月姫対フェイト そのカレーは私のもの。



 この作品は激しいネタばれこそ避けてますがタイプムーン最新作、フェイトをプレイしないと面白くなくかつ、少しだけネタばれも含んでます。少なくてもセイバ
ー編だけでも終わらせてから読むことをお勧めします。もちろん、全部をクリアしてから読んでくれたほうが嬉しいです。僕のはセイバー編を軸に凛と桜も
少し入った後の聖杯戦争その後のお話ですから。



第一夜 シエルと志貴




「遠野くん。今度の日曜日は暇ですか」
 ある日の昼食時、シエルは志貴にそう話し掛けた。二人はいつものように茶道室で食事をしている。シエルの弁当箱(志貴の分を差し引いてもかなりの量になる)のおかずをつまんでいた志貴は少し考えてから、
「いや、特にないよ。秋葉もアルクェイドからも誘われてないし、たしか、琥珀や翡翠からの用事も聞いてないしね。何かあるの」
 なんというか女心をまったく無視した発言をする。
「そうですか。そうですか。でしたら少し付き合って欲しいのです。少し離れた街ですが期間限定の美味しいカレーの店を見つけたのですよ」
 と、シエルは少しこめかみを引きつかせながら言った。
「へえー、どんなカレーなの」
 妙なときに鋭いのに肝心なときに鈍い。志貴はシエルの心情を気づかずに聞く。
「ビフカツカレーです。メシアンのカレーはそれはそれで美味しいのですがインド風カレーが主流です。わたしは久しぶりに美味しい洋風カレーを味わってみたいのですよ」
 そう言って、シエルはなにやら束ねられた紙を見せる。どうやらパソコンのネットで検索した情報をプリントアウトしたのだろう。
 シエルの仕事柄、パソコンはある意味必須道具だ。情報収集に迅速な連絡手段。しかし、シエルは少しだけ趣味に走っている。そう。美味しいカレーの店の検索に使っているのだ(本当に少しだけですよね。たぶん。もしかしたら。だったらいいなー)
「華月亭という洋食屋さんなんですよ。期間限定の上に数量限定の貴重品。ビーフブイヨンとビフカツの絶妙なマッチが自慢なんです」
 もう目をきらきら輝かせてシエルは言った。
 志貴は少しため息をつくと印刷された紙を見る。そこには大阪の有名な店で修行したシェフが地元の冬木市に帰り店を開いたという。大阪の店の名物を開店記念に振舞うという物らしい。でも、確かに──
「美味しそうですね」
 志貴がそう呟くと、
「そうでしょう。そうでしょう。行きましょう。行きますよね」
 とシエルは迫ってくる。志貴はただ、頷くしかなかった。


 第二夜 士郎とセイバー



   聖杯戦争終結後、セイバーは消えていった。元の世界に返ったのだ。衛宮士郎には日常が戻ってきた。
 桜がいて遠坂がいる。藤ねえがいてイリヤがいる。だけど、心には孔があいていた。普段とは変わらない生活をしながらも孔が……
 だけど、その孔は唐突に埋まった。



 ──問おう、貴方が私のマスターか。


  いつものように土蔵で一人で魔法の修行をしていた。瞑想しながらかつてのセイバーの剣を思い浮かべていた。
 投影する気はない。
 ただ、思い浮かべていただけだ。
 セイバーとの想いを胸に思い浮かべていると──
 光と共にセイバーが現れた。
 士郎は口をぽかんと開き、セイバーを見る。言葉はない。何が起きているのかさっぱり分からない。
 セイバーは前と変わらずりりしく美しく輝いていた。
 青いドレスのような鎧。
 綺麗な瞳に束ねられた金髪。
 初めて会った衝撃そのままだ。
「シロウ。どうしたのですか」
 ふと、厳しい顔を緩めてセイバーは言った。戦士の顔でなく少女の顔で微笑んでいた。
「セイバー」
 士郎はなにも言わずに抱きしめた。堅い鎧を通してセイバーの暖かく柔らかい肢体を感じた。
 帰って来た。セイバーは帰ってきたのだ。ただ、抱きしめる。何も言わずに抱きしめたのだ。
「シロウ。少し痛いです」
 セイバーの声に士郎は、やっと顔を上げる。
「ごっ、ごめん。セイバー。痛かったかな」 
 すぐに謝る士郎に、
「いいえ。これで私も帰ってきたという実感が湧きました」
 そう言って二人は再び抱き合った。
 優しく。
 柔らかく。
 愛しげに
 抱き合ったのだ。



「それじゃあ、どうしてここに帰ってこれたのか、セイバーにも分からないのか」
 士郎の問いかけにセイバーは頷いて、
「はい。私は森で息絶えました。聖剣を湖に返し眠ったのです。その時、士郎の顔が浮かびました。そしたらここに居たのです」
 セイバーも訳が分からないという感じで言った。
「現に聖剣は私の手元にはない。今の剣は業物ですが別の物です。私がここに居る。これは確かに嬉しいことです。しかし、不可解なことではあるのです」
 セイバーは自分の手元を見て言った。自分がここに居る。これは一体どういうことなのだろうか。
「なんにせよ、俺はセイバーがここに居ることが。帰ってきたことは嬉しいよ。剣がなくてもいい。俺はセイバーが居てくれればいいんだ」
 士郎は優しく微笑んで。
「お帰りなさい。セイバー」
「ただいまです。シロウ」
 セイバーも優しく微笑んでいったのだ。   



