとりと滑らかな、肌と布地の二種類の感触がむずがゆくも気持ちよかった。
 萎びていたペニスが、呼び起こされて鎌首をもたげてくる。自分の心の中が透ける様で、志貴は照れ笑いを浮かべた。
「もう、またこんなに大きくしてる。志貴のおちんちん、私のお臍をつんつん突付いてくるよ?」
「仕方ないだろ、アルクェイド。お前のキスも、体も柔らかくてとても気持ちいいんだからさ」
「ありがと、志貴。でもね?」
 唇を外して微笑んだアルクェイドが、一転意地の悪い表情に変わる。
 その瞳は、鮮やかな金色に染まっていた。
「わたし、まだちょっと怒ってるんだから」
 その瞬間、志貴の手足に潰れそうなほどの重圧が圧し掛かった。見えない鎖に縛り上げられたかのような息苦しさに、思わず彼は叫んだ。
「おいっ、お前まで何を?!」
「ふふーんだ。あいつにあんなにでれでれしてた志貴には、いっぱいお仕置きしてあげちゃうんだから」
「いやちょっと待て、そもそも色々勘違いしてるだろおまえぐぁっ!」
 弁明など聞く耳は持たないという事か。寝そべった志貴の膝を開いて、アルクェイドはその間に腰を下ろした。
 そのまま腕を伸ばすと、腕を伸ばしてそそりあがった彼のペニスを軽く指で弾く。
「っ痛?!」
 荒々しい凶器は同時に鍛えようもない弱点でもある。体を電流が突き抜けたような痛みと、それ以外のたとえようもない感覚に、志貴は顔をしかめた。
「お、お前、いきなり何をするんだよっ!」
「ごめんごめん。ちょっと強すぎちゃったね」
 からかうように呟いたアルクェイドは、タイツに包まれた右足をそっと伸ばしてきた。
「ほーら。痛いの痛いの、飛んでけー!」
 足裏でそそりあがったペニスを押さえつけると、アルクェイドはそのままゆっくり足を動かしていく。
「あ、アルクェイド!?」
 自らの性器を足蹴にされる。今までの彼女の睦み合いで、彼はこんな事をされた経験などなかった。
 痛いわけではない。もどかしくも確かに気持ちはいい。だがどうしようもなく恥ずかしい。
 出来る事なら跳ね除けてしまいたかったが、情けなくも首から下は全く自由にならない。
「言ったでしょー、お仕置きだって。悪い志貴のおちんちんは、手やお口でなんか気持ち良くしてあげないんだから」
 それが分かっているからなのだろう、アルクェイドは口元を吊り上げて、動かす足の速度を上げていった。
「お前、だからってこんな事……ううっ!」
「あはぁ、志貴ったらかっちかち。こんな事されても気持ちいいんだ?」
「そんなことあるわけ、ぅあっ!」
「ダメだよ、こんなにびくびくさせて、説得力無いよ志貴?」
 あはは、と朗らかに笑いながら、アルクェイドの足が、志貴のそそりたったモノを撫であげていく。
 悔しかったが、彼女の言葉は真実だった。
 薄いストッキングに包まれた足の感触は、今まで彼が体験したことがない刺激を与えてくる。
 手の指より不自由な筈の動きだというのに、アルクェイドの足の指は的確で無駄がない。親指と人差し指で志貴のペニスをしっかり挟み、擦りあげてくる。指の間が裏筋を掻き上げ、両の指が雁首から亀頭の先まで擦り上げる。そこが志貴の弱点だと分かっているからなのか、責めは執拗で容赦がない。
 肌とは違うストッキングの感触は、普通なら擦れて痛くなる筈だ。しかしそこに篭ったアルクェイドの熱に、確かに志貴は感じていた。脈打つ自分のペニスの猛りが、悔しいほどに伝わってくる。
 アルクェイドに足で扱かれる。こんな屈辱的な行為が、どうしようもなく気持ちよかった。
「ほら、こんなのはどう?」
 志貴の顔に浮かんだ快楽の色に、アルクェイドは焚きつけられたか。もう片方の足で陰嚢まで弄び始めた。指の先で持ち上げては落とすようにして刺激を与えてくる。
 竿と袋に伝わる、別々の快感。
 手で、あるいは口で愛撫してもらったことはあっても足でされたのは初めてだ。止めて欲しいのか、それとも続けて欲しいのか。それすらも志貴の頭の中ではぐちゃぐちゃに交じり合って曖昧になってしまう。。
 その曇りを拭い去ったのは、自らを責めさいなむ姫の呼びかけだった。
「見て……志貴」
 とろんと、融けて落ちてしまいそうな声で囁くアルクェイドに向かって、志貴は首を伸ばした。
 その視線が釘付けにされる。
 彼女は、志貴の股の間で自らも大きく太ももを開いていた。
 向かい合い胡坐を掻くようにして座り込み、両の足は執拗に志貴のペニスを弄び続ける。空いた腕の一つで反り返った体を支えて、もう一つの手は、彼女自身の股間に伸びていた。
 白いレオタードがぺったりと体に張り付いている。股間の周りを覆う布は、すでに色が変わる程に濡れそぼり、彼女の秘すべき場所のカタチを、確かに浮かび上がらせていた。
