■ 胸騒ぎの放課後 -保健室の個人診察−






「痛っ……ちょっと実典。もうちょっと気を使ってよ」
「うるさいな。そもそもねーちゃんがドジなのが悪いんだろ。人を助けようとして自分が階段から落ちてどうするんだよ」
「う……」
 生意気盛りの弟の言葉に、あたしは顔をしかめた。
 全く持ってその通りだった。人を助けて自分が怪我をしてどうする。
 泣きそうな顔で何度も何度もごめんなさいと繰り返す、三枝さんの顔が思い出されて胸が痛い。
 彼女が悪いわけじゃないから、あんなに謝られても正直困るんだけどね。
 大体、彼女が階段から落ちたらとんでもない怪我しそうだったし、手を差し伸べたことに後悔なんかしてないんだから。
 でも、廊下が濡れてたのは予想外だったなぁ。
 この世の中は作用と反作用に支配されている以上、変な体勢で彼女を力一杯引けば、逆にあたしが引き倒される訳でありまして。踏ん張りの利かないまま、逆にあたしが階段を転げ落ちる羽目になりましたとさ。
 ああ、もう。
 よりにもよってあんな間抜けな光景をマバカに見られるなんて、顔から火が出そう。
 側にいた実典を杖代わりに逃げ出したけど、今頃さぞ面白おかしく吹聴されてることだろう。まぁ、一緒に居た遠坂はあれでいて後ろ暗いことは嫌いな人種だから、そんなにひどい事にはならないと信じたい。
 もっとも、突付ける相手は全力で突付く猫気質なのも重々承知なんだけど。
 あー、さぞかしからかわれるんだろうなぁこれから。
「さっきから百面相の練習してる所悪いんだけどさ、ねーちゃん」
「なによ?」
 なぜかひどく不機嫌そうな声で呟く実典を睨みつけるが、生意気にも目を反らさず受けとめてくる。
「お陰で部活に遅刻じゃないか。全く。肩貸してくれるって言ってたんだから、素直に遠坂先輩の肩借りておけばよかっただろ」
「馬鹿、よりにもよって遠坂の肩なんか借りれないっての。後で何ふっかけられるか。その点お前だったら何の問題もないじゃない」
「俺に対するお礼とか感謝の気持ちはないのかよ、ねーちゃん……」
「立ってる者と弟は使い倒せというのが我が家の家訓だろう?」
「……なぁ、ここで捨ててっていいか?」
「ふふん、構わないけど? でもまぁ明日辺り、間桐は有望な後輩の違った一面を知る事になると思うけどね」
「……くそ、横暴だ」
 観念したか、そっぽを向いて実典は足を緩めた。
 よしよし。あたしに逆らおうなんて十年早い。
 生意気結構。この程度なら可愛いものよね、うん。




 久しぶりの保健室は、あんまり代わり映えのしない光景だった。
 ベッドはカーテンで仕切られて、先生のデスクは衝立で仕切られててこちらからは見えない。
「ちわー、先生いますか?」
 ぞんざいな口調の癖に、ノックだけは丁寧にして保健室に入った弟に苦笑する。結局根っこの部分で真面目なのは変わらないね。そんな性格じゃ、衛宮にベタぼれしてる間桐をどうこうできるとは思えないんだけどなぁ。
 だけど、そんな実典の声に反応はなかった。
 む、先生、外出でもされてるのだろうかね。
 でもコーヒーの香りが鼻をくすぐってくるから、ついさっきまではいたみたいなんだけど。
「あの、先生? いませんか?」
 代わりに今度はあたしが呼びかけてみる。
 反応は、やっぱりな……
「おや、その声はミツヅリさんですか?」
 …………ありえない声が、聞こえた気がする。
 背筋のあたりをぞくぞくと、冷たいものが撫ですぎていくような嫌な感触がする。
 こう、居る筈のない人の声に、なんかとっても似てる気がするんですけど。
 聞き間違い、だよね?
 あの人がここにいるわけ、ないよね?
 大体ここは学校で保健室でまだ下校はしてないんだから、絶対聞こえる筈ないんだ……
「ああ、良かった。いたんですねライダー先生」
 ……ちょっと待て。
「実典?! あんた今なんて……」
 そう、あたしが口を挟む間もなく、衝立の向こうから彼女が姿を現した。
 ……全力で見間違えたことにしたかったけど、身間違えようもなかった。
 惚れ惚れするほど均整のとれた体を、白衣で包んで立っている。
 今はアップにして纏めてるけど、こんな溜息の出るほど美しい髪の毛をした人が、この町に二人もいるわけがない。
「ああ、やっぱりミツヅリアヤコさんでしたね。一体どうしました?」
 そう、こんな、身の毛もよだつほど艶の篭った声であたしの名前を呼ぶ人なんか、この人以外いるわけないじゃないっ!
「ちょ……ちょっと待ってッ! この、その、なんで、そう! 何でここにライダーさんが居るんですかッ!」
「何でとは変な事を言いますね、ミツヅリさん。私は保健医なのだから、保健室に居るのが当然でしょう?」
「いやそれおかしいでしょ! だってライダーさんは深山の骨董品屋で……」
「ねーちゃん、こっそり頭でも打ったか? ライダー先生、ずっとうちの保健の先生じゃないか」
「保健の先生は笠間先生でしょうがッ! コテコテの関西人がなんだって一夜で目も眩む外人美女に変貌してなければいけないのよッ!」
「……ねーちゃんさぁ。さっきから何わけの分からないことを言ってるんだよ。笠間って誰だよ?」
 やれやれと、ものすごく頭にくる態度で肩をすくめる実典。その目には一片も疑いも疑念の様子もなく、目の前の光景を受け入れてる。
 なんでよ。何で受け入れてるのよあんた。
 明らかにおかしいでしょ?! こんな普通に「絶世の」が付くような美女がうちの校医だなんてっ!