 第三夜 二人だけのデート




 セイバーが帰って来た。嬉しいことだ。しかし、状況は悪化した。
 聖杯戦争によって家族を全員失った桜は強引に衛宮の家に住み込んだ。元の屋敷は処分したのだ。
 遠坂も衛宮の家に住み込んだ。家はきちんとあるのだが‘私は貴方の魔術の師匠よ。何か文句あるの’そういったのだ。
 藤ねえとイリヤも住み込んできた。藤ねえはこの家の保護者として強引に主張しイリヤも同調した。
 要するにそういうこと。
 誰もが誰も狙っているのだ。
 士郎の事を。
 広い家が一気に大所帯。それはそれで嬉しい。賑やかで活気がある。毎日が楽しく過ごせる。
 けど──
 士郎とセイバーが二人きりになることは出来なかった。
 ことごとく皆が邪魔するのだ。
 例えばセイバーは学校には通うことは出来ない。遠坂と桜は積極的に士郎の所に来る。
  美綴綾子はそんな関係を笑ってみていた‘まさか、凛の相手がアイツとはね。桜はなんとなく分かるんだけどね。まったく、不思議だよ。こんな奴の何処がいいのだか’
 家でも同じだ。居間にはみんなが居るし、道場での剣の稽古にも藤ねえが出張ってくる。
「セイバーちゃんが強いのは認めるけど、剣道としての型はなってないのよね。ここは先生が教えてあげないとね」
 みんなとの生活は嫌ではない。むしろ楽しい。
 だけど不満でもある。
 二人きりになれないのだから。
 だから──
 だから、二人きりでこうしてデートに出れたのはまさに僥倖と言えた。
 もちろん、家でそんなことは出来ない。セイバーをデートに誘えば一波乱も二波乱も待っている。
 少し策を練った。
 士郎はマウント深山商店街のなじみの店に頼みこんだ。そこにセイバーに買い物を行かせメモを渡してもらったのだ。
 ある日の日曜。家に電話が掛かってきた。士郎の友達、一成からだ。二人きりで遊びたいと士郎は出かけていった。
 セイバーは朝早くから出掛けていた。
 そうやって、二人はみんなを誤魔化し新都の方へデートに行ったのだ。
 楽しいひと時だった。
 どうしてセイバーがここに帰ってきたのかはまだ分からない。
 けど、この幸運を少しでも楽しもうとした。
 いろいろ遊んだあと、昼食に向かうことにした。
 既に士郎は地元のタウン情報誌で目星をつけてある。
「そういえば、セイバーはカレーをまだ食べたことないよね」
 士郎はそう言って笑って聞いてみる。
「カレーですか……確かにそうですね。食べたことありません。辛くて美味しいとは聞いたことありますけど」
 セイバーは少し考えていった。セイバーの故郷では当時香辛料はかなり貴重品だった。カレーというのは辛い食べ物は未体験であろう。
 衛宮家では桜と士郎が食事の担当している。しかし、その中でなぜかカレーが食卓に出たことは一度もなかった。士郎としてはセイバーに少しでも食べたことないもの味あわせたかったのだ。
「辛いのは大丈夫だよね」
 士郎の問いかけには、
「はい。カレーというものは一度は食べてみたかったです。本当に楽しみではあります」
 と、満面の笑顔でセイバーは言った。
「そうか。じゃあ、楽しみにしてくれ。ここのビフカツカレーは美味しいと評判だぞ」
 そう言って士郎はタウン情報誌──華月亭という洋食屋のページを開いて見せたのだ。



 第四夜 駅前パーク 華月亭にて バトルの予感。




 新装開店の華月亭は大きく賑わっていた。赤いレンガで出来たこじんまりとした店に多くの客が詰め寄せてきた。
 だから──
 こういうことは仕方ないかもしれない。
「すみません。相席というかたちでお願いします」
 士郎とセイバーは四人テーブルに案内された。既にそこには二人の客が座っている。自分たちと同じ男女のカップル。年齢は同じくらいだろうか。男は自分と同じ日本人だが女性のほうはセイバーと同じ白人というのは不思議な偶然だ。
 男のほうは柔らかい顔つきで黒縁の眼鏡をかけている。服装は黒のカジュアルシャツにズボン。
 黒のジャケットは自分のいすの背たれにかけてある。本当に人畜無害な印象だ。こちらの方を優しい目で見ている。
 女性の方も男のほうと同じく眼鏡をかけている。深い青のツーピースに白いジャケットを男と同じく椅子にかけてある。白いハンドバックは自分のひざに置いてある。なんというか美人。少なくてもセイバーよりはスタイルがいいだろう。ふくよかな胸とお尻の曲線は見事だ。なぜか、自分たちよりも大人に見えた。一瞬、こちらを見る目が鋭く感じたのは気のせいだろうか。
「どうも、お邪魔します」
 士郎は先に座っている二人に話し掛け、セイバーをエスコートし自分も座った。ふと、セイバーを見ると表情が少し硬い。緊張しているという訳ではないみたいなのだが。
「いいえ。俺たちも来たばかりですし。この混雑では仕方ないでしょう。あっ、俺は遠野志貴といいます。こっちが学校の先輩のシエルです。本当はちょっと離れたところに住んでいるのだけど、ここのビフカツカレーを食べに少し遠出してみたんですよ」
 男のほう──遠野志貴は人懐っこく笑いながら士郎達に話し掛けてきた。
「ははっ。同じですね。俺は衛宮士郎。こちらがセイバー。まあ、こいつの街案内というかなんというか、そんな感じでね。セイバーはカレーを食べたことないというので体験させてみようと来たんですよ。よろしくお願いしますね」
 うん、悪い人たちでないな。そう思いながら士郎は志貴たちに挨拶した。しかし、打ち解けた男たちと違ってシエルとセイバーは緊張した顔つきで「よろしく」と挨拶したまま話そうとしない。なにか警戒しているようだ。
「シロウ」
 セイバーはシロウの耳元に小声で話し掛けた。
「気をつけて下さい。この二人はただ者ではありません」
 信じられないことを言った。
「えっ、それ、どういうことだセイバー」
 士郎には少し信じられない。目の前のカップルはどう見ても普通のカップル。人畜無害に見える。
 確かに女性のほうは少し睨んでいるように見えるのだが──
「静かに。まず、男性のほうですが。かけている眼鏡は普通ではありません。度が入ってないし、何よりあれは魔眼封じの眼鏡。こめられている魔力は尋常ではありません。おそらくキャスターですら破壊することは出来ないでしょう」
 その言葉には士郎は息を飲む。神代の世の魔力を誇るキャスター。現代の魔術師でキャスターに匹敵するのは恐らく数えるほどしか居ない。
 目の前の男、志貴がかけているのはそんなキャスターですら破壊できない眼鏡をかけている。いや、問題はそこではない。想像を絶する魔力をこめなければ封じられないほどの魔眼とはいかなるのか。
 士郎には想像つかない。
「女性のほうも同じです。見た感じ、只者ではありません。魔術回路の数、魔力貯蔵量もかなりの量です。恐らく、リンをはるかに凌ぐでしょう。もしかしたら私以上の魔力貯蔵量があるかもしれません」
 こんどこそ士郎は息を飲む。遠坂は天才だ。自分など足元にも及ばぬほどの魔術師だ。さらにセイバーの魔力貯蔵量は遠坂の三倍以上。それを目の前の女性は凌駕している。にわかに信じられない話だ。