「ほら、見えるでしょ? わたし、こんなになっちゃってるんだよ」
 くすりと笑い声を上げながら、アルクェイドの指は布越しにゆっくりと、自らの秘唇を撫で上げていた。
 もっとくっきりと見えるように。
 もっともっと、淫らな雫が湧き出でてくるように。
 縁を幾度もなぞり、殊更にその部分を意識させていく。志貴の目には薄く口を開いた陰唇の形だけでなく、その上の芽すらもはっきりと写っていた。
 心臓が、そして自らのペニスが、どくりどくりと異常な音を立てて脈打っているように感じる。
「あ、また大きくなったね。足に伝わってくるよ」
「し……仕方ないだろアルクェイド。そんなの見せられたら我慢なんか出来ないって……」
「うん、うれしい。でもそんな目でじっくり見てるなんて、志貴は本当にえっちだよねぇ」
 笑いながらゆっくりとアルクェイドは、志貴の股間から足を外した。凶暴に反り返ったペニスは今にも精液を噴出しそうなほどに膨れ上がっている。
 あと一歩の所でまた止められてしまう。志貴の口から苦しげな息が漏れた。
「ほら、やっぱり気持ちよかったんでしょ? そんな切なそうな顔しちゃってるものね」
「そ、れは……だからその」
「ふふ、大丈夫だよ……」
 アルクェイドは志貴の足をつかんで、平らに伸ばした。そのまま揃えた両の太ももの上に、ゆっくりと跨る。
 何をする気なのか。志貴の顔に浮かんだ疑問に、彼女はすぐに答えて見せた。
 指を一本立てて、ゆっくりと自らの体の上を滑らせていく。おへその下を通って太ももの付け根を通り過ぎ、反対側の太ももからまたおへその下へと。指が描いた歪な円の中、彼女の体を覆う布が、氷が溶けるように消えていく。
 月明かりの下、志貴の目の前にアルクェイドの全てがむき出しにされていた。
 金色の陰毛は、篭った熱でべっとりと肌に張り付いている。その下の淫らな花弁は既に満開に咲き誇り、滴る蜜が両の太腿をしとどに濡らしていた。包まれた薄皮から顔を出した陰核までも、ぷっくりと勃ち上がっている。
 跨られた志貴の両足にまで伝わってくる彼女の愛液の量は、足による淫戯の間、アルクェイドがどれだけ感じていたのかを雄弁に語っているようだった。
「とっても怒ってたけど、我慢できたから。いい子にはご褒美上げるね、志貴」
 薄絹の手袋に包まれたアルクェイドの手が、志貴のペニスを摘みあげる。彼女はそれをゆっくりと、ゆっくりと自らの秘所へと近づけていくと、そのまま亀頭を陰唇で擦り上げた。
「くぁ、あぁぁ……」
 志貴の口から獣のような悲鳴が漏れた。敏感になりすぎている今の彼のペニスには、ただそれだけの刺激すら引き金になってしまいそうだった。
 その様を見て面白がるアルクェイドは、二度三度とこすり付けていく
「待て待て。それは反則ではないか? 交わるな、というルールの筈だが」
「んふぅ……い、良いじゃない、わたしのナカには入れてないもの。ルールは破っていない筈よ? それにね……」
 後ろから慌てたように掛けられる声に口を尖らせたアルクェイドは、逆手に持ち替えた志貴のペニスを、濡れそぼった花弁に押し付けた。
「こうしてあげれば、志貴はもっともっと気持ちよくなってくれるもの」
「ちょ、待て! それ、は……!」
 志貴の静止を遮って、アルクェイドは跨った腰を激しく動かし始める。
 裏筋に当たる、熱い肉と蜜の感触。そこに加わる、痛いような鋭い刺激。それがペニスに絡みつく濡れた陰毛なのだと志貴が気付いた瞬間、再び柔らかい肉の貝に挟み込まれる。表側も放っておいてはもらえない。薄い手袋越しに付け根を掻かれたかと思えば、雁首を押さえつけられる。
「は、ぁぁっ! ど、う? しきぃ。わたしのえっちなところでぇ! お、ちんちんつまみ食いしちゃってるんだよ?」
 腰を振るアルクェイドの息も荒い。自らの最も敏感な所を擦り付けているのだから当然か。ぷくりと勃ちあがった陰核も幾度と無く突かれ、その度に感極まった吐息が彼女の口から漏れている。
 しかしされている志貴には、答える余裕もない。
 もう限界など振り切れていた。
 全身を赤く火照らせて、アルクェイドが荒い息をついている。グロテスクにそそり上がった自分の肉棒が、彼女の淫らな唇に激しく口付けされている。くちゅくちゅと粘ついた水音が、志貴の耳に絡みつく。漂うオンナの匂いが濃さを増し、鼻腔からも志貴の体を犯していく。
「ぁ、出、る……っ!」
「い、いよ、来て! 志貴、きてぇ!」
 ちかちかと志貴の目の裏が瞬いて、ペニスの中を灼熱が走り抜けた。