「ふむ……記憶の混濁ですか。ちょっと心配ですね」
「ひぁっ!?」
 眉を顰めたライダーさんが、ふいにあたしの顔を覗き込んでくる。
 鼻先が触れ合うほど顔を近づけられて、思わず目を閉じて固まってしまう。実典がいなければ一も二もなく、這ってでも逃げ出していたけれど、ずきずきと響く捻挫の痛みと、なんだか良く分からない迫力であたしの体はがんじがらめ。
 蛇ににらまれた蛙って、正にこんな事を言うんじゃないだろうか。
「痛い所はありますか、ミツヅリさん?」
「え……と、その。右足、が……」
 このまま何をされるんだろうか。そう思って身構えていた所に、びっくりするくらい柔らかい声が掛けられた。
 恐る恐る目を開けると、ライダーさんが眼鏡越しに心配そうに見つめてくる。あたしたち日本人には絶対ありえない、淡い薄紫の瞳がまるで宝石のように見えた。
 そんな姿すら溜息が出るくらい綺麗。
 こんなの、ずっと見てたら変になる。
 もうどっちが正しかったのか、良く分からなくなってきそう。
 実はずっと前からうちの校医はこの人だったんじゃないだろうか。そんな考えが鎌首をもたげて……
 そんなばかな! 落ち着けあたし!
 かろうじて残ってた理性を総動員して、ぶんぶんと首を振った。
 あたしは間違ってないんだ。間違っていないはず、なんだ。
 だって白衣を纏ってはいるけど、どこからどう見てもいつものライダーさん。あの、いつもあたしに言い寄ってくる、かなり怪しい不思議な人じゃないの。
 なのに、どうしてだろう。
 こうしてこちらを心配そうに見つめているその姿には、確かに保健の先生らしさを感じてしまう。
 それにいつもの、こう、なんと言うか危機感を覚えるあの目つきはなりを顰めているし。
 正しいのか、間違ってるのか。訳が分からなくなってるこっちの気持ちなど知ってか知らずか。ライダーさんは小首をかしげて口を開いた。
 その声だって、腹が立つくらい涼やかで心地いい。
「どういう状況で右足を痛めたのですか? 走っていて捻ったとか?」
「いえ、その……」
「あー、階段から足滑らせたんですよ、ねーちゃん。一応受身とってたから、頭は打ってないとは思うんスが……」
「ふむ……心配ですね。貴方は先に教室に戻っていて下さい。私は彼女の体の調子を調べてみますので」
「お願いします、ライダー先生。この際ねーちゃんの頭の中身と口の悪さも、治してやってください」
「保健医ですから前者は無理ですが、後者は鋭意努力しましょう」
「って、待ちなさい実典! あんた姉ちゃんを見捨てて売り飛ばす気?!」
「怪我人が何分けの分からない事言ってるんだよ。それじゃ俺、部活に戻るから。ライダー先生、後はよろしくお願いします」
「ええ、任せてください。貴方も、怪我には気をつけるように」
「え、ちょ、待っ……」
 ぽいっと。
 薄情なわが弟は、あっさりあたしを売り渡した。
「えぇぇぇっ?!」
 抵抗する間もなく、あたしの体は実典の肩からライダーさんの腕の中へ。
「じゃーな、ねーちゃん」
 後ろを振り返りもしないで手を振って、実典は衝立の向こうへと姿を消していく。
「ちょっと! 待って戻って実典っ! この部屋に二人っきりはまずいのよぉぉぉぉっ!」
 心の底からのあたしの叫びは、あっさりと閉められたドアの音に切って捨てられてしまった。
 行き場のない手が、むなしく空を掻く。
 不自然な沈黙が、保健室を包み込んでる。
 緩やかに、だけど絶対逃れられない感じでライダーさんの腕の中に収められてしまってる。
 これって、やっぱり、どう考えても。
 絶体絶命のピンチってやつなんじゃないだろうか。
「どうして二人きりだとまずいのですか、アヤコ?」
「ひゃ、ぁぁぁぁぁっ?!」
 突然耳元で囁かれて、あたしは縮み上がった。
 背中から抱きかかえられてるから、顔は見えない。見えないけど間違いない。やっぱりあたしは間違っていなかったっ!
「やっぱり、やっぱりライダーさんじゃないですかッ!」
「おや、他の人だとでも思ったのですか、アヤコ。それはつれないですね」
「あ、や……ちょっと、なにをっ?!」
 腰を屈めたライダーさんの手が、するすると下がってくる。腰を撫で下ろしてそのまま膝の裏へくると、あっさりと両足を掬い上げてくる。もう片方の腕はあたしの背中に回されたまま。
 そのままあたしはライダーさんに抱え上げられてしまった。
 これって、その、お姫様抱っこって、やつ……よね……
「や、これ、いや! ら、ライダーさんっ! 恥ずかしい、恥ずかしいですからっ!」
「足を痛めているのでしょう? 診てあげますから大人しくしてください」
 痛くない方の足と腕をじたばたさせても、彼女は全く動じてくれない。笑顔のまま、まるで重みなんか無いようにベッドの方へと歩いていく。
 って、ベッド?!
「やめ、止めてくださいライダーさん?! ちょっと、そっちは駄目ですってっ!」
「そんなに顔を真っ赤に染めて。一体何を考えているのでしょうね、アヤコは」
 こっちの話など、まるで聞く耳持ってくれない。
 ぽん、とベッドの上へと放り投げられるような事は無く、優しく下ろしてくれたけど。でもこう、逃れようがないくらいに上からのしかかられてしまってる。
 ど、どうしようどうしよう本当にどうしよう!
「さて、アヤコ……」
 さっきみたいに鼻先が触れ合うほど近くにライダーさんの顔がある。
 彼女は、本当に嬉しそうにあたしを見下ろしてる。はたから見てれば多分、気持ちのいいくらい清々しい笑顔なんだけど。近くで見るといやってほど分かってしまう。
 獲物を目の前にした肉食獣の笑顔よね、これ。
 と、不意にその顔が遠ざかって、目の前にかざされたのは湿布と包帯だった。
「え……?」
「どこを挫いたのですか?」
「え、その。ライダー、さん?」
「大事なアヤコが怪我をしたままだなんて、私がそんな事、我慢できるはずがないでしょう。怪我の手当ては得意ですから、任せなさい」
 ベッドの端に腰掛けて、ライダーさんはどこか拗ねたように呟く。
 ひょっとして……本当に心配してくれているのだろうか、ライダーさん。
「……その、ここです。右の足首って、きゃっ!」
「どれどれ……」
 突然視界がひっくり返った。
 体が下に引かれて、わけの分からぬままベッドの上に大の字状態、だと思ったら違った。
 あたしの左の足首が、ライダーさんに掴まれてる。
 多分そのまま強引に引き寄せられたんだ。だって彼女、目を細めて頬釣りしそうに顔寄せてるし。
「って、何してるんですかっ?!」
 慌てて身を捩って逃げようとしたけど、足首を掴まれたままじゃそれも敵わない。いつの間にやらベッドの上に上がってるライダーさんがぴったりと体を寄せてきて、あたしは両足ごと抱え込まれてしまった。
「そんなに暴れたら、スカートの中身が見えますよ、アヤコ」
「っ?!」
 からかうような言葉に、一瞬で顔が真っ赤になった。
 慌ててずり落ちないように裾を押さえたけど、そうすれば当然体の自由はさらに効かなくなっちゃう。
 ど、どうすればいいのよ?!
