■ 2 ■




 ゼルレッチ。
 その名の意味を志貴が理解するまで、数瞬の時間を要した。
 アルクェイドが時折口にしていた男の名前。真祖の姫君たる彼女を支える後見人だという。
 そうは言ってもゼル爺と顔を会わせる事なんかそんなに無いんだけどね。いつもどこかふらふらと旅立っちゃうから。
 そう苦笑して言う彼女の目には、確かに信頼の色が浮かんでいたものだった。
 志貴が出会う遥か遥か昔からアルクェイドを見続けてきた、彼女に最も近しい存在が今、目の前にいる。
 それを理解した瞬間、志貴の頭から恐怖も怯えも霧散した。
「ゼルレッチさん! アルクェイドは、アルクェイドは今いったい――」
 つかみ掛からんばかりの勢いで老人に詰め寄った志貴の目の前に、大きな掌が突き出された。
 覆う肌には皺が刻まれているが、縒れも弱々しさも無い。ただそれだけの動きが、志貴の目の前に壁をつきたてたように、彼の足を縛り上げてしまった。
「落ち着け、といっても無理なのは分かるがね。まずはこの老いぼれの話を聞いてもらえんかな」
 紅い瞳を細めて、ゼルレッチは深く通る声で語りかける。
「物事には順番がある。まずは出発点に立たねば理解できない話もな。アルクェイドの元に駆けつけるのは簡単だが、今回そればかりでは解決できまいよ」
「……ああ。でも」
「まずは腰掛けて、ゆっくり息を落ち着けたまえ、少年。何より私は君の名前を教えられておらん。名乗りあうのが礼儀というものではないかな」
「腰掛け、ってここには何も……」
 ゼルレッチの言葉に眉をひそめた志貴が後ろを振り返ると、いつの間にか革張りのベンチが姿を現していた。
「な……?!」
 驚きの声をまともに上げる暇も無かった。
 むき出しの大地が磨き抜かれた大理石に。鬱蒼とした林が組上げられた煉瓦の壁に。厚く灰色の雲に覆われた空が、七色の光を放つ巨大なステンドグラスの天蓋へとめまぐるしく変貌を遂げていく。
 志貴は言葉を失う。失うより他無かった。見覚えある遠野家の庭が、巨大な煉瓦造りの室内へとすり変わるまでに1分もかからなかったのだ。何が今起きたのか、理解することすら出来なかった。
「名はなんと言うのかな、少年」
 掛けられた言葉に、ようやく志貴は我に返る。気づけばゼルレッチはすでにベンチに腰を下ろしていた。
「……志貴です。遠野、志貴」
「しき……シキ……志貴、か。日本人は難しい名前が多いものだが、君は短くて助かるな」
 アクセントは間違っていないかな。とおどけた様に肩を揺らすゼルレッチの隣に、志貴も腰を下ろした。どちらかと言えば座り込んだといったほうが正しかったかもしれない。目の前で起きている出来事の異常を、彼は必死で整理しようとしていた。
「そんな不安そうな顔をするな。君の家の庭に間違いは無いから安心するといい。もとより他の者たちは、この状態を認識すら出来ておらぬよ。性質の悪い魔法使いの悪戯だ」
 莞爾として笑いながら、ゼルレッチは手にした杖を壁に向けて伸ばした。つられて視線を延ばした志貴の目の前に、呆れるほど大きな舞台が姿を現していた。
 緞帳は既に上がっている。舞台の上に組み上げられているのは、天を突くほどに巨大な玉座。天蓋から差す光に煌くそこには、既に背を預ける役者が一人。
 志貴は息を呑んだ。座っているのは一人の女性だった。純白と群青のドレスに身を包んだ、長く艶やかな白金の髪の女性。
 髪の長さは違う。このような格好をした彼女を見た事は無い。しかしそこに居た女性は、志貴が命を掛け愛し求めた彼女に間違いは無い。
「アルクェイド……!」
 叫んで立ち上がろうとした、志貴の右腕をゼルレッチの手が掴む。
「何を――!」
「話をすると言っただろう。彼女の姿に気が逸るのは分かるが、アレは私の記憶の写し身だ」
「そんなの関係ないだろっ!」
 志貴はその手を振りほどこうとしたが、大地に鎖で縫いとめられたように微動だにしない。もとより力勝負では土俵にすら立てないという事か。
「……ゼルレッチさん。済まないけどあんたがさっきから何を言いたいのか俺には分からないし、理解できるだけの余裕がないんだ。アルクェイドに何かあったのなら教えて欲しい。回りくどいやり方は勘弁してくれ」
「ふむ……あったなかったで言えば、今この瞬間も彼女は厄介事に巻き込まれておる」
「だったらっ!」
「だが、な。それを解きほぐすには君の覚悟を確かめなければならん」
 鼻白む志貴の顔を見据えて、ゼルレッチは静かに言った。
「君の思いは、事と次第によっては世界そのものを変えかねんのだ。君にはその自覚はあるのかな」