 吐き出された白濁は弧を描いて、彼の上で仰け反ったアルクェイドの体に降り注ぐ。白いバニースーツの上にも、薄い汗に濡れた胸元にも盛大に精液が飛び散っている。
 ねっとりと蕩けるような空気の中に混じった、濃い牡の匂いにアルクェイドは目を細めると、乳房を汚す精液を指で救い上げて口元に運んだ。
「ん、いつもより濃いね、志貴。それにわたしのと混じって、とってもいやらしい味してるよ」
 一本一本、指をしゃぶってその味を堪能しているアルクェイドに、志貴は深い、深いため息をついた。
 強すぎる快感を絞りつくした後に残るのは、奈落のような虚脱感。先ほどと同じくもう魅了の魔眼の縛りは解けているのだろうが、志貴は指一本動かす気になれなかった。
「ねえねえ、気持ちよかった?」
「良かった、けど……って! もう無理残ってないから! そんな風に弄り倒されてもダメだってっ!」
「へー? ほんはほほはいよぅ?」
「だからしゃぶりながら喋るなって!」
「んむっ、ん、だって、綺麗にしてあげないとね?」
 アルクェイドは欲望を吐き出しきって萎んだペニスを口に含んで、名残惜しそうに舌を這わせている。その貪欲な光景に、志貴は顔をしかめた。
「それにいつもだったらこれから本番だ、とか言うのに」
「あのなぁ・・・・・・」
「ふむ、それより先に大事な決まり事もあるしの」
 いつの間にそばに寄っていたのか。志貴の枕元に腰を下ろした朱い月が、そっと手を伸ばして志貴の頬を撫で上げた。
「ええ、確かにそうね」
 弄んでいた舌を止めて、体を起こしたアルクェイドも志貴に向かって顔を寄せてくる。
「それで、お主はどちらを選ぶのか」
「わたしと、わたしの中のこいつと、どっちが志貴の好みなのかしら?」
 志貴の目に逆しまに映る朱い月の顔はどこか余裕を湛え、上目遣いで見つめてくるアルクェイドも口元を緩ませている。互いに自らが負けるわけがないという自信だろうか。
 二人に向けて曖昧な笑みを浮かべたまま、志貴は内心滝のように冷や汗を流していた。
 どちらを選んでも角が立つ、だけならともかく割と真剣に命の危機っぽい。
 以前朱い月に夢の中で殺された時はちゃんと現実に帰ってこられたが、果たしてこの状況で選ばれなかった方が、その慈悲を見せてくれるのかどうか。
「どうしたの、志貴? ちゃんと答えてくれなきゃ分からないよ?」
「急かすでない。分かりきった答えとはいえ、結末を先送る程度の慈悲は私も持っておるぞ」
「ふーん。強気な発言だけど、後で泣くのは自分よ?」
「同じ言葉を返してやろう、アルクェイド。さて、敗北を受け入れる勇気が無いのならば、そのままここから立ち去るのが賢明ではないか?」
 ふふふふふ、と低い笑い声が頭の上を飛び交ってるのを聞いて、志貴は自分が十三段目の階段を駆け上らされたのを悟った。
 どうしろってんだよ。
 心中で吐き出した言葉に引きずられるように、彼の胸にふつふつと怒りが湧き上がってくる。
 そもそもなんでこんな目にあっているのか。勝手に連れてこられて勝手に抜かれて、挙句どちらか選べときたものだ。セックスは無論好きだが、心が通ってなければする意味なんかないだろうに。
 ああいいさ。向こうが好き勝手にやるつもりなら、こっちだって好き放題やるだけだ。どうせ酷い目にあうのなら、その方がいいに決まってる。
 志貴がきつく奥歯を噛み締めると、耳障りな甲高い音が鳴り響いた。いがみ合う二人のうさぎが何事かと向けてきた視線に、彼はきっぱりと言い放った。
「これじゃ判断できないよ。大体、奉仕だなんだって言ったって、二人とも魔眼まで使って身動きまで封じてさ。こっちは抱きしめることすら出来やしないじゃないか。それでどちらか選べって言われたって選べるわけなんかないだろ!」
「ふむ……受身のままはお気に召さなかったか」
「そりゃ、たまにはいいけど。こんなのは御免被りたい」
「じゃあ、志貴はどうしたいの?」
「そんなの決まってる。今度は俺の好きにさせてくれよ。こんな大事な選択だ、買い手の希望だって聞いてくれてもいいだろう?」
 その言葉に顔を見合わせたアルクェイドと朱い月は、ややあってひどく意味深な表情を浮かべる。
「本当に、底なしじゃなお主は」
「いいよ、志貴。今度は志貴が好きにしてくれて」
 志貴におしりを向け、互いに寄り添うようにして二人はベッドに横になった。
 すでに下半身がむき出しだったアルクェイドに習い、朱い月は手を伸ばして、バニースーツのクロッチのホックを外す。赤い殻を脱ぎ捨てて、さらけ出された白い果実は熟しきっており、汁が後から後から滴り落ちていた。それでも足りぬと、後ろ手に回した指で彼女は花弁を目一杯広げてみせる。