 抵抗すれば見えちゃうし、抵抗しなかったらさらにろくでもないことされそうなんだけどっ! ほら今だってライダーさん、あたしの靴下に手を掛けて、って。
「ちょ、ちょっとぉ?! 今度は何する気なんですかぁぁぁっ!?」
「先ほども言った筈ですが? 足を痛めているのなら、早く手当てをしないと」
「それと靴下脱がせるのに一体何の関係がっ?!」
「大有りでしょう。靴下履いたままでは患部を見ることも出来ないではないですか」
 いや、それはそうなんですけど。
 何をどう好意的に見ても、ライダーさんそれ医者の目じゃないんですけどっ!
「じゃ、じゃあせめてもうちょっと普通の体勢で診てくださひゃうぅ?!」
 ぬるっと、生暖かい感触がふくらはぎを這い回ってる。
 何、を、されたの?
 頭の中がもうパニックで真っ白。目の前で起きてる事なのに良く分からない。そこにもう一度、今度は右のふくらはぎを濡れた感触が通り過ぎる。
 それでようやく分かった。
 ライダーさんが、あたしの足を舐めてるんだって。
 あたしの足首に、まるで頬擦りするように顔を寄せて、ライダーさんが舌を伸ばしてる。
 人にこんな所舐められたことなんかあるわけない。くすぐったいような冷たいような熱いような。どんな感触なのかも良く分からない。
 ただ分かるのは、とんでもなく恥ずかしい事されてるってのだけ。
「な、にを……?!」
「消毒です。雑菌が入ってしまったら危険です。破傷風になってしまうかもしれない」
「捻挫で何をどうしたらそんな事になるんですかッ! 駄目です、恥ずかしいから止め……いやぁ」
 空いてるもう片方の手が、あたしの太ももを撫で上げ、スカートの中に忍び込んできそうになってる。
「いや、駄目、ちょっとっ?!」
「触診です。階段から落ちたのでしょう? 他に怪我をしてる所があったら大変ですよ」
「してません! 大丈夫ですッ! こんな所怪我してないですからスカート捲くりあげないでっ!」
「何をそんなに恥ずかしがってるんです? 女同士ですよ。何も疚しいことはありません」
「女同士なら尚こんな事するのっておかしいじゃないですかっ!」
「そんな事はありません。いつ何時、どんな場所であれ、好きな相手に好意を伝える事は、私の国では美徳です」
「直前の発言いきなり投げ捨てないでくださいっ!」
「まぁ、細かいことは気にしないで」
「気にしま、ひ、ひぁっ、痛っ……」
 指は止まってくれたけど、代わりに舌が、痛めたくるぶしの辺りまで這い上がってきた。
「ここですか……ん、ちゅ……」
 赤くなって腫れてるんだと思うそこを、円を書くように舌が行ったり来たり。その内に唇までそこに触れて、ちゅっちゅと音を立てて何度も何度も吸い付いてる。
 これ、こんな事っ! 見も知らない男にこんなことされてるなら蹴り飛ばしてやるのにっ!
 だけど見上げるライダーさんの顔は、こんな時なのに思わず見惚れるくらい綺麗だった。
 とろんと潤んだ目で、長い舌を肌に這わせてるその顔は、同じ女なのにどきりとしてしまう。自分がされてる事すら忘れてしまいそうだった。
 その顔を、蹴飛ばして怪我をさせたらどうしよう。そんな事まで思ってしまって、足から力が抜けてしまう。
 それに、認めたくないけど……ライダーさんの舌は気持ちよかった。
 親猫が子猫を毛づくろいするみたいに、熱心に捻ったくるぶしを舐めてくれてる。どう考えてもおかしな事をされてるのに、あんまりにも丁寧に繰り返される舌の動きに、だんだん頭の中がぼうっとしてきてしまう。
 だから、少しずつ舌が移動してるのに気付けなかった。
 踝の辺りを通り過ぎて、足の甲へと向かってる。彼女がどこを目指してるのか悟って、今度こそあたしの顔は燃え尽きそうなほど熱くなってしまった。
「ん……アヤコ……」
「そんな、そこは、いやぁ……」
 ライダーさんが。
 あんなに綺麗な人が。
 あたしの足の指を舐めて、違う、舐めてるなんてもんじゃない。
 ちゅくちゅくと、湿ったいやらしい音が耳に届いてくる。
 親指が、熱く濡れたうろの中に包まれてる。
 ライダーさんが、あたしの指をおしゃぶり、してる。
「ふぅ、ちゅ……んむ……おいしい、ですね。アヤコの……」
「や、だめ、だめだめだめだめっ! やめて下さいそんなことっ!」
 まだシャワーだって浴びてないのにっ!
 もう恥ずかしくて恥ずかしくて、両手で顔を覆ってぶんぶんと振ったけど、ライダーさんは止めてくれない。それどころか、今度は人差し指まで彼女の口の中に飲み込まれてしまった。
「いや、いやぁ! ライダーさん、もう、駄目、やめ、て……」
 叫んだ声ももう、息が入れてか細いものになってしまう。膝から下にはもう全然力が入らない。まるで火のついた蝋燭のように、溶けてどろどろになってしまったみたいだった。
 全部の神経が吸われてる足の指に集中して、ライダーさんの舌で玩ばれてる。
 気持ち悪いのならまだ良かった。
 足の指を吸われるなんて事が、こんなに気持ちいいなんて思わなかった。
 ずっと靴の中にあったんだもの、匂いもきっとひどい筈。なのに指の隙間から見えるライダーさんの顔はとろけて、これ以上ないご馳走を味わうみたいにあたしの足を食べている。
 もう、駄目。
 頭がどうにかなっちゃう……
「……あ」
 気が付いたら、ライダーさんの舌の動きが止まっていた。
「あ、アヤコ……その、申し訳ありません。まさか泣いてしまうだなんて……」
 そう言われて初めて、頬を熱いものが伝って落ちてるって気付いた。
 あたしの足もいつの間にか開放されて、ライダーさんが横に座って見下ろしてた。眼鏡の奥の目が、所在なさげにあっちを見たりこっちを見たり
 ああ、なんかライダーさんおろおろしてる。
 この人もこんな顔、するんだ。
 なんか突然人間らしい表情を見せられて、ゆだりきってぐちゃぐちゃになってた頭がようやく落ち着いてくれた。
 落ち着いて、代わりにふつふつと怒りが湧き上がってくる。
「……どうして、こんなことしたんですか」
 自分の口から出た声なのに、他人のみたいに低くて遠くに聞こえる。
 起き上がって彼女と向かい合うと、その顔を睨みつけた。
 校医の格好までして学校に忍び込んで、ただ悪戯のつもりでやってるんだとしても、こんなのひどすぎる。
 一体、あたしの事を何だと思ってるのだこの人はっ!