「遠野くん。気をつけて。目の前の二人は只者でないわよ」
 シエルは志貴に静かに話し掛ける。
「うん。どういうことかな、シエル先輩」
 志貴は何気ない表情で二人をちらりと見てシエルに話し掛ける。
「たぶん、男のほうは魔術師よ。なんか見たことないタイプです。それより問題なのは女性のほう。あれは人間ではないです。たぶん受肉した精霊。少し違うけど、あの、アーパー吸血鬼のアルクェイドと似たような存在ですね」
 そう言って、シエルは志貴に注意を促す。しかし、志貴はふーんと頷いたあと、
「けど、悪い奴じゃないんだろう。見た感じはそんな気配ないし、こっちから何もしなければ、たぶん手を出してこないよ。そうだろうシエル先輩」
 そういって、シエルを嗜める。志貴とて目の前の二人が普通でないのは分かる。幾多の経験が告げているのだ。しかし、同時に二人が悪い奴でないのも分かる。むしろ、すがすがしい光すら感じる。
「そっ、それはそうですけど……」
 少し顔を赤らめて恥じながらシエルは言った。
「そういうことだよ、シエル先輩。さっ、今日は楽しもうよ。そのために来たんだから」
 志貴がそう言って笑う。同時に店員が志貴達のテーブルに来る。
「大変お待たせしました。ご注文をお伺いします」
 志貴達四人はこぞってビフカツカレーを注文するのだが……
「申し訳ありません。ビフカツカレーはあと、二品のみとなっているのです」
 この言葉にお互いに顔を見合わせるが、
「セイバー、お前がビフカツカレーを食べろよ。俺の分はいいから」
「シエル先輩に譲りますよ。先輩はこれが楽しみでここまで来たのですから」
 と、二人の男性陣がそろいもそろって女性陣に譲ったのだ。
「あっ、ありがとうございますシロウ」
「ああ、すみませんね遠野くん」
 セイバーは少し恥らいながら。シエルは嬉しそうに受け入れた。
 その後は少しお互いに談笑する形になった。
 もっとも、男性陣はともかく、女性陣は少し緊張していて口数は少なかったが……


   少し経った、ふと、厨房のほうから皿が割れる音が聞こえた。
 慌てた様子で店員がこちらのテーブルに来る。
「申し訳ございませんお客様。こちらの不注意でビフカツカレーが一品、提供できなくなりました。すぐに代替品を承ります。本当に申し訳ありません」
 店員の言葉に緊張が走る。既にカレーはビフカツカレーの二品以外は売り切れだ。
 セイバーとシエルは静かににらみ合う。
「セイバーさんでしたよね。わたし達は先ほども言ったとおり少し遠くから来ました。ですから申し訳ないのですがここは私に譲ってくれないでしょうか」
 シエルはにっこりと微笑みながら言った。しかし、そこはかとなく殺意というか敵意をにじませてプレッシャーをかけているのは気のせいだろうか。
「私はカレーという料理は初めて味わうのです。先ほどの話ではシエル殿はカレー好きで、これまでさんざん食べていると伺いました。シロウと二人でこうして出ることは私にはとても難しいことなのです。ここは私にぜひとも譲っていただきたい」
 セイバーも負けじとシエルを睨みながら言った。
 ピシッ。
 二人に火花が飛び交う。
 男性陣。士郎と志貴は声をかけようとするが。
「ふん。受肉した精霊ごときに崇高なるカレーの味が分かるものですか。勿体無くて、それこそ神の罰が当たります」
 シエルの痛烈な言葉に、
「貴女の方こそ──誤魔化しているようですが、私には分かります。貴女は血にまみれている。血と闇を纏わせている。そのような輩にこのような絶品は似合いません」
 それこそセイバーもシエルの古傷をえぐりこむ。過去を知るわけではないだろう。が、直感で探り当てたのだ。シエルの殺気は一気に膨れ上がり、セイバーも負けてはいない。
「……どうやら、決着をつけないと分からないようですね」
 シエルが呟くと、
「そのようですね。どちらがここのビフカツカレーを食べるか勝負です」
 セイバーも言う。
 同時に二人は立ち上がる。シエルは服を脱ぎ捨てるとカソック姿になる。セイバーも一瞬、光に包まれると鎧姿になる。
 カツッ。
 シエルの黒鍵とセイバーの見えない剣がテーブル越しにぶつかる。そのまま、斬り合いながら二人は外に出て行く。
 えっと。
 あまりの展開に男性陣──志貴と士郎は呆然とする。しかし、すぐに我に返り、二人の後を追う。