 呟くゼルレッチの声からは、おどけた様子は露と消えている。急いた様子もないその言葉に込められた力に、噴出しそうな感情を必死で噛み殺して、志貴は再び腰を下ろす。
 納得などしていない。出来るものならすぐにでもあのアルクェイドの側に駆け寄りたい。だがしかし、唐突に出てきた『世界』という言葉に戸惑いを覚えていた。
 志貴の内心を感じ取ったか、手を離したゼルレッチは、視線を舞台の方へと向ける。
「そもそも、君はアルクェイドについて何を知っておるかね」
「何をって。それは……あいつが人間とは比べるのもバカらしい位の存在だというのは知ってますが」
「世界にただ一人残された、生粋の真祖の姫(ブリュンスタッド)にして死徒を狩る処刑人――そのあたりの事は知っていても、何故彼女がそうなったのかは、聞かされておるのかな?」
「あいつがロアに騙されて、血を吸ってしまったから、でしょう」
「おかしいとは思わないかね。吸わなければ狂わないのならば、最初から求めなければよい。そも真祖は死徒とは根本的に違う生き物だ。血など吸わずとも在り続けられるのだから」
「それは……」
 志貴は言葉に詰まる。
 吸血衝動という枷を掛けられているのだと、彼は聞かされていた。死徒は劣化する体を補うために血を吸うが、真祖にその必要はない。必要がない筈なのに、人の血を求めてしまう。
 それは一体何故なのか。思えば彼はその事を真剣にアルクェイドに尋ねて見た事はなかった。
「知らなくても無理はない。おそらくアルクェイド自身もその正確な理由は分かっていないだろう。教えられる事はなかった故な」
「ちょっと待ってくれ。それって大事な事なんじゃないんですか? そんな大事な事を教えられてないんですか、あいつは」
「余計な知恵などつける必要はない。当時の真祖たちはそう考えていたのだ。半分は驕慢から。そしてもう半分は――」
 ゼルレッチは手にした杖で、床を一度打った。甲高い音が響き渡り、次の瞬間舞台が大きく揺れる。
 玉座は崩れ去り、遙か彼方へと続く回廊へと姿を変えた。青白い月光が薄闇を柔らかく跳ね除ける中、アルクェイド・ブリュンスタッドは静かに歩み続けている。
 口を開く事はない。歩みを止めることもない。すれ違う城の住人たちは、彼女の姿を認めるたびに道を開けていく。主の妨げになるわけには行かない。その行動に皆変わりはなかった。だがその表情に込められているのは、決して敬意などではなく。
「怖がってるのか……こいつら、アルクェイドを」
「何故そう思うのかね?」
「何故って、あいつら、誰もアルクェイドの顔を見ようとはしてないだろ。視界に入ることすら避けている様にしか見えない」
「そうだな。その観察は正しい。この城の住人で、彼女を恐れていなかった者は皆無と言っていい」
「どうしてなんだ。あいつは姫なんじゃないのか? そりゃ親しくなる必要はないのかもしれないけど、でも、敵でもない相手をあんな目で見る必要なんかないだろ!」
「君がそう思うのは無理からんことだ。姫は高貴であり尊ばれる者。そう考えるのは自然な事であろうが、この城の住人たちは王の娘(ブリュンスタッド)の誕生など望んではいなかったのだ。適度に強力で、だが決して手綱を振り切らない。人の血を吸い魔王と化した同族を狩るために彼らが必要としたのは、そんな便利な道具だったのだからな」
 ゼルレッチの口元に、皮肉めいた笑みが浮かぶ。
「アルクェイドはブリュンスタッドとして生まれたのではなく、結果的にブリュンスタッドになってしまった存在なのだよ。それは人も真祖も、狩られる『魔』ですらも、誰も歓迎しない結果だった」
 アルクェイド自身の口から聞くことはなかった、彼女の過去。
 告げられた話に衝撃を受けながら、志貴の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
 何から聞けば良いのかわからない。それでも絡まった糸を無理やり解きほぐして、志貴は一つの問いを形作った。
「……望む望まないで生まれるとか、そういう事じゃないんじゃないのか? アルクェイドは、その、真祖の王様の娘だからブリュンスタッドって呼ばれてたんじゃないのか?」
「真祖の発生は人間のそれとは大きく異なるものだ。純粋に王の血を引いた存在という意味でのブリュンスタッドなら、アルトルージュ・ブリュンスタッド殿もそうだな。しかし彼女は別の意味でブリュンスタッドではない」
 ゼルレッチの口から小さな溜息が漏れる。
「ブリュンスタッドの名を受け継げるだけの圧倒的な力。魔王と化した同族を一顧だにしない暴力。それこそが唯一にして最大の、ブリュンスタッドとなるべき条件なのだよ」
「強すぎたからって事なのか。アルクェイドが自分たちの必要以上に強くなりすぎたから、だから真祖たちは恐れ遠ざけたって事なのか」