「アヤコ、それは……」
「本当はあたしの事、どう思っているのか知りませんけどっ! からかうにしたって、こんなの、やりすぎじゃないですかっ! あたしは本当に怪我して、ここに運ばれてきたって言うのに……」
「からかってなどいません! それはひどい誤解です、アヤコ!」
 胸の中でもやもやしていた思いを思いっきりぶつけてやったのに。
 返ってきたのはそれ以上の剛速球だった。
「愛しいアヤコ。私があなたを想う心に、嘘偽りなど欠片もありません。あなたを欲しいと思う心に、疚しい所など何一つありはしない」
 いつの間にか彼女の表情から戸惑いが消えて、睨みつけてるあたしの視線をしっかり受け止めてた。
 受け止めて、それで。
 あたしを愛しいって、事は。
「ちょ、待って! 待ってくださいライダーさん!」
「アヤコ……あなたは私の事が嫌いですか? もう顔も見たくないくらい、私を憎んでいますか?」
 どこか弱々しささえ感じさせる声色で、ライダーさんは、そんな言葉を呟いた。
「え、それは、その……」
「私はあなたの事が愛しくてたまりません。あなたのかわいらしい声も、艶やかな髪の手触りも、鼻をくすぐる若草のような匂いも、カモシカのような引き締まって張りのある体も、唇に吸い付くようなしっとりとした肌の感触も、どれ一つとして手放すことなど考えられない程に、あなたの魅力に狂わされてしまってます」
「えっと……その、そうやって褒めてくれるのは嬉しいんですけど……」
 こう、どちらかというと食べ物扱いな気がするのだけど……
「ですがこれも、共にあなたに楽しんでいただいてこそ。あなたも私を愛しいと思ってくださらなければ、どれも色ざめ価値を失ってしまいます。私があなたを好きなように、あなたにも私を好きになってもらいたい」
「あの、その、ですからライダーさん、それは……」
「アヤコ、あなたに憎まれるのは、私には辛すぎる……」
 ずずっと、ライダーさんがあたしに体を近づけてくる。
 まずい。
 これは、とってもまずい。
 何がまずいって、根本的に間違ってる筈なのに、ライダーさんの目を見てると流されてしまいそうになっちゃう。
 そりゃ、そりゃ……こうして見ててもライダーさんは本当に綺麗だ。
 同じ女だと思えないくらい綺麗で、そんな人から好きだなんて言われれば、嬉しくないといえば嘘になっちゃう。
 でもその好きの質が問題すぎる。そもそもあたしもライダーさんも女なのに。
 その上、その聞き方はずるい。
 よっぽどの事をされなければ、「憎いか」とその当人に聞かれてイエスと答えられる人間なんかいるわけないのに。
「……アヤコ?」
 だからあたしはその声に引きずられるように。
「憎い、なんてことはないです。そりゃ、ライダーさんの事は嫌いじゃない、ですけど……」
 そう、答えてしまった。
 その瞬間、空気が変わった。
 ライダーさんの表情も変わった。
「ああ、アヤコ、嬉しいです! お互いの気持ちが確かに通じ合った喜びを、私は今噛み締めていますっ!」
「ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっとー?!」
「さあ、後は私に任せてください。アヤコに女の悦びを、この全身で教えてあげましょう!」
「けど! けど、の部分を横に置かないでっ!」
「そんなの些細な問題です」
「性別、性別! あたしたち女同士って部分まで脇にほっぽり投げないでくださいっ!」
「その辺はテクニックでカバーできます! ええ、アヤコ。安心してください。痛い思いなど欠片もさせはしません。蜂蜜のようにとろとろに、甘い一時を共に過ごしましょうっ!」
「ここ、ここ保健室ですっ! 怪我した生徒これから来ますからっ!」
「今日はもう誰も怪我しません。私がそう決めました」
「絶対そういう問題じゃないと思うんですがーっ!」
 叫んでじりじりと後づさるあたしの背中に、ベッドの背もたれが立ちはだかった。
 ライダーさんには一分の隙もありはしない。挙句あたしは足をくじいている。
「さあ、アヤコ。身を任せて……」
「きゃっ!?」
 正に止めを刺すように、広げられたライダーさんの腕の中に、あたしは納められてしまった。
 ここに着たばっかりと同じような状態だけど、違うのは、もうライダーさんに全く止まる気配がないということ。
 その両手が、あたしの頬に添えられて……
「ん……んーっ?!」
 気が付いたら、視界が紫に染まっていた。
 手が触れてる頬が、ひんやりと冷たい。その間の唇が、燃えるように熱い。熱くて、でもうっすらと湿った感触が伝わってくる。
 いや、え、ちょっと。
 あたし、ライダーさんに、キスされてる……
「ら、ぃだーさんっ?! んぐ……」
 慌てて体を捩ったけど、逃がしてもらえない。
 二回目のキス。今度はさっきより強く押し付けられて、そして何かが中に忍び込んできた。
 それが舌だって分かった瞬間、もうあたしの頭はパニックになってしまった。
 え、駄目、そんなの、訳が分からない。
 男とキスする前に、女の人と、こんな、その、本気のキスなんて……
 振りほどいて逃げたいのに、ライダーさんの手はがっちりとあたしを捕らえていて、逃げ出す隙間なんか欠片もない。
 でもそれよりも、その指の動きであたしの体は封じられてしまってる。
 頬から滑った手が、頭に回されて、髪の毛を梳き下ろしている。
 もう片方の手が背中に回って、ゆっくりと、ゆっくりと撫で下ろしてくれている。
 じんわりと、ライダーさんの温もりが胸に伝わってくる。
「落ち着いてください、アヤコ。痛いことも、怖いこともありませんから」
「ライダー、さん……でも……」
「私がどのくらいあなたを愛しているのか、ただ、知って欲しいだけです」
 キスの合間に囁かれる、その言葉はあまりに優しかった。
 がちがちに着込んだつもりだった、あたしの理性の鎧がボロボロと剥がれ落ちてしまう。
 そんな顔で、そんな目で、そんな囁きをするのはずるい。