「ほれ、この身もこうして、貫かれるのを待ちかねておる。勝者の権利と思っていたが、こうして先に味見をするのも悪くはあるまい」
「今度は全部食べさせてね、志貴。ほら、わたしのココ、こんなにお腹空かせちゃってるから」
 潤んだ瞳で肩越しに、志貴を見つめるアルクェイドの秘唇も綻びきっていた。太ももから伝った雫がシーツに零れ落ち、小さくない染みを作り始めている。
 目の眩むような二人の美姫の痴態を目の前にして、志貴は心の中で快哉をあげる。
 どうやら縄を首に掛けられ死刑台から突き落とされる前に、弁明のチャンスは与えられたようだった。
「ああ、しっかり比べさせてもらうよ。しっかりと」
 呟いた志貴の口元には、小さな笑みが浮かんでいる。身を起こした彼はゆっくりと、ゆっくりと二人の傍へと近寄っていった。







 空に浮かぶ月は変わらず、花咲き乱れる庭園を淡く輝かせている。
 そよぐ風に花弁が舞い上がり、煌き命を散らす中、ひときわ鮮やかな二つの花も、今を盛りと咲き綻ぶ。
 純白の寝台の上で、素の体同士がぶつかり合う生々しい音が、間断なく響き続けていた。
「ひぁ、っ、ああああっ! そんな……激し、やめ、よ……」
「そんな事言われてもっ! こ、んなにねっとり絡み付かれたら無理だってっ!」
 朱い月の最奥に向かい、志貴は勢いよく腰を打ち付けていく。ただ闇雲に腰を振るのではなく、時に緩め、時には小刻みに動きを変え、彼女の呼吸を乱していく。
「凄いよ。あなたのココ、真っ赤になっちゃって志貴のおちんちん咥えこんでる。抜かれるたびに糸引いて、いやだいやだって言ってるみたい」
「やめよアルクェイド、そのようなはしたないことを口に、ひぁうっ!」
「何だ、まだまだ余裕があるじゃないか」
 恥ずかしさに顔を手で覆った朱い月の言葉に、口元を緩めた志貴は一際大きく腰を振る。今まで届かなかった奥の奥まで穿たれて、朱い月の声から甲高い悲鳴が漏れた。
 まるでまな板の上に乗せられた魚のように、朱い月はベッドの上に仰向けに寝転がされている。冷然とした迫力も今は蕩け、無力に志貴の欲望のなすがまま。
 否、攻め手は彼一人だけではなかった。
 朱い月の上には互い違いにアルクェイドが折り重なり、繋がる肉同士の営みを見つめている。その顔は真っ赤に染まり、瞳は淫らに潤んでいる。朱い月の秘所を志貴のペニスが穿つ度、桃色の唇から荒い息が漏れる。
 自らの内に篭った熱に突き上げられたか、彼女はソコに顔を寄せていった。
「もう、志貴ったらそんなにしてる……んちゅ、ん……」
「ふぁ、ああぁっ?! な、にを、アルクェイド?!」
「くぁっ! アルクェイド、それ、気持ち良すぎっ!」
 朱い月の腰に手を回して、しっかりとしがみ付くとアルクェイドは朱い月の秘芯をぺろりと舐めあげた。舌はそのまま蜜にまみれた志貴のペニスにも滑り、二人は予期せぬ刺激に呻く。
「こんなに、ん、大きくしちゃってさ……ちゅ」
 嫉妬がアルクェイドの動きを加速して、舌の動きが執拗になっていく。口元を自分の唾液と朱い月の雫に汚しながら顔をうずめて、ペニスに押し広げられた陰唇の中に舌を潜りこませていく。
「あれ? 志貴ったら腰の動き止っちゃってるよ?」
「くっ! ば、馬鹿、こんな事されながらなんか動かせないって!」
「なら今度はわたしが二人をいぢめて……ああんっ!」
 悪戯めいた微笑を浮かべたアルクェイドが驚きの声を上げる。
「ん、や、やられたままと言うのは、性に合わぬ……んぅ」
 志貴から見ると、まるでアルクェイドのおしりの間からウサギの耳が生えているよう。朱い月がアルクェイドの股間に顔を埋めて、熱心に舌を這わせていた。
「この男の、ん、精液があふれてきておるぞ……ずいぶんと注いでもらったのじゃな……」
「ひぃ! いやぁ、だめ、そんなに深くほじっちゃぁ……」
「んくぅ……んちゅ、もったいないな。おぬしの蜜で薄まってしまった……」
 粘つく水音がアルクェイドの腰から立ち上る。猫がミルクをなめるような音は、そのうちに啜りたてるようなはしたない物に変わっていた。アルクェイドの秘唇に口を重ねた朱い月が、中の蜜もそこに混じる精液も、残さず啜りとっている。
 意表を突かれた攻撃に身を震わせた彼女だったが、朱い月の舌使いに合わせる様に、自らも舌の動きを再開した。下腹に張り付いていた陰毛を掻き分け、ぷくりと勃った陰核を突付く。
「ふぁ、ああっ! おぬし、そのような……ああっ」
「ふふ、隙を見せるほうが悪いの……ひゃん……っ!」
 余裕を持ち直したアルクェイドだったが、同じ所を甘噛みされて、その顔が快楽に崩れる。
「ああん、そこ、噛んじゃだめぇ……」