「左様。だから彼らは枷を掛けた。余計な事は考えないよう心を縛り、余計な事に煩わされないよう、行動を縛り上げる。アルクェイドが知るのは城の玉座とこの道筋だけ。一歩外の事見聞きした事は全て洗い流されるのだ」
 自分たちで生み出しておきながら、意に収まらなければ疎み遠ざける。そこにアルクェイド自身の意志が入り込む余地など欠片もなかった。否、そう考える心すらなかったと老人は告げた。
 彼女を取り巻く者はいる。だが、彼女を支え導く者はいない。無人の回廊を歩み続けるアルクェイドの姿を、ただ見つめる事しか出来ない。押しつぶされそうな痛みに、志貴は思わず胸を掻き毟っていた。
 無駄な事が楽しいと。何でもない事が嬉しいと、志貴の知るアルクェイドは笑う。だが目の前の彼女に笑顔が浮かぶ事はないのだ。
「何、のために」
「うむ?」
「何のためにこんな真似を! 何でアルクェイドはそんな目に遭わなければいけなかったんだ!」
「その答えは君自身が口にしている。彼らは恐れていたのだよ、彼女を。彼女の中に眠る朱い月を」
 朱い月。その名をゼルレッチが呟いた瞬間、志貴の背中が粟立った。
 志貴の目に映る彼の瞳には、確かな敵意が浮かんでいた。自分に対してではない。しかし志貴の背中に怖気を走らせる程の暗く深い敵意に彼は身を焦がしている。
「ブリュンスタッドの名を受け継がされた者はな、いずれ来る、忌むべき王の再臨の器となるべき定めを科せられているのだ。吸血衝動もそれを早めるための呼び水に過ぎん。血に溺れ自我を明け渡した器に朱い月が憑依する。その時こそが世界の終わりの始まりだ」
 そのまま立ち上がったゼルレッチは、空を一振り杖で薙いだ。その瞬間、舞台の上は大きく変貌を遂げる。
 崩れ去った玉座。砕け巨大な穴がいくつも穿たれた広間。柱が幾本も横なぎに倒れ、無残な姿をさらけ出している。
 その中央で、幾人かの人影が向かい合っているのに志貴は気づいた
 呆れるほど大きな巨狼の背に乗った、変わらぬ姿のアルトルージュがいる。その傍らには彼女を護っているのだろう、漆黒の鎧に身を包んだ男と、純白のマントをはためかせた男がいる。さらに彼らの後ろには、片腕を失ったゼルレッチその人がいる。
 彼らの視線は一様に険しく、ただ一点に向けられている。
 そこに、彼女がいた。
 純白と群青のドレスには一点の染みもない。たなびく金の髪は自ら光を放っているかのよう。ゆるく両の手を体の前に合わせたまま、金色の瞳で自らを囲む者たちを睥睨している。
 その口元に笑みが浮かんだ。艶然と吊り上げられた唇の端から、長く伸びた牙が姿を見せている。
「アルクェイド……」
 かすれた声が、志貴の唇から漏れた。
 目の前の光景は現実ではない。ゼルレッチがかつて体験した事なのだ。そう頭の端に浮かんではいても、しかし志貴は止まらない。
「だめだ、やめろ、アルクェイド!」
 立ち上がり、舞台に駆け上った志貴の手がアルクェイドに伸びる。
 すがるようなその動きが空しく彼女の体をすり抜け、たたらを踏んだ志貴と、アルクェイドの視線が交錯する。
 向けられた相手は自分ではありえない。過去の残滓の彼女が、未来に手を伸ばせる筈がない。
 だと言うのに、志貴の足は床に縫いとめられた。指先一つ動かす事ができない。まだ呼吸出来ている事がいっそ不思議だった。
 脈打つ心臓が締め上げられ、潰されそうな恐怖。同じ顔をした同じ女の同じ笑顔が、これほどまでに醜悪で恐ろしい物なのか。
 擦れた喉からは言葉一つでてこない。ただ立ち尽くすだけの志貴の体をすり抜けて、アルクェイドは獲物の元へと向かっていく。彼女の視界から外れた瞬間、志貴の体は糸が切れたように床へと崩れ落ちた。
「アレは……一体何なんだ……」
 片膝をついた志貴は荒い息をつきながら呟いた。
 舞台の上はもう凄惨な戦いの痕は残されていない。アルクェイドの姿も、アルトルージュの姿も消えうせている。今見たものが正に夢だったと言うように、乾いた空気が辺りを包んでいた。
 しかし瞼に焼きついた光景は、容易に忘れらる筈もない。
 自覚はしていたつもりだった。圧倒的な力を振るう様を何度も目にしていた。それでもアルクェイドに変わりはないと思っていた。太陽の下で無邪気に笑う、吸血鬼らしからぬ一人の女だと思っていた。
 だが今目にしたのは明らかに違うモノだった。
 自分がどうにかできる。そんな次元の出来事ではありえなかった。
「枷の取り払われたブリュンスタッド。その力の一端だ。それとても朱い月そのものではない。無意識の抵抗が生み出した、単なる暴走に過ぎぬ」
 音も無く志貴の側へ歩み寄り、ゼルレッチが呟いた。