 
第五夜 第七司祭対騎士王




 シエルの投げる黒鍵をセイバーは簡単にはじき返す。二人はそのままオフィス街のビルの間を駆け上りながら闘いつづける。
 純粋なる剣技、パワーならばセイバーのほうが上だろう。しかし、シエルのほうが敏捷性は高く、このような立体的な戦場に手馴れている。耐久力にかけては互角といえよう。
 だが──
「そこまでです。シエル。貴女では私に勝つことは出来ない。あなたの剣の腕では私に敵わない。貴女の投擲術は私は完全に見切れる。貴女の魔術は私には効かない。あなたの勝利は絶望的だ。素直にカレーを私に譲りなさい。今ならば少しぐらい分けてもいい」
 ビルの外壁の取っ掛かりに立つとセイバーはシエルに宣言する。シエルも他のビルの取っ掛かりに立っている。
「あなたの方こそ観念しなさい。わたしもあなたを見切りましたよ、セイバー。なるほど。あなたは強い。そして、あなたの言うとおりでしょう。しかし、それがどうしたのです。わたしは今まで戦ってきました。その中にはあなたより強い奴存在しましたよ。ええっ。けど、わたしは生き残りました。なぜだか教えてあげますよ」
 そういって、シエルは再びセイバーに襲い掛かる。両手に三本ずつ黒鍵を握り締める。跳躍中に左手の三本をセイバーに投げる。打ち払おうとするセイバーにシエルが叫ぶ。
「水葬式典。風葬式典」
 一本の黒鍵が大きな水の固まりとなる。同時に二本の黒鍵が風となり水を暴風で撒き散らす。
「氷葬式典」
 さらに一本の黒鍵をシエルは投げる。水は氷のつぶてとなりセイバーの周りを襲う。
「くっ」
 セイバーはたまらず跳躍する。純粋なる魔力は無効化できるが物理的な効果となると難しい。大抵は鎧での防御力ではじき返せるがそれでも、うッとおしい事は変わりない。
「風王結界」
 セイバーの剣に風を纏わせる。周りの嵐を風で強引にはじき返す。
「土葬式典」
 そこにさらにシエルは一本の黒鍵を投げつける。黒鍵は大きな土の固まりとなるがセイバーの風の結界で砕き弾き飛ばされる。
「無駄です。シエル。まだ、分からないのです」
 土煙の向こうの人影にセイバーは語りかける。しかし──
「むっ」
 セイバーが体をひねれたのは今までの幾多の戦いの経験からだろう。その脇を一本の黒鍵がセイバーの腕にかすめる。致命傷ではない。しかし、服を切り裂き血が流れ出る。すぐに癒されるはずがなかなか癒されることは無い。
「さすがですね、セイバー。今の一撃を避けれるとは。しかし、わたしはまだまだ本気ではありませんよ。あなたにわたしの実力を少し見せただけなのです」
 土煙が晴れる。セイバーの認識した方向とは違うところからシエルが現れる。
「ぬっ」
 考えてみれば単純な戦法である。セイバーの感覚をかく乱させて必殺の一撃を見舞う。それだけのことなのだ。
 しかし、
 しかし、シエルはまったく油断のならない相手。人間とは思えないほどの怪物。
 セイバーは認識を改めてシエルを睨む。


「まったく、どういうことなんだよ」
 志貴は毒つきながら二人の後を追う。
「志貴さん。あのシエルさんて何者です」
 人の身でありながらセイバーと互角に闘う。にわかに士郎には信じられない話だ。
 かつて一人だけ人の身でセイバーと打ちあった人がいた。しかし、それは不意を突かれ予想出来なかったためだ。その後の戦いでセイバーはその人物を一刀の元に両断した。
 しかし、シエルは違う。セイバーはシエルを警戒していた。それなのに互角の戦いをしているのだ。
「代行者。教会の埋葬機関に属する第七司祭だよ。それよりセイバーも何者なんだ。見たところ、ただの人間に見えない。シエル先輩は精霊だといっていたけど、俺には魔に見えない」
 志貴の言葉に士郎は息を飲む。何かのおりに士郎は遠坂に言峰神父のことを聞いた。その時に言峰神父は代行者であると聞いた。そして──そのトップクラスに埋葬機関がある。そこに所属する者達は言峰神父を子供扱いにするほどの怪物たちだと聞いたのだ。
 たった一人でありながらその実力は一つの軍隊に匹敵する。
 詳しいことは遠坂も知らない。
 たった七人に予備一人。教会最大の神罰代行機関。それが埋葬機関なのだ。
「セイバーは英霊です。人を守るための偉大なる守護者と聞いてます。セイバーは少し外れているようですけどね」
 志貴の言葉に驚きながら士郎は答える。
「そうか……だから、反応しなかったのか」
 志貴は少し納得した。
 七夜の血は魔に反応する。魔は人に害を与えるモノ。人と相容れぬモノ。しかし、英霊は違う。英霊は人の希望の具現化したもの。魔とは違うのだ。
「どうするつもりなんです、志貴さん」
 士郎の問いかけに志貴は、
「もちろん、止めるんだよ。あのバカ女たちを」
 そういって走りつづけていた。バカに強いアクセントを志貴は置いていた。