「お主が、あふぅ、言うたのであろう……隙を見せた方が……ひゃんっ!」
 互いの攻めを導火線に、互いの体を蕩かしあっていく朱い月とアルクェイド。果ての見えないその淫靡な光景に、志貴は軽く肩をすくめた。
 同じ顔の美女が二人、脇目も振らず絡まっている。
 着崩れたバニースーツと、髪の長さ。それだけの違いがあっても、こうも熱心だとどちらか分からなくなってしまいそうだった。
 しかしこのまま蚊帳の外ではやはり面白くない。アルクェイドが舌を奮う度、朱い月の中に入ったままのペニスが強く締め付けられるが、目の前の光景を前にそれだけでは物足りなすぎる。
 もっとたくさん。もっと果てなく。自分も、彼女たちも皆で気持ち良くならなければ意味がない。
「ほら……動くよ、朱い月」
「はぁぅ?! こ、こら、おぬし、今はやめっ……ああっ!?」
 アルクェイドの邪魔にならないように、ゆっくりと志貴は腰を動かしていく。
 再び始まった目の眩みそうな刺激に、朱い月がわななき叫ぶが、もちろん止める筈もない。
 張り出した雁首で彼女の中を抉るように、ゆっくりと引き出していく。淫蜜をたっぷり纏わりつけたペニスが抜ける寸前まで引き抜かれると、角度を変え切っ先で膣の壁を擦り上げていく。
「あ、だめぇ、あふ、そんなところは……ああっ!」
 もはやアルクェイドを攻める余裕もなくして、朱い月はか細い鳴き声を上げている。感極まったか、目の端には涙まで浮かんでいた。
「そんな声でダメって言われてもさ、もっとやって欲しいとしか思えないよ」
 意地の悪い笑みを浮かべたまま、志貴は少しずつ腰の動きを早めていく。もちろん表情ほどに余裕があるわけではない。限界まで膨れ上がったペニスは、むき出しの神経のように敏感になってしまっているのだから。隙間なく包み込む朱い月の秘肉と、アルクェイドの舌。二つの感触が駆け抜ける度に、吐き出してしまいそうなのを必死で耐えて、甘く優しい責め苦を与え続けている。
 そんな男の状態は、もう一人の女にはすでにお見通しだったらしい。ぬちゃぬちゃとこね回される花弁から顔を上げて、アルクェイドは志貴に向かって微笑んだ。
「ねえ、わたしにもちょうだい、志貴。さっきからずっとこっちばっかり、ずるいんだから」
「アルクェイドには、最初に入れてあげただろ? 朱い月はまだイってないんだから、不公平じゃないか?」
「やだぁ! こんなの見せられてたら、我慢なんか出来ないもん」
 甘い声でそう呟いて、アルクェイドは体の向きを変える。
 朱い月と向かいあうように折り重なる。背中に手を回して、隙間がなくなるほど密着する。バニースーツからまろびでていた乳房が、互いの間で押しつぶされる。そしててらてらと光る彼女の秘芯も、朱い月のそれに摺りあわされていた。
「ふぁん……ん……ぁ、柔らかい……」
「こ、これ、アルクェイド、そんな横からなどとは……」
「いい、のよ……だってこれなら志貴も、わたしも、あなたも気持ち良いでしょ……?」
 ほころんだ花弁同士が重なり合う。あるいははしたなくも唾液を垂れ流した口付けか。
 アルクェイドが腰をゆするたび、互いの秘唇がこね回されていく。混ぜ合わされた雫が糸を引いて、シーツにまた一つ、大きな染みを作っていく。
「わかった、それなら二人一緒に、な……」
「ひぁ!」
「ああっ!」
 朱い月の中から引き抜いたペニスを、志貴は二人の間に押し込んだ。
 くちゅくちゅと混ざり合った蜜の中、口付けを交わす女陰同士の間を、赤黒いグロテスクな肉の塊が割り開いていく。
「ふぁ、ああっ!」
「だめ、ソコはつついちゃぁっ!」
 固くしこった陰核が、突きこまれる志貴の陰茎に弾かれる。一際強く体を突き抜けた快感の波に、二人の叫びが重なった。
 腰を動かす志貴にとっても、味わったことのなかった感触だった。膣の中とは違う、上下から押さえつけられるような締め付けに、淫蜜が倍の量で絡んで滑らせていくのがたまらない。アルクェイドだけが相手では決して味わえない快感にちくりと心が痛んだが、それならばもっと気持ちよくしてあげればいい。
 志貴は手を伸ばして、アルクェイドのお尻を掴んだ。程よく引き締まり、そして丸みを帯びた肉が手に吸い付く。その感触に酔いしれながら、やわらかい尻たぶを揉みしだいていく。乳房を愛撫するように、ねっとりと。そのまま手を内へ内へと進めていく。
「あ、ん。それ、ちょっと良いかも……あああっ!」
 とろんと顔を緩めたアルクェイドの声が跳ね上がった。
 両の足を開いて折り重なっているから、アルクェイドの全ては志貴の目にさらされている。ペニスに絡み合う陰唇も、そして細かく詩話のより合わさった菊座も。そこに志貴の指が伸びて、周りをなぞり始める。