「今見せた事は遙か過去の出来事だ。だが、それは確実に訪れる未来でもある」
「……いつか、いつかアルクェイドがああなるって。あなたはそう言うんですか」
「左様。それは避ける事の出来ない未来だ。真祖である限り、吸血衝動には確実に飲み込まれる。それが十年先か、百年先か。あるいは明日にも引き起こされる事かも知れぬな」
 その瞬間、志貴の背中を怖気が走りぬけた。
 拙い。脳が理解するよりも早く、あらん限りの力で彼はその場を飛びのく。
「何、を……」
 身構えて、ゼルレッチに顔を向けた志貴の息が詰まった。
 彼の様子には何の変化もない。ただ杖に手を置き志貴を見つめている。しかしその瞳の色が変わっていた。
 烈火のごとき怒りを宿した目で、志貴を睨みつけている。その圧力だけで志貴の背中を冷たいものが流れ落ちる。
「惜しかったと悔やむべきか。君を褒めるべきか。もう一瞬遅ければ――」
 怒気が殺意に膨れ上がる。ローブが大きくはためいた。ゼルレッチは一歩だけ踏み込んで、無造作に杖を振るう。互いの距離はその何倍もある。当たるどころか届く筈もない。それでも警報を鳴らし続ける生存本能に任せて、志貴は後ろに身を投げ出した。
「な、くぁっ?!」
 かわした、と思った瞬間だった。
 志貴の体が、まるで木の葉のようにあっさりと舞い上げられた。錐揉み吹き飛ばされた体の自由が、思うように取り戻せない。
 ――竜、巻、なのか――?
 揺さぶられる頭で考えた志貴は、必死に体勢を立て直そうとした。この勢いでは天井でも壁でも、叩きつけられれば怪我ではすまない。しかし手がかりも足がかりも、虚空に存在する筈もない。
 次の瞬間、吹き荒れる風の向きが変わった。
「な、ぁぁぁっ?!」
 上から下へと、叩きつける不可視の鉄槌のごとく。弄ばれた志貴の体は、石造りの床に叩きつけられた。
「か……はぁっ……」
 肺の中の空気が全部叩き出された。視界が激痛で真っ赤に染まっている。指先に力が入らない。ちゃんと胴体と繋がっているのがいっそ不思議だった。
「この程度で、君は動けなくなる。もう一撃加えれば、命の欠片も消えうせる。」
 無造作に歩み寄ったゼルレッチが、志貴の胸倉を掴み引きずり上げた。
「く……ぅ……」
 振りほどける力などない。朦朧とする意識で志貴はただ、ゼルレッチの顔を睨みつけた。
 激痛と混乱に揺らぐ視線を、それでもゼルレッチからそらさなかった。
 それを受け止めたゼルレッチの口元が、かすかに歪む。
「息があった事だけは褒めておこう。だが、その脆弱な身ではアルクェイドが堕ちた時、真っ先に殺されるのは間違いあるまいよ」
「そ、そう言われて……諦めるほど物分りが良いように見えるか、よ……!」
「減らず口は嫌いではない。だが、君は今死に掛けた。あれには慈悲がない。結果は火を見るより明らかだと思わんか」
 端の切れた唇を、志貴はきつく噛み締めた。
 試されている。そう思った。ただ殺すつもりで来ているのなら、このような回りくどい手段を取る必要などない。人間など蟻を踏み潰すように殺すだけの力を持っているのだから。
 だから痛みにかすれる声で、志貴は叫んだ。
「そ……れでもっ! それでも俺は命を掛けてあいつの側にいるって決めたんだよ!」
「増長するな、小僧っ!」
 大地が揺れた。
 天蓋が震え、石床が衝撃で波打った。
 世界が転げるような、正に怒号だった。
「命を掛けると言うか。死ぬ事など恐れないと言うか。うつけ者が! 自分の命を掛けることなど、覚悟でも何でもありはせん。投げ捨てられた命など、掛け金に値せぬわっ!」
 襟首を締め上げられたまま、志貴は力任せに引き寄せられた。
「君が背負う覚悟はな、世界を敵に回しなお生き延びる絶望的なものだ。アルクェイドが堕ちれば、この世全てが打ち倒さんと襲い来る。遍く全てを敵に回してなおアルクェイドを守り抜かねばならんのだ。私も、アルトルージュ殿も、教会も、協会も。共に在るという事は、無駄死にすら許されん。君にそれが出来るのか? 今ここで私にくびり殺されそうになっている君に、それが出来るというのか!」
 ゼルレッチの手に力が篭る。ぎちぎちと、嫌な音が志貴の首から発せられている。窒息より先にこのままでは、首の骨がへし折れてしまうだろう。
 ちくしょう。
 薄れる意識を必死で繋ぎとめるように、志貴は毒づいた。声にならない怒りを、心の中で履き捨てた。
 好き勝手な事ばかり言って回りやがって。目の前の男も、アルトルージュも、どいつもこいつもアルクェイドのためなら脇目も振らないときたもんだ。
 アルクェイドを守り抜く? 自分とは比較にならない力の持ち主に、おこがましくも手を差し伸べる?