 どうやら本気を出さないとやられるのはこちらですね。
 セイバーはシエルを見ながら考えた。
 なるほど、個々の能力はセイバーが確かに上回る。
 しかし、戦いとは強ければいいという訳ではない。
 自分の持つ能力をいかに組み合わせるかだ。
 そう言った意味でシエルは最大級の強敵だ。
 膨大な魔力。想像を越える体術。いくつも同時起動させている魔術。その全てに無駄が無いのだ。
 ランサーではありませんが嬉しくなりますね。このような強敵と戦えることは。
 身を削る戦いを望みながらも果たせずに消えたランサー。
 それを想いながらセイバーは少し笑った。
 セイバーとて戦士。強敵と剣を競い合うことには不快は無い。むしろ光栄に想う。
 ですが、これで終わりです。
 今のセイバーに絶対的な切り札というべき聖剣は無い。
 風王結界に守られている剣は業物スキョフニング。セイバーと同じ王として名高いロルフ・クラキ王が所有していた物。
 セイバーの聖剣のような圧倒的な力こそ無いが比類なき王を象徴する名剣なのだ。
 その剣にかけてセイバーは負けるわけには行かない。
 再び、シエルは六本の黒鍵を構える。このビルとビルの谷間という立体的な戦場ではシエルの方に一日の長がある。
 ならば、私の得意とする戦場に引きずり込むだけです。
 セイバーはそう思うと同時に風王結界を解く。
 風の封印が解け、業物スキョフニングが姿をあらわす。
 セイバーの聖剣ほどではないが名剣としてふさわしい風格がある。
 風が舞う。
 ビルの谷間に吹き荒れる。
 その中でセイバーは虚空に足を踏み出した。
 落ちることは無い。
 風王結界によって虚空に足場が確保されているのだ。
「なるほど、そういうことですか」
 セイバーはシエルと違って、まっとうな地面での戦場を駆け抜けてきた。
 この不安定な足場にして立体的な戦場のビルとビルの谷間ではその実力を十分に発揮できない。
 ならば、そのハンデを無くせばいい。
 風の力で虚空を自由に歩き回る。
 そうすればハンデは縮まる。
「ですが、そう簡単にうまくいきますかな」
 セイバーの風の護りは足場の確保にまわされた。
 後に残るは純粋なる剣技のみ。
 シエルとてそれは理解している。
 正面から斬りあえば負けるのはこちらだ。
 もちろん、生半可な投擲術は通用しないのも分かる。
 鉄甲作用とて同じだ。
 それでもシエルには自信がある。
「行きます」
 シエルも虚空に足を踏み出した。
 風王結界の作用でシエルも落ちることは無い。
 駆ける。
 シエルとセイバーは正面からぶつかり合う。


「ここか」
 いつのまにか眼鏡を外していた志貴はあるビルとビルの谷間に目をやっていった。
「ここ……ですか」
 士郎は目を凝らしてみるが何も見えない。
「ああ、ここにシエル先輩の結界が見える。それに風の結界か……」
 志貴の「直死の魔眼」に隠れがちだが志貴本来の魔眼に「淨眼」がある。これは見えざるものをみる眼。かつて、秋葉との戦いに思念で編んだ秋葉の赤い髪をこの眼で断ち切っていた。
「行くぞ」
 そう言って志貴はビルの谷間に入る。士郎も恐る恐る入っていく。
 カキンっ。
 風景が変わった。ビルとビルの谷間に風が舞う。その高く上空ではシエルとセイバーが虚空で斬り合っている。
 士郎は息を飲んでそれを見つめる。
「まったく、なにやっているんだか」
 志貴が軽く舌打ちすると飛び上がり宙に浮かぶ。風の結界の欠片を足場に上がっていくのだ。
「ちょっ、ちょっと、待ってくださいよ」
 士郎には志貴のように風の欠片が見えない。しょうがないからビルに入り階段を上っていく。