「くはぅ、あん、だめ、志貴そこは違うよぉ……」
「何いってるんだ、ちょっと良いって言ったくせに」
「それは、そこじゃなくてぇ……」
「でもこんなにひくつかせて、本当はもっと弄って欲しいんだろ?」
 志貴の指はだんだんと中心に近づいていく。閉ざされた門をこじ開けようと、先で押さえつけてぐりぐりとまわしている。秘肉から溢れる蜜をすくい上げて、すぼまりへ塗りこんでいく。
「ほら……だんだん入っていくよアルクェイド」
「あぅ、いや、なんか変なの……きつくて、でも熱くて……」
 いやいやと首を振るアルクェイドの目の端にも涙が浮かんでいる。しかしそれが苦痛だけでないのは明らかだった。志貴が爪先まで埋まった指を回す度、細い吐息が彼女の口から漏れて、ペニスを包み込む秘唇がひくつき涎を垂れ流していく。
 陰肛を指で犯し、女陰を陰茎で弄ぶ。アルクェイドの奥底深くを同時に弄んでいる内に、志貴はその両方に挿入しているような錯覚を覚える。
 腰の動きはそのままに、指を少しずつ奥へ奥へと。入り口に指が噛み切られそうなほど強く締め付けられ、その先は火傷しそうなほど熱い。指先を曲げて中を擦ると、走りぬけた電流のような刺激にアルクェイドの背中がのけぞった
「ふぁ、ああん……変だよ志貴ぃ。わたし、いっちゃう……」
「だめだ、アルクェイド」
「ふぇ、ええ?」
「もっと朱い月を可愛がってやらないと……いく時は皆一緒に、な」
 アルクェイドの背にのしかかり、志貴は耳元に囁いた。二人の下になった朱い月は、絶え間なく下半身から突きあがる快感の波に、荒い息をついている。
 潤んだ紅い瞳で二人を見つめる朱い月。その表情はまだ足りないと彼らに訴えかけていた。
「さあ、アルクェイド……」
「うん……」
 アルクェイドは体を起こすと、首を曲げて朱い月の胸に顔をうずめた。
「ひゃ、ああ……アルクェイド、そこは……」
「ん……こんなに固くしちゃって……んちゅ……」
 乳首を甘噛まれて、朱い月の背中がのけぞる。高められて出口をなくした熱を逃がそうと、腰を浮かせて滴る蜜を志貴自身に擦り付けていく。そのリズムに合わせて志貴が腰を振り指を動かせば、アルクェイドもまた体を震わせ股間をより擦り付けていく。口で弄んでいる乳房に、勢いあまって歯を立ててしまう。その痛みすら朱い月には媚薬となり。体の動きは止まらない。
「んあ、んちゅ……ん……甘くて、おいしい……」
「おぬしも……こんなに涎を垂れ流し折って。本当にはしたない……んむぅ……」
 いつしか朱い月とアルクェイドは互いの頭に手を回して舌を絡めあっている。ひくつく二人の女陰が、強く強く彼の陰茎を締め上げた。
 とうに限界など越え、それでも耐え抜いていた志貴の我慢も、それであっけなく切れた。
「んぅっ!」
 くぐもった彼の叫びと共に、一際大きく膨らんだ亀頭が爆ぜる。
「きゃぁうっ! しきぃ、いっちゃう……!」
「ああああっ! くるぅ!」
 その瞬間、二人の女の堰も壊れ、歓喜の声に喉を震わせた。
 荒い息をついたまま、折り重なる三人。
 しばらくそうしている内、志貴が性も根も尽き果てたとばかりに、その横に大の字に寝転がった。アレだけ凶暴さを発揮していたペニスも今はくたりとしおれている。
 その残滓、朱い月の上にまだらに飛び散った精液は大きな玉となり、彼女の荒い息に合わせてふるふると震えていた。アルクェイドの腹も、やはり同じだけ汚されて、しかしその量にアルクェイドは満足そうに笑う。
「うわぁ、志貴ったら、出しても出してもこんなに出てくるんだものね」
「そんな事言ったって、これは夢なんだからしょうがないだろ」
「ま、負け惜しむな。おぬしの限界を超えるようにはしておらぬ。つまりはこれは現実でも変わらぬ量だという事……」
 快感の奔流を泳ぎきったか、呼吸を落ち着かせた朱い月は志貴に向かってあきれた声を出す。
「大体、アレだけ出しても見た感じ濃さも変わらぬとは。おぬし、本当は人間ではなかろう?」
「うん、味も濃さも変わってないしね。やっぱり志貴はえっちなんだ……んんっ?!」
 お腹に飛びちった精液を指で掬って舐めたアルクェイド。その顔が強引に引き寄せられると、待ち構えていた朱い月の唇が重ねらた。
「んぁ、ん?! い、いきなり何?!」
「お主一人で味わうのは卑怯ではないか? ほう、やはり変わらぬ……ん……ちゅ……」
「じ、自分のお腹にだってでてるのにぃ、あんっ」
「ん……い、今更野暮なことを申すな……割り込んできたお返しと思え……」
 困惑を浮かべていたアルクェイドも、朱い月の舌使いに身を任せるうち奧火に火がついたらしい。やがて積極的に舌を絡めだしていく。