「…………こ、の」
「どうした。何か言う事があるなら言ってみるが良い」
 ゼルレッチの言葉など、今の志貴にとってはどうでもよかった。
 血の通わない指先に、僅かに力が戻ってくる。震える唇を血が出るほど強く噛み締めて、飛びかけた意志を引き戻した。
 小指から順に、あらん限りの力を込めて、志貴は拳を握り締める。
「…………あ、アルクェイドはな」
「うむ?」
「あいつは、俺の女だっ!」
 僅かに肺に残った空気を搾り出し、叫んだ。
 渾身の力を振り絞って、志貴は固めた拳を突き上げた。
「むぅっ?!」
 命がけのその一撃は、幼児のような弱々しさだった。
 狙い過たず顎に突き立てた拳には、鉄の塊を殴ったような感触しか伝わってこなかった。
 それでも、ゼルレッチの手から力が抜けた。糸が切れたように崩れ落ちた志貴は、喉を掻き毟り荒い息をついた。
 仰向けに転がった志貴を、ゼルレッチが静かに見下ろしている。逃げるべきだと頭の中で声がしていたが、立ち上がる力も残っていなかった。だから志貴はそのまま彼の顔を睨みつけた。
「……それが、君の答えだと言うのかね」
「ああ、そうだよゼルレッチさん」
 擦れ潰れた声で志貴は答えた。
「ブリュンスタッドだとか、朱い月だとか、実際の所は知ったこっちゃないんだ。俺にとってあいつは、好きな女の子でしかないんだからさ。だから誰にも渡したくないし誰にも譲れない。あいつの隣は俺だけの席だ。だからゼルレッチさん、俺をあいつの所に連れて行っていってくれ」
「――今アルクェイドは罠に掛けられ、眠りに落ちている。アルトルージュ殿はそこから救い出さんがため、死地へと赴いた。人の子である君ができる事は、現在の所ないのだぞ」
「なら尚更だって。彼女が困ってたら、側に行きたくなるのが男ってもんだろ」
「君のその思いが、アルクェイドの身を削る。側にいればいるほど、あ奴の寿命は短くなっていく。それでも君は側にいたいというのかね」
 ゼルレッチの声からは、もう怒りは消えていた。静かに諭すようなその言葉に、志貴は深く息を吐き出し目を閉じた。
 側にいれば居るほど、吸血衝動がアルクェイドの体を蝕んでいく。それが限界を超えてしまえば、あるいは先ほどの過去が未来に繰り返されるのかもしれない。
 それでも。
「ゼルレッチさん。あなたはアルクェイドが笑った所を見たことがありますか」
「……残念ながら、私が側にいた頃のアルクェイドは、笑うと言う事を知らなかったからな」
「あいつ、本当に良い顔をして笑うんです。俺からすれば何でもない事でも、本当に心の底から楽しそうに。俺と居るだけで楽しいって、こっちが恥ずかしくなるような事を真剣に言って来るんです」
 かつて夕日に照らされた校舎の中での、アルクェイドの言葉が志貴の頭に浮かぶ。
 ――なんの意味もないけど、それはきっと、きっとすごく楽しいよ―――
 今なら分かる。アルクェイドの過去を目の当たりにした今なら、その言葉の意味がなお一層伝わってくる。
 誰かのための意味ある在り方を求められ続けた彼女が、初めて自ら価値を見出したのだ。
 彼女にとっての価値のある生き方に、もうなくてはならない相手だと言われたのだから。
「ああ、確かにあいつの事を考えるなら。あいつに少しでも長く生きて欲しいのなら、俺は側に居ない方が良いのかもしれない」
 志貴は目を開き、よろよろと上半身を起こした。節々は今にもばらばらになってしまいそうなほどに痛かったが、幸いどこも折れていないようだった。殺すつもりとゼルレッチは言っていたが、相当に手加減されていたのだろう。
 苦痛に一瞬顔をしかめたが、それでも志貴は精一杯の意地を張ってゼルレッチに向かって笑った。
「でも、あいつの事を想ってるから、俺は絶対に側を離れない。あいつが堕ちるなら、その時は俺も一緒だ」
 ゼルレッチは無言で彼を見下ろしたままだった。否も応もなく、志貴の言葉に耳を傾けている。
「俺はアルクェイドのために生きる。俺はまだあいつに教え足りない。真祖だ、人間だ、なんて関係ないんだ。お互い好きなら、一緒にいればいるほど楽しいんだって、教え込んでやる」
 伝わっているのかどうかは分からなかった。だから志貴は、自分の正しいと思う事をぶつけるだけだった。
「……ほとほと、呆れ果てるほどだ」
 ゼルレッチの口から、深い深い溜息が漏れた。
「君のように我侭な男は、あまり見た記憶がないな」