 唇であたしの唇が挟まれて、その先を舌でつつかれる。さっきみたいな強引さは欠片も無く、太陽が旅人のコートを脱がせるように、中に忍び込んでくる。
 おずおずと、それに釣られるようにあたしの唇が開いていく。
 あんなにひどかった右足の痛みも、いつの間にか引いていた。
「……あんまり強引なのは、嫌ですからね……」
 それが、降伏宣言。
「ええ。ええアヤコ。優しく、愛してあげますから」
 ライダーさんが微笑む。その顔は、やっぱり息を呑むくらい綺麗だった。









 解かれたライダーさんの髪の毛が、毛布のように裸のあたしを包んでる。紫の洪水の中に浮かぶ白い肌が、まるで彫刻みたいだった。
 彼女が同じ人間だなんて、とても信じられない。
 だけど抱きしめられて、ぴったりくっついた胸から彼女の鼓動が伝わってくるから、本当にそこにいるんだなって分かる。
 と、と、と、と――そう、伝わってくるリズムが早くなってる。
 ライダーさんもどきどきしてるんだ。
「そんな顔して、可愛いですね……アヤコ……ん」
「ふぁ……ん、む」
 唇を重ねられて、軽く吸われた。それだけで体中をぞくぞくと、妖しい波が突き抜けてくみたい。
 唇だけだと思ったら、今度は背中にも。ライダーさんの指がゆっくりと撫で下ろしてくる。
 ただ触られてるだけなのに、指があたしの中に潜り込んでるんじゃないかって思っちゃう。
「ひゃ、あぅん……くぅ……」
 そのままお尻までたどり着いた手に、揉みしだかれて変な声が漏れちゃう。掌を吸い付かせるように肉をこね回されて、割れ目の中に指が忍び込んでくる。
「ひゃ、そこは駄目、はずか……うんっ」
 また唇をふさがれて、忍び込んできたライダーさんの舌に絡めとられて最後まで言わせてもらえない。流れ込んでくる唾液が甘くて美味しくて、喉を鳴らして吸い付いていたら、指の先でお尻の穴をつつかれた。
 ひゃうっ?!
 思わず体を震わせたけど、ここはライダーさんの腕の中だから、逃れる事なんて出来ない。
 ――可愛がって欲しいのは、ここですか?
 眼鏡の奥の目がそういって笑ってる。舌を絡められたままそんな事聞かれるから、いやいやと僅かに首をふったら、指がまた少し先に進んできた。
 股間はもう、とろとろになっちゃってる。後から後から恥ずかしい汁があふれ出して止まらない。
 指が入り口をこね回して、そして中を軽く擦り上げてくる。
「ひゃぅ、あぅ、あぁぁぁ……」
 それだけで体の中を太い電流がつきぬけたみたいになっちゃって、体はびくびくと震えてしまった。
 軽くイっちゃった。イかされちゃった。
 ああ、あたし、おかしくなっちゃってる。
 女の人にえっちな事されて、でももっとして欲しいって思っちゃってる。
 今度はどんな事してくれるんだろうって、そんな事ばかりで頭の中が埋め尽くされて。でも、一度イかせて、ちょっと満足したのかな。ライダーさんの舌がするりと逃げていく。
 唇が開放されて、新鮮な空気が肺に流れ込んできた。
 ふわふわと視界が揺れていて、だけどライダーさんの顔だけがはっきりと見える。目は潤んでて頬は真っ赤。それで、ライダーさんも興奮してるんだって分かった。
 あたしもそうなのかな。
 あたしもこんなにえっちな顔、してるのかな。
 そう思ったら急に恥ずかしくなっちゃって、腕をまわしてライダーさんの体を引き寄せた。羨ましくなるくらい大きくて柔らかい、彼女のおっぱいに顔を埋めて隠れてしまおう。頭隠して何とやら、だけど今は顔を見られたくないからこれでいいのだ。
「やぁ、見ないで……あたし今、とても変になっちゃってる、から……」
 こんな顔見られたら、あたし、凄くいやらしい子だって思われちゃう。
 だけど失敗だった。こんな声出しちゃったら、見逃してなんてもらえない。
 ライダーさんは、あたしを困らせるのが大好きなんだから。
「恥ずかしがらないで。さあよく顔を見せてください、可愛いアヤコ」
 もう腕に力なんか入らないから、ライダーさんはあっさりとあたしを引き剥がしてしまった。
 そのままあたしを跨いで膝立ちになった彼女が、見下ろしてくる。
 滑らかな肌を滑り落ちる髪の毛が、さわさわとお腹を擽ってくる。
 並んで立っても見上げるくらい背が高いのに、顔がこんなに小さいなんて信じられない。
 つんと張り出した乳房なんか見たことないくらい大きくて、でも全然垂れてたりしなくて、形も凄く綺麗。
 腰からおしりにかけての曲線なんか、溜息が出ちゃうくらい理想的で、でもお尻はむっちりと女らしい丸みを帯びている。
 神様がどれくらい丹念に作り上げれば、こんな人が出来上がるんだろう。
 それとも、ライダーさんは人間の振りしてるだけで、本当はちょっと悪戯好きの女神様なのかもしれない。なんか、そう言われても納得しちゃいそう。
 思わず自分の体を見下ろして、あたしは小さく頭を振った。
 こんな体を彼女の目に晒しているのが恥ずかしくて、手で隠そうとしたらライダーさんに邪魔されてしまった。
「駄目ですよ、アヤコ」
「そんな、あたしのなんかとても見せてられない……」
「何を言うのです。アヤコはとても綺麗なのに」
 腰を屈めたライダーさんの顔が近づいてくる。
「そんな、ライダーさんに言われても……ん……」
 前髪を掻き揚げられて、おでこに小さな明かりがともった。それが少し下がってきて、瞼に熱く濡れた感触。
「おびえた子ウサギのような目も好きですけど、弓を引くあなたの目は、とても美しいですよ。折れず曲がらず凛とした、あなたの心が良く現れてます」
「ひゃ、くすぐったい、です……」
 そんな所にキスされた事ないから、気持ちいいのかどうか分からない。でも弓を引く所を褒めてもらえたのは、とても嬉しいな。
 この人のことだから、いつ見てたのか分からないし、いつもだったらちょっといやだって思うかもしれない。でも、今は嬉しい。
 ついばむようなキスを繰り返されて、唇が移動していく。
「この耳に、私の声だけが届けばいいのに……」
「あん、そんな……」
「この首筋の舌触りも、アヤコにかなう人などいはしません」