「お前ら……好き放題言いやがって……」
 あけすけな物言いに顔を覆った志貴だったが、目の前で再び始まる痴態に、思わず目が引き寄せられていく。
 放ったばかりの陰茎が、どくりとざわめき鎌首をもたげ始める。それを横目で見やった二人の女の目に、再び熱が点っていた。
「あはぁ、やっぱり。志貴ったら出しても出しても足りないんだ」
「本当に、あきれ返るほどの性欲よの」
「うるさいな……今度はどっちが欲しいんだ? もうぶっ倒れるまでしてやるからなっ!」
 好奇の視線を振り切るように叫んだ志貴は、答えも聞かずに力任せに手近な朱い月の腰を掴む。
 しっとりと濡れた柔肌は、その感触だけで彼の脳髄を犯していくよう。
 どうしてこんな事になっているのか。
 最初は覚えていたその理由も、もはや彼にとってどうでもいい事に思えた。
 今はただ、目の前の獲物を残さずむさぼりつくすだけ。
「くぁ……い、いきなりとはせっかちなやつめ……」
「うるさいっ! 俺をぶっ壊すようなことするお前たちが悪いっ!」
 凶暴に膨れ上がった欲望に突き動かされるまま、そそりあがった志貴のペニスが、朱い月の秘所を貫き通した――







「……きろー……きーっ!」
 胡乱に聞こえてくる声に、志貴の意識が徐々に引き戻されてくる。重い瞼をゆっくりと開けていくと、視界一杯に広がっているのは金と白。呪わしい線のないそれが愛しい女の顔だと気付いて、志貴はかすれた声で呟いた。
「……おはよう、アルクェイド」
「あー、やっと起きたな、このねぼすけー!」
 酷く不満げな声を上げているお姫様に微笑みで返すと、志貴はサイドボードの上に置いた眼鏡を手探りで見つけ出して、狂った視界を押さえ込んだ。
 はっきりした視界に映るのは、見慣れたアルクェイドの部屋。シンプルな二人がけのソファにテレビ。ガラス張りのテーブルの脇には最近増えてきた様々なぬいぐるみ。その先の窓には二人で選んだカーテンが吊るされているが、今は開け放たれ、深々とした夜空がくっきりと見てとれた。
 ――ちょっと待て。
 状況が飲み込めず志貴は頭を抱え込む。
 寝ぼすけと言われて叩き起こされて、何故まだ外は夜なのか。なにやらひどく濃密な夢を見ていた記憶は残っているが、だからと言って夜の夜中に叩き起こされるのは色々と間違っているのではないか。
「おい、アルクェイド! 一体……」
 言いかけた志貴の口は、あんぐりと開かれたまま固まってしまう。
 視界の先、不満げに彼を見つめるアルクェイドの姿は――
 白のバニースーツであった。
 その瞬間、つい先ほどまで見ていた夢の内容が一寸残らず脳裏によみがえり、志貴の顔が一瞬で朱に染まる。
 ひょっとしてまだ夢は終わっていないのか。自分の後ろには朱い月が意地の悪い笑みを浮かべていたりするのか。
 慌てて振り返って確認するも、幸い志貴の目に映るのは見慣れた壁だけ。とりあえずは現実で目の前にアルクェイドがいるだけだと思われた。
 思われたが、納得できるかどうかは別問題だ。
「……あー。その、アルクェイド。一体何がどうなってお前がどうしてそんな格好しているのか。説明してもらえると助かるんだが」
 恐る恐るたずねる志貴だったが、返ってきたのは頬を膨らませたアルクェイドの痛い視線だけ。
 何故かはわからねど、アルクェイドはひどく腹を立てているように見えた。
「あの、アルクェイド、さん?」
 さん付けは志貴の降伏の証。犬のようにお腹を見せて、志貴はアルクェイドのなすがまま。
 それに対して返ってきた答えは簡潔極まった。
「二回もすくなかったっ!」
「……は?」
「志貴、あいつには全部まとめて六回も出したのに! 私には四回しかしてくれなかったっ!」
 じーっと志貴を睨みつけて、アルクェイドは叫んだ。その表情は真剣そのもので、間違いなく本気でアルクェイドは腹を立てているように見える。
 ちょっと待て。
 志貴は心の中でうめき声を上げた。
 何故そんな、夢の中の事で今怒られなければならんのか。
「なぁアルクェイド、あれは夢なんだから……」
「何よ! しっかり意識あったんだから夢でも現実みたいなもんじゃないっ! 大体、あいつにはアソコに二回、胸に一回、おしりになんて三回もだしたくせに、わたしには前に三回とお口に一回だけだよ? 絶対不公平!」
「待て待て待て待てっ! 何でそんなにしっかり数えてるんだお前はっ!」
 包み隠さず告げられる夢での所業。志貴は恥ずかしさに頭を抱え込んだ。
 確かに朱い月の体はどこか新鮮で、少しばかり執着していたような記憶はあるが、しかしそんなにはっきり告げられても困る。
 大体、なんでまだアルクェイドはバニー姿のままなのか。