 その口元には苦笑が浮かんでいる。それで志貴は、伝わったのだと理解した。
「そうかもしれない。でも、アルクェイドの事だけは譲りたくないんだ」
「ならば、その我侭を張り通してみよ。あるいは私の見る未来とは、別の物が見えるかも知れん」
「ああ、引かないよ」
 力強く頷いた志貴は、ゆっくりと差し伸べられた手を掴んだ。途端力任せに引き上げられて、全身が悲鳴を上げる。
「つ、痛ぅっ?!」
「夜までには痛みも引こう。日付が変わる頃に迎えに来るから、それまでに準備を済ませておくといい」
 呟いたゼルレッチは身を翻す。それと同時に、天蓋は砕け金色の光を放ちながら溶け消えた。壁も、天鵞絨の緞帳も、舞台も客席も、陽光に晒された氷のようにその形を失っていく。
 志貴が声を掛ける間もなかった。ゼルレッチの姿も徐々に薄くなり、そして完全に消えてしまう。
 まるで今までの事が夢であったかのように、志貴の視界に冬の白が戻ってくる。
 途端、吹き付けてくる寒風に彼は身を竦めた。
 まるで嵐のように傍若無人な人だった。相手の都合や意志などお構いなしだ。アルクェイドの関係者と言うのは皆そうなのだろうか。
「ともあれ、だ……」
 手がかりはつかめた。もう手を離すつもりはない。
 しかしその前には一つ、越えなければいけない物がある。
 降り積もった雪は辺りの音を吸い込み、静寂を作りあげている。それでも志貴の耳には風に乗ってその声が聞こえてきた。
「兄さん! おられるのでしたら返事をしてください! 兄さん!」
 何も言わずに飛び出たのだから、心配して捜しに来るのは当然のことだろう。
 志貴は自分の姿を見直してみた。ボロボロのコートにジーンズ。腕も足もいたる所が悲鳴を上げている。熊と格闘してきたかのような有様だ。
「……そっちの方が遙かにましだった気もするけど」
 志貴は苦笑して、秋葉の声のする方へとよろよろと足を踏み出した。









 深い溜息をつき、秋葉はティーカップをソーサーに戻した。乾いた音が一度今に響き渡るが、すぐに沈黙が置き換わる。
 そして向かい合う志貴もまた無言で、その視線を受け止めていた。その手首にも額にも厚く包帯が巻かれ、傍らに控える翡翠が心配そうに見つめている。
 口を開きたくても開けない。遠野家の居間は、重苦しい空気に包まれていた。
 簡単に納得してもらえる、などとは志貴も思ってはいなかった。話さずにそのまま行ってしまえるなら、その方がどれほど楽だっただろう。
 しかし三人とも、志貴にとってかけがえのない家族なのだ。突然姿を消して、余計な心配を掛けるわけには行かない。アルクェイドに向ける愛情と彼女たちを愛しむ気持ちは、向きは違っても重さに代わりがあろう筈もない。
 だからどれだけそれが困難でも、説き伏せて旅立つつもりだった。その決心も、無言で見つめてくる妹の顔の前ではくじけそうになってしまうのだが。
 アルクェイドを捜しに行ってくる。
 その一言から、秋葉の態度は急転直下である。
 それでも、口を閉じていては始まらない。折れ掛けた心に活を入れて、志貴は口を開いた。
「……心配するな、なんて無茶が言えないのは分かってる。でもあの人は信用に値する人だと思う。だから俺は信じて、付いていく」
 それを聞いた秋葉の肩が小刻みに震えている。形良い柳眉が釣りあがり、志貴を見つめる視線が鋭さを増した。
 激情が彼女の心の縁まで盛り上がり、あっさりと零れ落ちた。
「何を言っているんですか、兄さんは!」
 両手を叩きつけた勢いで、樫のテーブルが揺れた。声の端が震えているのは、怒りのために間違いない。掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出して、秋葉がまくし立てる。
「兄さんはその人に殺されかけたのでしょう!? その相手を信用するだなんて、一体何の冗談ですか!」
「秋葉、だからそれは……」
「あの場で殺されなかっただけで、次がないだなんてどうして言い切れるんですか! 一度でも兄さんを殺そうとした相手を、信用しろだなんていわれてできる家族がどこにいるんですか! 私の言う事は、何か間違っていますか?!」
「それは……」
 間違っていない。
 正論だと、他ならぬ志貴自身も思う。逆の立場で首を縦に触れるかと言われれば否だろう。