 第六夜 第七司祭対正義の味方 騎士王対殺人貴



 シエルの持つ黒鍵が弾き飛ばされた。そのままビルの壁面に刺さって行く。
 シエルは指の間に黒鍵を挟んで三本持つ。いくら驚異的な握力でもセイバーの剣と斬り合えば弾き飛ばされてしまう。何度弾き飛ばされてもシエルは黒鍵を指の間に挟んで持つ。
「追い詰めましたよ。シエル」
 再び、黒鍵を弾き飛ばし、セイバーはシエルに剣を突きつける。シエルは風の結果の上で尻餅をついて倒れこんでいる。
 手には一本の黒鍵を握り締めている。
「この状況下ではシエル。貴女にできる事は無い。何をしても私の剣の方が早い。シエル。貴女は強敵でした。それに免じてここで許してあげてもよいです。さあ、引いてください」
 セイバーに剣を突きつられても、シエルは不敵な笑みのままだ。
「セイバー。あなたは甘いですね。騎士道精神もいいですが、止めをさせるときは一気に差さないと足元をすくわれますよ。こんな風に」
 シエルが言うと同時にその体が落ちていく。風の結界の上で二人は戦っていた。シエルはそれを解いたのだ。
「なにっ」
 セイバーが驚くと同時にシエルは落ちながら黒鍵を投げる。
「鳥葬式典」
 セイバーの近くに黒鍵が飛び目の前で弾ける。同時に多くの鳥が乱舞する。
「くっ」
 セイバーが目の前の鳥を顔を庇いつつ払っていく。それを見たシエルはにやりと笑う。
「木葬式典」
 壁に刺さっていた黒鍵の一部が木になりビルの間に枝を伸ばす。まるでくもの巣のように枝を展開する。そこにシエルは着地する。
「これで終わりですよ。セイバー」
 新たな黒鍵を懐から取り出すとシエルは構える。見ると、セイバーは鳥の乱舞から逃れるため大きく飛び離れている。シエルとは反対側のビルの壁面を背にしている。そこにもシエルの黒鍵が突き刺さっている。
 シエルが術を起動させようとする。
「火葬──」
 だが──
「させない」
 シエルの近くにあるビルの窓を突き破って一人の少年が飛び出てきた。
「なっ──」
 シエルは言葉を失う。セイバーと一緒にいた少年。士郎だ。
「何をするつもりか分からない。けど、セイバーに手を出そうとするなら俺が相手だ」
 士郎は木葬式典に展開された木の枝にしがみ付いて言った。
「ふん、見たところ半人前の魔術師のようですが、それで何をするつもりです。武器も無しに手ぶらで挑まれるとはわたしも舐められたものですね」
 シエルは余裕たっぷりに笑っていった。だが、士郎の行動に息を飲む。
「武器? 武器ならあるさ。ここに。トレース・オン」
 士郎の呪文と同時に手には中国風の剣が二本握り締められている。一気に切りかかる。
「投影魔術? こんな素人に? いえ、これに特化した魔術使いということ?」
 シエルの驚きと分析。だが、斬りかかる士郎には冷静に対処する。
「なるほど。ただの剣ではなく、概念武装も施されている。侮れる相手ではありませんね。ですが、その程度の腕では私に通用しません」
 士郎の太刀筋を見切り、シエルは黒鍵で士郎の剣を二本とも弾き飛ばす。
「ある程度の場数を踏んでいるようですが、まだまだ甘い──なんですって」
 剣を弾き飛ばされても士郎はすぐに剣を虚空から取り出し斬りかかる。再びはじく。すぐに取り出す。
「なるほど──甘いのは私のほうですね。全力で生かせてもらいます」
 シエルは少し間合いを取り、黒鍵を二本構える。士郎も再び二本の剣を構える。
「行きます」
 駆ける。シエルは一気に間合いを詰めて突く。黒鍵は斬るより突きに特化した剣。息もつかせぬ速さで突きまくる。士郎は巧み双剣を使い防ぐ。だが、防ぐだけで精一杯で反撃は出来ない。少しずつ追い詰められる。士郎の顔に焦燥が走る。
「終わりです」
 再び、シエルは士郎の双剣の一本を弾き飛ばす。同時に首筋に剣を突きつける。
「さあ、降伏しなさい。命まで取ろうとは思いません。あなたはよくやりました。この私を驚かせたのですから。それに免じて許してあげますよ」
 シエルの剣の切っ先は士郎の首筋皮一枚の距離。何をしようとしても間に合わない。だが、士郎はにやりと笑い、
「シエルさん。あなたは言いましたよね。止めを差せる時にさせ。そうでないと足元をすくわれる」
 士郎を言葉にシエルは片眉を上げ、
「どういう意味です。この状況下であなたに何が出切ると言うのです」
 冷然と言い切った。
「こういうことさ」
 士郎の呟きと同時に四方八方から弾き飛ばしたはずの士郎の剣がシエルを襲う。なんと、ブーメランのように戻ってきたのだ。
「そんな馬鹿な──」
 シエルは慌てて襲い掛かる剣を弾く。その顔に余裕は無い。その隙に士郎は再び剣を投影する。
 光り輝く黄金の剣。
 防ごうとするシエルの黒鍵を断ち切りその顔面に剣が肉薄する。
「……なぜ、止めを差さないのですか」
 シエルの顔面ギリギリに剣を突きつけて士郎は刃を止めていた。
「下らない理由だからさ。戦いの理由がたかが一杯のカレーをどちらかが食べるなんて凄く下らない。少なくても俺はそう思う。分け合えるなら分ければいい。俺はそう思う」
 士郎の言葉にシエルはふっと表情を緩めて。
「確かにそうですね……わたしとした事が我を忘れてました。本当に下らない理由でしたね」
 そう言って力を抜く。同時に士郎の投影した剣もかすみのように消えていく。
「そういうことですよ」
 士郎も笑っていった。見るとセイバーのほうは志貴が諌めていた。