 そんなとこ、褒められても困っちゃう。他に比較しようがないじゃない。
 だけどライダーさんはお気に入りみたい。何度も、何度もあたしの首筋に吸い付いて、時折歯まで当ててくる。ちくりとする時もあるけど、今はそれも気持ちいい。
 ああでも、そんな所にキスマークできたら困っちゃう。
「駄目、そんなにされたら、後で困っちゃう、から……」
 絹糸のような髪を梳いて、彼女の頭を撫でた。顔を上げたライダーさんはちょっと不満げで、でもすぐに、目を細めていやらしい笑みを浮かべてる。
「では、見えない所にしておきましょう。嫌とは言わせませんよ?」
「もう、本当に、意地悪……」
「ええ、こんなに蕩けてるアヤコを味わえるのだから、私はいくらでも意地悪になりましょう」
「ふぁん、あぁ、いきなり……そんなところ……」
 笑いながらライダーさんがあたしの乳房に手を伸ばしてきて、こりこりになっちゃってる乳首を摘みあげられた。もうちょっと力を込められたら痛くなっちゃう、そのギリギリのところで玩ばれて、続々と背中をえっちな波が突き抜けてく。
 とろとろに蕩けてる。ライダーさんの言うとおりだ。
 もうあたしの体が無くなっちゃって、全部感じる部分になっちゃったみたい。ライダーさんの指が、唇が肌に触れるたび、そこが涙を流して喜んでる。
 ちゅっ、と指ではなく唇で乳首を吸われて、体がわなないた。
「可愛らしい胸ですね。手に余るくらい大きいのに、こんなに敏感で……」
「そんな……ライダーさんの方が大き、ん、あぅ……」
「ん、このくらいの大きさが一番ですよ。私も愛しがいがあるというものです」
 つんつんと先っぽを舌で突付かれて、声がふるえちゃう。
 ライダーさんの唇は、さらに下へと下がってく。お臍の周りを舐められて、思わず身を捩ってしまう。
「はふ、ん……」
 くすぐったさより、でも気持ちよさが勝って、変な声が漏れちゃう。それを楽しむように二度三度とこね回されて、そこでまた舌が下がっていく。
「あ……きゃうっ?!」
 太股に手を掛けられて、大きく開かれた。思わず手で隠そうとしたけど、許してもらえない。あたしの大事な所が全部、ライダーさんの目の前に晒されてしまった。
 さっき指で触られたけど、こんな、まだ明るい部屋で見られるなんて恥ずかしすぎる。
 まるでお漏らししちゃったみたいにぐっしょりなんだもの、そんなの見られたら、どう思われちゃうんだろう。
「綺麗ですよ、アヤコ。まるで瑞々しいプラムのようですね。こんなに果汁に溢れてるのに、張りもあって……」
 こっちの気持ちを見透かしたように、ライダーさんが微笑む。唇が入り口のあたりを掠めていく。
 触れるか触れないか、そのギリギリの所を何度も何度も行きつ戻りつ。その度に、腰の奥から緩やかな波が押し寄せてきて、あたしの体が震えてしまう。
「や、くふぅ……あ、あぁ……」
「気持ちいいですか、アヤコ?」
「わ、からんない……わかんないよぉ……」
 だって、他の誰にもこんなの、された事ないんだもの。自分で指で触るのとは全然違う。
 ただただ、止めて欲しくないってのだけが頭の中を埋め尽くしてる。
 もっとして欲しいって、そればっかり考えてしまう。
「もっと楽になってしまいなさい。気持ちいいんですよ。だってアヤコのここは私を欲しがって、こんなにひくついていますよ……ん……」
「ひゃっ?! あ、あぁぁぁあっ?!」
 突然押し寄せた大きな波に、腰が砕けてしまいそうになった。飛びそうになった頭で、それがライダーさんにキスされてるんだって理解した。
 グロテスクな入り口を掻き分けて、中に舌が入り込んできてる。内側から壁を擦り上げられて、感じたことのない快感に、もう声なんか抑えられなかった。
 くちゅくちゅと、舌が粘った水を掻き揚げる音がしてる。喉を鳴らして、ライダーさんにすすり上げられてる。
 あたしの一番恥ずかしい所を、ライダーさんに食べられちゃってる。
 恥ずかしくてたまらないのに、それすら気持ちいい。もう、全部食べられてしまいたい。
 もっとして欲しい。もっと、もっと気持ちよくなりたくて、腰を摺り寄せた。
 なのにふいに、ライダーさんの顔は離れていってしまった。
「……え?」
 これで終わっちゃう、のかな。
 体が熱くて、今にも燃え上がってしまいそう。こんなにしておいて、ここで止めちゃうなんて、ひどい。
 そう思った次の瞬間、あたしは息を呑んだ。
「は、ん……見えますか、アヤコ」
 また膝立ちになったライダーさんが、あたしの胸の辺りに跨ってきた。
 指はおヘソの更に下へ、息をすれば掛かりそうなほど、彼女の体が近い。
 そんな目の前で、ライダーさんは自分のアソコに指を突き立てていた。
「ふぁ……? ライダー、さん……?」
 人差し指と薬指で花弁を広げて、くちゅくちゅと中指で蜜を掻き出してる。あふれ出した雫はもう、太股まで滴っていて、髪の毛と同じ色をしてる下の毛も、ぺったりと濡れて張り付いていた。
「ライダー、さん……凄い」
「は……ん……あなたに……ん、キスをしているだけでこんなになってしまいました」
 キスしてしまいそうなほど側に、ソコが寄せられる。白磁のように白い肌の中で、ソコだけが充血して真っ赤になってる。
 むわっと立ち込めるオンナの匂いで、酔ってしまいそう。
 非の打ち所のないライダーさんの体の中で、ただ一箇所の艶かしくてグロテスクなオンナの部分。こんな、女神様のような人にもあたしと同じものがちゃんと付いてるんだと思うと、何だか変に嬉しい。
 何をして欲しいのか理解して、あたしの頭の中は恥ずかしさと、同じだけの喜びでいっぱいになる。
 うん、今度はあたしがしてあげる番、だよね。
 蜜に呼ばれる蜂みたいに、舌を伸ばして、滴った蜜を掬い上げた。
「アヤコ、ああ……っ!」
「んっ?!」
 その瞬間、体を震わせたライダーさんが、ぴったりとソコを押し当ててきた。
 一瞬息が詰まったけど、すぐに舌を動かして、出来る限り奥底に潜らせていく。
 しょっぱいような、すっぱいような変な味。