 言葉に詰まった彼を見て、少しだけ落ち着きを取り戻したのだろう。椅子に腰を戻した秋葉は一度息をついた。怒りの色が薄れ、その表情に憂いが混じる。
「そもそも兄さんには海外経験がないでしょう。向こうでもし置き去りにされたら一体どうするおつもりですか? 言葉の壁。風習の壁。どれ一つだって簡単に越えられるものではありません。連絡を取るために電話一つ掛けるのだって四苦八苦されるに決まってます」
「いや、それくらいはなんとか……」
「出来ますか? 大体パスポートも持ってないでしょう。身分証明がなければ、受ける扱いは犯罪者と変わらないんですよ?」
 あくまで正論で詰めてくる。秋葉の言葉に志貴は顔をしかめるしかなかった。
 目的は観光ではない。人の世界とは外れた場所へ足を踏み入れる事になる。そういった所で納得する筈がない。どれだけ異常な目を持っていても。少しばかり体術がつかえたとしても。遠野志貴と言う存在は人間でしかないのだ。人間の世界と切り離されて、歩み続けられるわけもない。
「行かれるのがこの日本国内であるのならば、そっと送り出す事だって出来るかもしれません。どれだけ窮地に陥っても、この家の力であれば必ず助ける事が出来るでしょうから。でもヨーロッパはいろんな意味で遠すぎるんです。そこに突然行くと言われて、納得できると思いますか?」
「……急な話になってしまったのは悪いと思ってる。でも、今しかチャンスはないんだ。俺一人じゃアルクェイドの足取りを追うことなんか出来ないって分かってる。でもこのまま待ち続ける事なんかできないんだよ」
「受験を控えておられると言う事をお忘れですか? 今行けば、それを投げ出す事になるんですよ?」
「いきなり約束破りで、しかも遠野の長男が浪人だなんて格好付かないとは思うけど。でも、今のままじゃ正直受験なんて考えも出来ないよ」
「……本当に、約束を守って下さらないんですね、兄さんは」
 そう呟く秋葉の顔を見て、志貴の胸の奥に鈍い痛みが走った。
 激昂して、頬を張られる。手ひどい言葉でなじられる。それらであれば何と生易しい事だったか。常日頃気丈に振舞う秋葉だからこそ、その裏には繊細な心を抱えている。それを吐露されるのが、一番堪えた。
 約束を守り、アルクェイドの帰りを待ち続ける。秋葉の兄としても遠野家の長男としても、それがよりよい選択なのかもしれない。これが他の事ならば、喜んでそちらを選んだことだろう。
 だがどうしても思いとどまれない。ひどい兄貴だと、志貴は自嘲する。妹の気持ちを全てわかっていて、それを踏みにじろうと言うのだから。
「……いくら謝っても足りないのは分かってる。気の済むまで責めてくれてもなじってくれてもいい。でも、掴んでも溺れる藁かもしれないけど、俺はどうしても言って確かめたいんだ。アルクェイドに何が起きたのかを」
「何にもないかもしれませんよ? アルクェイドさんは、悔しいですけど私たちより遙かに強いんです。それはアルトルージュさんも一緒です。本当に連絡を忘れているだけで、今頃まだ向こうで遊んでいるかもしれませんよ?」
「それならその方が良い。きつく叱ってとんぼ返りして来れば良いんだから。でも俺が同じ事をしたなら、秋葉だって絶対叱り飛ばしに駆けつけて来るんじゃないのか」
 今度は秋葉が言葉に詰まる。志貴は身を乗り出して続けた。
「お前の言う通り、俺は向こうへ行っても右往左往するだけかもしれない。だから、こんな事を言うのは間違ってるかもしれないけど、力を貸して欲しい」
 本当に殴られるつもりで、志貴はそう口にした。
 しかし秋葉はその言葉に息を呑み、まじまじと彼の顔を見つめてくる。
 ややあって、大きく息を吐き出した秋葉は呟いた。
「本当に兄さんは、あの人の事ならいくらでも我侭になるんですね。いつもはこちらが心配するくらい、何事にも執着が薄いと言うのに。たまのおねだりは決まって私を困らせる事ばかりで」
「……すまん、秋葉」
「謝る必要はありません。大きな大きな貸しですから、ちゃんと返してもらいますよ?」
「もちろん、それは……」
 言い掛けた志貴を遮って、秋葉は立ち上がった。そのまま志貴の後ろに回ると、肩から手を回してそっと寄り添う。
「秋葉……」
「いいですか、兄さん。必ず帰ってきてください。勝手に死んだりしたら絶対に許しませんから」
「…………ああ、分かってる」
「兄さんの命の半分は私の物なんです。勝手に使い込んで踏み倒したりなんかしたら、地獄の果てまで取り立てに行きますからね? 覚悟していてください」