「くっ、油断してました」
 セイバーは鳥の群れから離れて息をつく。ビルの壁面に手をやる。近くに弾き飛ばしたシエルの黒鍵が突き刺さっている。
「ですが、今度はそうはいきません」
 見るとシエルは黒鍵で作ったくもの巣のように張り巡らせた木の枝に着地している。セイバーはそこに向かおうとするが──
「もう、終わりにしないか」
 気配を感じさせずに声をかけてくる者がいた。
「──何者です。あなたは」
 表情こそ出さないが、セイバーは驚いていた。このような戦場に足を踏み入れられたこと。油断したとはいえ声をかけられるまで気配を感じさせられなかったことに。
 遠野志貴──眼鏡を外し、蒼い目でこちらを見ている。その表情は冷たく鋭い。虚空に浮かぶ風の結界を足場にしている。
「ただの旅行者。シエル先輩と食事に来ただけさ」
 志貴は静かに言った。手には七つ夜のナイフが握られている。
「──ただの旅行者? 戯言ですね」
 セイバーは剣を志貴に構える。志貴の構えからはシエルより強敵でないのは見て取れる。剣の技量などはシエルのほうが上だろう。
 にもかかわらず、セイバーの直感が告げていた。
 ──この男は危険だ。今までの誰よりもはるかに危険な相手と。
「収める気は無いのかな」
 志貴の静かな言葉に。
「無いですね」
 同時にセイバーは斬りかかる。上段を振りかぶり、志貴に襲う。すばやく避ける。セイバーの視界から志気が消える。すぐに振り向く。志貴は避けると同時にセイバーの死角に移動しようとしたのだ。
「鋭い太刀筋だな。避けるだけで精一杯だ」
 一人独白する志貴。
「相当の場数を踏んでいるようですね。再度尋ねます。あなたは何者です」
 セイバーの鋭い問いかけに志貴は軽く肩をすくめて。
「だから、言ったろう。ただの旅行者だと──とにかく、これで終わりにしよう。そんな顔で睨むと可愛い顔が台無しになるよ」
 志貴の言葉にはセイバーは激昂する。
「なっ、何を言うのです。私は女である前に戦士あり騎士なのです。戦いにおいて男とか女とかは関係ありません。訂正しなさい。その侮辱的発言を訂正しなさい」
 奇しくもかつての士郎のような志貴の発言にセイバーはかあーと吼える。
「そうか……ならば、教えてやるよ。お前が女であることをな」
 そういって、志貴が疾る。セイバーの懐に一気に潜り込む。
 一閃。
 志貴の持つナイフは業物だが何の概念武装も施されていない。それではセイバーに傷一つつけられない筈だ。にもかかわらず、セイバーは上段をそらして刃を避けようとする。
 カラン。
 落ちていく。
 セイバーの胸当てが志貴の刃に線をなぞられ切り裂かれて落ちていった。同時に下の青いドレスも切り裂かれた、セイバーの白く小ぶりな乳房が見え隠れする。
 肌には傷一つついていない。
 一瞬、呆然とするセイバー。だが、我に返ると手で胸を隠し、顔をかあーと赤くする。
「女であるなら隠す必要は無いはずだ。違うかな」
 志貴の言葉にセイバーは言葉が無い。かつての自分では気にせず切りかかっただろう。だが、今はそうせずに身を少し屈め、志貴の視線から離れようとする。
 ただ、顔を赤くして志貴を睨みつけるだけだ。
 志貴の表情が変わる。先ほどまでと打って変わり、暖かく柔らかなものになる。
「うん。やっぱり、君は可愛いよ。セイバーさんだよね。ごめんね、そんなことして。けど、可愛い君がそんな風に剣を振るうのが似合わない感じがしてさ。本当は剣を切ろうとしたけど君の大切な物の気がして、それでね。本当にごめん」
 包み込むような志貴の笑顔に再びセイバーの顔が赤くなる。先ほどまでとは違う恥ずかしさが芽生える。 心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。
 何を考えているのだ。私は──
 にもかかわらず、志貴の笑顔から目を離せない。
「このっ、不浄者ぉっっっっっっ!!!!!」
 突然、シエルの秋葉顔負けのヤクザキックが志貴の後頭部を襲う。堅い編み上げブーツが志貴の頭にめり込む。
「ぐはっ」
 そのまま、志貴は倒れこむ。
 セイバーにもきつく強くしかし暖かく包まれる。
「志貴さん。これは俺の物ですよ。絶対に渡しませんよ」
 士郎がセイバーを抱き、セイバーを志貴の眼から離そうとする。ふー、と威嚇するように吼える。
「…いや、それ誤解」
 志貴が反論しようとするが、
「そうです。士郎さん。セイバーさんをぎゅっと捕まえておきなさい。この男は油断すれば誰構わず所構わず落としまくるのですから。つい先日もわたしの上司を口説き落としやがったし、彼の魅力にめろめろなのは軽く二桁を超えてますよ」
 激昂するシエルが倒れこんだ志貴の後頭部をぐりぐり踏みつける。
「うわっ、それ鬼畜ですね」
 士郎の感想に
「言っておきますけど、わたしは完全な恋人で無いですよ。アーパー吸血鬼に実の妹。家政婦に自分付のメイド。親友の姉さんに行きつけの医者の娘さん。さらにはネコの幼女にまで毒牙にかけてますから」
 シエルは吼えたける。
「けッ、ケダモノですか」
 驚き吼えるセイバーに。
「ええ、ケダモノの鬼畜に絶倫超人です。優しい笑顔に騙されるとベットの上で後悔しますよ。一気に意地悪になるんですからね。さらには五回も六回もだすし、体が持ちませんよ──なにか、反論ありますか。まだ、妹の後輩やその親友二人。それに小学生の方の妹とあの錬金術師には手は出してないはずですよね」
 シエルは踏みつけたまま聞いてくる。
「足、足。ごめん。シエル先輩。足どかして。痛い。痛い」
 志貴はただ、もがくだけだ。
「──シロウ」
 セイバーが士郎に話し掛ける。
「大丈夫だ。私にはシロウしか見えない。私は一生、シロウの剣であり盾になるつもりだ」
 セイバーもシロウの顔に手をまわして言う。
「セイバー……」
 士郎はセイバーの顔を正面から見る。優しく士郎しか見せることの無い笑顔を向ける。
「それに言っておくが士郎も人のことは言えない。あそこまで酷くは無いが……私はいつも不安だ」
 そう言って拗ねる。
「大丈夫だよ。俺にもセイバーしか見えない。俺もセイバーの剣となり盾となる」
 そう言って、二人は抱き合いキスをする。
「……なんか妬けますし羨ましいです」
 シエルは志貴を踏みつける足にひねりと同時に力を入れて呟いた。
 志貴は言葉なくもがいていた。