 羞恥と混乱に呻く志貴の姿にますます怒りを掻き立てられたか、アルクェイドは突き刺さりそうな視線で彼を睨み付けている。
「ふんだ! やっぱり志貴はあいつの方が良いんだ」
「いやそんなことは最初っから言ってないってのっ!」
「信用できないっ!」
「いや、だって、そうじゃなけりゃこうやってお前の家になんか泊まりこないだろ?」
「……だったら……だったら証拠を見せてよ!」
 眦を吊り上げたまま、アルクェイドはベッドから起き上がるとすたすたとベランダの方へ歩いていく。それに釣られて頭につけたうさぎの耳がひょこひょこと揺れて、いやおうなしに志貴に夢の狂乱を思い起こさせる。
 何も言えないまま志貴が呆けていると、アルクェイドは振り返ってベランダの柵にもたれ掛かった。
「ここで……して、志貴」
「……え?」
「夢の中の続き。あいつが見てるここで、あいつに見せ付けてほしいの。そうしたら許してあげる」
 アルクェイドの顔から怒りの色は消えていた。呟く声もどこか寂しげなものに変わっている。
 その体が、きらきらと輝いているように見え、志貴は目を細めた。
 艶やかな金の髪が。抜けるような白い肌が、月の光を一身に浴びて光り輝いている。彼女の手がゆっくりと肌を伝って降りていく。股間にたどり着いた手が引き上げられていくと、すでにホックが外れていたのか、ボディスーツがめくれ上がっていく。
 闇夜の中、志貴の視線に晒されていくアルクェイドのソコから溢れる雫もまた、淡い光に煌いたように見えた。
「ほら……物足りなくて、わたしのココ、こんなになっちゃってるままなんだよ?」
「アルクェイド……お前」
「えっちでしょ? 私も、志貴と同じくらいえっちになっちゃった」
 そう言って笑うその笑顔だけは、初めて志貴が見た時のまま。
「そんな格好してるからだろ。うさぎは発情したら手が付けられないんだからさ」
 ベッドから立ち上がった志貴は、そのままゆっくりと彼女に向かっていく。
 伸ばされたアルクェイドの手をとって、志貴は自分の胸元に引き寄せる。
「志貴、私、志貴のこと大好きなんだからね」
「ああ、俺もだ。俺もアルクェイドの事が好きだ」
 普段ならば照れていえない言葉が、今の志貴の口からは素直に流れ出てきた。
 夢の中と変わらず、その体は温かく、そして柔らかい。とくりとくりと脈打つ彼女の鼓動が、今確かにここに在ることを伝えてくれている。
 腕の中のアルクェイドは顔を上げて、志貴に微笑みかけた。
「志貴だから、いろんなことされたいって思うの。志貴にだったら、いろんな事して欲しい」
「……朱い月にしたみたいに? アルクェイドはおしりとかでもして欲しいって思うのか?」
「ん……ちょっとこわいけど。志貴が本当にしたいのなら、いいよ……」
 あけすけに自分を求める言葉に、どくり、と、自らの股間が脈打つのを感じて志貴は苦笑した。
 夢の中であんな目にあっても、まだ足りないらしい。
 だけどこんな姿を見せられて。こんな事を言われてそれに答えないなんて嘘だ。
 思いに突き動かされて、志貴はアルクェイドを抱きしめる腕に力を込めた。
 そのままベランダで抱き合う二人を、月光が淡く包み込む。
 志貴の視界の端に映る月。それは普段より大きく思えた。
 そこに住む朱いうさぎは、どんな顔をしてこちらを見ているのだろうか。
 覗いているなら、それでも構わない。夢の中ではうやむやになった答えを、ここでちゃんと示せるのだから。
「私をこんなにした責任、ちゃんと取ってもらうんだから」
「ああ、もちろん」
 悪戯っぽく囁くアルクェイドが望むまま、志貴はその唇に口付けを贈った。




END





【あとがき】

 そんなわけで志貴は白いうさぎがご所望だったみたいです。
 
 この話の元ネタ自体は、去年阿羅本教授のHPで開かれた「裏凛祭り」にて、ASHさんがお描きになられたバニー凛のCGだったりします。
「月の王様だし、やっぱり朱い月やアルクェイドにうさぎになってもらうと似合うかな?」――そんな電波な発想で書き始めるも、どうにも自分のエロ文に行き詰って途中で半年くらい放置。
 一月ほどまえに「やっぱり棚上げは良くない」と埃を払って引っ張り出して、何とか書き上げた次第です。
 やっぱり3Pは難しかった、というのが正直な感想。お読みいただいた皆様に「エロかった」と思ってもらえる作品になっているのかどうか。
 ただ、書き上げてさらす以上は、少しでもそうなっている事を信じてます。
   それでは、ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。