 志貴からは秋葉の顔は見えない。だが耳に届く秋葉の声は微かにくぐもっていた。
 志貴は目を閉じて、胸に置かれた秋葉の手に、自分の手を重ねた。
「困るな、何が何でもそんな事はさせられない。這ってでも帰ってこないと」
「ええ、お願いします」
 こつんと、志貴の頭の上に秋葉が額を重ねる。うっすらと伝わる温もりに、胸の奥が熱くなる。
「わたしからもお願いします。志貴さま、無事に帰ってきてください」
 無言で控えていた翡翠も、そう言って深々と頭を下げた。
「志貴さまがお戻りになられて、そしてアルクェイド様がお見えになられてからのこの家が、わたしは好きです。それが失われるのは耐えられません。ですからどうか、お願いします」
 ああ、本当に幸せ者だ。
 背を向けていて良かったと、志貴は思った。目の端が熱くなっているのを、あまり二人に見られたくはなかった。
「ああ、約束するよ翡翠。絶対に、欠けさせたりはしない」
「そうですよ、志貴さん」
「えっ?!」
 突然響いた聞きなれた声に、志貴と秋葉の声が重なった。慌てて振り向けばそこには、楽しそうに笑う琥珀の姿がある。その手には、張り裂けそうなほど膨れ上がったデイバッグが抱えられていた。
「こ、琥珀さんっ」
「あなた、いつの間に入ってきていたの?!」
「秋葉さまがぎゅっと志貴さんを抱きしめている辺りからこっそりとですよ? 折角の場面をみすみす水を差すわけには参りませんから」
「琥珀ッ?!」
「秋葉様、頼まれていた物を準備しておきました」
 顔を真っ赤にしてまくし立てようとした秋葉を制して、琥珀は志貴の目の前のテーブルに、そのデイバッグを置く。そしてその隣にクレジットカードと、グレーのシンプルなデザインの携帯電話が置かれる。
「……これは一体?」
「着の身着のままでいかれるおつもりですか、兄さん。さし当たっての着替えと日用品を用意させておきました。クレジットカードの限度額には余裕を持たせてありますから、気にせず使ってください。スキーム対策もしてありますから、現金を持ち歩くより安全です。それとその携帯電話は、えっと……」
「イリジウム衛星携帯ですよ、志貴さん。基本的に世界中のどこにいても繋がる筈ですから、こまめに連絡してくださいね?」
「あと、こちらをお持ちください」
 翡翠が差し出した黒革の手帳を、志貴は受け取る。そこには見覚えのある丁寧な字でびっしりと、人の名前や店の名前が書き込まれている。
「遠野家と懇意にしていただいている、ドイツを中心にした欧州在住の方の連絡先です。あまり多くはありませんが。どの方でも良いですので、困った時には連絡してください、必ず兄さんの助けになりますから」
「秋葉、それに琥珀さん、翡翠……」
 胸が詰まって、志貴は言葉が出てこなかった。
 何の事はない。全部用意されていたのだ。こちらが何を考えているのかなど、彼女たちは先刻お見通しだったという事だ。
「勘違いしないでください。怒っているんですよ? 勝手な事ばかりする兄さんには、本当に腹を立てているんですからね」
「……すまなかった。本当に、俺はいつも迷惑を掛けてばかりで」
「ええ。ですが今回はこうやって打ち明けてくださいました。一人で抱え込まないで、ちゃんと私たちを頼ってくださいました。それがとても嬉しかったんです」
 今日初めて秋葉の顔に浮かんだ微笑は、志貴が見とれるほどに柔らかく、心安らぐものだった。
 思い知らされた。
 たとえ血は繋がってなくても。本来ならば相対する間柄だったのだとしても。秋葉は意地っ張りで心配性で、本当に優しい自慢の妹なのだと、心底志貴は思い知らされた。
「何度も言いますが、無事に戻ってきてください。私がお願いするのは、それだけです」
「ああ……ああ。ここまでされてうっかり死んだりとかなんか、出来る筈ないよ。必ず無事に帰ってくるから、心配するのは少しだけにしておいてくれ」
 そう言って志貴は立ち上がり、三人に向かって深々と頭を下げた。
 アルクェイドのいる先で、何が起こっているのか。今はまだ想像も付かない。だけどこれだけの思いを背負ったのだ。
 必ず、必ずアルクェイドを連れて戻ってくる。唇を噛み締め、志貴は心に刻んだ。



続く。



  
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