 こんな事したのなんか、もちろん初めて。上手くなんか出来てる自信はないし、多分ライダーさんはもどかしくてたまらないと思う。
 だけど、こうやって舌を動かすたび、あたしの手にライダーさんの震えが伝わってくる。
 ちょっとでも、感じてくれてるんだって教えてくれる。
 それが嬉しくて、頑張って舌を動かした。
「そう、です……アヤコ、そこをもっと深く……! その壁をこすってっ!」
「ふぉふ、は……な……」
 言われるまま、唇を押し付けて舌を奥へ這わせた。
 びくびくと、ライダーさんの体の動きが大きくなってく。
 あ、これで、良かったみた……
「はぁうっ?!」
「ぁう?!」
 一際大きい叫び声を上げて、ライダーさんの体からくたっと、力が抜けてしまった。次の瞬間、信じられないくらいあふれ出した蜜に思わずむせて、あたしは咳き込んでしまった。
 崩れ落ちるライダーさんに押し倒されるように、あたしも仰向けに倒れこんだ。
 すぐ側で向かい合ったその顔は、荒い息を付いていて。そして、何だかとっても恥ずかしそうだった。
「申し訳ありません、アヤコ……こんなに簡単に、イってしまうと思いませんでした」
「え、と……ライダーさん、それって……」
 あたしで気持ちよくなってくれたって、事だろうか。
 それを確認するより早く、彼女の手が、頬に伸びてくる。
 雫で濡れた口元を、その指先で拭って、そしてまたキスをされた。
「ん……んん……」
「ふぅ、ん……今度は、一緒に」
「い、っしょ?」
「ええ、アヤコ。私とあなたで、共に天に昇りましょう」
 そう言って起き上がったライダーさんが、あたしの太ももに手を掛けてくる。
「あ……?」
 何をするんだろう。そう思った時にはもう、あたしの片足はライダーさんに抱え上げられてた。そのままもう片方の足に跨って、ゆっくりと腰を擦り付けてくる。
 肌に感じる冷たい感触は、ライダーさんのあそこから漏れる蜜なんだろう。
 やっと何をするつもりか分かって、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってしまう。
 心臓はもう、全力疾走の後みたいに暴れまくって、今にも口から飛び出しちゃいそう。
 ああ、そんな事、するなんて。
「さあ、アヤコ……あなたも」
「うん……こう、かな」
 腰を突き出してくるライダーさんの動きに合わせて、あたしも腰を押し込む。太ももがまるでレールになって、あたしとライダーさんのソコがしっかりとすり合わさった。
 その瞬間、押し寄せてきた快楽の波で飛ばされそうになってしまった。
「ひゃ、あ、あぅ?!」
「ひぃ、ん、く……ふぁっ?!」
 悲鳴がもう、あたしのなのかライダーさんのなのか分からない。
 腰から下が無くなってしまったみたい。ん、違う、ライダーさんのと交じり合ってしまって、一つになっちゃったみたい、なんだ。
 瞼の裏でぱちぱちと、火花が散ってる。
 体に力が入らない。起こしてなんかいられない。だけど腰は止まらないで、ライダーさんに擦り付けちゃう。
 ライダーさんも一緒の気持ちみたい。足の指が反り返ってぷるぷると震えて、でも腰の動きは激しくなってく。
 ちゅぷちゅぷと、ソコからえっちな音が止まらない。
 だめ、もうだめ。
 もっと気持ちよくなりたい。ライダーさんと気持ちよくなりたい。
「ああ、アヤコ……アヤコ……」
「ライダーさん……ライダーさん、もっと、もっと、してぇ……」
 もう、ライダーさんが女の人だとか、そんな事、どうでもいい。
 ライダーさんが好きだから、一緒になりたい。
 ライダーさんと、溶け合ってしまいたい。
「いこう……いかせて……!」
 ぷっくり膨れたクリトリスがライダーさんのお腹で擦れて、それが最後の一押しになった。
 体の中心を、太い電流が突き抜けていったみたい。
「あぅ、あぁぁあぁぁっ!?」
「イ、く……ぅぅぅっ!」
 目の前が真っ白に染まって、指先から力が抜けていく。深い、深いぬるま湯のプールに沈み込んでいくような、とても気持ちいい脱力感。
 あやふやな意識の中で、甲高い声がうっすら届いて、ライダーさんも一緒にイってくれたんだって分かった。
 よかった、一緒に気持ちよくなれたんだ。
 ライダーさんと、一つになれたんだ。
 瞼が重たくなってく。どんどん意識が薄れてく。その中で、その事が何よりも嬉しかった。









 白衣だけを羽織ったライダーさんが、ベッドの背もたれに体を預けてる。
 あたしは気だるさに任せたまま、彼女の体にしなだれかかっていた。
 目を閉じて、柔らかい胸に耳を寄せると、鼓動が伝わってくる。今は落ち着いてるそのリズムが、まるで子守唄のようで心地良かった。
 まるで小さな子供になってしまったような気分。でも彼女からはどう思われてるのかな。こうやってあたしの髪を玩ぶ様子なんか、まるで抱き上げた猫の毛並みを整えてるみたいじゃない。ペットみたいに思われるのは、ちょっと面白くない。そんな事を思ってる自分に気付いて苦笑した。
 足をくじく前なんか、こんな事になるなんて思っても見なかったのに。
 小さく溜息をついて、横目に時計を確認した。
 もう少しで六時になる所。運ばれてきたのが四時ちょっと前だったから、もう二時間もこうしてた計算になる。
「ああ、もう帰らないと……」
「もう行ってしまうのですか?」
 残念そうな声が耳に届いた。あたしの髪を梳いてた手が下がってきて、背中の辺りでゆるく組まれたみたい。ちょっと子供っぽいその意思表示に、頬が緩んだ。
「ここはあたしの部屋でもラブホテルでもありませんから、さすがにもうタイムアウトですって。実典もあんな顔で心配性ですし」
「なら家まで送りましょう、アヤコ。正直、足腰が立たなくなってるんじゃないですか?」
 からかうような声にむっとして顔を上げれば、眼鏡の奥の目を細めて、ライダーさんが笑ってる。
「誰のせいですか、誰の! あんなに何回も何回も、その、イかされちゃうなんて……本当にえっちなんですからっ!」
「おや、三回目はアヤコの方からでしょう? 今だってこうして、私の体に手まで回して。いやらしいのはアヤコも一緒だと思いますよ」