 
第七夜 華月亭 そのカレーは誰の手に




 うーん。美味しいです。
 白い巻き毛の小さな女の子。リーナは最後のひと匙を口に入れた。
 テーブルにはすっかり空になったカレーの皿が置いてある。
 聖歌騎士団「剛剣」のリーナ。
 教会の裏組織の一つ騎士団に所属している。
 冬木市に聖杯戦争の後始末に来た老神父の護衛としてリーナも派遣された。
 今日は休日で、話題となったビフカツカレーを食べに来たのだ。
 少し遅れて来た為、あるとは思わなかったが最後の一つがあった。
 ラッキーと思って注文したのだ。
「さて、これからどうしようかな。今日一日は暇だしね」
 一人呟くと、食後のミルクティーをすする。
 ……そう、暇なのですか。
「うん。暇なのです」
 ……美味しかったですか。
「はい。美味しかったです」
 ……そうですか、そうですか。
 ──えっ?
 なにやら恐ろしい殺気に気づき後ろを振り向いてみる。
 そこには恨めしそうな目でこちらを見ている埋葬機関第七司祭シエルと金髪の少女がいる。
「しっ、シエル司祭。どうしてここに」
 リーナは驚愕した眼で見る。シエルのカレー好きはあまりにも有名だ。
「何でもありませんよ。ただ、ここのカレーを食べに来たのです。そう。あなたが食べた最後の一杯のカレーをね」
 極寒のシベリアも裸足で逃げ出すほどのシエルの冷たい声。
「そうです。私たちが先に注文したのです──まあ、色々あって、店を出てしまいましたが」
 金髪の少女──セイバーの目は空になったカレーの皿に注がれる。その視線にどんな意味をこめてあるのか。 
「あっ、あたしは悪くないですよ。店の人に聞いたら一皿余ってると聞いて注文したのですよ。ええ、何もあたしはシエル司祭に恨まれる事はしてません」
 がたがた震えて、逃げ出したくなる。それでもリーナは精一杯の反論をする。
「恨む? 何を言うのです。悪いのはわたしたちです、リーナはちっとも悪くないですよ」
 うって変わり、シエルは微笑む──目は笑ってないが。
「ええっ。あなたはちっとも悪くないのです。私たちに運が無かっただけなのです」
 セイバーも優しく微笑む──やはり、目は笑ってない。
「そっ、そうですか。そうですよね。あっ、あたしは忙しいので。これで失礼させていただきますね」
 ははっ、と力なく笑いながらリーナはその場を去ろうとする。
「待ちなさい。リーナ。ここで会ったのも何かの縁ですよ。少しぐらい付き合ってくれてもいいじゃないですか」
 シエルはしっかりとリーナの肩を掴む。逃げることは到底出来そうに無い。
「そうですね。あなたは先ほどおっしゃいました。今日は暇ですと。ならば、私たちと一緒に付き合おうではないですか」
 セイバーもリーナの肩を掴む。
「ええと、その……」
 何とか逃れようとするがリーナは逃げられない。ただ、二人の笑顔を恐怖の眼で見る。
「そうだ。久しぶりに剣の稽古をしましょう。セイバーさん。リーナは「剛剣」の二つ名を持つほどの腕前なのです。剣の腕前を見てみたいと思いませんか」
「ほほう。それは興味深いです。平時においても乱を忘れぬとはいい心がけです。ちょうどいい。シロウの家には立派な道場がある。ぜひ、一手指南して欲しい」
「よかったですね、リーナ。セイバーさんは剣の達人です。きっと勉強になりますよ」
「では、行きましょう。善は急げです」
 そう言って、二人はリーナの肩を掴むとずるずる連れて行く。
「誰か、たーすーけーてー」
 リーナは叫ぶが二人はふふふと微笑むだけだ。そのまま連行していく。
 士郎は今日の夕飯はカレー。しかもビフカツ入りにしないといけないなーと考えていた。
 グラム、いくらのにしようかな。
 肉の値段も必死に考えていた。
 それを見て、志貴は帰りが遅くなるなと考え、ため息をついた。


 あたしが一体、何したというのー。


 リーナの叫びはひたすら響いていた。


終わり







  
予告



 ────体は剣で出来ている。
 これはひとつのプロローグに過ぎない。
 どうして、セイバーが帰って来たのか。
 それは新たなる聖杯戦争の始まりを告げるためだ。

「バーサーカー。帰って来てくれたのね」
「どうして、あなたがわたしのサーヴァントなのよ。ランサー。答えなさい」
「知らないよ、お嬢ちゃん。でも、俺は嬉しいぜ。あんたにまた会えて」
「わたしの愛した人のために。あなたに仕えます」
「ふっ、また刀を振るえるとはな」
「今度こそ、マスターのために尽くします」

 冬木市に激動が駆け抜ける。


 「カルハインが消えただと」
 死徒二十七祖カルハイン。妄執の亡霊が消えた。それは何を意味する。
 冬木市に襲う怪奇現象の数々。妄執がここに迫り来る。

「そんな馬鹿な……」
「強いです」
「俺の攻撃が通用しないだと」
「がー」

 セイバー、ランサー、ライダー、バーサーカーの四人の猛攻を片手で防ぐ白い服を来た謎の金髪の美女。その正体はいかに(ばればれの確率、五十パーセント)
「翡翠。琥珀。準備をしなさい。冬木市に向かうわよ」
 遠野家が動く。その訳は一体。

「行かなければいけないわね」
 ガイアの代行者。プラムは想う。ガイアとアラヤの抑止力……何を意味する。
「そうだ。行かねばならんのだ」
 二代目ネロ・カオスも動く。
 そして、現れる謎のサーヴァント。その正体はいかに。
 完全なる聖杯とは。
 その目的とは
 アークに秘められた謎とは。
 セイバーの失われた聖剣は何処に。

 圧倒的スケールでおくる月姫対フェイト「神・大戦」この春公開予定。

 
 現在、鋭意構想中。
 なお、これは現段階での妄想です。勝手に変えまくるかもしれません。
 さらには書くの止めてしまうかもしれません。
 許してくれる?         



  



 ユウヒツさんより頂きました読みきり作品、「カレーを巡る
戦い」です。
 シエルvsセイバー、二人の食いしん坊がカレーを掛
けて激突! 発端は死ぬほど下らないのに、戦いは激烈
な辺りが素敵です。
 そして相変わらず女の敵っぷり大発揮の志貴。シエル、
俺が許すんで全力で踏んでしまってくださいw
     ではでは、ユウヒツさん、ありがとうございました〜