「う……それは……」
 頬がかっと熱くなるのが分かる。
 確かに、その、ライダーさんの体はこうしてるだけでも気持ちいいから、離れにくいってのはあるんだけど……
「と、とにかくっ! 今日はその、こうしてこんな関係になってしまいましたけど! 今度からこういう真似はやめてくださいねっ!」
「こういう真似とは?」
「そ、それは……こうやって学校に忍び込んできたり、人の目があるようなところで迫ったりっ! その……こ、こういうえっちな事をですねっ!」
 駄目だ、ライダーさんの顔を見てると、どうしても強気のままでいられない。あたしの弱い所、隅から隅まで全部見透かされてるみたいだ。
 案の定、彼女の口元の微笑みは深くなって、
「そうですねぇ。前二つは善処しますが、最後のはきっと無理ですね……」
「や、ちょっと……ん」
 脇の間から腕を通して、ライダーさんはあっさりあたしを抱きかかえると、そのまま――
 もう、何度目かも分からないキスをされてしまった。
「ん、もうっ! 何を」
「私はまだアヤコを愛し足りませんから。もっともっと、私の全てを知ってもらって、私に全てを見せてもらわないと。だからアヤコの事を欲しがるのをやめる事など、出来るわけありません」
 睨み付けても暖簾に腕押し。不敵な笑みを浮かべたライダーさんにそんな事を言われてしまった。
 これは、つまり。
 これからも機会ある限り、あたしはライダーさんにこういう事をされてしまうのだろうか……
「こ、困りますからっ! あたしは、その、そんなに、その、えっちな人間じゃありませんから!」
「本当に? 本当に困るんですか?」
「本当です!」
「そうですか……アヤコは、私の事を嫌いなんですね。それならば仕方ありません。私は今日の思い出を胸に、一人枕を涙で濡らすことにいたしましょう」
 顔は笑ったまま、声だけ深刻にそんな事を言うライダーさん。
 分かってる、あたし。落ち着けこれは罠なんだから。
「だ、騙されませんよそんな声出したって?」
「騙すだなんて。ただ、悲しみに打ちひしがれた私は、一人寂しく火照った体を慰めるために、今日のアヤコの姿を思い浮かべて指を走らせたりするかもしれませんけど、それくらいは許されますよね」
「ちょ、ちょっとライダーさんっ?!」
「この唇にも指にも、そしてアノ場所にも、全てアヤコの感触を覚えこんでますから。ええ、目をつぶればまるで腕の中で子猫のようにわななくアヤコの姿が、ほら、今にも……」
「わー! わー! 止めて、それは、その、凄く恥ずかしいんで止めてくださいっ!」
 ああもう罠なんだって分かってるのにっ!
 だけど、その、面と向かって一人えっちのおかずにするなんて言われて落ち着いていられますかっ!?
「嫌いなんて事ありませんからっ! す、好きですからっ! お願いですからそんな恥ずかしいこと面とむかっていうのやめてください!」
「本当に? 本当に私の事を好きだと言ってくれるのですね?」
「……本当で、と、ストップ! 待って! 止まって! もう今日これ以上は本当に困りますから!」
「……残念ですね」
 心の底から残念そうにライダーさんが呟く。やる気満々すぎるよこの人、本当に……
「だからこう、時と場合を考えてください。その、ライダーさんと一緒に居るのは、もう嫌じゃないですから……」
「ええ、分かりましたアヤコ。もう今日のような真似はやめにしましょう」
「そうしてください。本当に心臓に悪かったですからあれ……あれ?」
 その言葉で、ずっと忘れていた事を思い出した。
「どうかしましたか、アヤコ?」
「ライダーさん、一体どうやって校医にすり替わったんですか?」
 そう、それがどうしても分からない。
 只者じゃないってのはもう、いや過ぎるほど分かってるんだけど、一体全体どうやってこんな真似が出来たんだろう。しかも実典なんか自然に納得してたし。
「ああ、それはですね……」
「それ、は?」
 あたしの問いかけにライダーさんは一瞬眉を寄せて、そして直ぐに蕩けそうなほど極上の笑顔を浮かべて、
「蛇の道は蛇、ですよ、アヤコ」
 …………あー。
 こう、なんだろう。この人にそう言われちゃうと、納得するしかない気がしちゃう。
「それはつまり、秘密ですとそういう事なんですね?」
「ふふふ。私の眼力で騙されたという事にでもしておいてください。謎の一つもあった方が、アヤコにも魅力的に思ってもらえるでしょう?」
 謎だらけの絶世の美女が、そう言ってころころと笑う。
 なんか悔しいけど、まぁ、一つ楽しみが出来たと思うことにしよう。
 いつもあたしばかり攻められるのはつまらない。あたしの方が攻め返せる様になるために、まずは彼女の事を、もっと知る努力をしよう。
 でもまぁ今は少し疲れてるから、もう少しだけ休みたい。
 ちょっとだけ、うん。ちょっとだけなんだから。
 心の中でそう呟いて、あたしはライダーさんの肩に頬を預けると、そのままそっと目を閉じた。





【おしまい】





■ 後書き

 久々すぎる更新になってしまいましたMARですこんにちわ。
 しかもこれは新作じゃなかったり。
 以前「真夏の夜の夢」さんの同人誌「穂群原学園日誌」に掲載させていただいたものです。
 先にそちらでお読みいただいた方には申し訳ありません。ですが他に収録された作家さんの素晴らしい作品と、拙作につけていただいた逢魔刻壱先生の挿絵はこう、買っていただいた方のみのお楽しみと言う事でご容赦頂けるとありがたいです。

 ……こほん。
 ともあれ、「白衣のライダーさんはきっとエロいよね」「当然お相手は綾子で美味しく頂かれちゃうんだよね」などと言う邪極まりない動機で書き始めた話でしたが、書いてる間は相当楽しかった記憶があります。
 やっぱり綾子っていぢられキャラだよね。そこが愛い。
 読んでいただいた皆様にもこの思いが共有していただけたのならば、それに勝る喜びはありません。
 では次回こそは完全な新作にて。
 

2006 11/3